第二鉱山を抜け再びエンジンシティへと戻ってきた俺とホップ、時間は既に夕暮れ時ということでホテルへと足を運んでいた。
「その前にジムの予約、だよね!」
「おぉ! 先に着いた方が予約も先ってことで」
「異議なし!」
「「うおぉぉおぉぉ!!!」」
エンジンシティは今日も人が多い。少しでも早くスタジアムに着くため人の少ない道、よりスタジアムに着くのが速い道を脳内の地図で計算する。
「あ! あっちの道の方が近そう!」
「なんだと!お前にだけ行かせるか!」
そして人の少ない道を計算できる力があれば、逆に人の多い道を導き出すことことも可能だ!
「わあぁぁああ!?なんだ急に人が多く!?」
「そっちの道はこの時間帯スーパーの特売セールで沢山の主婦で道が塞がれるんだよ!」
「お前…なんでそんなこと!?」
「カレーの材料買いまわった時に聞いた!」
「ひ、卑怯者おおぉぉぉ…」
毎度おなじみとなった全力競争だがホップやユウリと散々競い合い騙し合い培われた相手を出し抜く技術はより洗練されたものとなっていった。
ホップを計算からはじき出された入ってはいけないコースに誘導し足止めすることに成功した。俺はその隙にスーパーの裏を通って人の波を回避しさっさとスタジアムへ向かった。
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そのままスタジアムへゴーーーール!!!
圧倒的大差。ホップがスタジアムにたどり着いたのは十分も後となり、ボロボロなうえになぜか手には卵一パックが入ったスーパーの袋を持っていた。
「なぜ卵?」
「…あのままセールの波に流されて気がついたら卵特売コーナーにいたんだ、買わなきゃ出られなかったんだぞ」
「カレーに生卵でも入れて食べよっか」
「賛成!」
卵を抱えてスタジアム内を歩くホップの姿は正直浮いていた、本人は生卵をトッピングしたカレーのことが頭がいっぱいのようで気づいていないのが救いだろうか。
「あ゛~、マ゛リ゛ィ゛ち゛ゃ゛ん゛か゛わ゛い゛い゛~!!!」
「や、やめんねユウリ!」
受付まで向かっていると見覚えのある二人を見つけた、
「お! おーいユウリ、マリィ~!」
「あらホップ、それにアカツキもようやく着いたのね」
「どうだ! もう追いついてみせたぞ!」
「まだよ、アタシは明日の早朝からカブさんに挑めるわ。あんた達とはまだ格が違うわ!」
「なんだと!アカツキ、早く受付で予約済ませるぞ!」
「っと、そうだね。ちょっと行ってくるよ!」
「行ってらっしゃーい」
「アカツキ、ホップ!? 見捨てんで~」
ユウリに抱き着かれているマリィは見捨てた、そんなことよりも早く予約だ!
受付でバッジ確認とジムチャレンジの予約登録を済ませユウリとマリィの待っている休憩エリアに戻る。マリィはユウリに抱き着かれたままぐったりとなっている、南無。
「あんた達の順番どんくらい?」
「俺はギリギリ明日の最終チャレンジに間に合った!」
「なんですって!?…ぐぬぬ」
「俺は明後日だぞ…くそう」
勝利者としての当然の権利として俺から先に登録したのだがギリギリ俺は明日に滑り込むことができ、ホップは日をまたいでの挑戦となった。
一日お預けということでホップはえらく落ち込んでしまう。ここまで落ち込まれるとホップを出し抜いたことによる罪悪感が湧いてきて悪いことしたかなぁと思ってきた。
「ホ、ホップ! 美味しいカレー食べて元気出そうよ?ね?」
「ッ!カレー!?」
「うららぁ!」
『カレー』という単語を口に出した瞬間ホップ…ではなくマリィが勢いよく顔を上げると俺に詰め寄ってきた、何故かモルペコまでボールから飛び出してきた。ちなみにマリィに抱き着いていたユウリは引きづられながら「マリィちゃんかわいい~」とか言っている。
