剣盾旅記録   作:鳴神ハルキ

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三部作構成の二作目です。
『41、再戦 vsカブ』を見ていない方はそちらから見ることをお勧めいたします。


42、譲れぬ戦い vs炎の関門・カブ

 

 

 パルスワンが倒されたことによってついに試合が動く。

 

『うおおおぉぉおぉぉ!!!』

 

 一手目に放たれた『もえつきる』による攻撃の波動が観客の恐怖心をあおらせ、今まで大きな歓声が上がることが無かった。

 しかし、パルスワン倒れたこと、序盤から思いもよらない波乱と怒涛の展開、それを見守っていた観客の興奮が爆発し大歓声がスタジアムを包む。

 

「戻ってくれパルスワン」

 

「ァォン…」

 

 ボールに戻る際パルスワンの言葉にならない声が聞こえた。あれだけの特訓を乗り越えたというのにウインディを倒せなかったという悲痛な叫びだ。

 

「お前の仇は仲間が必ず取ってくれる、だからしっかり休んでおいてくれ」

 

 ボールに戻したパルスワンにそういうとコロンと手の中で転がった。

 そのパルスワンのボールを腰に戻してから次のボールを手に持つ。

 

「見事な戦いでした」

 

「それはこちらの台詞だよ、僕としては初めの『もえつきる』でパルスワンを倒そうと考えていたんだけどね。予想以上の戦いを強いられてしまったよ」

 

「倒せなかったのは悔しいですけどね。それでも、まだ負けたわけじゃないですよ!」

 

 パルスワンの分の悔しさを乗せてボールを強く握る。そのボールを力の限り投げ飛ばす。

 

「任せた、ロコン!」

 

『おまたせ!』

 

「…次はロコンか」

 

 ボールから勢いよく飛び出したのはロコン。

 その首元には赤く、よく使いこまれた跡のある古いスカーフが巻きつけられていた。

 ロコンの最終試合となる今回の戦い、今までは痛んだりすることが無いように大切に保管していたがロコンの最後の舞台ということで巻いてきたのだ。

 

「格好いいぞロコン!」

 

『気合全開!見ててねリーダー!』

 

 ロコンも憧れのリーダーのスカーフを巻いていつも以上に気合を入れこんできた。

 その様子を見ていたカブさんがふっと笑う。どうやら俺達の気迫が伝わったようだ。

 

「さあ行くぞ、『やきつくす』!」

 

「コォォォォ、オン!」

『くらえ!』

 

 ロコンの口から大きな炎が吐かれる。

 ロコンのやる気と連動しているかのように燃え上がる炎はまっすぐと飛んでいきウインディの体を焼き尽くす。

 

「くっ、ウインディ!」

 

「さっきパルスワンを戻した時に調べました。『もえつきる』を使った後、そのポケモンは炎タイプを失うんでしたよね!」

 

 『もえつきる』は正真正銘体の中の全ての炎を消費する技。この技は強力な威力の反面、使った後は炎技が使えなくなるどころかタイプすら失ってしまうかなりハイリスクな技だった。

 そしてウインディは純粋な炎タイプのポケモン、そのウィンディが炎タイプを失うということは今のウインディにはタイプ相性というものが存在しない。

 

「つまり、こっちは自慢の炎技をいくらでも使えるってことだ!」

「とどめの『おにび』!」

 

 先のパルスワンとの試合で重要な脚という部位を大きく負傷したウインディに遠距離から一方的に放たれる攻撃を防ぐ術はない。

 

 『やきつくす』の炎に苦しむウインディにさらなる炎が追い打ちをかける。

 ウインディの周囲を埋め尽くすほどに作り出された『おにび』、その一斉投下の大爆発を受けたウインディは爆発の中心地で目を回して倒れていた。

 

「ヴァ、ヴァゥゥ……」

 

「ウインディ…」

 

 

『ウインディ戦闘不能。ロコンの勝ち!』

 

『うおぉぉおぉぉぉ!!!』

 

 再び戦況は覆った。

 先ほどまでパルスワンと熱い死闘を繰り広げていたウィンディがなすすべもなくロコンに敗退した。小さな体のロコンがどれほどの力を持っているのかということをこれでもかと見せつけ観客の盛り上がりをさらに大きくさせていく。

 

 

「戻ってくれ、ウインディ」

 

 戦闘不能になったウインディをボールに戻す。

 カブさんは次のボールを取り出す…ことはなくロコンに目を向けると興味深そうな目で見てくる。

 

