剣盾旅記録   作:鳴神ハルキ

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三対三ですらこれだけかかるならフルバトルとかになったらどうなるのか今から震えています。ブルブル


25、vsルリナ

 

 ジムチャレンジ二番目の関門、水タイプの使い手があつまるバウスタジアム。

 ジムミッション・流水の迷路を乗り越え進化した仲間達。最後の相手は強敵、ジムリーダーのルリナさんだ。

 

『なんとパルスワンに続いてジメレオンも進化だぁぁぁ!』

 

『うおぉぉぉぉぉお!!!』

 

 現在スタジアムのコートでは先ほどまでのジムミッションの戦いが流されている。

 今回俺のポケモン達が起こしたようなバトル中の進化や新しい技を覚えるという現象はそこまで珍しい現象ではない。現にミッションやジムリーダーとの戦いという壁を乗り越えたポケモンが強くなったという事例は数多くネットなどにも記載されている。それでも一試合で二匹のポケモンが同時に進化するというのは極々稀だ、観客席でそのハイライトを見ている観客たちも大盛り上がりしている。

 

「はは、今回は本当にお世話になったよ。ありがとな、お前たち」

 

「メレォン!」

「ワォン!」

 

 進化したジメレオンとパルスワンとの触れ合い。進化する前より立派になったその体にはエネルギーが迸っている、進化する前との力の差は歴然だ。

 パルスワンは素早さが大幅に上昇し、特性『がんじょうあご』によって強力なかみつき技を使えるようになった。

 対してジメレオンは全体的な強さも上がったが二足歩行になり、さらには水技を球体状にすることで素早く繰りだせるようになった。 

 

 本当に頼もしい限りだ。

 

「ルリナさんとの試合でも頼りにしてるぞ!相棒!」

 

「メレオン!」

「ワオン!」

 

 画面に流れていたジムミッションのハイライトも終わりそろそろ時間がやってきたようだ、ポケモン達を戻して控室を後にする。

 ここからは本気で行かなければ文字通り、飲み込まれてしまう。

 観客からのプレッシャーにも飲み込まれそうだが、それ以上にルリナさんという大波が存在する。普段は流れる水の様に落ち着いているが、流水は激流となり挑戦者に牙をむくと他のジムチャレンジャー達からもっぱらの噂だ。

 

『さて準備が整いました!それではジムチャレンジャー、アカツキ選手の入場です!』

 

 コート入口で待機しているとついにお呼び出しがかかる、同時に観客席からあふれんばかりの歓声が響き渡る。

 ターフジム戦とは違いあそこまでの緊張はもうない。聞こえてくる歓声は以前とも負けず劣らずのはずだというのにどこか落ち着いている、それでもやはり少しは緊張している自分もいてどっちだよと言いたくなる。

 頬を強く叩き気合を入れ一度は乗り越えた舞台に、足を踏み出した。

 

 

『うおぉぉぉぉぉお!!!』

 

 入り口から聞こえていた歓声などコートの中で聞こえるものに比べれば子供のようだった。

 

 間接的に聞こえてくる音と、向けられている音とでは圧迫感がまるで違ってくる。声の一つ、期待の一つが体に絡みついて動きを鈍らせて来るようだった。

 しかしそれを無理やり押し込めコートの真ん中、ルリナさんの待つ場所にまで赴いた。

 

「よくぞいらっしゃいました、ジムチャレンジエントリーの方」

 

「改めましてわたしはルリナです、先ほどはどうもすみませんでしたね」

「いえ、俺も試合の前にルリナさんとお話しできたのでよかったです」

「ふふ、お世辞ということで受け取っておくわ」

 

 バトルが始まればこうして言葉を交わすことも無くなる。どんな人なのか話せただけでも先ほどの邂逅には意味があったと思う。

 

