My Reverie   作:ユウ/伽藍堂(本舗)

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第9話 「鋼の女王の涙」

 「ああ、分かった」

 

 そう言って茨は通信を切る。

 

 「残るはお前らだけだ、因果なものだな」

 

 「どうします? 降参してくれるなら話は早いですが」

 

 茨、ザクロは女王、もとい翳理とルトラにそう話しかける。

 

 「どうされますか?」

 

 「どうもこうもないわよ、私たちが全員倒せばいいのよ」

 

 茨とザクロは視線を合わせ、再び正面に戻す。

 

 「まあ、そうなるよな」

 

 咳ばらいを一つして茨は能力を発動する。それに合わせるようにルトラも能力を使用する。

 

 言霊「炎槍と水剣の裁き」

 

 屍兵「軍旗(レギオンパンテラ)

 

 無数に生み出されたゾンビが茨たちに向かっていく、その先頭が焼き尽くされ、押し流され消滅する。その後ろから新たなゾンビが進軍してくる。

 

 建造「鋼鉄の冥府(アイアンハデス)

 

 地面から現れた無数の鉄杭に貫かれ、ゾンビたちの動きが止まる。

 

 「さすがに死にはしないわね、さすがゾンビってとこかしら」

 

 茨のそばに立っていたザクロが杭に貫かれながらももがくゾンビたちを見ながら分析する。

 

 変装「クリアボディ」

 

 透明化した翳理の一撃を回避したところを狙われ分断される二人。

 

 「いつまでも仲良しこよしで一緒にいさせるわけないでしょうが」

 

 ナイフをクルクルとまわしながらしてっやったりといった調子で話す翳理、大して分断された二人はどちらがどちらの相手をするかアイコンタクトで確認しそれぞれの相手に向き直る。

 

 「分断すれば勝てるほど私たちは弱くないわよ」

 

 「まったくだ、ずいぶんと舐められたもんだぜ」

 

 「よく回る口と舌ね、今すぐ切り落としてやりたいわ」

 

 「私のことはお気になさらず、好きに暴れまわってくれて結構です」

 

 いわれなくてもというが早いか茨にとびかかる翳理、突き出されたナイフを弾き飛ばし、そのまま翳理を杭のほうへ投げ飛ばす茨。しかし瞬時に鉄に変身した翳理は杭をバキバキと砕きながら地面を転がる。

 杭が破壊され再びゾンビたちが動き出す、それを見たザクロは構えるがルトラの指揮によって茨の方向へ向かうゾンビたち。

 

 「させませんよ」

 

 破砕「旋風刃」

 

 刃の混じった竜巻に突っ込んでいったゾンビたちはもれなく挽き肉にされ動かなくなる。

 

 「うーん、おいしそうではないわね」

 

 翳理の攻撃をさばき続ける茨、詠唱する暇がなく能力が発動できない茨だが翳理のナイフさばきは素人同然なので隙ができるまでさばき続けるつもりで行動する。

 ルトラは粗削りな翳理の攻撃をサポートして茨に喋る隙を与えないように立ち回る、そしてそれを妨害して茨が能力を発動させられるようにしようとするザクロ。

 これによって戦いは長期戦、膠着状態の様相を呈し始める。

 

 「クソ! じれったいわね」

 

 痺れを切らし翳理が強引にナイフを茨に突き刺そうとする、ザクロの目に茨が避けようとするがよろめき態勢を崩してそのままナイフが突き立てられる光景が映る。

 すぐに距離を取ろうとする翳理だが腕を茨につかまれよろめく。血を吹き出しながら茨が叫ぶ。

 

 「俺ごとで構わん、やれ!」

 

 瞬間、ルトラとザクロが同時に動く。

 ルトラが翳理を突き飛ばす。直後――

 

 模倣「千本の針の山」

 

 無数の針に貫かれる茨とルトラ。

 

 「ルトラ!」

 

 翳理が血塗れのルトラに駆け寄る。同じように茨を抱き起こすザクロ。

 

 「俺は大丈夫だ、お前と違って蓬莱の薬は飲んでねえから傷の治りは遅いがな」

 

 ザクロはすぐに女王を仕留めようとするがゾンビたちによって妨害される。

 

 「私ならあんなの平気なのになんで庇ったのよ!?」

 

 「なんででしょうね、わたしにもさっぱり」

 

 泣きじゃくる翳理の頬を撫でるルトラ、掠れた声で何かつぶやいた後だらんと頬を撫でていた手がずり落ちる。

 

 「そうよね、いい加減に前に進まなきゃね」

 

 そういって翳理は殺された妹の名前である『翳理』の名を捨て、本当の名前である『明理』を名乗る。

 

 「私の名は熱影明理! 過去を捨て、先へ進むためにお前らを殺す!」

 

 それを聞いたザクロは動けない茨を庇うように明理の前に立つ。

 

 「あの世で家族と再会させてやるわ」

 

 激昂し叫びながら突進してくる明理、掴まれる直前ザクロは体を捻る。その後ろから針が放たれ明理の腹部を貫く。

 崩れ落ちる明理、ザクロは明理の腹部を貫通している槍を引き抜き、眉間に突き立てる。

 茨が咳込む音だけが辺りに響く。

 

 「いま、止血しますね」

 

 沈んだ声で茨の治療に取り掛かるザクロ。

 

 「......あの」

 

 ザクロが尋ねる。

 

 「これでよかったんでしょうか、私たち」

 

 「もう終わったことだ、命は戻ってこない」

 

 奪った命も失った命もな、空と目を合わせながらそう返答する茨。

 

 「奴らが復讐の道を選ばなければ、それ以前に沙羅たちが奴の家族を殺さなければこうはならなかっただろう」

 

 だが過去は変わらない、沙羅たちは奴の家族を殺したし奴らは復讐の道を選んだという過去はな、そう続ける茨。

 

 「狐の目が彼女の家族を殺したことが悲劇の始まりだったんでしょうか」

 

 「悪いのはエルグだ、奴がリーフを殺さなければ沙羅たちは狐の目になることはなかった」

 

 今、幻想郷で起きている悲劇の始まりは全て奴だ。奴がいなければ狂う歯車も分岐する運命もなかったんだからな、最初から、直後吐血する茨。

 慌てて手を動かすザクロ、数分後茨はザクロの方を借りながら旧紅魔館へ進んでいた。

 

 「おい。ベリー、聞こえるか」

 

 「ええ、倒したのね」

 

 「まあな」

 

 「そう」

 

 「あとは合流したら伝える、これ以上消耗したくねえからな」

 

 「分かったわ、気をつけてきなさい」

 

 そういって通信は切られる。

 ――数多の屍ときずを越えて諸悪の根源のもとへ生者が集う。

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