剣盾旅記録   作:鳴神ハルキ

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27、第二鉄鉱山の決戦 vsビート

「うぉぉぉおぉ!!!」カンカンカン

「はぁぁぁぁぁ!!!」キュィィィィン

 

 暗い暗い洞窟の中で、ランプの明かりと相棒の予知に頼り一心不乱に腕を振るう。硬い岩盤にノミを突き立て、その上から鉄の鎚を振り下ろす。この一連の動作によって硬い岩盤は崩れ去り、新たな表層を浮かばせる。まだだ、もっと速く、もっと正確に、もっと力強く鎚を叩きつけろ!

 負けられない、ノミとハンマーの誇りを捨て去りドリルに魂を売った男になど負けるわけにはいかないのだ!

 

「! 見つけた!」

 

 ロコンの神通力によって反応のあった岩盤を削り続けて一時間、岩盤の中からついにそれは姿を現した。

 

「『ねがいぼし』、発見!」

 

 ノミとハンマーを手放し、軍手をはめた手で優しく周りの土を払い除けていく。岩とは少し手触りが違い、どこか鉄のような冷たく硬い感触をした石を手に取る。

 

「見てくれビート、立派な『ねがいぼし』だぞ!」

「一つ見つけたからどうというのです。ボクは既に二つの『ねがいぼし』を採掘し終えているんですよ、この意味がお分かりですか?」

「次だ!次のねがいぼしの反応を見つけてくれ!」

 

「コン!」

 

 キュィィィイィィン!!!

 カンカンカン!!!

 

 二つの音が洞窟の中を響かせる。俺はハンマーとノミで岩盤を削り、ビートはドリルを手に掘削する。こんな音を響かせれば他のチャレンジャー達に気が付かれるかもしれないが幸いにしてここは開発の進む第二鉱山、不思議に思うものは少ないだろう。

 

「、、、コン!」

 

「そこだな、了解!」

 

 今『ねがいぼし』を見つけた場所のすぐ近くに反応があるとロコンが伝えてくれる。再びハンマーを振るうスピードを上げて岩盤を掘り進める。

 

「ハハハ!やはりこのパワーにスピード、時代はドリルを求めているんですよ!」

「そんな心を持たない掘削に何の意味がある!ノミとハンマーで岩盤を掘り進めていた時のビートはもっと輝いていたぞ!」

「ええいやかましい!委員長のためにも一つでも多くの『ねがいぼし』を集めなければいけないのです!」

 

 互いに口喧嘩をしながら岩盤を掘り進める。

 嫌なやつには変わりはない。

 ダンデさんや他のチャレンジャーを見下しあざ笑う態度、それに比例するように知識と経験に裏打ちされた正確なバトルの腕。その二つが両立しているということに尊敬と嫌悪の感情が入り乱れどこか気持ちが悪い。だが不思議とこうやって岩盤を掘り進めているときはそのモヤモヤが晴れるような気持ちになる。

 だからこそ許せない、自分の力(ノミとハンマー)を捨てて、ただの力(ドリル)などに頼っていることが。

 

「ミブリム、反応は近いですね!?」

 

「ミッブ!」

 

「ラストスパートです、パワー最大出力!」

「なっ! まだ上があったのか!」

「舐めて頂いては困りますねえ!これはマクロコスモス社で開発された最新鋭の携帯用掘削機なのですから!」

「くっそぉぉぉ!!」

 

 バギィィィンンン!!!

 

「ん?」

「へ?」

 

 突然何かが壊れるような音が聞こえ俺もビートもその方向を見つめる。音の発生源はビートの持つドリルの先端、そのさらに先の岩盤内部である。回転し続けるドリルの先端が螺旋とともに岩盤内部の何かを外に吐き出し続ける。

 それは、粉砕された『ねがいぼし』だったものだ。

 

「…っあ、、、」

「あああぁぁぁぁああああ!!!」

 

 ビートは回転を止めたドリルを放り出し、掘り進めていた岩盤内部に手を突っ込むと周りの岩々をかき分ける。中から出てきたのはドリルで粉々になった『ねがいぼし』だった。

 俺が無意識に打ち続けていたノミとハンマーの先にもキン!という音がなったので反射的にそちらを向く。ノミの先端からは周囲の岩盤とは違う青紫色の鉱石が顔を出していた。

 

「…ビ-ト」

 

 ねがいぼしの欠片を手に俯いているビートに声をかける、先ほどから微動だにしていない。

 

「わかっただろう?意思無き力に意味なんてないってことが、石だけに」

 

 『ねがいぼし』を片手に俺が大爆笑必至のオシャレな洒落を言い放つと顔をあげたビートにほっぺたを叩かれた、解せぬ。

 

