剣盾旅記録   作:鳴神ハルキ

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二話連続投稿です。
前話を見ていない方は前話を見ることをお勧めいたします。


32、vsカブ

 ジムチャレンジャーを阻む大きな壁、エンジンジムとそこを守護する炎使いのカブの噂は何度も耳にした。

 ジムリーダー内では上から二番目に位置する高齢な方ではあるがその熱意と気迫は若いころから衰えることはなくむしろ今でもメラメラと燃え上がっているそうだ。

 

 いつものように控室でポケモン達の治療と選抜をしておくことにした。

 

「カブさんは炎タイプの使い手だ、ユウリやマリィの試合の時にも見たけど沢山の炎タイプを使っていたっけ」

 

 ユウリの時はランプラー、クイタラン、セキタンザン。

 マリィの時はブースター、コータス、エンニュート。

 

「どのポケモン達もカブさんの気迫に負けないほどの迫力と強さの持ち主だったな」

 

 特にランプラーは『ソーラービーム』、クイタランは『かみなりパンチ』、ブースターは『アイアンテール』とそれぞれ炎タイプが苦手とする相手を対策とした対抗技を所持していた。

 上の6匹の中から一体だれが選出されるのだろう。

 セキタンザンとエンニュートはそれぞれダイマックスを任されるほどのエースポケモン、そして対抗技こそなかったもののコータスの特性『ひでり』は炎技の威力を上昇させるだけでなく効果抜群となる水技の効力を弱めさせられる悪魔のような特性だ。

 

「うーん、ジメレオンは確実として後の二匹はどうしようか…」

 

 俺がポケモン達を見てあーでもないこーでもないと頭をひねっているとボールからウールーが飛び出してきた。

 

「ンメェ!メェ!」

 

「ウールー、お前、出たいのか?」

 

「メェメェ!」

 

 ウールーはやる気いっぱい。バウジムで自分を出してくれと強く主張してきたことを思い出す。

 ポケモンのコンディションはバトルに直結する。特にやる気というのは回復薬では賄いきれない大事な部分でもあるのだ。

 

 ウールーの目からはメラメラと燃える闘志とキラキラとした期待に満ちた願いが伝わってくる。

 よし、きめた!

 

 

「ウールーは『もふもふ』が致命的すぎるから無しで」

 

「ンンメエェ!?」

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

 

 俺のジムチャレンジ映像の放映も終わりついにカブさんとの対決が真直に迫ってきた。

 会場の熱気は最高潮、本日のラスト試合ということで観客たちの注目度も一段と高いものだろう。

 

「待っていたよ、アカツキ君」

 

 いつもの通りフィールドへと続く通用口に着くとそこには思いもよらない人がすでに待機していた。

 

「カ、カブさん!?」

 

「ぼくはチャレンジャー君と入場前に言葉を交わすのが好きでね。構わないかい?」

 

 突然のことに度肝を抜かれたがなんとか飲み下す。

 これが初めてのジムチャレンジであったターフジムなどであれば緊張と恐怖で言葉を交わすことすらできなかっただろうが、俺だってジムチャレンジは今回で三度目。興奮と緊張感を飲み下せる程度には慣れはじめているはずだ。

 

 一度大きく深呼吸をして強くカブさんを見つめ返すとそれを了承の合図だとわかってもらえたのかカブさんはふふっと笑みをこぼした。

 こうして笑っている姿を見ている分にはすごく優しさにあふれるおじいちゃんにしか見えないな。

 

「君たちのことはバトルの前から調べていたよ」

 

「俺たちのことを?」

 

「うん、あのダンデ君が推薦するほどのチャレンジャー君たちだ。特にユウリ君、君は彼女の戦いを見ていたかい?」

 

 肯定の意を伝えるため首を上下に動かすとカブさんは満足したようにはにかむ。

 

「彼女は特に才に溢れているね。彼女との戦いでは年甲斐もなくはしゃいでしまったよ」

 