「うちのジムミッションは控えめに言っても難しかったというのにサクサククリアしてくれましたね?」

「はは、その分ジムトレーナーのみんなは手ごわかったですけどね」

「ありがとう、後でみんなにも伝えておくわ。頭脳と力を併せ持つ立派なジムトレーナーさん」

 

 それだけ言葉を交わすと俺もルリナさんもコートの真ん中から距離を取る。以前のヤローさんとの戦いとも同じだ。

 

 しかしここは水タイプのジム、それで終わるわけがなかった。

 

「これは!」

 

 コート中央、モンスターボール型の円から足を踏み出した途端に外円の部分が変形を始める。 

 あわててその場から離れると、中円より外側の外円が水に満たされたプールとなった。

 

「ここは水タイプポケモン専用のジム、さっきまでのプールと同じ水のステージよ」

 

 コート自体に変形機能の付いた場所があるなんて!動揺をなんとか飲み下す。

 外円はすべて水に満たされたプール状態、陸があるのはその周りと内側の中円だけだ。水陸両用のポケモンにならこれほど戦いやすいフィールドもないだろうが、片方…特に陸しか持ち合わせないポケモンでは厳しい戦いとなるだろう。

 

 いつのまにか顔の横にまで汗が流れてきている。

 明確にジムリーダーに有利なフィールド。それを乗り越えられるのかと不安が湧き上がってくる反面、ドキドキとこれからの戦いを思い浮かべ楽しんでいる自分もいる。

 

「ええ、こちらも望むところです!」

「良い威勢ね!その自信、私と自慢のパートナーで流し去ってあげるから!」

 

 俺は腰のボールを片手に構える。ルリナさんも右手で持ったダイブボールを見せつけるようにして構える。

 

『勝負は三対三のシングルバトル、それでは両者ポケモンを!』

 

「いけ!アオガラス!」

「行って!トサキント!」

 

 俺が投げたボールからは空を飛び立つアオガラスが、空を自在に飛ぶこいつに場の有利不利は関係ない。

 ルリナさんの出したポケモンはそのまま水中へ、図鑑で確かめてみるとトサキントというポケモンのようだ。額にきらめく一本の立派な角は美しくとも、凶悪な攻撃力を秘めているに違いない。

 

『それでは先攻はアカツキ選手から、バトル開始!』

 

「アオガラス、『ついばむ』!」

 

「アーガァ!」

 

 アオガラスはくちばしを太く、長く、尖らせて水の中の獲物へ一直線に襲い掛かる。

 

「トサキント、『つのでつく』!」

 

「ト、サキン!」

 

 トサキントが水から跳ね上がり、さっそくその角の真価を発揮する。

 光り輝くトサキントの角は水の飛沫をあげながらアオガラスのくちばしと激突する。かなりの衝撃にトサキントが跳ね上がった時に跳んだ飛沫がまとめてプールーの中へとは弾きとばされる。

 

 くちばしと角は互いを弾き飛ばしアオガラスを空中へ、トサキントを水中へと戻す。

 

「攻撃力は互角か!」

「まだよトサキント、『みずのはどう』!」

 

 水の中へと戻ったトサキントから『みずのはどう』が放たれ被弾する。

 

 攻撃を食らいながらも体勢を崩さず、飛ぶのをやめなかったアオガラスにすぐさま次なる『みずのはどう』が撃ち込まれる。二発目をなんとか躱す。

 わかっていたことだが水中にいる水タイプのポケモンは厄介だ、水の中では水タイプの技の威力も発射間隔も段違いになるほどに。それほどまでに水中というのは水ポケモンにとって有利な環境なのだ。

 

 このままではいつか飛ぶことをやめたアオガラスに『みずのはどう』の千本ノックが待っている。

 

「アオガラス、『みだれづき』だ!」

 

 それを回避するためには相手を先に倒すしかない!