「…ミブリム、他に『ねがいぼし』の反応はありますか?」

「ロコンもおねがい」

 

 ロコン達に再度『ねがいぼし』の反応を探ってもらったが首を横に振り否定の意思を示した。

 どうやらこの周囲にはもう『ねがいぼし』は存在しないようだった。

 

「はい、俺の見つけた『ねがいぼし』だよ」

「…あなたのような弱者と同じ数しか採掘できないとは。しけていますね、この鉱山は」

「お? なんだやるかコラ」

「そうですね、貴方のような弱者に時間を割いている余裕はないのですがこれ以上ボクの周りをウロチョロされても面倒だ。強者の慈悲です、ポケモンを構えなさい」

「以前までの俺と一緒だと思うなよ!」

 

 ビートの挑発で少し頭に来たがこの程度なら十分受け流せる、ダンデさんなどの悪口に比べれば100倍マシだ。二つのジムチャレンジを乗り越え強くなった俺達の力を見せてやる!

 

 

「行け、ユニラン!」

「頼んだ、アオガラス!」

 

 ビートはユニラン、俺はココガラから進化したアオガラスを繰り出す。以前はゴチムの『サイケこうせん』一撃で倒れてしまったココガラだが、数々の戦いを制した今のこいつならビートのポケモンにだって劣らないはずだ。

 

「アオガラス、『ついばむ』」

 

 アオガラスはユニランの周囲をぐるぐると旋回した後、背後から強襲を駆ける。鋭いくちばしはユニランの体を覆う液体を貫いてその本体を捉えた。

 

「ほう、少しは成長しましたね。まあ、ほんの少しですが!」

「もっと見せてあげるさ!アオガラス、『みだれづき』」

「ユニラン、『サイコショック』!」

 

 『ついばむ』を食らい吹き飛んだユニランに追撃を仕掛ける。そして再度アオガラスのくちばしがユニランの液体を貫こうとしたとき、ユニランの周囲に紫色に光るなにかが現れた。

 そのなにかは物理的な硬度を持つようでアオガラスのくちばしに触れた次の瞬間、爆発した。

 

「アオガラス!」

「やりなさい、『サイコショック』!」

 

 『サイコショック』によって作られた紫色の物体はユニランの意思によってアオガラスの体を包み込み、一斉に襲い掛かり爆発した。

 アオガラスは何とか爆発の中から抜け出すが体のあちこちに焦げ跡を残している。

 

「『サイコショック』はエスパータイプの技ですが物理的な干渉力も持ち合わせます、貴方とそのポケモン程度ではこの包囲網から抜け出すことなどできませんよ」

 

 気がつけばこの空間のあちらこちらに『サイコショック』が浮遊している。アオガラスは飛んでくるそれを躱していくが躱せば躱すほど追い詰められていく、ついに羽が爆発に巻き込まれると隙を逃がさないとばかりに襲い掛かってきた。

 

「戻れ!」

 

 『サイコショック』がアオガラスの体を捉える瞬間モンスターボールが先に回収をする、次の瞬間アオガラスが居た場所は大爆発。間一髪、今の攻撃を食らえば大ダメージは避けられなかった。

 

「おやおや、大口をたたいたわりにはその程度ですか」

「次はこいつだ。頼んだ、パルスワン!」

 

 アオガラスを戻した次にパルスワンを繰り出す。こいつのスピードならばユニランの攻撃にも対応できる。

 

「走れ、パルスワン!」

 

「ワン!」

 

 パルスワンが洞窟内を走り回ると砂埃が巻き起こる、がユニランの体を包む液体は中のユニランを環境から保護する力があり砂埃に包まれても平気な顔をしている。

 

「ユニラン、『サイケこうせん』!」

「避けろ!」

 

「ユニィ!」

「ワオン!」

 

 ユニランがサイコパワーを凝縮した光線を放つが水の上すら駆け抜けられるパルスワンのスピードは並大抵ではない。それゆえに当たらない、当たらない、当たらない。

 

「すばしっこいですね、ならば『サイコショック』!」

 

 ビートの指示で『サイケこうせん』を取りやめたユニランが再び『サイコショック』を生成する。一直線に進む『サイケこうせん』とは違い『サイコショック』は『おにび』や『マジカルリーフ』と同じ思考誘導型の攻撃だ、パルスワンの体を追いかけてどこまでもついてくる。

 だが、俺はそれを待っていたんだ!

