ユウがベリーに話しかけようとする。
「ええ、分かってるわ。けどそれは今やるべきことじゃない」
ベリーはそう言って再び地図に目を向ける。なおも何か言おうとするユウに対してベリーはまだ何かあるの、と地図を見ながら聞き返す。
「いや、お嬢あんた震えてるぜ。寒いのか?」
「......寒くないわ」
「そうか」
そういってユウは席に座る。ベリーはその後も地図を食い入るように見ていたがユウが全員が揃ったというと顔を上げ、今後について話し始めた。
「ウィンテラの活躍によってシャングリラは破壊され、奴らはバラバラとなったわ」
「ふむ、つまり叩くなら今だと」
「その通りよ、全員でエルグを叩く。道中で出会ったやつらも全員叩く」
「聞きなさい! 作戦名は《
了解。全員の声が部屋に反響する。
「エルグはまだ旧紅魔館にいる。そこでもう一度会いましょう」
作戦開始! とベリーが叫ぶと同時に全員が部屋から出て旧紅魔館を目指して進み始める。
走っていくメンバーの一番後ろを歩くユウをベリーが呼び止める。なんだ、と足を止めるユウにべりーはあんたはまだ回復しきっていないんだから部屋で休んでなさい、と伝える。
それを聞いたユウは青筋を立てて掴みかかろうとするが倒れこみ、べリーに受け止められる。
「ほら、そんなガタガタの状態で戦えるわけないでしょ」
ベリーはそう言ってユウを制止するがユウは頑なに外へ出ようとする。
「ジュールのことを俺は忘れたことがねえ、けじめもつけずに部屋で寝てろっていうのか!?」
引き留めるベリーに対してユウは怒鳴る。
「知ってるわよ、けどこれ以上誰も」
そこまでいってベリーはその場に泣き崩れる。
「お嬢、やっぱり限界だったのか」
ユウはへたり込んでいるベリーの前に膝をついて背中に手を回す。
「俺だって同じ気持ちだ、だがここで行かなかったら俺は一生後悔する」
ベリーは数度深呼吸をして顔を上げる。
「私の最初で最後の眷属よ。始祖の吸血鬼、ベリードール・スカーレットの名のもとに命ずる」
私とともに旧紅魔館へ向かえ、ベリーは涙声でそう高らかに命じる。それを聞いたユウはにやりと口角を上げ、
* * *
「来たか」
旧紅魔館へ向けて走っていた焔稀は前方に立つ人影を見て足を止める。
「アードレイク・サンウィズムーン・フィルヴォルグ」
「覚えてくれてるんですね」
嬉しそうに返事をするアードレイクを見て焔稀はずっと聞きたかったことを尋ねる。
「どうしてエルグに付いたのですか」
その問いにアードレイクは真っ向から返答する。
「あなたの横に立つため」
そう言った直後、アードレイクは一気に距離を詰める。一撃、二撃、三撃と刃を突くが焔稀はそのすべてを逸らし、弾き、躱す。
アードレイクがもう一歩踏み出した箇所に焔稀は足を滑り込ませる、足運びが乱れ一瞬ぐらりと態勢を崩すアードレイク。そのすきを逃さまいと焔稀は刀を両手で握り頭を串刺しにせんと振り下ろす。
頭ごと体を捻りカチあげるように焔稀の顎めがけてアードレイクは刀を振る。焔稀は瞬時に刀身を逸らせる、地面を転がり間合いを離すアードレイク。
素早く刀を鞘に納め居合の構えをとるアードレイク。がら空きの背中にめがけて刀を振り下ろす、焔稀は一回転する勢いで体ごと刃を真横に振り切る。首を落とされてはたまらないとさらに態勢を低くするアードレイク。
そのまま刀は振り下ろされるが回った勢いを利用して跳躍し躱される。最初と一が反対になりながら睨み合う両者。
その後も幾度となく鋼と鋼が衝突し甲高い音が辺りに響き渡る。思いを乗せた刃が競り合う。睨み合ったのちに一歩引き、また構え直す。
「強いですね」
「あなたこそね、一体どんな能力をもっているのです?」
「能力なんて持ってませんよ、持ってるのはこの刀一本だけです」
へえ、と言いながら刀を正眼に構える焔稀、対してアードレイクは刀を鞘に納め、柄に手をかけたまま微動だにしない。
数度の鍔競り合いでお互いの実力、呼吸の癖、間合いの取り方は把握している。
ここから先は
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
――――――――――――
居合「愛月撤刀」
奥義「没分暁漢」
アードレイク渾身の奥義を焔稀は正面から受けきる。
「あなたとは刃越しでしか触れ合うことは叶わないのですか」
悲痛なそれを聞いたアードレイクはあなたが私の前ではなく横に立ってくれるなら、と答えて刀を収める。
私だってあなたを殺したいわけじゃない、と言いながら刀を収める。
そして焔稀はアードレイクの顔をマジマジと見つめた後、顎に手を当て考えるそぶりを見せる。
「うーん、アードレイク・サンウィズムーン・フィルヴォルグは呼びにくいですね」
そういって焔稀は再び思案する。そしてあ、そうだ、と呟き、姓は私と同じものを名乗ってもらうとして名は太陽の横に月があるから明でどうかしら、と言う。
これで気軽に呼べるわね、と悪戯っぽく笑う焔稀。『魂魄 明』か、いい名前だ、と笑う明。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