「ロコン君は以前より大きく成長したようだね」

 

「…わかるんですか?」

 

「これでも炎タイプを専門にしているからね。それに、この子も元はロコンだったからね」

 

 そういって腰のボールを取り出す。

 ロコンはボールの中からでも感じる同族の気配を感じ取ると先ほど以上に警戒心を強める。あの中にいるポケモンとは、

 

「頼んだ、キュウコン!」

 

「…キュ、コン」

 

 ボールの中からとても落ち着いた表情の美しいポケモンが現れる。

 そのポケモンが立ち上がるとそれにともなって九本の美しい尻尾も立ち上がる。ロコンも対抗しようと六本の尻尾を立てて対抗心を燃やす。

 またしても実現したロコンとキュウコンによる進化前と進化後によるドリームマッチ。

 

 ぬいぐるみの様に愛らしい外見にボロボロのスカーフが巻かれることで、勇敢さを増したロコン。

 美しい工芸品のような尻尾を携え、進化後のポケモンとしての風格を持ち合わせたキュウコン。

 この人目を引く対決は会場の熱気と興奮をさらに高めていく。

 

「こいつは大きな覚悟を決めました。以前のロコンだと思うと痛い目を見ますよ!」

 

「こちらも前回すべてを見せたつもりはない。受け切ってみせてくれ!」

 

 

「「『じんつうりき』!!!!」」

 

 

『うおおおお!!!』

 

「キュゥ……コォオォン!」

 

 両者の体から青白い光が立ち上る。

 その力は普通の人には見ることも感じることもできない不可視の力。だがその力は岩を砕き、天を裂く力を持つ。

 

 両者の力が衝突しあうと何もないはずの空間に軋みが生じる。遅れて会場中に何かが衝突したようなすさまじい風が吹き荒れる。

 前回はキュウコンとの圧倒的な力の差により敗北してしまった『じんつうりき』だが、今は互いに譲らぬ攻防を繰り広げている。合宿での特訓とロコンの気持ちと自信の充実、それが彼の神通力の制御を飛躍的に上昇させたのだ。

 

「この短い期間でこれほどの上達をするとは。若い才能というのは末恐ろしい!」

 

 二つの力がせめぎ合いその力の圧がトレーナーをも押し退けようとしてくる。カブさんも俺も腰に力を込め両腕で顔を守るようにしているがそれもいつまで保つことか!

 すると片腕で衝撃から顔を守っていたカブさんの口角がにやりと上がる。

 

「嬉しいよ若者。これだからポケモンバトルはやめられない!」

 

「な、なにを!」

 

「キュウコン、フルパワーだ!」

 

「キュウウウウ、、、コン!!!」

 

 カブさんの嬉しそうな声とともにキュウコンから放たれていた力の圧が増幅する。

 その力の圧は、明らかにロコンを上回っている!

 

「ロコン!」

 

「ッ…コン!」

『ぐぐっ、これは…まず――!』

 

「吹き飛ばせ!」

 

 真の力を解放したキュウコンの『じんつうりき』がロコンの『じんつうりき』を正面から粉砕する。 

 『じんつうりき』が力づくで破られた反動と、敵の『じんつうりき』による衝撃がダブルでロコンを襲う。小さな体が吹き飛ばされてくる。

 以前よりは健闘できたがそれでもやはり力の差は大きいみたいだ。

 

 かなりのダメージを食らい震えながらもロコンは立ちあがる。その震えはダメージによるものか、それとも精神的なものか…

 

『これくらい平気、へっちゃら!』

 

 その震えを吹き飛ばすように力強くロコンは叫ぶ。そうだ、こいつは大きく成長した。その成長を見せてやる。

 

「ロコン、『スイープビンタ』!」

 

「神通力対決で負けたからといって近接勝負に切り替えたか。だが甘い!」

 

 カブさんの声とともにキュウコンは九本の尻尾を自在に操り始める。

 ロコンの振るう六本の尻尾が果敢にキュウコンを攻め立てるが、九本の尻尾はその攻撃を完全に受け止めていく。

 まるで遊ばれている。相手の方が尻尾を使った攻防では何歩も先を行っているのは明白だった。

 

「数も制御も相手が上か!」

 

「さあキュウコン、君の力を見せてやれ!」

 

 カブさんの声とともにキュウコンの持つ九本の尻尾の内、六本が勢いよく飛び出す。それらは巻き付くようにロコンの六本の尻尾を押さえつけると、完全に拘束してしまった。

 そして、キュウコンにはまだ三本の尻尾が残されている!