「ユウリ言ってました。カブさんの強さは本物だ、だから油断だけは絶対するなって」

 

「少し照れてしまうね。ぼくのような老いぼれが彼女のような才気にあふれた娘に褒められるなんて」

 

 その笑みは孫に褒められて有頂天になっているおじいちゃんのようだった。

 

『さて準備が整いました!それではジムチャレンジャー、アカツキ選手とエンジンジム・ジムリーダー、カブの入場です!』

 

 放送の声にハッとした俺は急いでカブさんの横に並び立つ。

 そして隣に並び立ってから気がついた。

 カブさんの体から放たれるぐつぐつとした熱気。以前始めてダンデさんを見た時にも感じた強者からにじみ出るオーラともいえる気迫、そしてそれを上回るほどの勝負への熱意がそれを感じさせるのだろう。

 

「アカツキ君」

 

「…はい!」

 

「ヤローとルリナを退けた君達の力と努力、存分に見せてもらうよ!」

 

 その言葉を胸に抱きカブさんとともにフィールドへと足を踏み出す。

 もう三度目となる会場全体が湧き立っているこの感じに、今受け取った言葉と一緒に胸が熱くなってくるのを感じる。

 

 フィールド中央まで足を進めるとお互いに背を向け距離を取る。

 

 次に顔を振り向いた瞬間、冷や汗が湧いてきた。カブさんの気迫、熱気が俺にだけ向けて放たれる。

 以前ヤローさんと戦った時にも感じた、実力者と真正面から向き合った時に感じる圧迫感だ。

 

 だけど俺だって負けるわけにはいかない!

 腰のボールを取り出し、カブさんに見せつけるように前へと突き出す。

 

 そのしぐさを見て少し驚いたような顔をしたカブさんだが、すぐ後には挑戦者へむけた獰猛な顔へと変化を遂げる。

 

 

『勝負は三対三のシングルバトル、それでは両者ポケモンを!』

 

 

「行け、パルスワン!」

「行け、ウィンディ!」

 

 俺の先発はパルスワン。

 そしてカブさんの先発はウィンディだ。

 

 もふもふの毛並み、美しいたてがみ。

 その悠然としたたたずまいはどこか神々しささえも感じさせられる。

 

「かっけぇ…」

 

 ポツッとつぶやいた俺の声は観客の感性によってかき消されたのだがどうやら相棒の耳には届いていたようでこちらを向きなおすと「ワン!ワン!グルルゥ!」と抗議を向けてくる。

 同じ犬系のポケモンとして比較されたのが悔しいのだろう。ごめんごめんと伝える。

 

『それでは先攻はアカツキ選手から、バトル開始!』

 

「パルスワン、『かみつく』!」

 

 初速から全力全快、一気にフルスロットルだ。

 ウィンディの横を一瞬で抜き去ったパルスワンは後ろからその首元めがけて襲い掛かる。

 

「ウィンディ、押し返せ」

 

 ウィンディが首を後ろ側へと向けてパルスワンの方を向く。

 だがいかにウィンディといえども既に跳びかかり始めている今のパルスワンに対処することなど不可能…なはずであった。

 

 しかし、ウィンディは動くことすらせずパルスワンを撃退せしめた。

 ただ睨み付け、大きくうなり声を上げただけだ。それだけでパルスワンの意思とは関係なく体が震えあがり硬直してしまう。

 

「ウィンディ、『かえんぐるま』」

 

 飛び上がったまま無防備な体勢と化したパルスワンにすかさずカブさんの魔の手が襲い掛かる。

 全身に轟々と燃え盛る火炎を纏ったウィンディによる突撃がパルスワンの体を吹き飛ばす。

 

 空高く打ち上げられたパルスワンは硬直した体勢のまま受け身を取ることもできずに大きな音を立てて地面へと落下してしまう。

 

