エンジンスタジアムでエントリー登録を済ませた俺は、同じくジムチャレンジ参加者の少女マリィと知り合った。彼女と彼女の相棒モルペコと仲良くなったが別れ際に「チャンピオンに推薦されたトレーナーと仲良くはできない」(意訳)と言われてしまった、悲しい。
そんなこんなで一人でエンジンシティを回っていたがさすがは都会、見るものすべてが目新しくワイルドエリアで感じた興奮とはまた別の興奮を体験できた。
特筆すべきところはやはりバトルカフェ、トレーナーは店主とポケモンバトルを行い勝つことができれば一品プレゼントしてくれるという。
店主とミツハニーの繰り出す『あまいかおり』と『むしのていこう』に苦しめられたがなんとかウールーと勝つことができた。しかし、ミツハニーの繰り出すハチミツまみれになったウールーが機嫌を悪くしてしまった時は大変だった。
その後迷子になったポケモンの捜索を手伝ったお礼に『のどスプレー』を貰ったり、エンジンシティの路地奥にいた謎の青年に「まだ今じゃない、チャンピオンくらい強くなったらまた来なよ」と意味不明なことを言われたりした。応援してくれたのだろうか?
一日エンジンシティを堪能し、すっかり夕方になったのでホテルに向かうことにした。
貰った案内状に従いホテルまで来てみたがすごく大きい、『ホテル・スボミーイン』というエンジンシティで一番大きなホテルであった。このホテルも大会委員長の所有しているものだという。
ホテルに入ってみるとロビーの真ん中に大きな銅像が建てられている、剣と盾を手にした若者の銅像だ。銅像を見上げていると聞き覚えのある声が入り口から聞こえてくる、ホップとユウリだ。
「アカツキも帰ってきたのか、オレはワイルドエリアでさらに強くなってきたぞ」
「あたしはソニアさんとブティック巡り。さすが都会ね、ブラッシータウンの品ぞろえとは比べ物にならなかったわ」
「お帰り、俺も今来たところだよ」
今日一日の成果を語り合う。
ホップは池のポケモンを吊り上げようとしてギャラドスに襲われたらしく、辛くも逃げてこられたようだ。ワロタ。
ユウリはブティック巡りで一目ぼれした服を買おうとしたが都会料金には手が出せなかったらしい。ワロタ。
痛い痛い、ホップ首を絞めないで。ちょっとユウリ、足はソッチには曲がらない…アッ!!
人の失敗、笑うのダメ。でもマリィに街巡りを断られた話をしたら二人に笑われたので後で二人のカバンにカフェでもらったフエンせんべい(無包装)を放り込んでやろうと心に誓った。
二人にやられた首と足に喘いでいるとソニアさんがやってきた。ソニアさんは俺のことはスルーして銅像とガラルに伝わる伝説のことを話をしてくれた、面白かったけど酷いと思う。
「これはね、ガラルを救ったと伝えられる英雄よ」
「英雄…ですか?」
「大昔、ガラル地方の空に巨大な黒い渦、人呼んでブラックナイトが現れてね。あちこちで巨大なポケモンが出現してガラル地方を荒らして回ったんだって」
「世界の終わりみたいね」
「そのとき剣と盾を携えた若者が現れて各地のポケモンを鎮めたらしいわ。そしてこれがその若者、英雄をもとにして作られた銅像ってわけ」
改めて銅像を見上げる。
右手に剣を掲げ、左手で盾を構える勇ましい英雄の像。そういわれると先ほどまでより格好よく見えてくる。
「とは言っても英雄がどんな剣や盾を持っていたのかわからないし、そもそも黒い渦と巨大なポケモンの関連性も語られてないんだけどね」
まあ伝説というのはそういうあやふやのものだ、とソニアさんは話を締めくくった。
空に浮かんだ黒い渦、巨大なポケモン、剣と盾を携えた英雄。あの森で出会った謎のポケモンとはあまり関係がなさそうだと思ったがそれでも全くの無関係ということもないだろう。
その後、別のホテルをとっているといったソニアさんはホテルを出て行った。もう外も暗くなっているので俺達もチェックインしようと受付カウンターにまでいってみると受付には人だかりができている。
なにかあったのか近くの人に聞いてみることにした。
「ああ、なんかエール団とか名乗る集団がさっきから受付にいちゃもんつけててな。俺も早く部屋で休みたいんだがいい迷惑だよ」
確かに受付の前では奇妙な恰好をした集団がたむろしている。うーん、中々のファッションなのに勿体ない。
「我々、ジムチャレンジャー応援のためわざわざ都会に来たのです」
「ジムチャレンジャーたちと同じホテルに泊まりたいと思うのは当然のこと」
「なぜ我々は泊まれないのですか」
「ですから、現在警備の関係上不審な方のお泊りを制限させていただいておりまして、事前のご予約がありませんですと…」
「なんと!我々の誇り高いエール団衣装が不審だと!?」
「いえですから事前のご予約が…」
「我々、ジムチャレンジャー応援のためにわざわざ都会に来たのです」