 思考誘導型の技はそれを操るがため本体が隙だらけとなる。以前ヤローさんに仕掛けた時はそれを逆手に『こうそくスピン』を叩きこまれそうになったが今なら対応策だって存在する。

 

「パルスワン、ユニランを狙え!」

「やはりそう来ましたか!ですがそれも想定済みです、『まもる』!」

 

 さらにスピードを加速させたパルスワンが『サイコショック』を振り切り、ユニランに迫る。パルスワンがユニランを捉えようとするが、攻撃を遮断する無敵のバリアがそれを許さない。

 

「甘いんですよ、『サイケこうせん』!」

「今だ、『ほえる』!」

 

「グルルルル、『ワォォオォン!!!』」

 

 超至近距離でユニランが反撃を開始しようとした時、パルスワンの咆哮がユニランの体を包む液体を震わせる。超至近距離で放たれた咆哮によってユニランは驚き、勝手にボールへと戻っていってしまう。

 

「な!?」

 

 ユニランがボールに戻ると同時にビートが腰に着けていた別のボールが勝手に開きポケモンを出場させる、出てきたのは前回こちらを大苦戦させたゴチムだ。

 突然のことに状況を飲み込み切れないゴチムは、パルスワンの『ほえる』が反響しあうほの暗い空間に得も言われぬ恐怖を味わい委縮してしまう。

 

「パルスワン、『ほっぺすりすり』!」

 

 ぼーっと立っていたゴチムにすり寄ったパルスワンが頬をこすりつける。

 温かく毛並みのいいパルスワンに頬ずりされ少し落ち着いたゴチムに無慈悲な電流が流れ込む。

 

「チム!?」

 

「『かみつく』!」

 

 わけもわからずに出てきたゴチムは『ほっぺすりすり』によって『まひ』状態とされ、『がんじょうあご』によって強化された『かみつく』が彼女を襲った。効果は抜群だ。

 

「ゴチム、『がんせきふうじ』です!」

 

「チ、チムチム!」

 

 なんとか今の一連の流れを耐えきったゴチムが空から大きな岩石を降らせパルスワンを生き埋めにしようとするが、軽い身のこなしでパルスワンはそれを躱していく。

 ムキになったゴチムがさらに岩石を降らせようとするが体に滞留した電気が、肉体を硬直させる。

 

「パルスワン、『かみつく』!」

 

「パァァ、ワン!」

 

 岩石の間をすり抜けて接近したパルスワンがその体を捉えた。

 大きく開かれた口と頑丈なあご、体の硬直が解けた時にはもう手遅れだった。

 

「ゴチムッ!」

 

 パルスワンの『かみつく』で戦闘不能になったゴチムをビートがボールに戻す。

 ビートがこちらをキッと睨めつけてくるが、ハッとした顔になり再び余裕の表情をする。百面相かな?

 

「ふん、褒めてあげましょう。以前のあなたよりずいぶん強くなったようですね」

「余裕そうだね」

「ええ、ここまでは君のポケモンにも見せ場を作ってあげようと思っただけです。そして、もう見切りました」

 

 ビートは左手の人差し指を立て自分の眉間に当てるとトントンと叩く。今の一連の戦いでこちらの行動はすべて頭に入った、と言わんばかりのジェスチャーだ。

 

「行きなさい、ポニータ」

 

 ポニータなら見たことがある、全身を炎で覆った馬型のポケモンだったはずだ。

 そして四足歩行のポケモンとはいえパルスワンのスピードについてこれるものなどほとんどいないはずだ。速さ勝負に持ち込めば勝機は必ずある。

 

 そして出てきたのは、

 

「な、ん?」

 

 全身を炎に包まれた馬型のポケモンなどではなかった。

 頭やしっぽから出ているのは炎などではなく水色と薄い紫色の体毛、小さな一本の角が額から飛び出ている。夢の国から飛び出してきたようなポケモンだった。

 

「あ、え?ポニータって炎タイプのポケモンじゃなかったっけ?」

「おや、この地方にはいないはずの別の地方のポニータを知っているとは驚きですね」

「この地方にはいない?」

「そんなことも知らないとは。ガラル地方のポニータはエスパータイプのポケモンです、その程度常識ですよ。知識が足りないですね」

 

 衝撃だった、同じポケモンなのに姿が違うどころかタイプも違う?それはもはや別のポケモンではないのか?