「パルスワン!?」

 

 何が起こったんだ。

 あれだけ同種に対しての対抗心を燃やしていたパルスワンがまるで生まれたてのシキジカの様に足を震わせ、怯えた目でウィンディを見つめているではないか。

 

「ウィンディは『でんせつポケモン』と言われるほどの強さを持っている。彼に威圧されたポケモンはそれだけで体が震え、身体機能を低下させるんだよ」

 

 ポケモン図鑑でウィンディの調べてみるとその意味がはっきりと分かった。

 『いかく』、相手ポケモンを威圧し攻撃力を下げるといわれる強力な特性だ。

  

 今パルスワンはウィンディの威嚇をもろに食らい、戦意を喪失している。

 このままの戦闘は不利だと考えた俺はパルスワンを一度戻した。

 

「頼んだ、ロコン!」

 

 そして出した次のポケモンはロコン。

 

「ロコン、『でんこうせっか』!」

 

「ウィンディ、『こうそくいどう』」

 

 まずは素早さでかく乱、と思っていたのだがウィンディの『こうそくいどう』はロコンの『でんこうせっか』に易々と追いついてきた。

 ロコンは何とか突き放そうとスピードを上げるがまるで狩りの獲物を見つけたようにウィンディは凶悪な笑顔のまま悠々と追い付いてくる。

 

 ついには追い付かれてしまったロコンがウィンディのたいあたりで吹き飛ばされてしまった。

 だけどまだまだ挽回は可能だ、窮地をチャンスに変えるんだ!

 

「ロコン、そのまま『じんつうりき』だ!」

 

 俺の指示をしっかり聞き届けてくれたロコンは吹き飛ばされながら空中で態勢を整えると体から青白い光を放ち始める。

 『じんつうりき』によりウィンディは大きく上空に持ち上げられるとそのまま強烈に地面に叩きつけられる。ロコンはロコンで『じんつうりき』により華麗に着地している。

 

 叩きつけられたウィンディは『じんつうりき』に絡めとられたまま、大の字の状態で地面に縫い付けられている。

 ロコンに『じんつうりき』を強くめるように指示し、ここぞとばかりにダメージを蓄積させていく。だが相手方もそうやすやすとは行かせてくれなかった。

 

「ウィンディ、『かえんぐるま』だ!」

 

 地面に縫い付けられたままのウィンディが全身から炎を吹き出し『じんつうりき』の拘束を無理やりほどこうとする、ロコンも負けじと『じんつうりき』の力をさらに強めていく。

 

 そんな膠着状態がしばらく続いたが、ついにはウィンディの炎の勢いが神通力の力を上回り拘束を打ち破られてしまった。

 

「コォン!」

 

 反動で大きなダメージを受けるロコン、そして拘束を破ったとはいえかなりの体力を消耗したウィンディ。

 二匹のにらみ合いが続いたがカブさんがウィンディを戻したことで膠着は終わった。

 

「まだロコンのままとはいえ随分強力な『じんつうりき』の使い手だね、きみのロコンは」

 

「ええ、こいつは炎でも神通力でもだれにも負けません!」

 

「そうか。ならばこのポケモンを越えてみせてくれ! いけ、キュウコン!」

 

 カブさんが大きく振りかぶって投げたボールから現れた九本の美しい尾を携えたポケモン。

 かつてロコンの記憶で垣間見た群れの長、ロコンの進化系キュウコンだった。

 

 ロコンとキュウコン、進化前と進化系のポケモンが向かい合う光景に会場が大きく湧き上がる。

 方やキュートな見た目にウィンディを拘束するほどの力強さを見せたロコン。

 それに対して出てきた美の化身ともいえる九本の長く美しい尾を携えたキュウコン。

 

 観客たちが盛り上がることも当然と言えるだろう、俺だってこんな光景を前にすれば大興奮で観戦していただろう。

 だが当事者として前に立ってみるとわかった。

 あのキュウコンは、あらゆる意味でこちらのロコンの上を行っている…!