 

「お返しだ!」

 

 キュウコンの三本の尻尾は、ロコンの放つ『スイープビンタ』よりも速く鋭い一撃となってロコンの体を強打していく。

 

『ぐっ、ぐうう!』

 

 一撃一撃が重い音となりロコンの体を打ち付ける。ロコンも身じろぎをするが六本の尻尾はびくともせず、三本の尻尾が攻撃を続けていく。

 キュウコンも自慢の尻尾の扱いに得意げな顔だ。

 

 

 だが、

 

『うおぉぉ!』

 

 ただただ攻撃にさらされると思われたロコンの体から神通力特有の青白い光が湧き上がり始める。

 キュウコンは至近距離で攻撃を食らうのはまずい、と判断し拘束を一層強めることで神通力の制御を崩しにかかる。

 

『へへん、そう上手くいくもんか!』

 

 だがロコンは『じんつうりき』を敵にぶつけるのではなく、身に纏った。

 

 ロコンの体に『じんつうりき』のパワーが宿り、小さな体からは想像もできないであろう万力の力を発揮する。そしてその力をフルに使い、キュウコンの拘束を力づくで破りさる。

 その圧倒的な筋肉パワーを同族だからこそ理解ができない、とキュウコンの表情が語っている。

 

「そのまま『スイープビンタ』だ!」

 

 二匹に距離はもはや存在しない。

 キュウコンに拘束され一方的に責め苦を受けていた先ほどから一転して、ロコンが攻勢に入る。

 

「キュウコン、ガードするんだ!」

 

 カブさんもキュウコンに指示をとばす。

 だが『じんつうりき』を纏ったロコンの『スイープビンタ』は「暴風」の一言に尽きる。

 

 先ほどまでは速度、パワー、尻尾の制御、数。全てにおいてキュウコンがこちらを上回っていた。

 

 しかし、『じんつうりき』によって強化されたロコンの攻撃は速度とパワーの面でキュウコンを大幅に追い抜かし、圧倒的な暴力となって襲い掛かっている。

 

 先ほどまで悠々と受け止めていたはずの攻撃は、一撃一撃がキュウコンの尻尾にビリビリとした痛みと鈍痛による強力な痺れを残していく。

 

 その痺れがキュウコンの動きを鈍らせ、制御の巧みさと数では攻撃を捌ききれなくなっていく。

 

「キュ…!」

 

『ッ、そこ!』

 

 そしてついにロコンの『スイープビンタ』がキュウコンの体に大きな一撃を入れる。

 予想以上の威力にキュウコンの態勢は大きく崩れ、そこからキュウコンの防衛は瓦解していく。

 崩れた体勢で使えなくなった二本の尻尾が数の優位を無くし、ロコンの攻撃が一発、さらにもう一発と連撃となり叩きこまれていく。

 

 こうなってしまってはもはやロコンの攻撃は止まらない。

 キュウコンにはどんどんと攻撃による負傷が増えていき、迫りくる攻撃は冷静な思考を奪っていく。苦しい顔をしたキュウコンは防戦一方となりこちらの独壇場となっていく。

 

 

「いけ、そのまま倒すんだ!」

 

 

 ロコンも俺もキュウコンをあと一歩で倒せると想い、思考がどんどんと過熱していく。歓声が心地よく、前回のリベンジマッチとばかりに苛烈な攻撃を加えていくロコンの姿に会場中から声援が送られていく。

 興奮は体の痛みを遠ざけ、ロコンは『じんつうりき』による体への反動も怖くないとばかりにさらなる攻撃を加えていく。

 

 

 

 果たして、追い詰められて思考が鈍くなっていたのはどちらだったのか。

 キュウコンはとっくに防御の態勢を元に戻していたというのに、防御に回した尻尾の数が七本のままなのはどうしてだったのか。

 

 

 

「…そこだ、捕まえろ!」

 

「キュウウウ!」

 

 スタジアムの地面を突き抜け、二本の美しい尻尾がロコンの体を絡め取る。

 

『な!?なんでこんなところから!?』

 

 尻尾は体全身ががんじがらめにしロコンを完全にとらえてしまう。

 

『このくらいすぐにでも…!』

 

『…甘いですね』

 

「な!?」

 

 今まで聞こえていたロコンの声に重なり別の声が頭に響く。この感じ、ロコンが使う神通力による念話!