鼻息を荒げて詰め寄ってくるマリィからふわっといい匂いが香る。やめてくれ、女の子には免疫がないんだよぅ。ユウリ?これは一般的に女の子とされる生物とはちょっと違う生物だからノーカン。
「カレー、ってアカツキが作るん!?」
「あ、うん。そうなる…かな?」
「マリィとモルペコも一緒に食べてよか?」
「もちろんだよ!」
「っ! 嬉しか! アカツキの作るカレーはうまかけんね!」
「うらら♪」
どうもマリィは以前俺たちみんなで作ったカレーの味が忘れられずまた食べたかったというのだ。
また一人とカレーの奥深さと美味しさを世に広めることができたのだから、カレーの伝道師としてこれほど嬉しいことはない。
「俺、マリィのために美味しいカレー作ってみせるよ!」
「あたしも自分で作れるようになりたい、また手伝ってもよか?」
「もちろん!俺と一緒に最高のカレーを作ろう!」
「うん!」
マリィと手に手を取り合い今から最高のカレー作りをすることにした。ああ、こんなに幸せなことが他にあるのだろうか…と夢心地の気分だ。
「…なぁ、なんかオレ達のこと忘れられてないか?」
「マリィちゃんがかわいいから、ヨシッ!」
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スーパーで材料を買いそろえ、野外調理が可能なスペースでカレーを作った。
以前マリィにご馳走した希少なきのみをふんだんに用いた最高ランクのカレーには及ばないだろうが、それでもマリィと一緒に作ったカレーの美味しさは最高だった。
「やっぱりアカツキのカレーは美味しかね」
「生卵カレー! うめ、うめ!」
「マリィちゃんの手作りカレー! うめ、うめ!」
「このカレーは俺だけの力じゃないよ。一緒に作ったマリィと、あとモルペコのおかげでもあるよ」
「うらら!」
カレーを食べながらなんだかんだでみんなで集まるのも久しぶりだ、と思った。ホップやユウリとはよく遭遇したがマリィとは今まで一度も会わなかったのだからしょうがないだろう。
「そういえばマリィもエンジンシティまで勝ち抜いてたんだね」
「む」
俺がそういうとマリィはカレーを食べる手を止めてむっとした顔になった。モルペコも夢中に食べ進めていたカレーを食べやめている。
「アカツキ、マリィが勝ち上がれんと思っとった?」
「い、いやそんなことないよ。マリィとモルペコの強さはよく知ってるし…」
機嫌を損ねたのかマリィが口をとがらせてきた。俺はそんなことはみじんも考えていなかったのですぐに謝ったがそれでもマリィの機嫌は治らない。
「決めた、明日のジムチャレンジの前にあたしと勝負してよ」
「ええ! マリィと?」
「マリィと、バトルできんの?」
「いや、そういうわけじゃ…」
ユウリやホップに助けの視線を向けてみたがカレーを食べるのに夢中になっている。いや、よく見てみればユウリはこちらをチラチラ見てニヤニヤしている。あの野郎!
まあだがよく考えてみればまだマリィとバトルをしたことはなかったのでこれもいい機会だと思い、承諾することにした。
「…そうだね、じゃあカレー食べ終わったらやろっか」
「負けんよ!」
「うららぁ!」
カレーも食べ終わり腹ごなしの運動としてマリィとバトルをすることになった。
マリィがどんなポケモンを使いどんなバトルをするのかは未知数だ、油断ならない。
「じゃあアタシが審判をするわね!マリィちゃん頑張れー!」
「おいコラ審判!」
「頼んだよ、ユウリ!」
「勝負は三対三のシングルバトル、良いわね!?」
「オッケー!」
「わかった!」
「うぉぉぉぉ!マリィ!!!」
「マリィ頑張れー!!」
いつの間にかマリィの応援に現れたエール団だが、もう気にしないことにした。
「それじゃあ両者ポケモンを!」
「行け!ウールー!」
「グレッグル!」
俺が出したのはウールー、マリィの出したポケモンはグレッグルだ。しかもダークボール入り、定価1000円の高級品だぞ!