――――――――――――
「それは正しい情報なのね?」
ユウとともに旧紅魔館へ向かうベリーは焔稀から連絡を受けていた。
「ええ正しい情報です」
「どうりで探しても見つからないわけだ、まさか
「けど大局に影響はないわね、エルグにこの弾丸をブチ込むだけよ!」
「とりあえず私たちはこのまま旧紅魔館の跡地へ向かいます、それでは」
そう言って通信が切られる。にしてもアードレイクと焔稀がなァ、とユウは思う。
「私はそこまで意外じゃないわね、前回の異変で焔稀への思いは嫌というほど伝わったし」
「確かにな、けど同行まで許すとは思わなかったぜ」
「私は焔稀を信頼してるわ、彼女が大丈夫というなら大丈夫よ」
それに長く生きてると敵とか味方なんて区別は曖昧になってくるものよ、とベリーは言う。確かにな、とユウは返す。
「だがそうなると激戦は必至だな」
ええ、とベリーは短く答える。静かに、そして再び覚悟を決める二人。
* * *
「来てしまったんですね」
「そうですね」
「私の名前は昏鬼紙縒です、お見知りおきを」
「どうも、私は沙羅、紅沙羅といいます」
色々聞きたいことはあるのだけれど紙縒さん、私と戦う気はありますか? と沙羅は尋ねる。エルグさんの命令では戦わなければならないのですが、と答えつつモジモジと気まずそうに振舞う紙縒。
「本心ではってところですか」
慎重に相手の腹の中を探る沙羅
「ええ......まあ」
相変わらず煮え切らない自信のない態度でさらに接する紙縒、そんな様子を見て沙羅は多少強引に踏み込めるとにらみ踏み込んだ質問をぶつけてみる。
「戦いたくない理由は何ですか?」
それはですね、と顔を明るくして話そうとする紙縒。警戒は緩めずに話すように促す沙羅。
「もともと私は昏鬼家の次期当主でした」
「昏鬼家、邪神の名家ですよね」
情報のすり合わせを行いつつ、相手の能力をどうにか聞き出せないかと考える沙羅。沙羅がそんなことを考えてる最中も話は進んでいく。
「けれどこの性格と能力のせいで破門され放浪する身となりました」
次期当主なのに破門、無差別に人を殺してしまう、あるいは紫苑のような不幸を無差別に振りまくような能力だろうと予想しつつ相槌を打つ沙羅。
「一ついいかしら?」
話が長くなる気配を感じた沙羅は集合時刻に間に合わせようと話の主導権を握ろうとする。少しの間沈黙が流れるが紙縒は了承する。
「破門されたと言いましたが次期当主だったんですよね、そう簡単に破門されるものでしょうか?」
「全部この忌々しい能力のせいです、多分」
「そこまで恨めしげに話すあなたの能力とは? 戦闘をしたくない理由とも関係しているんですか」
黙り込む紙縒を見て話したくないなら話さなくていいですよ、と声をかけようと近寄る。すると紙縒がボソリと自分の能力を呟いた。
近づいていた沙羅がかろうじて聞き取れるようなかすかな声だったが沙羅はそれを聞いて戦慄する。
「あー、えっと、そのですね......」
「なんでしょう」
「私はあなたと戦いたくないです。そしてあなたも戦闘は避けたいんですよね?」
コクリと頷く紙縒、戦闘する意思がないことを確認した沙羅は一泊おいて質問する。
「あなたはなにがしたいのですか」
目をぱちくりさせる紙縒だが沙羅の真剣なまなざしを見て意味のない音が口から漏れる。あなたの過去はおおよそ予想がつきます、そんな能力を持っていれば疎まれて当然でしょう。
「けれど戦いたくないということはあなたの目的は人類を皆殺しにするとかそんな物騒なものではないと私は思います」
本当は何がしたいのですか、ともう一度尋ねる沙羅。私は......そこまで口に出して一瞬躊躇うも全く衰えない真剣なまなざしに感化され、気持ちを固める。
「私はグレイの横で普通に暮らしたい」
言った。言質を取った沙羅はすぐさま畳みかける。
「私ならその願い、半分くらいなら叶えられますよ」
私の能力は消す程度の能力、あなたの忌み嫌う能力も例外ではありません。あなたが道を開けてくれるなら今すぐ能力をけしてあげます。
「どうしますか?」
「けど......先に約束したのはエルグさんの方だし」
この期に及んで粘るか、そう思いながら何とか説得する沙羅。
「そこまでいうなら......」
「私を通す代わりに能力を消す、それでいいですね?」
「ええ、消してください。お願いします」
沙羅は心の中でガッツポーズを決めながら紙縒の能力と
「
エルグとの繋がり、そして紙縒の能力が失われてゆく。
「はい、消えたはずです」
「ほんとだ、消えてる......」
飛び跳ねるまではいかないものの顔いっぱいに喜びを湛える紙縒、沙羅は能力の完全な消失を確認し、すぐさま作戦で予定されていた場所へ向かおうとする。
「それじゃここは通してもらいますね」
そして今、旧紅魔館に目視できるまで接近した沙羅は万が一に備え地面に下りる。地面に着地した沙羅は数十分前に紙縒が呟いた能力を思い出して身震いしてから呟く。
「破滅を司る程度の能力、出会ったのが私で運がよかったです」