 

「キュウコン、『でんこうせっか』!」

 

「…! ロコン、こっちも『でんこうせっか』だ!」

 

 キュウコンの『でんこうせっか』に対応しようとこちらもこちらも同じ技を指示したが力の差は俺が感じた以上に歴然であった。

 

 キュウコンのスピード、パワーはこちらのロコンを優に超えており『でんこうせっか』のスピードをもってしても相手の初撃を躱すことができなかった。

 さらになんと吹き飛ばされたロコンにすら相手のキュウコンは追い付いてみせたのだ!ドラゴン〇ールじゃねぇんだぞ!

 

 飛ばされたロコンの先に回ったキュウコンはその美しい尾を巧みに動かし空高くロコンを打ち上げる。そして自分は尾を脚代わりとして用いることで大ジャンプ、打ち上げられたロコンの横にまで飛ぶと尾を振りかぶってロコンを地面へと叩き落とした。

 圧倒的すぎる…!これが進化前と進化後の力の差なのか。

 

 だが、そんな力の差を叩きこまれながらもロコンは立ち上がった。

 もはや立ち上がるだけで精いっぱいだろうというのにロコンは立ち上がったのだ!

 

 対するキュウコンは空から降りてきて尾を使い華麗に着地するとそんなロコンにふっ、と笑みをこぼしていた。

 嘲笑の類ではないのが俺とロコンにはわかる。かつての群れの長、リーダーが子供のロコン達に向けていたような優しい笑みだ。

 

 だけど、それでも俺達は負けられないんだ!

 

「ロコン、『じんつうりき』だぁ!」

 

「コォォォン!!」

 

 ロコンは地面を踏み絞り全身から青白い光を放つ。先ほどウィンディに向けて使ったときと遜色がないほど全力の神通力だということがわかる。

 俺には見えないし感じることもできない不可視の力がキュウコンに向かって襲い掛かる。これが決まればいかにキュウコンといえども大ダメージは免れないだろう!

 

「キュウコン」

 

「…コン」

 

「こちらも『じんつうりき』だ」

 

 瞬間、ビリビリとその力の発生によって生じた大気の震えで俺は吹き飛ばされかけた。

 俺は咄嗟に踏みとどまり、体勢を整える。次の瞬間に見たのは空高く持ち上げられたロコンだった。

 

「ロコン!」

 

「キュ…コォン!」

 

 頭上高くから一気に地面に叩き落とされるロコン。

 フィールドにめり込むほど強く叩き落とされたロコンは目を回していた。

 

『ロコン戦闘不能。キュウコンの勝ち!』

 

『うおぉおぉぉぉ!!!』

 

 進化前対進化後の勝負は進化後のキュウコンに軍配が上がった。

 その圧倒的な力の差を見せつける美しい存在に向けて会場中からエールが送られる中、俺はロコンの下まで駆け寄り体を起こす。

 

 小さな体はボロボロに傷ついているが致命的な大ダメージにはなっていないようだった。俺がちらりとキュウコンを見るとそれを予期していたのかこちらを見つめ返してふっ、とほほ笑んだ。

 

「(まさか…あれで手加減されていたのか?)」

 

 ロコンの『じんつうりき』をやすやすと打ち破り地面に叩き落としたあれですらもまだ加減していたという事実に悔しさが溢れる。

 するとロコンが目を覚ましたのか小さくうなり声をあげる。はっとして見てみると手に力が入っていたようでロコンはそれに苦しんでしまったようだ。

 

「…ありがとうロコン。しっかり休んでくれ」

 

 ロコンをボールに戻し、カブさんとキュウコンに向き直る。

 どちらも今の勝負で完勝したというのに油断している様子もない、さすが歴戦のジムリーダーとそのポケモンというところだろうか。

 

「頼んだぞ、ジメレオン!」

 

 炎タイプのキュウコンに対して水タイプのジメレオンは有利相性、これで挽回の流れを作ってみせる。

 

「ジメレオン、『みずのはどう』!」

 

「キュウコン、『かえんほうしゃ』!」

 

 大きな水の玉と轟々と燃え盛る火炎が真正面から衝突する。

 

「互角!?」

 

 タイプ相性で大きく勝っているはずのジメレオンの『みずのはどう』がキュウコンの『かえんほうしゃ』で相殺されてしまう。なんて火力なんだ!

