すいません!何でもしますから!
四番道路を荒らしていたヨクバリスを何とか退け、五体目の仲間ワンパチをゲットした。その後、なんとか夜のうちにターフタウンに到着した俺はポケモンセンターに宿を取って一夜を明かした。
夜が明け、日も登り始めた頃に俺はジムチャレンジについての情報を仕入れようとスタジアムに向かった。予約の数によっては明日明後日とこのターフタウンに拘束されてしまう、なるべく早めの順番でありますようにと祈りながら足早に駆け出した。
するとスタジアムに向かう途中、近くの畑から桑を振るう音が聞こえてきたのでそちらに意識を向けてみて驚愕した。なんと音の主、桑を振るっていたのはヤローさんだった。俺が声をかけるとヤローさんは首にかけたタオルで汗をぬぐいながら手を振ってくれた。
ヤローさんはジムリーダーでありながらこのターフタウンで農業をしている一人でもある。ジムリーダーとしての仕事をしている間はそんな暇もないようでこうして朝早く畑作業をしているというのだ。
「それにしてもいい野菜ですね、これは全部ヤローさんが?」
「ああそうじゃ、どれも立派に育ってくれているだろう」
畑を見渡してみてわかる、畑に生っている野菜はどれも大きくてすごく立派なものばかりだ。ヤローさんの腕の良さがわかる。
「このトマトを使ってカレーとかも作ってみたいな」
「ははは、そういえばアカツキさんは昨日もカレーを作っていましたね。料理、お好きなんで?」
「カレーが大好きです!」
そういうとヤローさんはカレーの具材になりそうな野菜をいくつかプレゼントしてくれた。袋に入った野菜たちはずっしり重く、それだけでいいものだということがわかる。生産者と消費者、消費者として生産者の人にはもう足を向けて寝られないと思った。
「あ、そうだヤローさん!俺の参加予約ってどうなっていますか?」
ヤローさんと野菜の話で盛り上がり忘れてしまっていたが今日スタジアムに向かっていたのはそのためであった。俺の初ジムチャレンジはどうなっているのだろうかと期待に胸を含ませているとヤローさんはにやりと口角を上げてこう言った。
「アカツキさんのジムチャレンジは今日の最後、つまりトリの勝負じゃな」
トリ、トリとは『取り』に意味を端する言葉で舞台などで最後に姿を現した演者がギャラをすべて貰うとかなんとかから生まれた言葉である。端的にいうと、その日最後を締めくくる大勝負ということだ。
「嫌だぁ…」
ここ彼も姿が見えるあの大きなスタジアムでバトルをするというだけでも緊張するのにそれが一日の締めくくりを行う大勝負だなんて…うう、お腹が痛くなりそうだ。
俺がまだ味わってもいないプレッシャーでお腹を痛めていると思い出したかのようにヤローさんが言葉を発した。
「そういえば昨日、君と同じチャンピオンの推薦者の二人が挑戦してきましたねえ」
「!」
ヤローさんの言葉にビクッと肩が震える、ついでに腹痛も消える。もしやと思い聞いてみると、やはりそれはホップとユウリのことであった。
「二人は…」
「ええ、二人とも突破されましたよ。とても強い、あの二人は勝ち上がっていくとおもいますよ」
ジムリーダーに太鼓判を押される二人。そうか、あの二人はもう俺の先を言っているのか。そう思うと先ほどまで感じていた形のないプレッシャーなどどこかへ行ってしまった。
トリの勝負になったから不幸?幸運?違う、あの二人に一分一秒でも早く追いつくために早く自分もジムチャレンジを突破しなければという対抗心がメラメラと燃え上がってきた。
「おや、どうやらすごくやる気になったようですねえ」
「はい、あの二人に遅れたままを明日以降に持ち越す、になんてことにならず良かったと思い始めました」
「おやおや、もうターフジムを攻略したというような口ぶりですね」
「あの二人に突破できて俺にできないなんてあり得ませんから」
ヤローさんの優しい表情が一転、ジムリーダーとしての闘志溢れる表情に様変わりするがそれも一瞬のこと。すぐさま優しい顔に戻ってしまった。
「ふふ、いいですねえ。では今日の最後の試合をスタジアムのコート、ジムミッションの先でお待ちしています」
「? ジムミッション?」
「あら、もしかしてアカツキさんジムミッションをご存じでない?」
ヤローさんが格好良く「待っている」といって踵を返そうとしたが俺の疑問形の言葉を聞いて転びそうになった。
どうやらジムミッションとはジムリーダーに挑む前に行われる選定試験のようなものらしい。ジムによってそれは様々で、ジムミッションによってはジムリーダーに挑戦することすらできないというわけだ。
「…ところであの二人は?」