 

「他にはそう、ジグザグマやマタドガスといったポケモンも他の地方にはない独特の生態系をしているとかなんとか。ガラル地方は素晴らしいとローズ委員長も訴えていました」

 

 そうだったのか…ジグザグマのあの白黒のイカした姿はこの地方だけだったということなのか。

 

「ふん!お話もここまで、さっさと終わらせてしまいましょうか」

 

 雑談もここまで、ビートとビートの出したポニータ(ガラルの姿)が臨戦態勢を整えたことで俺とパルスワンも気を引き締める。

 想定外の姿に驚いたが良い方向に考えよう。エスパータイプということは悪タイプの『かみつく』が効果抜群となるはずだ、炎タイプのポニータよりずっと戦いやすいはずだ。

 

「パルスワン、『スパーク』!」

「ポニータ、『たいあたり』!」

 

「ワオン!」

「ポニィ!」

 

 パルスワンとポニータがぶつかり合う。何と威力は互角。

 ポニータのファンタジーな見た目とは裏腹に強力な『たいあたり』だ、さすが馬型のポケモンすごい突進力だ。

 

「ならスピードでかく乱だ、走れ!」

「逃がしません、『こうそくいどう』!」

 

 正面からの戦闘はまずいと考え最初の考えと同じスピードを生かした戦法に切り替えパルスワンを走らせる。

 だがそれを見切ったポニータは『こうそくいどう』によって本来以上の超スピードを発揮した。パルスワンのスピードすらも追い越したポニータが悠々と並走してきた。

 

「ポニータ、『ようせいのかぜ』!」

 

「ポォォニィ!」

 

 走りながらどこか余裕を浮かばせるポニータがそのふわふわとしたたてがみを振り回すと破壊力を伴ったピンク色の風が吹き抜ける。真横から突然突風を叩きつけられたパルスワンが洞窟の壁に叩きつけられる。

 

「パルスワン!」

「今です、『ねんりき』!」

 

 岩壁に叩きつけられたパルスワンをポニータの『ねんりき』が拘束する。パルスワンが手足を動かそうともがくがポニータの『ねんりき』は強力で振りほどくことができない。

 

「なら、『ほえる』だ!」

「口を封じ込めなさい!」

 

 状況を打開するため『ほえる』を指示したが『ねんりき』により無理やり口を閉ざされてしまった。これではさすがのポケモンも技を使うことができない。

 

「どれだけ速いポケモンでも一度動きを封じればこんなものです」

「くっ!」

「終わりです、『ようせいのかぜ』!」

 

「ポォォニィ!」

 

 身動きが完全に封じられたパルスワンに再び『ようせいのかぜ』が叩きつけられる。そのまま岩壁に叩きつけられたパルスワンは目を回してしまった。

 

「ふふ、弱いトレーナーに使われるとポケモン達もかわいそうだよね?」

「ッ!」

 

 パルスワンをボールに戻すとビートから心無い言葉が叩きつけられ、また頭が熱くなりそうになる。

 

 だがそれは事実だ。以前のバトルでも俺が不甲斐無かったことに変わりはない、いつもポケモンの頑張りに助けられている。

 

「……ふー」

 

 深く深呼吸をして心を落ち着かせる。

 人間は事実を叩きつけられると怒りっぽくなるというじゃないか、つまり俺がまだまだ弱いということは俺自身がよくわかっているということだ。ここで怒ってムキなれば勝てるものだって勝てない、もうポケモン達に無様な姿は見せられないと決めたじゃないか!

 

「…よし!」

「ふむ?」

 

 心機一転、頬を強く叩いて気分を何とか落ち着けた。いつのまにかこの頬を叩くという動作が気分を落ち着かせる癖になっている気がするが今はそんなことを考えている場合ではない。一体どうすればあのポニータに勝てるのか、それを考えるのだ。

 

 強力な『たいあたり』、回避の難しい『ようせいのかぜ』、パルスワンさえ上回る『こうそくいどう』、捕まれば一貫の終わり『ねんりき』。

 どれもこれも強力な技だ。だが無敵というわけでもない、どこかに対抗する手段があるはずだ。

 

「早くしてくれませんかね、ボクだって暇ではないのですよ」

「ッ! ロコン、頼んだ!」

 

 考え抜いた末に出したのはロコン。こいつにかける!

 

「ロコン、『でんこうせっか』!」

「また速さ比べですか?何度やっても同じですよ、『こうそくいどう』!」

 

 ロコンが駆け抜け、それに追従してポニータも駆け巡る。

 どちらも瞬間的にすさまじい速度を発揮させる技だが同時に使うとやはり元々の速度差が生まれる。ポニータの方が速い!

 

「そこです、『たいあたり』!」

「『おにび』だ!」

 

 ポニータがさらに速度を上げてロコンに襲い掛かってくる。ロコンがポニータに向かって『おにび』を放つが、ポニータは地面を蹴り飛ばして跳躍しそれを躱す。

 飛び上がったポニータはそのまま全体重をかけてロコンへ渾身の『たいあたり』を食らわせた。

 

「ロコン!」

 

 ロコンはパルスワンと同じく壁に叩きつけられて気を失いかけるが、気力を振り絞り立ち上がった。

 だがここまでは予想した通りの展開だ。どこまでも似通った構図、それを再現すれば…

 

「ポニータ、『ねんりき』!」

 

 やはり使ってきた!

