ロコンが仲間になってから一日が過ぎた朝、ついにその日はやってきた。
ジムチャレンジ開幕の日、世界が注目する『ジムチャレンジ』の開会式を一目見ようとエンジンシティには沢山の人が押し寄せてきていた。そしてこのホテルスボミー・インに泊まっている他のジムチャレンジ参加者も今は緊張でピリピリとしている。
支度を整えた俺がロビーに降りると既にホップとユウリが待っていた。
「おはようだぞ、ついにこの日が来たな」
「…なんか緊張してきたわね」
「ユウリも緊張するんだね」
「あたしを何だと思ってるのよ!」
いつもの二人とのやり取りで少しずつ緊張がほぐれていく、それでもやはり緊張はするものだ。今から怖くて仕方がない。
「いよいよオレ達の伝説がスタートするぞ」
「俺達の伝説…」
「そうだ、オレ達の中から次のチャンピオンが生まれる。これは絶対だぞ!」
ホップとの真剣勝負をした日に三人で交わした約束。
『俺は最強の!』
『あたしは頂点の!』
『おれは…最高、そう最高の!』
『『『チャンピオンを目指す!!!』』』
その直後、この腕に着けたダイマックスバンドにはめ込まれた『ねがいぼし』が降ってきたのだ。俺達の約束に込めた『願い』に引き寄せられたかのように。
「まあ、アニキに勝ってチャンピオンになるのはオレだけどな!」
「何言ってんのよ、ダンデさんに勝ってガラルを支配下に置くのはこのあたしよ!」
「…ユウリの目標変わってない?」
「言葉の綾よ。ダンデさんに勝ってあたしが頂点に立った時、それはガラル地方の全てがあたしのものになる瞬間よ!」
世界征服じみたことを恥ずかしげもなくユウリ。ホップと顔を見合わせてアイコンタクトだけで言葉を交わす、今俺達の心は一つとなった。
「「(こいつにだけはチャンピオンの座を渡すわけにはいかない…)」」
こんな邪知暴虐の限りを尽くす暴君がチャンピオンになったりでもすればガラル地方はおしまいだと心に誓った。
そしていつもの、
「よし、アカツキ、ユウリ!エンジンスタジアムまで競争だ!」
「甘いわね!勝負は始まる前から終わってるのよ!」
いつもの通り競争の始まりを合図したホップが我先にとホテルの出口へ走りだそうとする。そしてこちらもまたいつもの通りユウリが小細工で妨害しようとするが「甘い!」はこちらの台詞、それはもう見切った!
「ロコン、『かなしばり』」
「コン!」
「ヤミ!?」
そう、いつもいつも俺とホップに『くろいてっきゅう』の足枷をはめていたのはこのヤミラミだったのだ。腕に二つの足枷をもって待機していたヤミラミをロコンの『かなしばり』で拘束する、これでもう足枷はつけられない!
「ヤミちゃん!」
「ナイスだアカツキ!」
「ロコン、ホップにも『かなしばり』」
「コン!」
「なに!」
今までユウリもポケモンを使ってたし俺が使っても問題ないよね?
ホップは『かなしばり』に、ユウリは『かなしばり』で動けなくなったヤミラミを回収するために慌てている。
「じゃあね、俺は一足先にスタジアムに行っておくよ」
「ずるいぞ!」
「恥を知りなさい、恥を!」
「うるさいうるさい!特にユウリには言われたくないやい!」
二人を置き去りにしてホテルを出た俺は全速力でエンジンスタジアムへと向かった。
「…くす、こんな日までアカツキ達は楽しそうやね」
「うららぁ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
エンジンスタジアムの前には既に大勢のお客が来ている、エントリーをしに来た四日前と比べてもその人数と出店の数は比較にならないほどだった。
人ごみをかき分けスタジアムの前まで進むと、そんな人ごみの中でも明らかに目立つ存在がスタジアム前に陣取っている。
「はぁ~い、ボクはボールガイぼるよ~。みんな今日の開会式を楽しみにしてたぼるか~」
エントリーをしに来た日にも見かけた謎のコスプレマンがいた。しかしあんな場所に陣取っているとはもしかしてあのコスプレマンは公式の存在なのだろうか。
そんな風に考えているとボールガイと名乗る謎の生命体が俺に目を付けたのか手招きしてくる、え?怖い。
「そこの君~、ボクと一緒に写真を撮りたいなら今のうちぼるよ~」
「結構です」
怖かったし写真を撮る気もなかったので足早にスタジアム内部に向かう。しかし回り込まれてしまった!