 次なる『みずのはどう』を撃った瞬間にアオガラスを一気に加速させてトサキントの元まで届かせる。攻撃の間隔的にまだ『みずのはどう』のチャージは終わっていない今ならば攻撃を届かせられる。

 

「トサキント、『こうそくいどう』!」

 

 しかしその声とともに水中のトサキントの姿がぶれる。水の中に飛び込んだアオガラスの攻撃がかわされてしまう。何とかその姿を目で追おうとするが水中という環境も合わさった『こうそくいどう』はとんでもない速度で追うことができなかった。

 

「『つのでつく』!」

 

「トサ…キント!」

 

 水中から飛び出す間もなくトサキントの『つのでつく』がアオガラスを水の外へと弾き飛ばす。

 そして態勢を立て直す間もなくもう一度水の中に墜落したアオガラスに、再度トサキントの角が襲い掛かる!

 

「『つのでつく』!」

「受け止めろ!」

 

 トサキントの角がアオガラスに突き刺さろうとした瞬間、進化したことで以前よりも強靭になった足腰と爪がその角を受け止める。水中という鳥ポケモンの自由が最も侵される空間でなんとか受け止めたアオガラスだが徐々に徐々に押されていってしまう。

 

 だがピンチはチャンスと誰かが言った。こんな危機的状況も視点を変えれば逆転へのチャンスにもなる!

 

「アオガラス、『つめとぎ』!」

「な!?」

 

 俺の指示を聞いたルリナさんの目が見開かれる。今にも押し切られそうなアオガラスにそんな暇も余力もない、さらには研ぐべき爪はいまトサキントの角を抑えるのに使用中だ、指示ミスだとしか思えないだろう。

 

 だが、俺の意思をくみ取ってくれたのか水中のアオガラスがいつものふてぶてしい笑みをこぼす。

 『つめとぎ』とはいうが実は手入れをすることで攻撃力をあげられるなら部位はそこまで問題ではないのだ。この技は厳密にいえば武器となりうる場所を鋭くすることで、攻撃力と命中力を向上させるという技なのだ。

 

 そしてアオガラスには爪の他にも明確な武器となりえる箇所が存在する、つまり!

 

「くちばしを研ぎ澄ませ!砥石はその忌々しくも立派な角だぁ!」

 

「(アーガァ!)」

 

 アオガラスは自分の身にいまにも届きそうなトサキントの角にくちばしをこすりつけてメンテナンスを始める。あまりの事態にトサキントの思考が一瞬停止するが、自慢の角をそんなつまようじのような使い方をされて怒らないはずがなかった。

 ムキになり必要以上に込めた力を込めたトサキントを誘導することなど頭が好くてずるがしこいアオガラスには容易かった。自分の体を少し上向きにすることでトサキントのパワーを利用し水上へと押し上がり、ついにはその両翼が水上にまで姿を現した。

 

「トサキント!冷静になりなさい、水中に引き込むのよ!」

「もう遅いです!そのまま飛び立て、アオガラス!」

 

 ザッバァン!という音を立てて空の支配者が飛び立つ。そして同時に角をわしづかみにされたトサキントが自分のテリトリーから引きずり出される瞬間でもあった。

 

 飛び上がったアオガラスに掴まれ、コート上空を引きずり回されるトサキントはじたばたと体を動かすこともできず恐怖で身を硬直させている。

 

「地面に叩きつけろ!」

 

 コート中央、そこだけがプールから切り離された陸の地面。叩きつけられたトサキントはまな板の上のコイキングも同然だ!

 

「とどめだ、『ついばむ』!」

 

「アーガァ!」

 

 『つめとぎ』(くちばし)でさらなる鋭さを手に入れた『ついばむ』が、陸で自由を失った哀れな魚をを蹂躙した。

 ヒレの各所にまで隙間なくついばまれたトサキントは力尽き、倒れてしまった。

 

『トサキント戦闘不能。アオガラスの勝ち!』

 

『うおぉぉぉお!』

 

 さっそくジムリーダーのポケモンが下されたことで会場も盛り上がる。圧倒的不利な状況を覆したアオガラスに向けて声援が飛び交い、その声援にアオガラスはふてぶてしい笑みを浮かべる。