 一度拘束すればほぼ脱出不可能なエスパータイプの十八番、『ねんりき』だ。だが来るとわかっていればその切り札にだって対抗の使用がある! 

 

「ロコン、『かなしばり』だ!」

「ッ! しまった!」

 

 ポニータが『ねんりき』を使うよりもロコンの『かなしばり』がそれを封印する。ポニータがサイコエネルギーを発生させようと何度も唸るがうんともすんとも言わない、チャンスだ!

 

「ロコン、『おにび』だ!」

 

「コン!」

 

 ロコンが再び紫色に燃える不可思議な火の玉を生み出しポニータに向かって撃ち出す。『ねんりき』を発生させようと必死だったポニータはそれに気がつかず、全身を炎で燃やす。

 

「ポォォォ!」

 

 立派なたてがみとしっぽに引火してポニータが大慌てしている。どうやら自慢のたてがみのようだなぁ?

 

「もっと燃やしてやれ、『おにび』!」

「『こうそくいどう』!」

 

 そしてここまでも予測済みだ。

 ポニータが『ようせいのかぜ』を生み出すためのたてがみは現在炎に包まれ使用不可能、『たいあたり』でも今のポニータは混乱を高めるだけ。となれば逃走のために『こうそくいどう』を選択することは予想できていたぞ、ビート!

 せまりくる『おにび』をものすごいスピードで突き放していくポニータ、だがその方向は!

 

「そんな!」

 

 さっきゴチムが降らせた岩石で通行不可能だ!

 

「ロコン、『やきつくす』!」

 

「コォォン!」

 

 岩石に気がつき緊急停止したポニータに『おにび』を上回る炎が襲い掛かる。避けることはかなわず炎に飲み込まれたポニータはその後戦闘不能となった。

 

「まさかポニータが!」

 

 何とか策を通すことができた。

 このほの暗い洞窟の中では光って動く『おにび』はすごく目立つ、反面動きも光もしない岩石はすごく目立たないのだ。『おにび』でポニータを誘導し、岩場へと誘い込むことができた。

 

「はぁ…どう?俺達だってビートに負けないよ!」

「こんな子供だましの手に乗せられるとは!ですがもう負けはありません、ユニラン!」

 

 ポニータを戻し再度ユニランを出す。このユニランには以前ロコンも痛い目を見ているので警戒を強めている。

 

「『サイコショック』!」

「『おにび』!」

 

 自在に動く『サイコショック』には『おにび』で対抗する、アオガラスでは逃げ場を失うほど包囲されたが、ロコンのような特殊タイプならその前に潰すことができる。

 ほの暗い洞窟内が怪しげな紫色の炎と光で彩られ幻想的な風景となる。自在に宙を動くそれらは衝突するごとに小規模な爆発を繰り返しおこしていくので洞窟内はまたほの暗くなっていく。

 

 

「『やきつくす』!」

「『サイケこうせん』!」

 

 互いの大技のぶつかりあいで『おにび』と『サイコショック』とは比べ物にならない爆発が起こり砂塵が巻き上がる。

 俺は腕を顔の前で交差し爆風から身を守るが視界が塞がれてしまった。ユニランは体を包む液体によって環境の変化を受け付けないのでこのままではこちらが不利だ。

 

「ユニラン、『サイケこうせん』!」

「ロコン、何とか避けてくれ!」

 

 ユニランの『サイケこうせん』はこの粉塵の中でもロコンの位置を捉えていた。ロコンに向けてまっすぐ放たれた『サイケこうせん』がちょうどわき腹に炸裂する。

 

「コォン!?」

 

「ロコン!」

 

 この視界の悪い状況ではまともな指示が出せない、アオガラスに交代できさえすればこの粉塵も風を起こして吹き飛ばせるのだが肝心のロコンの居場所が掴めない。

 

「これでとどめです、『サイケこうせん』!」

「ロコン、避けてくれぇ!」

 

 砂煙の中で空中が七色に輝き、まっすぐに飛んでいく。おそらくあれがユニランの『サイケこうせん』だ。だが俺には今ロコンがどこを向いてどんな状況なのかを知る術がない、万事休すか!