グレッグルは毒・格闘タイプの珍しいポケモンだ。相性ではかなり不利だと言えるだろう。
「(だけど負けるわけにはいかない!)」
「それじゃあマリィちゃんの先攻から!バトルはじめ!」
「グレッグル、『どくばり』!」
グレッグルの口から紫色の針が飛び出す、触れれば相手を『どく』状態とする危険な技だが、
「ウール、『まるくなる』」
「ンメェ!」
ウールーの分厚い体毛はそんなか細い針を通すほどやわではない、いや滅茶苦茶柔らかいからなんだけど。
体を丸めたウールーの体毛に『どくばり』が刺さっていくがウールーの体を捉えるほどには至らない。『まるくなる』を解除したウールーが体を大きくふるえば体毛についていた毒の針はパラパラと落ちていった。
「今度はこっちからだ、『ずつき』!」
ウールーは地面を強く蹴り飛ばしグレッグルへと走り出す。
「グレッグル、受け止めて!」
「グレェッ!」
その『ずつき』に対してグレッグルは体の前で腕を交差させ、正面から受け止める。かなりのパワーを誇るウールーの『ずつき』をまともに受け止めるなんて、あのグレッグルも格闘タイプに恥じないパワーの持ち主のようだ。
「いくよグレッグル、『リベンジ』!」
「なっ!」
攻撃を受け止めきったグレッグルの体から橙色のオーラが噴き出す。『ずつき』で受けたダメージはそのままグレッグルの力となり、オーラを纏い放たれた一撃は衝撃を吸収するはずの体毛をものともせずにウールーの体を大きく揺さぶった。
「ウールー!」
吹き飛ばされたウールーが土煙の中から立ち上がる、まだまだ元気そうだが今ので大きなダメージを受けてしまったようだ。
ウールーの『もふもふ』ですら受け止めきれないとは、『リベンジ』の恐ろしさを思い知った。肉を切らせて骨を断つ、とはよく言ったものだ。
「ウールー、『にどげり』だ!」
一撃の重さで分が悪いなら手数で勝負だ、と『にどげり』を指示する。しかし、ウールーの鋭い蹴りを右へ、左へとグレッグルは難なく躱していく。
基本的に下から上へ突き上げるウールーの『にどげり』は必然的に相手の上半身を狙うことになる。よく見てみればグレッグルはそれを見透かし、上半身だけを動かすことで最低限の動きで避けている。
「マリィのグレッグルは甘くないよ、『ベノムショック』!」
「レッグル!」
『にどげり』を何度も躱され息の上がってきたウールーに向かってグレッグルが毒を吐き出す。
まともに毒をかぶったウールーは二歩三歩と後ろへ後ずさり、毒は体毛を侵食しながらじわじわとウールーの体を蝕もうとしている。
「くそ、『ずつき』だ!」
なんとか『ずつき』がヒットしグレッグルとの距離を作ることができたがこのままではらちが明かない。近接戦では不利、『まねっこ』による意表を突くという作戦もあるが毒タイプに毒技は効果が薄すぎて期待できない。
俺がぐるぐると思考を回している間にも『ベノムショック』による毒がウールーの体を蝕もうとしている、早く何とかしなければいけないというのに打開する案は全く浮かんでこない。
「グレッグル、『どくばり』」
「ウールー、『まるくなる』だ」
またもや打ち出された『どくばり』に対して場当たり的な指示を出す。
しかし、それが大きな悪手だと気づいたのはすぐだった。
「なに!?」
「ンメメェェ!!?」
『どくばり』が体毛に刺さった瞬間、ウールーの体にかかっていた『ベノムショック』の毒が紫色から黄緑色へと変化する。突然の変化に驚いたのは俺だけではない、少しずつ蝕んでいた毒の効果が急激に強まりウールーを苦しめ始めたのだ。
俺が混乱しているとマリィが解説してくれた。
「『ベノムショック』はただの毒じゃないよ、『どく』状態の相手に使うと効果が倍増するすっごい毒やけん!」
『ベノムショック』は別の種類の毒と化合することで化学変化を起こし効果を倍増させる厄介な毒だったのだ。
黄緑色と化した『ベノムショック』の効果はすさまじくどんどんとウールーが消耗している。もはや対処は不可能一刻も早く相手を倒さなければ!