「ジムチャレンジャー達と同じホテルに泊まりたいと思うのは当然のこと」
「なぜ我々は泊まれないのですか」
「あ、あれ?今話が一巡しませんでしたか?」
「話をそらさないでいただきたい」
「そうです我々、ジムチャレンジャー応援のために……」
なんだろう、彼らとフロントの人の話を聞いていると頭が痛くなってきた…
ホップとユウリ、その他周りの人たちの顔を見ても微妙に顔を歪めている。クレーマーというより話が通じていない、そんな感じだろうか
さすがにフロントの人も困っているようなので勇気を振り絞って彼らの前に足を踏み出した。
「なんですか、貴方」
「我々は今真面目にフロントの人とお話をしているのです」
「エール団の邪魔をするのならポケモン勝負ですよ」
「えっと、フロントの人も困ってますからちゃんと話を…」
「我々、邪魔をするならポケモン勝負といいました」
「そんな我らエール団の邪魔をするというならば」
「そのすごさをたっぷりじっくり教えーる!」
そうするとエール団と名乗る集団の中の男が腰のモンスターボールに手をかけた。すかさず俺も腰のボールを取り出しすぐに投げられるよう構える。
男はにやりと笑うとモンスターボールを投げだした。
「行くでーす、ジグザグマ!」
そう言って出してきたのはジグザグマ、図鑑で確認してみれば悪・ノーマルタイプのポケモンだ。
「いけ、ウールー!」
「メェェ~」
俺が出したポケモンは昼にもバトルカフェで頑張ってもらったウールー、ハチミツまみれになった体毛をお湯で洗って綺麗にしたばかりなので機嫌がいい。
「ジグザグマ、『たいあたり』でーす」
相手のジグザグマがウールーに向かってくる。しかしこちらのウールーは動かない、動く必要性がないのだ。
「ウールー、受け止めろ」
艶の増した体毛は以前にもましてふわふわとしている。この程度の『たいあたり』を受け止めるくらいわけがなかったのだ。
「なんですと!?」
「ウールー、『たいあたり』」
「ンメェェ!」
攻撃を受け止められ無防備な状態のジグザグマに渾身の『たいあたり』がクリーンヒット、一撃でジグザグマは目を回してしまった。
「ケ、ケンカを売っておいて負けた、俺めちゃくちゃみっともないな」
「どうだ、これで少しは話を……」
「われらエール団、仲間のためにすかさず戦います」
「仲間の敵、討たせてもらうわ」
「これもわれらの応援するジムチャレンジャーのため」
男に勝ちこれで話を聞いてくれると思っていると残っていた他のエール団が続けて勝負を仕掛けてきた。しかも三人がかりで。
「え、ちょっと…」
「行くでーす、ジグザグマ」
「行って、クスネ」
「行きなさい、クスネ」
出てきたのは先ほどと同じジグザグマと一番道路でも見たクスネ。たしかクスネも悪タイプだったはず。だが三対一はさすがに厳しいと思っていると人ごみの中からホップとユウリが飛び出してきた。
「ホップ様参上!助けに来たぞアカツキ!」
「ユウリ様参上!あんたにだけいい格好はさせないわよ!」
不敵に笑う二人の姿を見ただけで心強くなってくる。
「うん、お願い助けて!」
「「任せられた!!!」」
そういうとホップはココガラを、ユウリはウパーをボールから繰り出した。
「がぁがぁ!」
「ウパ?」
「エール団は負けないのでーす、ジグザグマ『たいあたり』でーす」
「「クスネ、『しっぽをふる』」」
「ジグ!ザグ!」
「「クスス、ネ」」
三匹の中から一匹だけ飛び出してきたジグザグマの後ろでクスネが『しっぽをふる』を使う。そのしっぽの動きに気を取られていたウールーへジグザグマの『たいあたり』がヒットする。
幸い、体毛の上からの攻撃だったので大事には至らなかったが完全にクリーンヒットの攻撃で危なかった。
「ココガラ、クスネに『つつく』だ」
「ウパちゃん、クスネに『みずでっぽう』よ」
フリーになっていたクスネ二体にココガラとウパーの攻撃が迫る。
「「クスネ、躱しな」」
「「クスス」」
クスネ達は『つつく』を華麗に躱し、『みずでっぽう』をギリギリで躱すとそのままその大きな尻尾でココガラ捕まえてしまった。
「なに!?」
「「クスネ、『ふくろだたき』」」
「「クスススス!!」」
「がぁ!??」
しっぽに捕らえられたココガラにクスネ二人掛かりでの『ふくろだたき』が炸裂する。いいようにボコられたココガラは何とか抜け出すが相当なダメージをくらってしまった。
「あたしたちのクスネは二体で一体!」
「この無敵のコンビネーションをどうにかしないと勝ち目はないわよ!」
「あらそう、ウパちゃん『しろいきり』」
「ウパー」
「「へっ?」」
ウパーの口から出た白い霧が二匹を包み込む。
こちらからも見えなくなってしまったが霧の中からクスネ達の戸惑いの声が聞こえてくる。どうやらかなり混乱しているようだ。