 

「コォォォン!!」

 

 その時ロコンが大きく吠えた。

 その声は謎の衝撃波となり砂埃もろともに『サイケこうせん』を、そしてユニランを弾き飛ばした。

 

「ユニィ…」

 

 謎の衝撃波に吹き飛ばされたユニランが少し混乱していたが、今の攻撃のカラクリを感じ取ったのか先ほどまでよりも警戒心をあらわにしている。

 そして肝心のロコンはというと、

 

「コォン…」

 

 砂埃が晴れ、見えてきたロコンの体からは青白い光がゆらゆらと湯気の様に立ち上っている。あの光はロコンが『かなしばり』を使うときによく見せている光だ、つまり今のは『かなしばり』?

 いいや違う、あの光が他の力を持っていることを俺は知っている。ロコンを見つけるきっかけとなった夢、彼の夢の中で仲間たちが使っていた攻撃もこのように青白く光っていたではないか。

 

「『じんつうりき』?」

 

 ロコン達が持つ不思議な力、神通力。

 その力は多岐にもわたり天候の変化や予知、『かなしばり』のように相手の動きを拘束する力、『ねがいぼし』のようなものを見つける探知の力、そしてポケモンすらも吹き飛ばす『ねんりき』や『サイコキネシス』のような超常的な力。

 今のは彼の仲間たちがポケモンと戦っているときにも見せていた相手を倒すための強力な力、『じんつうりき』だ。

 

「ロコン、お前『じんつうりき』が使えるようになったのか!?」

 

「コォン!」

 

 ロコンの声音もどこかいつもとは違う、言葉の一つ一つに何か重みのようなものを感じられる。おそらく神通力の使い手としてワンランク上の存在に成長したからこその変化なのだろう。ユニランもエスパータイプとしてその変化を感じ取ったのだろう。

 

「いけぇロコン!『じんつうりき』!」

 

「コォン!」

 

 ロコンの体がさらに青白く輝きそれは暴力的な力となってユニランに襲いかかる。

 ユニランの動きが封じられ360度、あらゆる方向から押し込まれていくのが見てわかる。

 

「ユニラン、振りほどくんです!」

 

「ユニ、ユニィ…!」

 

 ユニランも持ち合わせているサイコパワーでロコンの神通力を力づくでどうにかしようと足掻く。

 神通力とサイコパワー、よく似ているがどこか違う二つの力が競合しあいユニランの周りがバチバチと謎の音を立てて歪んでいく。ロコンも覚醒したばかりの力の制御に冷や汗をかいている。

 

「ユニ、ユニ…ユニィィ!!」

 

 バァン!という大きな音を立ててついにユニランがロコンの『じんつうりき』を破る。その反動を受けたのかロコンの体が大きく吹き飛ばされる。

 しかし、相手のユニランもかなりの力を使ったのか液体の中で息を荒げている。液体の中なのに酸素を必要とするのだろうか?という疑問が浮かぶがすぐに思考の隅へと追いやった。

 

 どちらも満身創痍、力の源の多くを絞り切り立ってるだけ浮かんでいるだけでも精一杯の様子。後一撃で確実に勝負は決まるだろう。

 

「ロコン!」

「ユニラン!」

 

「『でんこうせっか』!」

「『がむしゃら』!」

 

 ロコンは体から出ている青白い光をすべてその身に取り込み、すべてをこの一撃に変換する。

 ユニランは今まで受けたダメージをもとに膨大なエネルギーを生成し、次の一撃に全てを込める。

 

 二匹が激突し、先ほどの『やきつくす』と『サイケこうせん』すらも上回る大爆発を引き起こす。

 砂煙や爆発の衝撃波よりも早くナニカが俺の方に飛んできて、それがロコンだと認識した瞬間体の全てで受け止める。遅れて爆風と衝撃波が俺を襲い踏ん張ることもできずに吹き飛ばされる、それでも抱きかかえたロコンだけは離さなかった。

 

 

「う、くぅ」

 

 ばらばらと岩壁のはがれる音が聞こえる。今の一撃は今までの戦いの中でもかなりの激しいものだった。

 腕の中のロコンを見てみると、瀕死の状態だった。かなりの重傷だ。急いでカバンの中から『いいキズぐすり』を取り出して吹きかける、するとすぐさま傷が塞がり苦しそうだった呼吸の音が静かになっていった。

 

「よかった…」

 

 俺がロコンをそのままボールに戻すと、ビートの方もユニランに『いいキズぐすり』を使用していた。ユニランも体を包む液体のほとんどが飛び散り危険な状態だったようだ。

 ビートはユニランの無事を確認すると今まで見たこともないような優しい顔を浮かべた後、こちらの視線に気がついたのかすぐいつもの仏頂面にもどるとユニランをボールへ戻していった。

 