「ウールー、『ずつき』だ!」
「グレッグル、『ふいうち』」
冷静さを見失った俺達の最後の悪あがきすらも見切られて、走り始めようとしたウールーの顔面に鋭い一撃が突き刺さる。一歩も動けず、ウールーはその場に倒れ伏してしまった。
「ウールー戦闘不能。グレッグルの勝ち!」
『フウウゥゥゥゥ!! マリィ! マリィ!』
「もう、みんな…」
マリィが勝利するとエール団の大歓声が響き渡る。それを恥ずかしそうにしながらも受け入れているということはマリィにとっても嬉しいのだろう。
俺はというと毒で蝕まれたウールーにモモンのみを食べさせて応急処置を施す。毒は綺麗さっぱりなくなりウールーも気を取り戻したことで、安心してボールへ戻した。
「強いね、さすがマリィ」
「ふふ、負けると不機嫌になるけん。まあ、あたしが負けるわけないけど!」
いつものマリィと違いどこか強気だ、これが戦っているときのマリィなのだろう。
俺も負けられないと思いながら二つ目のボールへと手を伸ばす。
「じゃあ、こいつはどうかな! アオガラス!」
「アーガァ!」
二体目はアオガラス、もちろんグレッグルに有利な飛行タイプだからだ。
「アオガラス、『ついばむ』!」
それにもう一つ理由がある。空からの奇襲、『ついばむ』を食らったグレッグルがすぐさま体勢を立て直し、全身から橙色のオーラー噴出させる。
「グレッグル、『リベンジ』!」
「避けろ、アオガラス!」
グレッグルが『リベンジ』で反撃を行おうとするがすぐさまアオガラスは翼をはためかせ空へと逃げ去る。
そう、グレッグルの弱いところはウールーと同じで遠距離の相手に出せる手が少ないことなのだ。『リベンジ』により発生したオーラも空までは届かない、しばらくするとそのまま空気に融けて消えていってしまった。
「それなら、『どくばり』!」
「風で吹き飛ばせ!」
『どくばり』にしてもおなじだ、軽くて小さな『どくばり』は風の影響をもろに受けアオガラスにまで届かない。タイプの相性に収まらない、技そして生態としての相性が出たのだ。
圧倒的有利なアオガラスは空からグレッグルを見下す。地を這う格闘家など敵ではないとばかりに一笑に伏している。
「アオガラス、『ついばむ』!」
「こうなったら正面からいくよ、『リベンジ』!」
アオガラスは再び空からグレッグルに向かって突撃する。もはや後のなくなったグレッグルはせめて一撃を食らわせようと攻撃を受ける前から『リベンジ』を発動させる。
だが攻撃を受けていない状態の『リベンジ』では『ついばむ』を押し返すことができず、オーラを突き破りグレッグルの体にアオガラスのくちばしが深々と突き刺さった。
「グレッグル!」
「グレッグル戦闘不能。アオガラスの勝ち!」
『ブウゥゥゥ!!!』
「ひっこめアカツキー!」
「空気読めー!」
「格闘タイプに飛行タイプ後出しとか恥ずかしくねえのかー!」
「サポーターの民度が低い…」
「ごめんね、いつもはそげん悪か人やなかけん許しちゃって」
「マリィちゃんがかわいいから許すわ!」
『フゥゥウゥゥ!!』
「マリィは俺たちの希望だー!」
「マリィさんマジ天使~!」
「お兄さんもスカイプから応援してるよ~!」
「お兄さん?」
「わ、わわ! 早うしまわんね馬鹿ぁ!」
お兄さんという言葉に反応したかと思えばノートPCを掲げていたエール団員に空のダークボールを投げつけて黙らせ始めたマリィ。
どこか鬼気迫る表情というか恥ずかしいことを見られたくないというか、そんな感じの表情だ。
「マリィってお兄さんいたんだね」
「~///」
「いつか会いたいなー!」
「オレも会いたいぞ!」
「アタシもマリィちゃんの家に行ってみたいわ!」
「……そげん言わんでもいつか嫌でも会いきるよ」ボソッ
「?」
マリィが何か言っていたようだがエール団のヤジに隠れて聞こえなかった。
グレッグルを戻すとマリィは二つ目のダークボールを取り出した。
「まだ負けとらんよ!」
マリィは力強くそう叫ぶとダークボールを大きく振り投げた。
出てきたのは黄色と赤色が特徴的なポケモン、調べてみるとズルッグというポケモンだった。