「冗談ぼるよ~。ところで君、チャンピオンに推薦されたジムチャレンジャーぼるよね?」
「ッ!どうしてそれを」
「もう有名になってるぼる、あの無敗のチャンピオンが推薦したっていう無名のトレーナーが三人もいるって関係者間ではその噂で持ち切りぼるよ」
「関係者間?あの、貴方って一体?」
「ボクは見ての通りこのジムチャレンジの公式マスコットボールガイぼるよ!」
そういってリーグカードとモンスターボールを押し付けてボールガイはまた人ごみの中へと戻っていった。勢いが強すぎる。
「えっと、とりあえずロビーに行ってこよ」
ひとまずあの謎の存在ボールガイのことは忘れてジムチャレンジ開会式に集中することにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ロビーで待っていると人ごみにもみくちゃにされたらしいホップとユウリが疲れた表情で入ってきた。
「おぉ~、ロコンよくやったな。お前は頼りになるやつだよ」
「コンコン!」
一緒に入ってきたロコンが俺のところに一目散にやってきたので抱きしめ、その大きな尻尾の感触を確かめる。もふもふしていて炎タイプ特有の温かさに心がほっこりする。
「あ、ホップにユウリもお疲れだったね」
「…今後はポケモンの使用は禁止で」
「…さんせー」
「えー」
多数決でこれから競争におけるポケモンの使用が禁止になった、まあもう使う気はなかったからいいんだけど。
その後、エントリーを行った受付でユニフォームを受け取る。その背中には俺がエントリーをしたときに提示した『114』の数字がしっかりプリントされている。番号の理由?誕生日です。
更衣室で受け取ったユニフォームに着替えジムチャレンジの開会式を待つ。待機室には既に多くのジムチャレンジャーがユニフォームに着替えて待機をしていた。
「よっす、着替え終わったか」
「うん、ホップも似合ってるよ」
「当然だな!」
ホップの活発な印象とユニフォームという服装の相性は抜群だ、背中にプリントされた『189』の数字も似合っている。
二人で待機していると女子更衣室の方からユウリが出てきた。そしてなぜかぐったりしたマリィも連れて。
「おまたせ!」
「ユウリはともかくマリィはどうしたの?」
「さっき更衣室で見つけたの!一緒に着替えてきたわ!」
「…もうユウリとは絶対一緒に着替えんけん」
「そんなー!マリィちゃん許してー!」
マリィの顔色とユウリのいつもの行動から何があったのかは大体想像がつく。大方着替え中に体をまさぐったとかそんなところだろう、ユウリに気に入られた自分の可愛さを呪ってくれと心で合唱した。
それからしばらくたった後開会式が始まった。まずは大会委員長による挨拶の言葉らしい。
『私、リーグ委員長のローズと申します』
『お集まりいただいたみなさま、そしてテレビで見ている皆様も大変お待たせいたしました』
『いよいよ!ガラル地方の祭典『ジムチャレンジ』の開催です!!!』
『『『『うぉぉぉぉ!!!』』』』
大会運営委員長ローズの元、ついに『ジムチャレンジ』の開幕が宣言されたると待合室にも響き渡るほどの大歓声が聞こえてきた。
『ジムチャレンジ!!!』
『それは八人のジムリーダーに勝利し、八個のジムバッジを手に入れたすごいポケモントレーナーだけが!』
『最強のチャンピオンの待つチャンピオンカップに進めるのです!!!』
『それではガラル地方の誇るジムリーダーのみなさん!』
『その姿をお見せください!』
ローズさんがそう宣言するとジムチャレンジャーである俺達とは向かい側に位置する通用口から7人のジムリーダーが姿を現した。
『ファイティングファーマー!草タイプ使いのヤロー!』
逞しい腕と足腰、大きな日よけ帽子をかぶり優し気な笑みを浮かべる男。草タイプ使いのヤロー。
『レイジングウェイブ!水タイプ使いのルリナ!』
褐色の肌と水色の瞳を携え、水着のようなユニフォームを纏った女性。水タイプ使いのルリナ。
『いつまでも燃える漢!炎のベテランファイター、カブ!』
ベテランという言葉に恥じぬ熱き闘気とユニフォームを纏う姿は、まさしく漢。炎タイプの使い手カブ。
『ガラル空手の申し子!格闘エキスパートのサイトウ!』
ガラル空手を修める若き天才少女。心技体をそろえた格闘タイプの使い手サイトウ。
『ファンタスティックシアター!フェアリー使いのポプラ!』
杖をつき移動するその姿はまさしくご老人。しかし、魔術師ともいわれるこの人こそ一番油断のならない存在。フェアリータイプの使い手ポプラ。
『ハードロッククラッシャー!岩タイプマスターのマクワ!』
ヤローにも負けず劣らずの逞しい体格、大きなサングラスに隠された素顔は知る人ぞ知るらしい。岩タイプ使いのマクワ。
『ドラゴンストーム!トップジムリーダーのキバナ!』
トリを飾ったのは現ポケモンリーグ最強と名高いドラゴンタイプの使い手キバナ。自撮りしている。
『……どうやら一名来ておりませんが、彼らこそガラル地方の誇るジムリーダーです!』
ジムリーダーは本来八名、現れたのは七人。一人欠席しているようだが会場の熱気はとどまることを知らない。
「ジムチャレンジャーの皆様!出番ですので入場の準備を!」
待合室で開会式を観戦しているとリーグスタッフが呼びに来た、ついに俺達が見る側からあのスクリーンに映る時間が来たのだ。
「あ、ヤバい。なんか手が震えてきた」
ぶり返してきた緊張で手足が固まりうまく力が入らないでいるとホップが俺の手を力強く叩いた。
「ほら行くぞアカツキ!俺達の伝説を世界中の人が見るんだぞ!」
その言葉と叩かれた衝撃で震えは治まってしまった。こんな時まで底抜けに明るいホップの言葉に力を貰う。
「行くぞ!」
「うん、行こう!」
ホップと二人で通用口まで駆け抜ける、どちらが先に出場するのか競争だ!