「まったく、合理性の欠片もない酷い試合でした」

「そう?ロコンもユニランも全力だったじゃないか」

「試合中に技を覚える?進化する? 全く不愉快です、そのようなものにボクの完璧なバトルが乱されたということがね!」

「よくあることじゃん」

「よくあってたまりますか! あんなものはイレギュラー、あのままならボクとユニランが確実なる勝利をおさめていた!」

 

 ビートは最後のボールを取り出し会話を終わらせる。

 俺も腰のボールを取り出して構える。

 

「もう奇跡など介入させません、絶対の勝利を!」

「俺と仲間達なら何度だって起こして見せるさ、そしてそのたびに強くなる!」

「ミブリム!」

「ジメレオン!」

 

「ミッブ!」

「メレォン!」

 

 以前は互角、引き分けと終わった二匹。

 メッソンは進化しジメレオンに、ミブリムも以前よりも一層力に満ちていることが見て取れる。強敵だ。

 

「ジメレオン、『みずのはどう』!」

「ミブリム、『サイケこうせん』!」

 

 ミブリムの頭の触覚から撃ち出された『サイケこうせん』とジメレオンの掌から生み出された『みずのはどう』がぶつかり合い、拮抗する。

 

「だけどジメレオンの攻撃は全て球体型、追加で投げることも可能だ!『みずでっぽう』!」

 

 『サイケこうせん』のように出し終わるまで放出し続なければならない技と違いジメレオンの『みずのはどう』も『みずでっぽう』も球体として一度生成が終われば維持する必要がない。つまり『サイケこうせん』の維持に手いっぱいな今のミブリムでは対応することができない!

 

 前方の『みずのはどう』、後方の『みずでっぽう』。

 『みずのはどう』を『サイケこうせん』で押さえ込めば『みずでっぽう』が襲い掛かり、『サイケこうせん』の維持をやめれば今まで塞き止めていた『みずのはどう』がミブリムを襲う。

 これではビートとミブリムといえど避けられない!

 

「ふっ」

「?」

「ジメレオンの特性を生かした攻撃、なるほど確かに立派です」

 

「ですが甘い!ローズ委員長に見いだされ、ポケモンを託されたボクが負けるとか無いんですよ!」

 

「見せてあげなさい、ミブリム!その光を!ガラルを照らす太陽、ローズ委員長の様に輝け『マジカルシャイン』!」

 

「ミィッブゥゥ!!!」

 

 『サイケこうせん』を撃ち止めたミブリムに『みずのはどう』と『みずでっぽう』両方が襲い掛かる。どちらかを躱せばどちらかには必ず被弾する、躱すことなどできない角度だった。

 

 だがミブリムの体が輝き始めると、それは光の波動となり全方位を吹き飛ばす一撃となった。当然『みずのはどう』も『みずでっぽう』もかき消され、その光はジメレオンさえも飲み込んだ。

 ほの暗かった洞窟が一瞬にして照らし出される、これが『マジカルシャイン』の力だというのだろうか

 

「メレォォォン!!」

 

 光に飲み込まれ大ダメージを負ったジメレオンが地面に放り出される。こちらの技を一撃ですべて薙ぎ払うほどの攻撃だ、無事なわけがなかった。

 

「貴方のようなトレーナーにこの技を使わなければならないとはボク達も腕が鈍った」

「まだ負けていないさ! そうだろ、相棒!」

 

「メ、メレォォン!」

 

 俺の声に呼応するようにジメレオンも顔を上げ、膝を立てる。確かに大きなダメージを食らったが立てないほどじゃないと声を振りしぼり、しっかりと両足で立ち上がる。

 

「! あの技を食らってまだ立ち上がるとは」

 

「ミッブゥ!」

 

 どうやらあの技にはよほど自信があった様子だ、それの直撃を食らってもなお立ち上がるジメレオンにビートもミブリムも目を丸くしている。

 

「行けるな!?」

 

「メレォン!」

 

「よし、『みずでっぽう』だ!」

 

 ジメレオンの攻撃を『量』重視の戦法に変更、右手と左手からそれぞれ一つずつ『みずでっぽう』を生成しミブリムへと投げつける。

 

「まだだ、もっと投げつけろ!休む暇を与えるな!」

「ええいうっとおしい、まとめて吹き飛ばしてしまいなさい」

 

「ブウゥゥゥ!」

 

 ミブリムの口からピンク色の音の波動が放たれ『みずでっぽう』がかき消される、今のは『チャームボイス』だったはずだ。

 

「その攻撃の対処方法はもうわかってる、『みずのはどう』!」

 

「メレオン!」

 

 生みだした『みずのはどう』を地面にたたきつけて生みだした水の壁で『チャームボイス』を防ぐ、そして水の壁はそのまま津波となりミブリムへと襲い掛かる。

 