「(ビートはエスパータイプばっかりだったしマリィは格闘?でもモルペコは電気と悪だし…)」
「考え事しとる場合じゃなかよ、『きあいだま』」
「ズッグゥ!」
ズルッグは大きく手を広げると身の丈を超すような大型のエネルギー弾を作り出す。体の大きさと不釣り合いな玉だがしっかりと投げつけてきた。
あまりの大きさにアオガラスも避けることができず当たってしまうと大爆発を起こして落下してしまう。
「アオガラス、起きろ!」
「ッ! アーガァ!」
俺の声で何とか地面への墜落は免れ地面すれすれを飛びながら着地し敵を見定める。ズルッグは小さな体にかなりのパワフルさを秘めているようだ。
「アオガラス、『つけあがる』だ!」
「ズルッグ、『ずつき』!」
体から黒く不遜なオーラを漂わせるアオガラスとズルッグの丸っこい頭が激突する。が、特に補助技を使っていなかったアオガラスの方がパワー負けしてしまい押し返される。
「『ついばむ』!」
「『まもる』!」
効果抜群の技で優位に立とうとしたが、アオガラスの自慢のくちばしは絶対防御の障壁を貫くには至らず大きな隙をさらす。
「ズルッグ、『ずつき』!」
そんなアオガラスの体に『ずつき』が深々とめり込み、アオガラスは地面に倒れ伏す。
ズルッグの体が小さいとはいえあのパワフルな一撃だ、かなりの痛手となってしまったようで立ち上がったアオガラスも荒い息を吐き出している。
「まだいけるか!」
「ァ、アーガァ!」
「よし、なら空高く昇るんだ!」
アオガラスの無理は承知で高く高く空へと舞い上がらせる。この距離ではズルッグの『きあいだま』もよっぽどがなければ当たらないだろうとアタリをつけてそのまま羽を畳ませ急落下させる。
羽を畳んだアオガラスの体はどんどんと加速を強め、まるで一筋の流星のようだ。この速度での『ついばむ』を食らえばさすがのズルッグとて無事ではいられない大ダメージを食らうはず。
「そんな大ぶりな攻撃、食らわんよ。『まもる』!」
「グッ、ズル!」
マリィたちは敢えてその攻撃を躱さず正面から受け止めることにした。『まもる』で無効化し、その隙に確実な一撃を食らわせるつもりなのだろう。
もうこうなったら出たとこ勝負だ。加速と落下で過去最高レベルにまで高まった『ついばむ』が勝つか、絶対防御の名に恥じない『まもる』がそれを防ぎきるのか。アオガラスもズルッグももう相手のことしか見据えていない。
そして大きな衝撃音とともにアオガラスの『ついばむ』とズルッグの『まもる』が衝突した。
ギャリギャリギャリ!!!
甲高い音を響かせながらくちばしと障壁が互いを削り合う。
くちばしは落下で得たエネルギーをその先に全集中し障壁を破壊しにかかる、障壁はそれでも破かれず徐々に徐々にアオガラスの一撃を押し返していく。
オーラで形成された長いくちばしは次第にひび割れ、衝突のダメージに耐え切れず自壊していく。ズルッグはそれを見てにやりと笑みを浮かべ、勝った!と思い浮かべたであろう。
バリィィィン!!!
ガラスの割れたような音とともに『ついばむ』で形成されたくちばしが砕け散る。それは『まもる』が攻撃を受け切ったという証拠だ。
「ズルッグ、『ずつき』!」
もはやアオガラスに回避をするまでの時間はない。翼を再び開き直し、飛び立つ前にはズルッグの『ずつき』が体にめり込んでいることだろう。
だから、翼を開き直す必要なんてなかった。
「アオガラス、『こわいかお』!」
くちばしが砕けると同時に、障壁も砕かれる。ズルッグがその隙を逃さず突撃しようとした時、それは壁の向こう側から現れた。
王者の威圧感。
それはポケモンとして、特にガラル地方で育ったものとして知らないものはいない。
空の覇者、ガラル地方の空の頂点に立つポケモン・アーマーガア。その片鱗を覗かせる王者の威圧はあらゆるポケモンを怯ませ、足を竦ませる。
攻撃の隙をついて反撃の一撃を入れるはずが、いつの間にか立場は逆転していた。足を止め、反撃の隙を与えたのはズルッグの方となってしまった。
「アオガラス、『ついばむ』!」
「アァーガァァ!!」
再度形成されなおしたくちばしは腰を抜かしたズルッグの体を一瞬のうちに何度も啄んだ。