 この場でそんなことができる存在はロコンを抜いてただ一匹。

 

『発想は素晴らしい。ですがまだ色々と甘い技です』

 

「まさか、キュウコンの声?」

 

『その通りです、チャレンジャー』

 

 キュウコンは首を縦に振り同意を示す。

 今まで聞こえていた鳴き声ではなくはっきりとした言葉として彼女の声が頭に響いてくる。

 

『なんのこれ………し…き。あ、あれ?力が?』

 

『君が体にかけていた『じんつうりき』は解除させてもらいましたよ』

 

『えぇ!?』

 

「そんな!?」

 

「キュウコンはロコン君よりも長く深く神通力に精通している。今のロコン君の神通力くらい自力で解除させるくらいわけはないさ」

 

 カブさんが自信満々にそう言ってのける。

 腕を組み、鼻から荒い息を吹き出して自信満々の様子だ。

 

『……はぁ、どうして貴方がそんなに胸を張っているんですか』

 

「よく一緒に修行をしたじゃないか。トレーナーとして君の成長ほど嬉しいことも無いよ」

 

『……ふん、いつになっても変わらない主だこと』

 

 口を尖らせたのもつかの間、カブさんの満面の笑みを受けてぷいと顔を逸らすキュウコン。

 ツンデレだ。

 

「って、そんなことを考えている場合じゃない。脱出するんだ!」

 

『む、無理だよ。さっきから何度も使おうとしてるのにうまくできないんだ!』

 

 拘束されたロコンはキュウコンに神通力の制御を乱されてしまい、うまく神通力が扱えなくなってしまったらしい。

 

『無理に使えばおそらく爆発、ですかね』

 

「爆発!?」

 

 無理に使えば爆発すると言われた。そんなの封じられたのと変わらないじゃないか!

 さらに畳み掛けるようにして、遅れてやってきた反動がロコンの体を蝕む。

 

『くっ、がああああ!』

 

『もう十分頑張ったでしょう、お眠りなさい』

 

 『じんつうりき』による反動に加えてギリギリと締め付けるキュウコンの尻尾がロコンの気力と体力を削っていく。

 

『こんな、ところで負けていられないのに!』

 

『これが力の差というものです。またの挑戦、期待して待っていますよ』

 

 キュウコンの優しげな声とは裏腹に、さらにきつく縛り上げられていくロコン。

 そして、

 

「ロコン!」

 

 ついにロコンの体がだらんと力なくぶら下がる。トレーナーとしてわかってしまった、ロコンの意識が途切れてしまったことが。

 

 

『うおおおぉおおぉぉお!!!』

 

 逆転による逆転に会場がさらに盛り上がっていく。

 進化後のキュウコンが力の差を見せつけ、さらにその後ロコンが未知なる技で戦況を逆転させる。しかし、それでもなおキュウコンとジムリーダーがロコンとチャレンジャーの上を行った。観客として見ていればこれほど盛り上がるバトルもそうはないだろう。

 

 それでも、先ほどまで耳に入ってきていたロコンコールがいつの間にかキュウコンコールに早変わりしているのはなんだかすごく悔しい。

 

「そういうものだ、若者」

 

 カブさんが人生の先輩として語り掛けてくる。

 きっとカブさんもこういったことをなんども経験し乗り越えてきたのだろう、声に実感が積もっている。

 

『現在、ロコンの状態を確認しております』

 

 そして審判がロコンの映像を疑り深く観察している。

 キュウコンの2本の尻尾に絡め取られ、だらんと釣り下がるロコン。俯いた彼の表情が首に巻いたスカーフでよく確認できていないようだ。

 ロトムドローンが近くにまで近づきそのスカーフを退かそうと頭のとんがりをひっかける。

 

 

『ッ! だめ!』

 

「ロ、ロト!?」

 

 すると気を失っていたはずのロコンがスカーフを触られたことによって気を取り戻す。

 その表情は大切な宝物を取られそうになって必死で覚醒した、という危機の迫り方だった。

 

『なんと、まだ意識があったのですか』

 

『ロコン、戦闘継続です!』

 

 意識のあるうちはバトルは終わらない。ロコンが復活したことで審判からバトル継続の宣言がされる。

 それでも現状は何も変わらない。少しばかり戦闘不能が遅くなっただけだ。

 

『ぐぎぎ…負けられない!』

 

 ロコンは諦めず必死に力を込めるが拘束は緩まない。

 この状況を打開できるのはきっと俺だけだ。トレーナーとしてこの状況を打破するにはどんな指示を出せばいいい?