「吹き飛ばしなさい、『マジカルシャイン』!」

 

 『チャームボイス』ではパワー不足と判断したビートが再び『マジカルシャイン』ですべてを吹き飛ばせと指示を出す。

 ミブリムが力を溜め、輝きだす。それを光の波動として放出しようとした瞬間、水の壁をぶち破ってジメレオンが飛び出した。

 

「な!?」

「待ってたぜェ、この瞬間(とき)をよォ!!」

 

「ジメレオン、『ふいうち』ぃ!」

 

 ここぞという場面まで残しておいた隠し玉、相手の攻撃を放つ瞬間に先駆けて撃ち先手を奪う必殺の『ふいうち』がミブリムに突き刺さった。

 

 アッパーカットの要領で放たれた出された『ふいうち』はミブリムの体を天井近くまで吹き飛ばし、『マジカルシャイン』は洞窟上空で放出され天井の岩壁を削り取る。

 

 ぱらぱらと岩壁の欠片とともに落ちてきたミブリムが地面を転がり、なんとか立ち上がろうとしたがそのまま気を失ってしまった。

 

「」

 

 ビートは倒れ伏したミブリムを見て口をパクパクと動かしている。ジメレオンはなんとか『ふいうち』が成功し『マジカルシャイン』に晒されなかったことに安心し、ほっと息をついた。

 これで四勝二敗、ビートの全てのポケモンが倒れ俺のジメレオンとアオガラスが残った。つまりは、

 

「ビート、俺の…いや俺達の勝ちだ!」

 

 ビートは俺の言葉にハッとするとこちらを睨めつけてくる、以前三匹対四匹で引き分けになったあの時とは違う。同じ数で戦い、そして勝ち残ったのだ。

 

 ビートは左手で右手に着けているぶかぶかの腕時計を強く握りしめている。俺にはわからないがきっとあれはビートにとって大切なものなのだろう。

 しばらく腕時計を握り締めていたビートだが落ち着いたのか勝負の前と同じような落ち着いた顔に戻り、無言でミブリムを戻すとさっさと荷物をまとめてこの場所から去ろうとする。さすがにこのまま何も言わないで出ていかれるのが癪に障ったのでビートの左手を掴んで引き留める。

 

「…なんですか、ボクには時間がないんです。あなたのような弱者の相手をしている場合じゃあないんですよ」

「俺、ビート、勝った。弱者違う。俺に負けた、お前、弱者よりも弱者」

「突然片言にならないでください!ええい離しなさい!」

「俺が勝ったんだから少しくらいなんか言えよ!『俺の勝ちだ!』とか言ってたこっちが馬鹿みたいじゃないか!」

「馬鹿でしょう!」

「なんだとこの野郎!」

 

 ついいつものホップとユウリの様な殴り合いの喧嘩になりそうだったがジメレオンに引き留められる、思い返してみればなんだってこんな奴に張り合っていたのだろうか?まだ三回会って二回戦っただけのビートに。

 

 俺が考え事をしているとビートに手を振り払われる。

 

「あっ」

「ボクにはこんなことをしている時間はないんですよ。委員長のため、ジムチャレンジを勝ち上がり一つでも多くの『ねがいぼし』を届ける。それがボクの使命であり生きる道だ、誰にも邪魔はさせない」

 

 ビートはそのままズンズンと採掘場から出て行ってしまった、ほの暗い洞窟の中ではすぐに姿が見えなくなってしまった。

 俺がビートが出て行ってしまった方向を眺めていると、暗闇の中から何かが飛んできた。

 

「なっ!?」

「メレオン!」

 

 飛んできたそれをジメレオンが舌でキャッチして止めてくれた。ジメレオンにお礼を言い、その飛んできたものを舌から取り外す。

 

「これは…」

 

 それはビートのリーグカードだった、ムカつくどや顔とブカブカの腕時計を着けた右腕でポーズを決めているところに腹が立つ。

 こんなものを持っているのはビート本人くらいだろう、わざわざ投げて渡さなくても正面から渡せばいいだろうに…

 

「よし!なにはともあれビートに勝った、そうだろ相棒!」

 

「メレオン!」

 

「この洞窟を抜けてエンジンシティに行こうか!」

 

「メレオン!!」

 

 ビートとの勝負で負けは返上した、これでもう思い悩むものなどない。

 三番目のジム、炎の男カブさんが立ちふさがるエンジンジムまで一直線だ!

 

 

「そういえばビートのノミとハンマー借りたままだったね」

 

「メレオン」

 

「ま、いっか」

 

「メレオン!」

 

 




…アオガラスを出すタイミング見失った。
べ、別に忘れてたわけじゃないんだからね!
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