「ズルッグ戦闘不能。アオガラスの勝ち!」
効果抜群の攻撃を何度も食らい、ついにズルッグが戦闘不能に陥った。
まさか完全に勝ちの流れに乗っていたあの状況ですべてを巻き返されるとは思ってもいなかったようでマリィも、そしてエール団も沈黙している。
エール団より一足早く正気に戻ったマリィが急いでズルッグをダークボールに戻すとエール団も少しずつ騒がしさを取り戻していった。
『ブ、ブウゥゥゥ!!』
「か、格闘タイプを飛行タイプで倒すなんて卑怯だぞ!」
「で、でも今のはいい勝負だったぜぇ!」
「お前マリィじゃなくて相手応援してどうするんだよ!」
「えぇ…いやでも今のは実際見事だったし…」
「みんな、すごい勝負見たんやったらしっかり応援してあげんと」
マリィがエール団の方を向き優しく窘めると、自分達でも今のは理不尽だと思っていたのか彼らの熱気も落ち着いていった。
マリィは再びこちらを向きなおすと最後のダークボールを取り出してきた。
「楽しい、すっごい楽しいよアカツキとのバトル」
「俺もだよ!」
「だから。終わっちゃうのつまらん!ネバっちゃうよ、あたし達!」
そういって最後に出てきたのはマリィの相棒、食いしん坊なモルペコだ。
「うららぁ!!」
気合十分、いつでも来い!という気迫に満ち満ちている。
「俺が勝てたらまたカレーをご馳走するよ!」
「うらぁ!?」
「アカツキ…それはずるいよ」
カレーの誘惑に一瞬迷いを見せたモルペコだがすぐにマリィに窘められた。ごめんごめん、冗談だよ。
「もうっ! モルペコ、『でんきショック』!」
ちょっと怒ったマリィだったがすぐさま戦闘の指示を出してきた。『でんきショック』はまっすぐアオガラスの元へ飛んでいくが翼を羽ばたかせて高度を上げ、悠々と回避させた。
「アオガラス、『ついばむ』!」
少し高めの高度からまっすぐ落下し、地面すれすれを飛んでモルペコへと迫る。二匹を立て続けに倒したことでアオガラスもノリに乗っている、形成されたくちばしの鋭さも今日の中でピカイチだ。
「させんよ、『かみつく』!」
しかしそのくちばしはすぐさま粉砕された。
オーラで形作られたくちばしをモルペコの強靭な歯が真っ向から打ち砕いたのだ。
自慢のくちばしが一撃で叩き折られアオガラスの思考が真っ白になる。そのままアオガラスの体に引っ付いたモルペコはかわいく笑いながら頬から電気を走らせた。
「モルペコ、『でんきショック』」
「うららぁぁあぁぁ!!」
「アァァガァァ!!?」
密着した状態で流された強力な電撃に身を焼かれ、アオガラスは一撃で戦闘不能に陥った。
「アオガラス戦闘不能。モルペコの勝ち!」
『モルペコ! モルペコ!』
「モルペコ良いぞぉ!」
「すごいぞ、タイプの相性をしっかり理解しているんだな!」
「かっこいいよモルペコ!」
「うらうら♪」
モルペコはエール団の応援に顔を赤くして頭を掻いている。
ぬいぐるみのようなモルペコだがあの暴力的な威力の『かみつく』はかなり危険だ。アオガラスのくちばしを一撃で粉砕したことといいパルスワンの『かみつく』にだって匹敵するだろう。
アオガラスをボールに戻して、最後の一匹をつかみ取る。やはり、最後を任せるならこいつだ。
「頼んだぞ、ジメレオン!」
俺の最初の相棒、一番頼りになる仲間だ。たとえタイプ相性で不利だったとしてもこいつならきっと何とかしてくれると思わせてくれる。
「電気タイプに水タイプ…アカツキは面白いね」
「相性なんてぶっ壊してやるさ!」
「じゃあ行くよ、『でんきショック』!」
「ジメレオン、『みずでっぽう』!」
モルペコの『でんきショック』に合わせて『みずでっぽう』を投げつける、すると電撃は易々と水の玉を貫通してこちらに向かってきた。
ジメレオンは近くに立っているポールに舌を巻きつけ回避をする、だがやはり電気技に対して水技で撃ち合うのはあまり有効ではないようだ。
「どんどん行っちゃうよ、『でんきショック』」
「『みずのはどう』!」
こんどは『みずでっぽう』よりも大きな『みずのはどう』をぶつける。さすがの『でんきショック』も『みずのはどう』には威力負けし、電撃ごと押し返した。