 『やきつくす』と『おにび』は効かない、『スイープビンタ』は通用しない、『じんつうりき』は制御を乱されて使うと暴発してしまう。

 詰み、かと思いかけた。

 

 あれ?『じんつうりき』は使ったら暴発させられるだけで使えないわけではないのでは?

 いや、だが、それはどうなんだろうか……ロコンは既に戦闘不能ギリギリであり暴発して爆発なんて食らったら耐えられないだろう。それにトレーナーとしてさすがにそんな指示を出すわけには……

 

『アカツキさん!何か思いついたの!?』

 

 ロコンが嬉しそうな顔をする。

 そいえばロコンの心と繋がっているこの状態では思考が筒抜けになるのだった。俺が考えていたことが全てではないにせよロコンに伝わってしまい彼に希望を持たせてしまったらしい。

 

『ボク、このバトルに絶対に勝ちたいんだ!』

『だから、この勝負だけ!ボクに!ありったけを出させて!』

 

 ギリギリと締め付けられ苦しそうな顔をするロコン。

 念話を介してロコンの言葉、気持ち、覚悟、すべてが本当だと伝わってくる。

 

『それにアカツキさんの指示だったら絶対後悔なんてしない』

『だって今までもそうやってボク達は助けられてきたから!』

 

 叫ぶ。

 

『…おしまいです。このまま倒れてしまいなさい』

 

 キュウコンが縛ったままのロコンを頭から地面に振り下ろす。

 もう躊躇している時間はない。

 最後に、ロコンの眼を見るとどこまでもこちらを信じている眼だった。

 

「ッ!ロコン、『じんつうりき』だ!」

 

『まっかせろぉい!!!』

 

『!?』

 

 キュウコンの顔が驚愕に染まる。先ほど神通力が使えないぞ、といったばかりだというのになんて無謀な奴だという顔だ。

 そして『じんつうりき』を発動させるため体から青白い光を出し始めるロコン。だが、当然のように制御を阻害されてしまい光は不規則に揺れ始める。

 

『アカツキさん!これからどうするの!?』

 

「爆発」

 

『え?』

 

「爆発」

 

ドッカアアアアン! 

 

 キュウコンの忠告の通り『じんつうりき』は暴発し、爆発した。

 

「なあっ!?」

 

『ぐうううう!』

 

 ロコンを縛り付けていたキュウコンの尻尾ごと自爆を引き起こしたことでキュウコンに大きなダメージが入る。まさか相手が自爆してくるとは思わず、カブさんもキュウコンも驚愕の表情をしている。

 その後、爆発の煙の中から何か小さなものがくるくる回転しながら飛んでくる。よく見れば、それは爆発により拘束から脱出をしたロコンでありスタッ!と綺麗に着地する。

 

『し、死ぬかと思った!』

 

「ロコン、俺も嫌だったんだ。でもお前がやるって言うから…」

 

『ボ、ボクのせいにするの!?』

 

 ロコンが信じられないものを見たというような目で見てくる。先ほどまで絶対の信頼を置いていた眼の中にほんのり不信の影がちらついた。

 

「さあ、反撃と行こうか!」

 

『…そうだね』

 

 ロコンが拘束から抜け出したことでようやくバトルに戻ることができた。

 しかしロコンも既に満身創痍。一度は戦闘不能になりかけ今の爆発で大きなダメージも負った、もはや後一撃で終わってしまう体力なのは明らかだ。

 それでも勝機を見出すとすれば、

 

「――――っていう作戦だけど、どうだ?」

 

『……うん。少し怖いけど、リーダーならきっとそうするよ』

 

「じゃあ、頼んだぞ」

 

「うん!!」

 

 ロコンと最後の作戦会議を終えキュウコンを見据える。

 キュウコンも今までのバトルでかなりのダメージを負ってもうフラフラなはずだ。この作戦を通すことができればきっと倒せるだろう。

 

「作戦はまとまったようだね」

 

「…はい!」

 

 不敵に笑う笑みは、こちらのことなどお見通しということだろう。

 

「だからこそ!乗り越えてみせる!」

 

『うおおおお!!!』

 

 ロコンが再び『じんつうりき』を捻出する。体への負担を考えてもおそらくこれを終えた後に待つのは確実な戦闘不能だろう。だが、ロコンはそれを受け入れた。ならば、俺に出来ることは最高のタイミングで指示を出す。それだけだ!