「で、でもこれじゃあんたたちのポケモンも攻撃できないでしょ」
「そ、そうよ、気にする必要はないわ」
「ウパちゃん、『みずでっぽう』」
「ウパー」
ウパーの放った『みずでっぽう』が霧の中のクスネ一体を捉える。霧の中から押し出されたクスネはその無防備な体を晒してしまう。
「そこだココガラ、『みだれづき』」
「がぁ!がぁ!がぁ!がぁ!がぁ!」
その隙を逃さずココガラ怒りの『みだれづき』がクスネを襲う。先ほどいいように攻撃されたことで怒っているようだ。
怒りの五連続『みだれづき』を食らったクスネはたまらず目を回し戦闘不能に陥る。
「ホップ、ナイスアシストね」
「お前もだぞユウリ」
二人は互いに右腕を上げてハイタッチ。未だに状況が理解できないでいるエール団を無視して霧の中のクスネを再度同じやり方で戦闘不能にする。
これで残るはジグザグマただ一体だ。男はクスネ二体が倒されたにもかかわらずこちらをしっかりと観察している。
隙が無い、が無いなら作るだけだ。
「ウールー、『まねっこ』」
「ンメェ!」
ウールーの体が青いオーラに包まれるとウールーが口から『みずでっぽう』を繰り出す。
ウールーから出たまさかの技に男もジグザグマも目を丸くする。『みずでっぽう』の直撃したジグザグマに止めを刺す。
「ウールー、『にどげり』」
「ンメェェ!」
ウールーのよく鍛えられた後ろ脚から放たれた『にどげり』がジグザグマを直撃、悪とノーマル二つの効果抜群で威力は倍の倍。ジグザグマも耐えられなかった。
すべてのポケモンを失ったエール団が後ずさりをする。突然勝負をかけられ、三対一を強いられそうになったこちらも引く気はない。
お互いに睨み合いが続いていたが、予想外の声が沈黙を破る。
「みんな、なにしてんの…」
全ての視線が声の主へと引き寄せられる。声の主は俺の知っている相手だった。
「あれ、マリィ?」
「「「「マ、マリィ!?」」」」
「あんたたちがジムチャレンジャーを気にするのはわかるけどさやりすぎだって」
「あ、あのぅ、その…えっと」
さっきまであれほど強気だったエール団の気迫が明らかに削げていく。まるで隠していた秘密がばれて怒られた時の子供のようだ。
するとマリィがこちらを向き、目が合うと深々と頭を下げてきた。
「ごめんアカツキ!エール団はアタシの応援団なんだけどみんな浮かれて迷惑をかけたみたい!」
「あ、うん。まあ俺はいいけど他の人とかホテルの人に迷惑をかけたのはちょっとね…」
そう俺が言うとマリィはエール団をキッと睨み付け大きく声を上げた。
「ほらみんな、早よ謝り!」
「うららぁ!」
「「「「ご、ごめんなさいでした!」」」」
マリィに怒られたエール団は深々と頭を下げると超スピードでホテルを出て行った。
あんなに大きな声を出すんだとマリィを見つめていると少し顔を赤くしてもう一度俺に頭を下げてきた。
「ごめんねアカツキ。みんなあたしの応援に夢中で他のジムチャレンジャーに迷惑かけてるみたいで」
「う、うん。まあ他の人たちに迷惑をかけないようにいってくれれば俺はそれで」
「ありがと、みんなほんとは悪か人やないんやけどね」
エール団が去りフロントには他の待っていた人たちが押し寄せていたので俺達はソファーのところにまで移動した。
その後ホップとユウリがマリィを紹介してくれと頼んできたのでフロントが空くまで四人で時間をつぶした。
特にユウリはマリィが気に入ったのかぐいぐいと距離を詰めたり、抱き着いたりしている。マリィはユウリの圧に圧されされるがままにされている。たまに助けを求める視線が飛んでくるがユウリをどうにかできるわけがないので目を逸らすと裏切り者!と言われた気がした。
その後チェックインを終えた他のジムチャレンジャーや一般客からお礼を言われたりもした。
「君たちやるね、さすがはチャンピオンに推薦されただけあるよ」
「ジムチャレンジでは負けねぇからな!」
「ありがとうね、これでやっとチェックインできるよ」
「ジムチャレンジ応援させてもらうよ!」
すこし気恥ずかしかったが勇気を出して彼らの前に出た甲斐はあったと思えた。
その後俺達がチェックインに行くとフロントの方にもお礼を言われた。
バトルでロビーを汚してしまったので掃除を手伝いますと申し出たがそこはホテルのプライドがあるようで「戦闘があった前よりも綺麗にします」と目に炎を燃やしていた。
チェックインを終えホップ、ユウリ、マリィと別れた後自分の個室に入る。広々とした個室に一人きり、なんというか久々に一人で落ち着けた気がした。
今日も一日色々なことがあったなと思いながらふかふかのベッドで一夜を明かした。
『ジムチャレンジ』開催まで、あと3日。
ユウリ「ウパちゃんが霧の中のクスネに攻撃を当てれた理由?」
「勘よ!」
ウパー「ウパ?」