ポヤポヤとしているモルペコに『みずのはどう』が直撃し、大きな水しぶきが上がる。
「これで一撃!」
何とか攻撃を当てることができた、『みずのはどう』ならば十分に『でんきショック』に対抗できるのだと思っていると水しぶきの中からなにか黒いものが飛び出してきた。
黒いものは超スピードで駆け抜けるとそのままジメレオンの顔に突撃して吹き飛ばした。
「黒い…モルペコ?」
「そだよ、モルペコのもう一つの姿『はらぺこもよう』やけん」
「ウララァ!」
黒いものの正体は全身が黒く染まり目を真っ赤に染めたモルペコ本人、図鑑に載っていたフォルムチェンジとはこの状態のことか。
「『はらぺこもよう』のモルペコはちょっと攻撃的になっちゃうから、うかうかしてたらすぐ終わるよ」
マリィの言葉通りいつものどこか抜けた感じのモルペコとは一転してすごく攻撃的となったモルペコがジメレオンに向かって『かみつく』を使ってくる。ジメレオンも凶暴さがあらわになったモルペコの攻撃に対して防戦一方となっている。
「モルペコ、『かみつく』」
「ジメレオン、『ふいうち』」
大きく口を開いたモルペコの横顔にジメレオンのしっぽが叩きつけられる。が、効果はいまひとつな技だったようで構わずジメレオンのしっぽに噛みついてくる。
『はらぺこもよう』となったモルペコは常に空腹状態となっているようで『かみつく』のパワーも以前の『まんぷくもよう』を優に超える噛みつき力だ、食べ物に対しての執念のようなものを感じる。
ジメレオンはしっぽに激痛を感じながらぐるぐると振り回し、それでもかみついて離さないモルペコを地面に叩きつける。やっと離れたモルペコは口に入った土をペッと吐き出している。
「本当に悪タイプって感じだね」
「ワイルドでかっこええやろ?」
「まあたしかに」
「でも、そろそろやな」
しばらく猛威を振るっていた『はらぺこもよう』のモルペコが光りはじめると、いつもの『まんぷくもよう』の姿に戻ってしまった。
「バトル中に何度も変身をするのか」
「そ、かわええやろ?」
「(マリィは結構モルペコにべたぼれみたいだな)」
『はらぺこもよう』のときの苛烈さはなくなったもののそれでもモルペコは厄介だ。遠近距離に隙がない上にまだあれが残っているのだから。
「アカツキ! この攻撃、どげんかせんね!」
モルペコの体から『でんきショック』を優に超える電撃が発生し地面の土を焼き焦がしていく。
ついにきたか、モルペコ最強の技!
「モルペコ、『オーラぐるま』!!」
「うららららぁぁ!!」
全身に高圧電流のオーラを纏わせたとっしん、『オーラぐるま』。以前食らった時はすごい痛かったがしばらく見ないうちにまた威力を上げたのが肌でわかる。これはまずいと思いジメレオンに回避を指示するが、
「遅い、遅いよアカツキ!そんなんじゃマリィとモルペコの攻撃は避けられんたい!」
マリィもいつもの標準語が段々と崩れてきている、それだけ今のバトルに興奮してくれているのだろうがわかって俺も嬉しくなる。
オーラを纏ったモルペコは回避に専念するジメレオンをじわじわと追い詰めるように加速していく。走れば走るほどこの技は速く・強くなっていくというのか。
「ッ! そこ!」
だがいつまでもそのままとはいかないはず、マリィも予想以上の回避性能を見せるジメレオンに焦り始めている。『オーラぐるま』は確かに強力な技だがいつかは終了するはずだ、そこを狙って討つ!
そう思っているとまたもや変化が現れた。『オーラぐるま』中のモルペコが輝きだし、またしても『はらぺこもよう』に変身したのだ。
「攻撃中にも変身するのか!」
マリィを見るとマリィ自身もモルペコを見て驚いている。
「そんな、今まで技の発動中にこげん変身するのは見たことなか!」
困惑しながらもマリィは嬉しそうに、初めて見た光景にはしゃいでいる。
「すごい、すごか! アカツキはほんにすごかよ! マリィも見たことなかったモルペコの姿をこんなにも引き出しとる!」
「ウララァ!!」
『はらぺこもよう』となったモルペコの『オーラぐるま』が、電気を現す黄色から悪タイプの黒と紫っぽい色のオーラへと変わっていく。姿が変われば技のタイプまで変わるのか!
