「ここは......」
私は見覚えのない部屋で目を覚ました。
「よォ、調子はどうや? 博麗の巫女さん」
「あんたは......! 」
鉄柵の向こうにグレイウルフが立っていた、私を気遣う様子もなくあんさんが寝とる間もこっちは大変でなあ......とぼやいている。
ここがどこかを尋ねるとグレイウルフはここはSD機関の本部、つまり旧紅魔館や、と話す。
「いやぁ、ハーメルンの野郎があんさんを捕まえて博麗神社だっけか? そこに帰ったらあのエルグとかいう吸血鬼......」
急に口をつぐむグレイウルフ、その直後に部屋が光で満たされる。ぺらぺらとご機嫌だな、ウェアウルフ、と言いながら今回の異変の主犯であるエルグが部屋に入ってくる。
文句あんのか? 何度も言うが俺ァお前の部下になったつもりはないぜ、とエルグのほうを向き畳み掛けるように言うグレイウルフ、それを無視してエルグは檻の前においてある木製の椅子を乱暴に手元に引き寄せどかっと足を組んで座る。
「はッ! 都合が悪くなりゃ無視か、付き合ってられんわ」
グレイウルフは吐き捨てるようにそう言った後乱暴な足取りで部屋を出た。うるせー野郎だな、これだから獣は......そう悪態をつきながらエルグは左の奥のほうにあると思われる扉からこちらへ体を向ける。
そのままねめつけるように私を凝視し、ザマァねえな、と呟き、そのまま一応聞くがお前が死ぬと博麗大結界は消滅するんだな? と尋ねてくるエルグ。嘘をついてもつかなくても変わらないと判断した私はそうよ、と短く答える。
「俺はベリーのクソアマに復讐するためにこの事件を起こした、それは知ってるよな? 」
「ええ、知ってるわ」
「そしてあいつらは
その第一歩として博麗の巫女、お前には明日の昼に公開処刑されて死んでもらう、まくしたてるようにそう言ったあとエルグは大きくため息をつく。
ふざけないで、私がそう叫ぼうとした瞬間、エルグは立ち上がり、足で乱雑に椅子を右端にやり、そそくさ部屋を出て行った。
そんな静まり返った部屋とは対照的に言いようのない、行き場もない烈火のような怒りが私の胸中を支配していた。
* * *
私は燃え盛る怒りを何とか抑え込み、脱出のための情報を集めていた。どうやら私が閉じ込められている牢屋の壁、その向こう側はベリーたちがよく会議に使っていた畳の敷かれた大部屋らしく耳を澄ますと会話が聞こえてくる。
その会話の内容や声の主を整理していくと既に出会った四人に加えてルトラが仕えていた翳理、グレイウルフのそばにいた紙縒、そして数か月前の異変での辻斬りの犯人であるアードレイク、そしてもう一人、私が声を聞いたことない人物が
判明したメンバーの名前を呟きながら指折り人数を数えて私はため息をつく。
「結構な大所帯ね......」
エルグと話していたときに目に入った蛾はまだ逃げずに照明の周りを飛んでいた。
エルグが部屋を出てからそこまで時間は経っていないのかもしれない。
「にしてもこうもあっさり捕まるとはね、不覚だわ」
私は再び大きなため息をつく。
あのとき、紅魔館の正門を飛び出したとき私は待ち伏せをしていたハーメルンに頭を殴られて捕まった。魔理沙やレミリアたちも私を人質に取られて捕まったか撤退を余儀なくされたのだろう。
不意に扉が開く。
目を向けるとビクついた足取りで紙縒が入ってきた。
「あら? 処刑時刻にはまだ早いんじゃない?」
「い、いえ、そういうことじゃなくてですね......」
数時間たったから様子を見て来いってエルグさんに命令されて......そう紙縒はもごもごと質問に答える。
あっそう、私は短く答える。
それじゃあ、またあとで様子を見に来ますね。食事も一緒に持ってきます。そういって紙縒は扉から出ていく。
照明の周りを飛んでいた蛾はいなくなっていた。
* * *
「どうでした? 」
大部屋に入って早々にアードレイクが紙縒に向かって霊夢の様子を尋ねる。紙縒が何もなかったです、と小声で答える。
それを聞いたアードレイクが俺に向かってそうらしいですよ? エルグさん、と報告する。
「聞こえてるよ、いちいち報告すんな」
お言葉ですが、とルトラが口を開く。ルトラは最初に報告するように命令されたのはあなたですよ、と言葉を続ける。
「とりあえず博麗の巫女は捕まえた、よくやったぞハーメルン」
私ごときにはもったいないお言葉です、ハーメルンはそう言いながら頭を下げる。こいつは他の奴らと違って嫌いじゃない。
「いいか、博麗の巫女を処刑すればすべては終わる。なんとしても処刑を成功させるぞ」
「博麗の巫女と一緒にいたやつらはどうするの? 」
翳理が問う。確かに一番の不穏分子ですね、と紙縒が賛成する。
「あいつらか、博麗の巫女をエサに捕縛しとけ」
では、とハーメルンが立ち上がり指示を始める。
「アードレイク様は捕縛を、グレイウルフ様はシャングリラの点検をお願いします」
指示された二人は無言で行動に移る。
「紙縒様は博麗の巫女の様子を、ルトラ様は捕縛した奴らを閉じ込める檻を確保してきてください」
それ以外の方は待機でよろしいですね、とハーメルンはエルグに確認を取る。俺は首肯する。
――二人が部屋を出て行って数時間後、レミリアたちは鉄格子の向こうに閉じ込められた。