 

「いけ!」

 

「その手はもう食らわない!」

 

『はあああああ!!』

 

 キュウコンへと突撃を始めるロコン。

 そしてキュウコンの方はというとロコンの最後の攻撃を受け切るためか防御の態勢を取る。

 

 キュウコンの姿。それはまるで花の蕾だった。

 九本の尻尾がキュウコンの体を包み込み、アイアント一匹通さない防壁を作り上げる。これでロコンの攻撃を受け切ろうという算段なのか。

 

「受けて立つ、いけえ!」

 

『うおおおおお!!!』

 

 ロコンは捻出した『じんつうりき』を全て尻尾に集め、全身全霊を込めた一撃を放つため大きく跳躍をする。

 跳躍して生まれた落下のエネルギーと六本全ての尻尾の力を束ねたエネルギーを合わせながらキュウコンに迫っていく。

 

 

「そう来ると思っていたよ!」

 

 すると今まで完全に防御の姿勢を整えていたキュウコンの尻尾がガバァッ!と開く。それはまるで虫を誘い込み食すという食虫植物のような姿だ。

 

「君達ならこうして防御の姿勢をとれば真っ向から挑んでくると思っていた!」

 

 カブさんは嬉しそうに叫ぶ。

 開いた九本の尻尾は先端を尖らせると、空中で身動きの取れないロコンに向けて殺到していく。

 

 一本目の尻尾がロコンの顔をかすめスカーフをはぎ取っていく。さらに二本目三本目がすぐそこまで迫って来ており絶対絶命なのは明らかだった。

 

 

 

「今だ!」

 

 そして俺の掛け声とともにロコンが力を解放する。

 集めていた『じんつうりき』の力は彼の身体能力を向上させる、のではなく空に舞ったスカーフを掴み取る。

 

「なに!?」

 

 見当違いの力の使い方にカブさんが目を丸くする。

 ロコンは掴んだスカーフを動かし、最初に顔をかすめた一本目の尻尾に巻き付かせる。

 

『なにを!?』

 

「それに掴まれ! 尻尾スライダーだ!」

 

『了解! ヤッホー!』

 

 尻尾に巻き付いたスカーフ。

 それはまるで滑車のように尻尾の上をスライドしていきロコンの首のすぐ近く、今まさにスカーフをえぐり取った一本目の尻尾に沿って滑り降りてくる。それをつり革の様に掴み、ロコンは尻尾の方向に沿って空中で方向を転換させる。

 ロコンぼ動きが変わったことで残りの八本の尻尾全てが空かされてしまう。

 

 もはや行く手を阻む障害物は何もない。

 列車のつり革にぶら下がるようにして滑り降りていくロコンが向かう先は尻尾の終着駅、キュウコン本体。

 

「とどめだ!」

 

『くらえええええ!!!』

 

 今度こそ、正真正銘すべての力を注ぎ込んだ尻尾がキュウコンに向けて振り下ろされる。

 顔面に振り下ろされた尻尾の一撃はその衝撃を余すことなく伝え、脳天から地面までを一直線に貫き、

 

 

 

『……見事』

 

 

 

 キュウコンにとどめを刺した。

 

 

『キュウコン戦闘不能。ロコンの勝ち!』

 

 

『うおおぉぉおぉぉぉおおぉおお!!!!!』

 

 キュウコンが倒れ、審判の裁決が下される。

 逆転につぐ逆転、それをさらに覆す逆転劇。二転三転と転がる勝敗に会場中が湧き上がる。

 ロコンという進化前のポケモンがキュウコンという進化後のポケモンを下した。それもジムリーダーの操るポケモンを。

 

 

『ロコン!ロコン!ロコン!ロコン!』

 

 

 会場を埋め尽くすほどのロコンコール。

 ジャイアントキリングを成し遂げた若き勇者にあふれんばかりの歓声が送られていく。

 

「コン、コォォォン!!」

『えへへ、やったぜ!!』

 

 その歓声に応えるようにしてひとしきり大きく泣き声を上げた後、満足しながらロコンは気を失ったのであった。

 

 




ロコンとキュウコンの戦いだけで9000字行くとは思いもよらなかった。
有終の美を飾ろうとしたら書きたいことが湧き上がり過ぎてしまいました。
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