 

「まさか水中のトサキントをそのまま持ち上げるなんて…意外性といいやっぱりダンデの推薦トレーナーは油断ならないわね」

 

 ルリナさんが倒れたトサキントをもどし、次なるポケモンを構える。

 

「だけどこの子はその考えすらも上回る、サシカマス!」

 

 ボールから飛び出たのはサシカマス、美味しいと評判のあいつだ。

 市場や釣り堀で釣ったサシカマスと比べて大きく立派なサシカマスだ。

 

「美味しそう」

「そんなことも言ってられないわよ!サシカマス、『アクアジェット』!」

 

「カッマス!」

 

 水の中から飛び出したサシカマスは体に水の鎧をまといながら目にもとまらぬ速度で空中のアオガラスに牙を向く。

 トサキントの『こうそくいどう』すらも超えるスピードに面を食らう。このサシカマス、とてつもなく速い!

 

「だけど魚ポケモンなら地上に挙げてしまえばこっちのものだ!受け止めろ!」

 

「アーガァ!」

 

 『アクアジェット』はとてつもない速さで襲い掛かるが捕まえてしまえばこちらのもの。爪と足腰を構えて迎撃態勢を整える。

 

「もうその手は通じないわ、加速しなさい!」

 

 目にもとまらぬ速さの『アクアジェット』が当たる寸前でさらに加速した。突然の再加速に対応できずアオガラスは受け止める暇もなく直撃を食らう。

 

「アオガラス!」

「まだよ!『うずしお』!」

 

 攻撃を当てた直後サシカマスを覆っていた水の鎧が解除される。そのまま水の鎧は形を変え大きな渦を巻いた水の竜巻と化していく。

 

「避けろ!」

 

 指示もむなしくその『うずしお』に巻き込まれたアオガラスは内部を流れる激流でダメージを蓄積させていく。

 

「こうなったら、戻れ」

 

 腰からアオガラスのモンスターボールを引き抜き一度手持ちに戻す。

 だがボールから出た光は『うずしお』に阻まれかき消されてしまった。

 

「無駄ね。『うずしお』に捕まったものは誰であろうと逃げられないわ」

「くっ」

「これで終わりよ、『かみつく』」

 

「カッマス!」

 

 プールの中で静観していたサシカマスは『うずしお』の中に突入すると激流に逆らうのではなく身を任せることですいすいと移動していく。

 

 そして渦の中心で責め苦を受けるアオガラスを噛み尽くした。

 渦が解除されサシカマスはプールへ、アオガラスはコート中央の陸地に力なく落ちてきた。

 

『アオガラス戦闘不能。サシカマスの勝ち!』

 

「どう?捕食者にだって牙をむく、それが水タイプの力よ」

 

『うおぉぉぉお!』

 

 さらなる乱戦に会場も大盛り上がりだ。

 

 アオガラスを手持ちに戻す。

 『うずしお』で捕まえ、水タイプの特徴を生かしてその渦さえも味方につける水タイプの恐ろしさをこれでもかと思い知った。

 それでも…まだ負けたわけじゃない!

 

「頼んだ!パルスワン!」

 

 サシカマスの脅威のスピードに対抗するため、こちらの最速を繰り出す。水上すら駆けるパルスワンならば決して負けてはいないはずだ。

 

「走れ、パルスワン!」

「追いかけなさい、サシカマス!」

 

 助走をつけたパルスワンがプールの上を駆け回る、そのパルスワンの後方をしっかり位置取るサシカマス。水の中ではまだサシカマスに分があるようだ。

 

「サシカマス、『みだれづき』!」

 

 水面を飛びあがったサシカマスはその鋭い口の先でパルスワンに一撃を入れる。痛みに顔を歪めたパルスワンがサシカマスを捉えようとした次の瞬間には既に水中に身を隠し、別の水面から顔を出し、攻撃を加えるヒット&アウェイ戦法だ。