 

「ロコン相手では『もらいび』で炎タイプの技は使えなかったからね、キュウコンにとってはこの炎技こそが真骨頂なのさ!」

「キュウコン、『おにび』だ!」

 

 カブさんの続けての指示によってキュウコンの周りに怪しげな紫色をした火の塊が現れる。その数はロコンの『おにび』を優に超える数でとても『みずでっぽう』で一つ一つ消している余裕はないほどだ。

 

「ジメレオン、『みずのはどう』だ!」

 

 ジメレオンに襲い掛かる火の玉はまとめて消し去ることにした。

 キュウコンの操作によって四方から逃げ場なく迫ってくる『おにび』、それを『みずのはどう』を地面に叩きつけて作り出した巨大な津波でまとめてかき消す。

 

 かなり大きな『みずのはどう』を作ったことで体力を使ったジメレオンだがキュウコンの行動を見逃さないよう逐一と観察しているのは流石といえる、中々できることじゃないよ!

 

「そこだジメレオン、『みずでっぽう』!」

 

「躱すんだ!」

 

 『みずのはどう』よりも威力は小さいが使い勝手の良い『みずでっぽう』で追撃を仕掛ける。

 どれだけ炎タイプの技が強力だとしても水タイプの技が効果抜群なのは事実だ、当然キュウコンは水の玉を躱していく。

 

「畳み掛けろ!」

 

 休む暇を与えず両手から『みずでっぽう』を撃ち続ける。キュウコンは避けるので精いっぱいだ。

 

「…! そこだ、『みずのはどう』!」

 

 ついに躱し損ねた『みずでっぽう』の一撃がキュウコンの体を捉えダメージで顔を歪める。そこに生まれた隙を見逃すわけにはいかない、大技で一気に決める。

 

「キュウコン、『でんこうせっか』!」

 

「なに!?」

 

 『みずでっぽう』をくらい大きく体勢を崩したキュウコンが『でんこうせっか』を使えるはずが!?と思った瞬間、キュウコンはその九本の尾を使って体勢を無理やり元に戻した。

 

「そんなことができるのか!」

 

 尾もバネにした『でんこうせっか』で一気に加速したキュウコンは、ジメレオンが打ち出した『みずのはどう』をヒラリと躱してまっすぐジメレオンの体を捉える。

 

「そのまま拘束するんだ」

 

 カブさんの指示でジメレオンの体がキュウコンの尾に絡めとられる。

 振りほどくように指示を出すが九本にも及ぶ尾の拘束は生半可な力では解くことができないようだ、くそ!

 

 ギリギリと締め上げられジメレオンが苦痛の声を漏らす。その苦しそうな姿、すまないが利用させてもらう!

 

「ジメレオン、『なみだめ』!」

 

「メ…メレォン…メ、メ…」

 

「コ、コン…?」

 

 あまりの苦痛に耐えかねたジメレオンの目元から一筋の涙が落ちると、思わぬ事態にキュウコンの体が脱力する。

 その隙を逃さずジメレオンは両手の水を生成する器官から水を大量に噴射し、その勢いを用いてキュウコンの拘束をぬるりと抜けだすことに成功した。

 

「むぅ! キュウコン、『じんつう…」

 

「『ふいうち』!」

 

