人生初のポケモンバトルを終えたアカツキ。ダンデから『ジムチャレンジ』の推薦を受けるために次なる目標としてポケモン図鑑の入手を言い渡される。
「よし、俺はカーちゃんに伝え終わったぞ。次はアカツキのおばさんにだな」
小さな町なのでアカツキの家まですぐだと歩いて向かう途中ドカーンと何かの壊れる音がした。三人が急いで家に向かうと町から森へと続く道に作られていた柵が壊されていた。
「どうしてこんな…もしかして昨日のウールー?」
「あいつ昨日『たいあたり』してたもんな、まさか中に入ってったのか」
派手に壊された柵には何度も叩かれたような跡ができている。
「この柵を壊すなんて…一晩中『たいあたり』してたのかしら」
「それより不味いぞ、この先の森は誰であろうと入っちゃいけないんだ。前に森に入った博士の孫がひどい目にあったって話だ」
「大変だ、すぐにウールーを探しに行かないと!」
三人は顔を見合わせると無言でうなずき森へと走り出した。
森の中は昼間のはずがとても薄暗く、霧も出ている。早く見つけなければと逸るアカツキとホップをユウリが静止する。なんだかんだでこの中で一番強く経験を積んでいるのはユウリである、まあ経験とは主にいたずらや大人が引き留めるのを無視した危険な冒険なのだが。
「ユウリはこの森には入ったことあるの?」
「無いわ、柵を壊したときに入ろうかと思ってたけどお母さんにしこたま怒られて諦めたわ」
「その割にはあんまり楽しそうじゃないね。こういうところに来るの好きなんでしょ?」
「そりゃあ好きだけどこんな状況で楽しんでる暇なんか無いわよ、それに今はポケモンバトルの方が楽しいしね」
ユウリの指示に従い森を進んでいく。たまに草むらから飛び出してくるポケモンを時に静かにやり過ごし、時に逃げ出し、時に実力行使で対応していく。しばらく森を進んでいると森の奥からなにかの遠吠えのような声が響いた。体の芯にまで響いてくるその声にたまらず三人は足を止める。
「なんだ今のは、なにかの鳴き声か?」
「すごい鳴き声ね。これがポケモンの鳴き声なら多分相当強いわ」
「うん、今の声は何というかすごい力を感じたね」
「でも立ち止まってなんていられないぞ、こうしてるうちにもウールーが心配だ」
ホップの言葉に同意すると三人はさらに森の奥へと進んでいく。益々霧の強くなり数メートル先もまともに見えなくなる森にさすがのユウリも危険を感じえなくなってくる。これ以上は自分たちの手に負えないかもしれないとユウリが考え始めた時、少し開けた場所に出る。
「道が開けたけどもう何も見えないな」
「うん、なんだかちょっと嫌な気配もするね」
「さすがにここまでかしら。あとは大人にでも頼って……」
そうユウリが言葉を発した時霧の奥からなにかの足音が聞こえてくる。思わずその方向をみつめるとザッ、ザッという音が近づいてくる。三人はいつでもポケモンを出せるよう腰に手を伸ばし、モンスターボールを握り霧の先を見据える。
『ウルォーーード!!!』
ビリビリという音とともに空気がそして三人の体が震える。先ほど遠くから聞こえた声ですらその力を感じさせたほどの遠吠えだ。気が飛びそうになるのをこらえてボールからパートナーを呼び出す。
「いけ、メッソン!」
「頼むぞ、ヒバニー!」
「お願い、サルちゃん!」
三匹のポケモンが飛び出しすぐさま臨戦態勢を整える。霧によってまともに周りも見えない状態だがなんとか声の主の輪郭が見えてきた。青い体毛、橙色の長く編まれたたてがみ、逞しい四本の足で大地を踏みしめ悠然と歩くその姿は王者の風格すら感じさせる。戦いの口火を切ったのはホップとヒバニーだった。
「ヒバニー、『たいあたり』」
「ヒバッ!」
そのポケモンに一切おびえることなく走りだすヒバニー、先ほどのポケモンバトル以上のスピードを出し謎のポケモンに接敵する。そして『たいあたり』が直撃した瞬間、ぬるり…と謎のポケモンの輪郭が崩れると突撃したはずのヒバニーがポケモンをすり抜ける。
「え、こいつ…技が効いてないぞ?」
自分に突撃してきたヒバニーの姿を謎のポケモンはじっと見つめている。それを好機と判断したユウリが指示をとばす。
「サルちゃん、『えだづき』」
サルノリは持っている木の枝に緑色のオーラをまとわせ謎のポケモンに叩きつける。しかし、またしてもぬるりとその姿が崩れサルノリの技が不発に終わる。
今度は何かを感じたのか謎のポケモンが体を震わせると周囲の霧が濃くなる。先ほどですら数メートル先も見えなかった霧が濃くなり三人は自分と自分のポケモン以外判別ができなくなる。