「ジムミッションの内容を教えるわけにはいかないですけどホップさんは慣れた感じで、ユウリさんもサクサク突破しましたねえ」
…負けらんねぇ!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その後予定の詰まっているヤローさんはスタジアムへと向かっていった。俺はもうスタジアムに向かう必要はなくなったのでとりあえず貰った野菜をどうにかするためにポケモンセンターに戻ることにした。
俺がポケモンセンターにとった自分の部屋に野菜を置いたころには既に日も登り、続々とスタジアムに人が流れ始めた。今日のジムチャレンジが始まりだしたのだろう。
ガッツリ朝食を取り、ジムチャレンジの時間まで暇をつぶそうとポケモンセンターを出ると何か見覚えのあるポケモンが走ってきた。あれはワンパ…
「イヌヌワン!」
俺の思考回路が正解を導き出す前にワンパチが顔に飛びついて顔を舐めまわしてきた。この特徴的な鳴き声は確かソニアさんのワンパチだ。俺は顔からワンパチを引きはがし地面に置くとワンパチがくるくると俺の周りを回り始め少しするとついてきて!と言わんばかりに少し先の道まで走り俺を見つめてきた。
そういえばダンデさんがワンパチは道案内が得意だとか言っていたのを思い出す。
「もしかして俺をどこかに連れていきたいのか?」
「イヌヌワン!」
それを同意と受け取ったのかワンパチはさらに先へと走り始めた。ワンパチは俺がついてきているのかをチラチラ見ながら走っているところから道案内に慣れているというのは本当なのだろう。
ワンパチに連れられ道を進んでいくと少し坂を上がる道になってきた。ワンパチを追いながらロトムスマホに地図を出してもらい見てみた。どうやらこの先は見晴らしの良い丘の広場になっているらしい。
俺が丘の広場に到着すると、広場の入り口で待っていたワンパチが広場の中心にまで走りだす。広場の中心にいたのは三人。
「ありがと、ワンパチ!」
「イヌヌワ!」
「お、来たみたいだな」
「まったく、あたしを待たせるなんていい度胸ね」
「はぁ、はぁ。うん、一日ぶりだねホップ、ユウリにソニアさんも」
いたのは俺のライバル二人にソニアさんの三人だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「君の考えを聞きたくて呼び出したの、ごめんね」
ソニアさんがワンパチを戻してそんなことを言ってきたのだがまるで要点が掴めない。
「つまりどういうことです?」
「アレよ、アレ」
ユウリが俺の顔をつかんで無理やりに捻る。なんだか首がゴキッ!とか言ったような気がするが、その前に目に入ってきた光景に驚いた。
「な、なんじゃこりゃ!」
「有名なターフタウンの地上絵よ、知らなかったの?」
ユウリが俺を小馬鹿にしたような口ぶりで煽ってくるが今はそれよりこちらに気が行った。
それはこの丘の広場の正面に大きく描かれていた。
向かいの丘に描かれたそれは巨大な人型?が電気のようなものを出して暴れ、その周りには小さな人型が倒れるように転がっている。そんな感じの巨大な地上絵が存在していた。
俺がその大きさと雄大な自然に驚いているとソニアさんが説明を始めてくれた。
「この地上絵はね、今からおよそ3000年前に描かれたものらしいわ」
「3000年前…!」
「君の目にはこの巨大な地上絵はどう映る?」
そう言われじっと地上絵を見つめてみた。
巨大な人型が存在し、その周りには小さな人型がたくさん寝転がっている。つまり巨大な人型のほうが少数派、小さな方が多数派だということがわかる。異常なのは巨大な方だ。
「ダイマックス?」
そう、ダイマックスだ。通常のサイズのポケモンを全長数十メートルにまで巨大化させる技術が最初に思い付いたのだ。
「それもあるよね、大きくなったポケモンにも見える」
「だよな~、オレもダイマックスしたポケモンに見えるぞ」
「あたしも二人と同意見ですね」
「そうよね、でも3000年前の人が想像力豊かでも見たこともないダイマックスを描けるかしら?」
そうだ、いまでこそダイマックスの存在は公になっているが少し前まではダイマックスもそこまで知られていたわけではない。ローズ委員長とマグノリア博士、この二人の研究と事業によりここまでダイマックスが普及しているのだ。
「大昔に黒い渦がガラル地方を覆い、巨大なポケモンが暴れまわった…ブラックナイトって何なのかしら、ダイマックスとどんな関係が」
エンジンシティのホテルでソニアさんが話してくれたガラル地方の伝説、それが関係しているのだろうというのはなんとなくわかるがやはりそれ以上のことはわからなかった。
「それを調べるのがわたしか…おばあさまの宿題は重いな」