『オーラぐるま』は電気タイプから悪タイプの技へと変わっていくとその破壊力をさらに増大させた。
「でもそれならこっちだって好都合さ!」
電気タイプの『オーラぐるま』には手も足も出なかったが悪タイプの技となれば対抗手段も思いついてくるものだ。モルペコのフォルムチェンジはこちらにとって好機となるのか否か。
「ジメレオン、『みずのはどう』!」
『みずのはどう』を地面に打ち付け大きな水で出来た壁を作り出す。
「その程度じゃ止められんよ!」
モルペコはそんな壁をものともせずに突き破ってくるが、突き抜けた先にジメレオンの姿がなく困惑の表情を浮かべている。
そして通り抜けた水の壁の中に潜み、隠れこんでいたジメレオンに気がつけなかった。
「ジメレオン、舌で絡めとれ!」
オーラをホイール状にして加速と突撃を繰り返す『オーラぐるま』は技の性質上、真横ががら空きとなっている。追われる立場のジメレオンではその隙間をつくことができなかったが、電気のオーラを失い破壊力だけに特化した今の『オーラぐるま』ならば水の壁の中に潜んで隙をつけるのではないかと思ったがうまくいったようだ。
モルペコがジメレオンに気がついたのはその直後、水の中から飛び出した長い舌に足をからめとられたことで『オーラぐるま』を無理やり解除させられる。
一本釣り状態となったモルペコをぐるぐると空中で回し地面に叩きつけた。
「ウララア!」
「モルペコ!」
「とどめだ、『みずのはどう』!」
「メッレオン!!」
ジメレオンが両手を合わせ、両掌に存在する水の流れる線を接続する。両手の水をあわせた『みずのはどう』はひときわ大きな水の塊となっていく。
「モルペコ、『オーラぐるま』!」
「ウララァ!」
マリィたちもすかさずオーラを纏わせ特大の水球に突撃させる。
水の力と悪のオーラが激突し、水しぶきと大きな爆発を生み出す。長時間ふり続けた水しぶきもおさまると爆発の黒煙も晴れてきた。
「う、うら…ら」
「モルペコ!」
『はらぺこもよう』から『まんぷくもよう』に戻ったモルペコが姿を現す、全身傷だらけになりながらもマリィの元へと一歩ずつ地面を踏みしめ歩いていた。
しかし、マリィのもとにはあと数メートル足りなかった。
「う、ららぁ…」
「モルペコ戦闘不能。よってアカツキの勝ち!」
モルペコは倒れ、黒煙の中からはまだまだ余裕そうなジメレオンが現れたことで俺達の勝ちが言い渡される。
あれほどうるさかったエール団たちは軒並み肩を落として残念そうにしている。
「モルペコ、ようがんばった」
「うら…」
「バトルしてお腹へったやろ? また美味しいもんでも食べよ」
「うらぁ!」
倒れたモルペコを抱えてマリィがこちらへと歩いてきた。その顔はエール団の様に負けて残念、というわけでもなく晴れ晴れとしている。
「アカツキ、今日は戦えてよかったよ」
「俺も、マリィとマリィのポケモン達とのバトル楽しかったよ」
左手にモルペコを抱えたマリィと右手で強く握手をする。今まで戦ってきたトレーナーたちとはまた違い、柔らかくて小さな手だった。
「でも、次は負けんからね」
「今度だって俺達が勝つね!」
「モルペコはまだまだ全力を残しとるもんね!」
「でも負けたじゃん」
「まだ全力出してないから完全な負けじゃなか!」
思ったよりも負けず嫌いだったマリィと笑いあいながらホップとユウリの待つ応援席へと戻るといつの間にかエール団の連中はいなくなっていた。
「ところで結局彼らって何者なの?」
「うーん、故郷の知り合い?」
どこか歯切れの悪そうにするマリィが少し下手くそな笑みで流そうとしているところを見るに何かまだ言えない事情があるのだろう。
まだ言えないというならきっといつか話してくれることを願って今はその話題を封じる。彼らの妨害行為にどんな秘密が隠されているのか、まだ俺達は知らない。
「はー!マリィちゃん強くてかわいいとかもう最高!ギュってしちゃうわ!」
「ユ、ユウリあんまり強く抱きしめんといて…」
「スンスン、いい匂い」
「ちょ! 首に顔を埋めるんじゃなかよ!」
「もうあいつ手遅れじゃね?」
「何がそこまでユウリを駆り立てるんだろうね、俺達も混ざってみる?」
「ジュンサーさんのお世話になりたいならいいと思うぞ」
「……俺にそんな勇気はございません」
「素直でよろしいな!」
「ぐへへぇ、このままマリィちゃんの部屋で一夜を…」
「モルペコ、『オーラぐるま』!!」
「ぎゃあああ!!」
「あれ意外と痛いんだよね」
「ポケモンの技を食らって平然としてるアカツキも大概だぞ」