 

 このままではじり貧だと思い陸地へと非難させる。

 しかし限られた陸の上にまたしてもあの脅威が襲い掛かる。

 

「サシカマス、『うずしお』!」

 

「マスマス!」

 

 プールの水をまきこみ先ほどよりもさらに巨大な『うずしお』を作り上げる。

 その大きさは陸の部分を丸っと飲み込むほどだ。ルリナさんとサシカマスはここで勝負を決めるためかプールの水をごっそりと使用したのだ、おかげでプールの水かさがかなり減ってしまったがここでパルスワンを倒せばいいという判断なのだろう。

 

 迫りくる『うずしお』にパルスワンも委縮してしまっている。こんな大技どうやって対処をすればいいのだ。

 考えている時間はなかった。

 

「こうなったら強行突破だ、『スパーク』で突っ切れ!」

 

「パルゥ!」

 

 破れかぶれの強硬策、『うずしお』の一番嵩が狭い根元の部分を狙った一点突破の作戦だ。

 体を電撃で纏い、助走をつけたスピードで一気に破りにかかる。

 

「それも甘いわよ、サシカマス、『アクアジェット』!」

 

 『スパーク』で『うずしお』に挑みかかるパルスワンに向けて、なんと『うずしお』の中からサシカマスが射出される。『スパーク』の電撃を受けたサシカマスが大ダメージを食らうが、パルスワンのつけたスピードが一気に殺されてしまった。

 

「パルスワン!」

 

 パワーもスピードも削がれた『スパーク』は『うずしお』を突破することができず激流に飲み込まれてしまう。螺旋を形作る激流はモンスターボールの光すら拒絶し、パルスワンへダメージを加えていく。

 

「サシカマス、『みだれづき』!」

 

 再び渦の中へ突入したサシカマスは激流に乗り、一気にスピードを加速させてパルスワンの元へと迫る。一撃を加えた後すぐさま水の流れに乗って離脱し、新たな流れに乗って別の方向から襲い掛かる。

 先ほどのヒット&アウェイ戦法をさらに加速化させ『うずしお』の継続ダメージまでいれたサシカマスの必殺からはもう逃れられない。

 

 サシカマスの『みだれづき』を顔面に食らい、ついにパルスワンは最後の一呼吸を漏らした。

 水中で口から空気が漏れるということは、陸上生物の終わりを意味する。サシカマスも今までの経験でそれを理解しているのか顔をゆがませる。

 

 だが、それでも、パルスワンの目はサシカマスを捉えていた。

 圧倒的なスピードを誇るサシカマスは自分を認識されたことに恐怖する。加速する思考の中ですぐさま退却を選択し、激流に身を任せその場から離脱を開始しようとする。

 

 パルスワンが最後の一呼吸を漏らしたのはそのためだった。

 口を開いた、ならばあとは閉じるだけだ。

 

 サシカマスが離脱しようとした瞬間、周囲の激流ごとその流れが断ち切られた。同時にサシカマスの全身に強い痛みが走る。なんだと思い視線を動かすとパルスワンがその口で自分の体をがっちりと咥えていたのだ。『かみつく』の隙間から絶えず水流が流れ込んでくることにも構わずパルスワンは水中で体に残るすべての電撃を放出した。

 

「パルスワン!」

「サシカマス!」

 

 『うずしお』の内部から電撃が迸ると同時に渦が力を失い大量の水が解放された。

 

 渦の中から放り出されたパルスワンの口にはサシカマスが咥えられており、どちらも戦闘不能へと陥っていた。

 

『両者戦闘不能。よって引き分け!』

 

 パルスワンは最後の瞬間わざと口を開け空気をこぼした。狙っていたのだ、自分の『かみつく』の間合いに相手が来ることを。

 そして捕まえたサシカマスもろとも電気を浴びせ感電させたのだ。

 

「パルスワン…ありがとう」

 