「ソニアならきっとわかるさ!」
「まあ何とかなるんじゃないです?」
「なんとかなりますよ、ソニアさんなら」
正直俺たちの頭や知識では答えは出てこない。ならばできるのはそれを応援することだけだ。俺たちの応援を聞いたソニアさんは少し苦笑しながら何かを差し出してきた。
「うん、貴重なご意見と声援ありがとう。お礼にリーグカードあげるね」
ソニアさんが差し出してきたのはヤローさんのリーグカード。プロマイドのような写真にヤローさんと野菜の形をしたサインが描かれている、とてもヤローさんらしい。
「ヤローさんは草タイプのジムリーダーだからね。燃やしたり凍らせたり、飛行タイプや虫タイプに毒タイプなんかも有効よ」
「オレはもう倒したぞ」
「あたしも突破しましたよ」
「えー!早い!わたしだってもっとかかったのにー!」
速すぎる二人の攻略を聞いて涙目になったソニアさんがこちらをじっと見つめて何かを伝えてくる。わからん。
「えっと、俺は一応今日ターフジムに挑むつもりです」
そう聞いたソニアさんはパアッと顔を明るくして俺の手を握るとブンブンと振ってきた。過去の自分と比べて、やたらと早く突破した二人になにか思うところがあるようだ。
「そうだよね!普通は三日四日掛けてやっと挑戦できるものよね!ダンデ君みたいなのが普通じゃないわよね!」
「えっとそうですね…」
二人に視線を向けてみるが目を背ける。どうやらダンデさんも同じようなスピードで速攻攻略して差を開かれたのが軽いトラウマになっているようだ。
しばらく感極まっていたソニアさんだがようやく落ち着いた。
「えっと、とりあえず頑張ってね。私も見に行くから、何時?」
「今日の最後です」
「うわぁ、トリの勝負か。あれ観客も盛り上がってるしわたし少し苦手だったわね」
やはり最後の勝負というのは盛り上がるのか。
「ホップとユウリも見ていく?」
「いや、オレはもう次の町に行くぞ」
「あたしも」
二人はどうやらもう次の町に進むようだ。俺の負ける姿を見られないというのが嬉しい反面、差をつけれれるのが悔しくもあった。
するとユウリが拳を突き出し、俺の胸にドンと当ててきた。
「…あたしに勝っておいて、無様に負けたりしたら許さないんだからね」
どこか顔を赤らめてそう言ってくるライバルに叩かれた胸が熱くなる。そうだ、ヤローさんにも大口をたたいたばかりだった。
『あの二人に突破できて俺にできないなんてあり得ませんから』
あの言葉を思い出してもう一度口にする、今度は二人のライバルの前でだ。
「二人にできて俺にできないなんてあり得ないから」
その言葉を聞いたホップとユウリは少し驚いた顔をしたがすぐににやりと口角を上げる。
「ふん!よくそんな大口が叩けたものね!最下位の分際で」
「オレのライバルとして申し分ないぞ、アカツキ!」
とても二人らしい言葉だ。
「うん!俺はもう負けないよ、あいつに勝つためにも!」
ビートの顔を思い出す。二人のライバルとして返り咲くためにも、もうあんなピンク野郎にも後れを取るわけにはいかない。しかし『ねがいぼし』掘りは意外と楽しかったのでノミと金槌を買っておこうと思った。
「…ちょっと待ちなさい。あんた、負けたの?」
俺がそんな感じで意気込んでいるとそれを聞いたのかユウリが訊ねてくる。特に隠すことでもないが勝ったのか負けたのか微妙な勝負なので言葉に困る。
「あーいや負けたというか勝ったというか…実質負け?みたいな」
その言葉を聞いたユウリとホップが俺の肩を掴み問いただしてくる。えっ!?なに!?
「あんたあたしに勝ったくせにどこの馬の骨ともわからない奴に負けたの!?言いなさい!誰に負けたのよ!」
「そうだぞ!オレ今のところお前に全敗してるんだからな!」
「えー…あのエントリー登録の日に俺達のこと見てふっ、て笑ってどっか行ったピンク色のビート君だよ」
「あんな色物に負けたの!?」
たしかに色物っぽいビートだが実力は本物だ。知識に照らし合わせた堅実なバトルと勝利に対する執着、なにが彼をあそこまで駆り立てていたのだろうか?『ねがいぼし』集めを依頼したというローズ委員長にも関係が?
「何とか言いなさいよ!?」
ホップとユウリ(特にユウリ)に揺さぶられながらそんなことを考えるのだった。
そしてお忘れだろうが俺はまだ朝飯を食べたばかりだ、そんな俺が考え事をしながら強く揺すられ過ぎればどうなるかもお分かりいただけるだろう。
「うおろろろろろろ」
「キャー!こんなところで吐くんじゃないわよ!」
「傷は浅いぞアカツキ!すぐにあっちの公衆トイレに!」
「……大丈夫かしらこの子たち」
ターフジム挑戦はすぐそこだ!
…ヤローさんの口調難しくない?