「アカツキ、何も見えないけど大丈夫か!」
「うん、なんとかね。メッソン、『みずでっぽう』」
三人の中で唯一まだ謎のポケモンの輪郭が見えていたアカツキはメッソンに技を指示する。『たいあたり』や『えだづき』のような直接触れる技は不発に終わった。ならばと特殊技に分類される『みずでっぽう』で攻撃を仕掛ける。しかし、メッソンの放った『みずでっぽう』すら謎のポケモンの姿を捉えるには至らない。
「こいつ、無敵か!?」
謎のポケモンには物理技も特殊技も通用しない。その事実に三人も三匹も驚きを隠せない。こんなポケモンどうやって倒せばいいのかと考えを巡らせていると周囲の霧がさらに濃くなる。ついには自分の体すら判別不可能なほど霧が濃くなるとなぜか気が遠くなり三人は気を失ってしまった。
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「う…ここ、は」
「く、なんだか体が重いぞ」
「あたしとしたことがこんなところで気を失うなんて…」
未開の森、深い霧、そして謎のポケモン。これらから生じる極度の緊張感により三人は気を失ってしまっていた。三人が目を覚ますと周囲の霧は森に入った時と同じくらいにまで減っていた。ポケモンがモンスターボールの中に戻っていることを確認すると安堵の息がこぼれる。
「ホップ!アカツキ!ユウリ!」
そうしていると道の方からダンデが走ってやってくる、鬼気迫る表情だ。どうやらいつまでたっても研究所に来ない三人が心配になり探しに来たようだ。
「アニキ、方向音痴なのによくこれたな」
「珍しいこともありますね。いつもなら探しに行った自分が迷子になってたのに」
「お前たち…心配させたのに何を言ってるんだ!」
変わりのない弟と女の子に呆れながら怒気を強くする。三人は立ち入り禁止の森に入り気を失っていたのだ、今回は無事だったからといって次無事であるかの保証はない。旅を重ね、数多の遭難を体験したダンデはそれを知っている。鬼気迫るその声と表情に三人は素直に自分たちの非を認める。
「そ、そうだウールー。アニキこの森に入っていったウールーを知らないか!?」
「安心しろそれならほら」
ダンデの視界の先にリザードンと一匹のウールーが見える。間違いなく昨日柵に突撃していたウールーである。それを見た三人は安堵の息をつく。
「よかったな、霧に包まれたり変なポケモンと戦ったりしたけど無駄じゃなかったぞ」
「変なポケモン?三人とも何を見たんだ?」
三人はさきほど戦ったポケモンのことを正直に話す。普通の野生のポケモンにはない風格を醸し出し、どんな攻撃技も無効にしてしまう不思議なポケモンだと伝える。
「ふむ。それはもしかしてまどろみの森に住むといわれる幻なのか?」
「知ってるんですか?」
「いや、詳しいことは俺も知らない。だがお前たちがもっと強くなればいつかその正体がわかるかもしれないな」
チャンピオンすら知らないというポケモンと出会い、戦った事実に三人は沸き立つ。
「アニキには怒られたけどすごい体験だったな!俺の伝説の1ページになるぞ!」
「俺も俺も!」
「あたしもあたしも!」
そんな三人を見てダンデも過去に思いを馳せる。まだトレーナーになったばかりの頃は強い野生のポケモンに挑み何度もボロボロになったものだと、そのすべてが今の彼を形作っている。新しい体験はポケモンを強くし、トレーナーも強くする。ガラル地方の未来を見据えるダンデの胸は誇らしくなる。
「さて黙って森に入ったのはアウトだがポケモンを気に掛けるその勇気は認める、よくやったな!」
そういうとダンデはホップの頭を捕まえるとわしゃわしゃ撫でる。力強いその手で撫でられたおかげでホップの髪の毛はボサボサだ。
「うわぁ、アニキやめてくれ!恥ずかしいぞ」
「何を言ってるんだ、心配かけたんだから当然の報いだ」
いつもはアニキアニキと自慢げに語るホップだがさすがに誰かの目があるところでされるのは気恥ずかしいようだ。そんな仲睦まじい兄弟の姿を眺めながらユウリとアカツキはニヤニヤと笑う。
「アカツキ、ユウリ!アニキを止めてくれー!」
「いやいや」
「家族の問題によそ様が入り込むわけにはいかないわね。アカツキ、先に行ってましょ」
「そうだね」
「この薄情者ー!!!」
「リザードン!二人を頼んだぞ」
「リザァ!」
そうしてホップを置き去りにしたユウリとアカツキはダンデのリザードンに護衛されながら森を抜け、無事ハロンタウンに戻るのであった。