 今回もパルスワンに負担をかけてしまった。今の一連の流れはパルスワンが自分で考え起こした行動で、そこに俺の指示など一つとしてなかった。仲間の頑張りに支えられていることをまた自覚させられる。

 

「…ゥォン」

 

「! パルスワン!」

 

 小さくパルスワンが鳴いた。パルスワンはサシカマスを口から放した後、ゲホゲホと口から水を吐き出す。あの状況で大口を開けたのだから当然水も入ってきている、俺はパルスワンの背中をさすり水を吐くのを手助けする。

 

 すべての水を吐き終えた後、パルスワンはひときわ大きく「ワオン!」と吠えて再び気を失ってしまった。

 今のは喝だ。ここまで頑張ったんだからしくじるなよと、大きなおおきな激励を貰った。ここまでポケモンに頑張ってもらって不意にすることができるだろうか?いいや、できない!

 

 パルスワンをボールに戻すとルリナさんもサシカマスを戻すために近くに来ていた。

 

「今の一連の流れ、君が?」

「いいえ、こいつの頑張りです」

「そう、良い仲間を持ったわね」

 

 ルリナさんはそういうとサシカマスをボールに戻して戻っていった。

 

 落ち込んでなんていられない。まだ最後のバトルが残っているのだから。

 

『それでは、両者最後のポケモンを!』

 

 レフェリーの指示でバトルが再開される。

 気が付くと俺の右手のダイマックスバンドが光り輝き始めている。ついにこの時が来たのか。

 みるとルリナさんのダイマックスバンドも光を放ち、それを見つめてにやりと笑みを浮かべている。

 

 バトルも終盤、この戦いで恐らくすべてが決まるだろう。

 ジメレオンのボールに手を伸ばした時、その隣のボールが震えた。驚いてみてみるとなおも震えている、自分を出せと主張しているようだ。

 

「…そうか、ならお前に頼むよ。相棒」

 

 ジメレオンは今日十分に頑張ってくれたのでお休みさせてあげよう。ジメレオンのボールもブルブル震えたような気がしたが気にしないことにして隣のボールを手に取る。

 

「それがあなたの最後のポケモンね?」

「ええ、こいつが正真正銘最後の仲間です」

「そう、なら私も最後の…いいえ!隠し玉を出すわ!」

 

 ルリナさんも腰のダイブボールを取って構える。互いにボールを構えた手のダイマックスバンドが光り輝いている。

 

「最後だ、任せたぞウールー!」

「行くわよ、カジリガメ!」

 

 ルリナさんの隠し玉、それはカムカメの進化系であるカジリガメだ。図鑑で調べてみる限り水タイプの他にも岩タイプを獲得している、ノーマルタイプのウールーには不利な相手だ。

 

「行くぞウールー!」

「スタジアムを海に変えてあげる、カジリガメ!」

 

 出したばかりのウールーに向けて再度モンスターボールを向ける。

 ウールーが吸い込まれ終わると右腕のダイマックスバンドが一層光り輝き、うちに溜められたエネルギーがモンスターボールへと集約されていく。見ればルリナさんにも同じ現象が起こされていた。

 

 エネルギーを集め終えたモンスターボールが大きな大きなボールへと変化する。両腕でしっかり支え後方へ投げ飛ばした。

 

 ボールから飛び出したウールーの姿がどんどんと大きくなっていきその身の丈は20メートルにすら届くまで大きくなる。

 コートの逆サイドでも同じ現象が起こり、カジリガメはその姿を巨大化させる。

 

『ンメェェェ!!!!』

 

『ガンメェェェェ!!!!』

 

『うおぉぉぉぉぉお!!!』

 

 同時に行われたダイマックスの迫力に観客の熱気も最高潮にまで跳ね上がる。

 ダイマックスバトルの火ぶたが切って落とされた!