「ほんとあの二人ってばあたしを置いて青春してるわね」
「ユウリ、アタシたちもはよ行こ」
「そうね…世界の美少女ユウリちゃんの姿を全人類がその目に焼き付ける時が来たのね!」
「そこまで言っとらんばい」
『それでは、若く新しい選ばれしジムチャレンジャー達の入場です!』
「俺が!」
「オレだぞ!」
他のジムチャレンジャー達を押し退け、我先にと通用口の出口を目指していると同じ考えの持ち主である他のチャレンジャー達も追いすがってきた。
「チャンピオンの推薦者にばっかりいいところは譲らねえぞ!」
「ふぉふぉ、若いもんにはまだまだ負けんぞ!」
「家族も見てる!ウチが一番に登場して見せるよ!」
「ねぇ、髪型決まってる!?ねぇ、教えてよ、ねぇ!?」
「ハハハ、なあアカツキ!」
「うん!? なに!?」
「楽しいな!」
「うん!」
そして通用口の終わり、歓声が溢れるスタジアムのコートまで、あと少しだ!!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
開会式は無事閉幕し、俺達ジムチャレンジャー達もユニフォームから普通の服に着替えなおした。
既にジムチャレンジは始まり、我先にとジムを目指したものもいるというが俺達は一度ロビーに集まっていた。
「あれ?マリィは?」
「マリィちゃんなら先に行ったわ、『ここから先はライバル、次に出会ったら手加減せんけんね!』って言ってたわ。可愛い~」
マリィは先に行ってしまったのか、ここ数日一緒に居ただけだがもう長い間一緒に居たような感じに襲われる。
俺達もここからは敵同士、ジムチャレンジで鎬を削るライバルとなるのだ。
「よう、ここにいたかホップ!アカツキ!ユウリちゃん!」
「おぉ!アニキ見てくれたか!俺達の伝説を!」
「あぁ!通用口からケンタロスのように走って出てきたお前たちの勇姿はばっちりこの目に焼き付けたぞ!」
結局沢山のジムチャレンジャーにもみくちゃにされ誰が一番かはうやむやになってしまった、悔しい。
「やぁやぁ、君たちがチャンピオンに推薦されたトレーナーたちですね?」
ダンデさんとの話に割り込んできたのは何と大会運営委員長のローズさんだった、なんとこの人ガラル地方の企業のほぼすべてを所有するとんでもない人だという。ユウリのいうガラル地方の頂点ってチャンピオンではなくこの人ではなかろうか?
そんなことを考えているとローズさんの視線が俺達の腕に行く。
「ちょっと待って、既にダイマックスバンドをお持ちなんだ!」
「ああ!俺達がアニキに認められた日、空から『ねがいぼし』が降ってきたんです!」
「素晴らしい!あなたたちはねがいぼしに選ばれたトレーナーということですね!」
一人うんうんローズさんは唸っているとリーグスタッフが来て何かを話し始めた。
「ローズさん、そろそろお時間です」
「おお…それではみなさんジムチャレンジを頑張ってくださいね。今年のジムチャレンジは特に熱くなりそうですね」
それではごきげんよう、とローズさんは去っていった。さすが大会委員長、立ち話をしている時間も少ないのだ。
ローズさんが去り、一人になったダンデさんによるありがたい言葉を頂いた。
「いいかお前たち、まだリーグは始まったばかり」
「ポケモンを鍛えるのもそうだがまずはトレーナーである己自信を鍛えろ!」
それだけ言ってダンデさんもスタジアムを出ていく。しかしダンデさんが出た瞬間外がわぁ!と騒がしくなった、チャンピオンも大変だなあと思った。
「じゃあアカツキ!出発前に俺とポケモンバトルだ!」
「いいね!じゃあ三番道路で「待ちなさい!」っと、何、ユウリ?」
「ホップはもうアカツキと二回戦ったでしょ?だから今回はアタシに譲りなさい」
自信満々に自分と戦え!とユウリが言ってきた。ポケモンを貰ったあの日以来久しぶりにユウリと戦うことになった。