 脱出したジメレオンにあの強力な『じんつうりき』が向けられる寸前、ジメレオンの黒くオーラに染まった腕がキュウコンの体を貫いた。

 

「コ、コォン…」

 

『キュウコン戦闘不能。ジメレオンの勝ち!』

 

『うおぉぉぉぉ!!!』

 

 流れるような攻防の末なんとか勝利を勝ち取ることができた。

 これでやっと一体目…

 

「キュウコン、よくやってくれた。君は休んでおいてくれ」

 

 カブさんはキュウコンを戻すと次なるポケモンを出してきた。

 

「いけ、セキタンザン!」

 

 カブさんが出してきたのは、あのセキタンザン。

 ユウリとカモネギに敗れたがあのセキタンザンが行うキョダイマックス、そして『キョダイフンセキ』は脅威だ。

 

 気がつくと右腕のダイマックスバンドが赤い光を放ち始めている、バンドから「やれ」という意識が伝わってくるようだ。

 

「ジメレオン!」

 

「セキタンザン!」

 

「「ダイマックスだぁ!!!」」

 

『うおぉぉぉぉ!!!』

 

 お互いが腕に嵌めたダイマックスバンドが光り輝く。

 ポケモンをボールに戻すと大マックスバンドに蓄えられたエネルギーがボールへと流れ込み巨大なサイズになる。

 

 それをなんとか両手で持ち支え後方に向かって一気に投げ飛ばす。

 …ちらりと見えたがカブさんは片手で目から炎を燃やしながら投げ飛ばしていた。目から炎って出るんだなあ。

 

 そんなくだらないことを考えている間にも巨大化したボールから現れたポケモンがどんどんと大きくなっていきついにこのスタジアムを埋め尽くすほど大きくなった。

 

『メエェレェオォォン!!』

 

『ダァァァンザァァァン!!』

 

『うおぉぉぉぉ!!!』

 

 大迫力な二匹のポケモンに観客の盛り上がりも最高潮に達する。

 ちらりと観客席、その一角を見る。

 

「アカツキ!お前なら勝てるぞ!」

 

「負けたらカレー作りなさいよね!」

 

「が、がんばり!」

 

「うららあ♪」

 

 声はここまで聞こえない、届かない。

 だけど伝わってくる。何か温かいものが。

 この温かさは、決してカブさんの熱にだって負けない!

 

「良い眼になった、それでこそ君を倒し概がある!」

 

「行きます!」

「ジメレオン、『ダイストリーム』!!」

 

『メェレオォォォン!!!』

 

「セキタンザン、『キョダイフンセキ』!!」

 

『ダァァァンザァンン!!!』

 

 ダイマックスエネルギーによって何倍にも強化された激流とセキタンザンの生みだした巨大な岩盤が激突する。

 だがいかに巨大な力を有する激流でも超巨大質量を真正面から崩すことはできなかったようだ。

 

「これがセキタンザンの『キョダイフンセキ』だ!」

 

 『ダイストリーム』を受け止めきった『キョダイフンセキ』がジメレオンに向けて倒壊してくる。

 

「ジメレオン、舌で岩石を絡め取れ!」

 

 だがダイマックスはただの大怪獣バトルではない、大きくなったポケモンの利点を最大限に生かすのだ。

 ジメレオンの舌は巨大な岩盤を絡め取ると、しなりを利用して上空へと持ち上げる。

 

「なんと!」

 

「そのままセキタンザンに叩きつけろ!」

 

『レオォォォン!!!』

 

「『ダイウォール』だ!」

 

 セキタンザンに向けて振り下ろされた『キョダイフンセキ』は『ダイウォール』によって打ち消されて消える。

 本来なら倒壊してバラバラになった岩石は継続的にこちらのポケモンを傷つける厄介な代物だったがこれは好都合だ。そして今攻撃を打ち消したばかりのセキタンザンは無防備な姿をさらしている!