 

 

「ウールー、『ダイアタック』!」

「カジリガメ、『ダイアタック』!」

 

 全く同時に指示された両者が地面を大きく踏みつける。ダイマックスによって増大されたエネルギーは互いの足元にまで送り込まれた後一気に真上へ放出される。

 

『ンメェェェ!!!』

 

『ガンメェェェ!!!』

 

 互いのエネルギーが体を削りあい動きを鈍らせていく。

 ここでタイプ相性の差が出たのかウールーの『ダイアタック』はカジリガメの『ダイアタック』より長時間の効果を発揮した。さきに『ダイアタック』が終わり自由を手に入れたウールーに追撃の指示を行う。

 

「今だ、『ダイナックル』!」

 

『ンメェェェ!!!』

 

 ウールーの鳴き声に呼応されたかのようにいつの間にか暗くなっていた空から巨大な握りこぶしが姿を現す。その拳はウールーの意思に従って動き、カジリガメの甲羅を強く叩きつけ、粉砕する。

 

『ガンメェェェ!!!』

 

「くっ、カジリガメ、『ダイアーク』!」

 

 甲羅を砕かれ絶叫したカジリガメだが『ダイアタック』の効果が切れて、再び動き始める。

 カジリガメの周囲に空と同じ色の暗闇が現れたのかと思うとそれは二つに収束されウールーの体を飲み込むかのようにして絡みついた。ウールーがもがき苦しんでいると暗闇は大爆発を起こしてウールーの体を削り取っていった。

 

「くっ!」

「やるわね!」

 

 互いのダイマックス技の応酬に観客席も大盛り上がりだが扱う身としては神経をすり減らす。残ったダイマックスパワーで技を撃てるのはあと一回が限界だろう。それをどうやって切るか真剣に考えを巡らせる。

 ダイマックス技は威力も高いが、その副次効果も普通の技とは比較にならないほど強力だ。

 例えばターフジムでヤローさんが使った『ダイソウゲン』、あれは威力もさることながら攻撃の後自分たちに有利なフィールド展開するという恐ろしいものだった。

 

「(だとすれば、ルリナさんはどんな技を使ってくる?)」

 

 『ダイアタック』に『ダイアーク』、ノーマルタイプに悪タイプの技を使った後だ。ならば勝負を決めてくる技として、

 

「(タイプ一致の技を使ってくるはずだ!岩タイプのダイマックス技はわからないけど、水タイプのダイマックス技なら、もう知っている!)」

「これで終わりよ、すべてを流し切ってあげるわ!『ダイストリーム』!」

 

『ガンメェェェ!!!』

 

「!」

 

 やはり、水タイプのダイマックス技『ダイストリーム』だ。未知なるダイマックス技がまだまだ多いが、その技の副次効果を知っていて通すわけにはいかない!

 

「ウールー!『ダイウォール』!」

 

『ンメェェェ!!!』

 

「最後の最後で、『ダイウォール』!?」

 

 カジリガメの口から放たれた超特大の激流はウールーが張った『ダイウォール』によって完璧に防がれる。そして『ダイウォール』のアンチダイマックスエネルギーにより、本来なら『ダイストリーム』の効果でスタジアムに降り注ぐはずの『天候・雨』が阻害される。

 『雨』が降り注げば水タイプのカジリガメにとってかなりの有利な環境になっていただろうがなんとか防ぎきることに成功した。

 

 ダイマックスエネルギーを使い切り、二体のポケモンは元のサイズへと戻っていく。元に戻ったウールーもカジリガメも大きく息を切らしていた。

 ダイマックスバトルでのダメージに加えて、ダイマックスそのものにもポケモンの体力を大きく消耗させるデメリットがある。その負担によるものだろう。

 

「驚いたわ。最後の『ダイストリーム』が決まっていればこちらに圧倒的に有利な環境になっていたのに」

「以前、一度見てるんです『ダイストリーム』」

「そっか。一本取られたわね、出し惜しみしたのが裏目に出ちゃったか」

 

 ルリナさんが顔に手を当てて嘆く。

 さきに『ダイストリーム』で雨を降らせておけばダイマックス中にとどめを刺せずとも『雨』とともにバトルを有利に進められたはずだと。

 

「終わったことを嘆いていても終わらない、綺麗に水に流して再開するわよ!」

「ええ、望むところです!」

「カジリガメ、『みずでっぽう』!」

「ウールー、『まねっこ』!」

 

 再び再開したノーマルバトルに観客たちの意識も戻ってくる。

 

 今の消耗した二体は一撃でも決まれば勝負を決するほどに弱っている。ともなれば遠距離技で一気に決めるのが定石と見たようだが『みずでっぽう』を『まねっこ』して防ぐ。

 

 なおも『みずでっぽう』で攻め立てるルリナさんとカジリガメだがウールーにはあえてその攻撃を躱して接近させる。

 弱り切っているのは相手も同じだ、『みずでっぽう』の発射の間隔がすごく長い。そこをついて決める!

 

「いけぇ!『ずつき』!」

 

「ンメェェェ!」

 

 避けて、躱して、回避してカジリガメまであと一歩のところまで接近することができた。

 ウールーはすべての力を込めてカジリガメに『すつき』を放つ。

 

「負けられないわ、こっちも『ずつき』よ!」

 

 奇しくも最後に同じ技を選択した。

 カジリガメの頭とウールーの頭が激突する。鈍い音が響き渡った後、二匹の動きが止まる。

 俺もルリナさんもその行方を見つめる。頭をぶつけあった彼らは微動だにしていない。観客もその行方を見守っている。スタジアムがシンと静かになっているほどに。

 

 そしてついにその緊縛は破かれた。

 動いたのはカジリガメ、崩れ落ちたのもカジリガメだった。

 

『カジリガメ戦闘不能。よって勝者、チャレンジャー・アカツキ!』

 

『………………ッッッ!!!!!』

 

 バンペイさんによるバトルの結末が流れる。

 しばらくの静寂の後、今までの静けさを取り戻すような大歓声がスタジアム中に響き渡る。

 

 バトルが終了し、バトルフィールドもその役目を終えたのか元のコートへと戻っていく。今でもプール機能の内蔵されたコートなんて不思議の塊だと思いながらそろりそろりと上を通って中央へと進む。

 ウールーは倒れたカジリガメの前で立ち尽くしている。お疲れ様、と声を掛けてからボールに戻す。ルリナさんもカジリガメの頭を撫でてからボールへと戻していく。

 

「あーあ、自慢のメンバー…まとめて押し流されちゃったわね」

 

 ルリナさんは頭の髪を少しクシャっとつかむが、すぐにすっきりとした顔に戻る。それでもまだ髪を掴んだ手が強く握られているところからすごく悔しがっていることがわかってしまう。

 

「手合わせしてわかりました、貴方達のチームにはジムチャレンジを勝ち進みどんな困難でも打ち破る力強さに頭の良さ、そして…」

「そして?」

「ポケモンとの深い絆、それがあります。それがあればチャンピオンにだって勝てるかもしれませんね?」

 

 最後にくすっと笑ったルリナさんはユニフォームの内側からバッジを取り出した。(今思えばあんな水着スタイルのユニフォームのどこに入れていたのだろうか?)

 

「おめでとう、次に挑むのは炎のジムリーダーね。今の貴方達ならきっと彼にも勝てる、そう信じてるわ」

「ありがとうございます!」

 

 ルリナさんと握手を交わし、バウジム攻略の証『水バッジ』を進呈される。

 バッジリングの右上にはめ込むとカチっといい音が鳴った。これでやっと二つ。まだまだ道は長いなと思いながらも今はこの勝利と歓声を受け取ろうとおもった。

 

 

 

 そういえば今からローズさんとの約束には間に合うだろうか?

 現在12時50分!高級シーフードレストランに間に合うのか!?

 

 

 

 

 

 

 




 
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