 

「ジメレオン、『ダイストリーム』!」

 

 再び打ち出された激流はセキタンザンの巨体を飲み込んでいく。

 セキタンザンのタイプは炎・岩タイプ。これ以上のない有効打、一発K.Oすらあり得る有利相性だ。

 

 激流に飲み込まれたセキタンザンがその巨体を崩し、膝をつく。やはりかなりの大ダメージを負っているのは明白。ここで終わらせる!

 

「とどめだ、『ダイストリーム』!」

 

 先ほどの『ダイストリーム』によって『雨』と化した空からは大雨が降り始め『ダイストリーム』の威力はさらに上昇する。もはやここまでと誰もが思っただろう。

 だが、炎の男カブさんの目から炎が全く消えていなかった。ここまで絶望的な状況に陥ったというのにまだ、なにがあの人の炎を絶えさせていないのだ。

 

「セキタンザン、燃やし尽くせ!」

 

 カブさんの声はザァザァと降りしきる雨音すらかき消しセキタンザンの下へと届く。

 

 冷たい雨の雫を受け、膝をついたキョダイセキタンザンの目から、体から、全身から炎が噴き出しはじめる。なんだこれ!?

 

 全身から圧倒的な炎と煙を吐き出し始めたキョダイセキタンザンの巨体が宙に浮き上がる。

 思考が停止する。

 …そういえば、ユウリとの最後のバトルの時も飛んでいたっけ?

 

 そして対象を見失った『ダイストリーム』が不発に終わると、直後に上空から『ダイバーン』と思わしき豪炎がジメレオンを襲う。

 『雨』の効果もあり大したダメージとはならなかったが変化は劇的であった。降りしきる『雨』は蒸発し、カラカラとした『ひでり』の天候がフィールドを塗り替えてしまう。

 

 ド迫力の大攻防にかつて聞いたことがないほどの歓声が沸き上がるがこれは不味い、本当にまずいとトレーナーとして培ってきた思考が警鐘を鳴らしてきているのがわかる。

 

 そして空からキョダイセキタンザンが舞い戻ってくるとどちらもダイマックスエネルギーを使い果たしたのか元のサイズに戻ってしまった。

 

「…今のは一体?」

 

「セキタンザンの特性『じょうききかん』だよ。水タイプか炎タイプの技を受けるとセキタンザンは体内の石炭を最大まで燃やして素早さを上昇させる。それを利用すればあれほどの巨体でも浮き上がらせるくらいわけないんだ」

 

 そしてカブさんの言葉の通りユウリとカモネギが戦っていた時とは比べ物にならない速度のセキタンザンがジメレオンに攻撃を開始する。恐らくあの全身から噴き出している蒸気がセキタンザンのスピードを何倍にも増幅させているのだろう。

 そんなことを考えていた一瞬でセキタンザンはジメレオンへと体当たりを食らわせ吹き飛ばしてしまった。

 

「ジメレオン、『みずでっぽう』!」

 

「構わない、突撃だ!」

 

 『ひでり』に晒され威力も速度も弱々しくなった『みずでっぽう』では加速したセキタンザンを捉えることがでなかった。

 駄目だ!速すぎて話にならない。

 何度も大質量の突撃攻撃を食らったジメレオンがついには大きくはね飛ばされ、地に伏す。

 

「『ヒートスタンプ』」

 

「ジメレオン!」

 

 カブさんとセキタンザンの怒涛なる追撃に、俺はただ叫ぶことしかできなかった。

 

 

『ジメレオン戦闘不能。セキタンザンの勝ち!』

 

『うおぉぉぉぉぁぁぁ!!!』

 

 圧倒的有利不利すらもねじ伏せる力と経験、そしてそれを実現させうる手腕。

 これが、ジムリーダー・カブ……

 

「さあ、最後のポケモンを出すんだ」

 

 

 そして俺はこの日、初めてジムチャレンジで敗北した。

 

 

 

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