ピンク
それは一般的に赤と白を混ぜて作られるいわゆる女の子の好むタイプの色である。
ピンク色のきのみとして有名なものといえばモモンのみ。甘く瑞々しく、三時のおやつやデザートとして、もちろんカレーの材料にも使われる便利で素敵なきのみだ。
「あ、ピンクだ」
「ピンクね」
「よっすピンク」
「僕の名前はビートです!!!」
やせいの ぴんく が あらわれた!
「改めて見てもピンクだな」
「もこもこヘアーね」
「彼はビート、委員長大好き侍だよ」
「先ほどから人のことをピンクだのなんだの…」
ぐぬぬぬ、と顔をしかめて忌々しそうな顔をしているのはビート。委員長に並々ならぬ執着心を持っているエリートトレーナー(仮)だ。
ワイルドエリアに出た俺達はすぐに野生のビートと出会った。
彼は五日前にカブさんと戦っているところをモニターで見たので、とっくに次のジムまで向かっていたと思っていたので少し驚いた。
「僕には委員長やオリーブさんから任せられた大事な使命があるのです。 あなたたち凡百のジムチャレンジャーと同一視しないでいただきたい」
「ふーん、また何か頼まれてたの?」
「このワイルドエリアに出現するというダイマックスポケモンの捕獲ですよ。 数日前に大きな個体が現れたというので行ってみればすでにもぬけの殻、とんだ無駄足を踏まされたものです」
「…あ、それ多分俺が倒したドサイドンだわ」
「…いつもいつも僕の邪魔をする。ここであなたをコテンパンにしてジムチャレンジを諦めさせるのも一興ですか」
すっ、とモンスターボールを取り出すビート。
こちらもカブさんに勝って再スタートを決めたばかりだ、ビートを倒してさらに勢いをつけるのも悪くない。と、俺もボールに手を伸ばしたところでホップが割って入る。
「はい、ストップ。 お前達の仲がいいのはわかったけど俺達はナックルシティに急がないといけないんだからな、そこらへん忘れんなよ」
「(仲は)よくない」
「訂正しなさい」
「(息あってんじゃん) まあそれに、アカツキを倒すのは俺だからな」
ホップはにやっと笑って言い切る。
いつもビートと出会うとなぜだか対抗心やらが湧いてきて険悪なムードになっていたのだがホップが割って入ったことでこちらも毒気を抜かれてしまった。
「ま、そうだね。早く行かないとね」
「チャンピオンの弟、ホップ……」
そんな俺とは対照的にホップの顔をまじまじと見つめたビートは、しかし一転して顔を歪ませた後馬鹿にしたような態度をとる。
「ふ、この中で一番弱そうな君が言っても説得力のないことですね」
「なんだと!」
「バトルも勢いに任せた一辺倒、まともにボールすら投げられない。 これでは兄であるチャンピオンも案外大したことはなさそうですね」
「オレの投げ方は最強だし、アニキは最強のチャンピオンだ。馬鹿にすんなよな!」
そこから二人の口論が始まっていった。最初の方は主にダンデさんを皮肉ったりしていたビートの口の矛先は次第にホップに向いていき、ホップの方は初めにダンデさんを馬鹿にされたことで頭に血が上り熱くなってしまっている。
ホップは俺を諌めていた時とは一変してどんどんと冷静さがなくなっていっている。ダンデさんのことを馬鹿にされて視野が狭くなっているようだ。
「先ほどからアニキアニキと。そんなことだからバトルでも無駄な動きや指示が多いのです」
「アニキを馬鹿にするつもりか!」
「チャンピオンを、ではありません。あなたを馬鹿にしているのです」
「なッ!そんなに言うなら、オレとバトルしろ!」
「ちょっとホップ……」
さすがにこれ以上酷くなるとまずいと考えた俺が二人を止めようとするとユウリに肩を掴まれた。
「ああなったあいつは中々元に戻らないわ。こういう時は好きにやらせてあげましょう」
「でも……」
「ここで押し入ってもどうせまた喧嘩になるわ。だったらさっさと戦わせておいた方が後が楽よ」
確かに一理ある言い分だった。
このままホップとビートを引き離してもおそらく悔恨が残る。ならば一度戦ってはっきり白黒つけた方がいいというらしい。幼馴染というだけあってやはりこういう場面ではユウリの方がホップのことをよくわかっている。
「それに…」と言ってユウリは掴んでいた肩をバシッと叩いて言い切る。
「あんなもこもこヘアーに簡単にやられるほどあいつはヤワじゃないわよ!」
「……そうだね」
ビートは確かに強い。でもホップだって同じくらい強いはずだ、そんな簡単に負けるはずがない。
ホップは、
「先に行っといてくれ、すぐ追いつくからな!」
と言ってビューンと行ってしまった。
残った俺とユウリが先に進もうとしていたところで背中からビートに声を掛けられる。
「僕はワイルドエリアで戦いあの時よりもさらに強くなった。もうあんな奇跡は起きないと思いなさい」
俺が振り返るよりも先に、ビートは踵を返してホップの進んでいった方へと歩いていった。
「ビート……」
歩いていくビートの背中からなにかほの暗いものを感じながら、しかし俺に出来る事はなにも無いのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『アタシも新しいポケモン探したいし別行動にしましょ』
それからしばらくしてユウリとも別れた。
こういう時に思い切りのいいというか行動力の塊であるユウリはさっさと俺を置いていってしまった。
「結局一人になっちゃったな」
一人になってはみんなと歩幅をあわせる必要もないのでカバンから自転車を取り出し跨る。ワイルドエリアを移動するなら自転車は必須アイテムだ。
「徒歩でワイルドエリア抜けようと思ったら軽く数日はかかるらしいけど二人は大丈夫かな?」
そんな心配をしながらペダルをこぎ始めエンジンリバーサイドへと向かうのであった。
それから三時間ほどかけて移動し、お昼前くらいとなった頃エンジンリバーサイド前の橋に到着した。
ここを渡ればエンジンリバーサイド。
そして、
「お待たせ」
『待ってないわ』
『来たな』
『おつかれさま~』
橋の前にいたのはロコンたちの群れ。
ここが、俺とロコンがわかれる場所であった。
「でてこいロコン」
『………』
「っ、出て来いって」
ボールを開けようとしたというのに中のロコンがうんともすんとも言わない。なんとか無理矢理開閉させてロコンを出すとロコンは尻尾に顔をうずめて丸くなっていた。
「ほら、お迎え来たぞ」
『……行きたくない』
「土壇場で駄々をこねるんじゃありません」
『だってぇ』
土壇場でヘタレたロコンが中々群れの皆のところへ行こうとしない。朝起きたくなくてあと五分とか言ってる子どものようだ。
昨日やった送別会ではあれだけはしゃいでいたというのにこれだ。やはりこいつ、中々のヘタレである。
……まあ、本人が行きたくないっていうのなら、
『こらトレーナー。そいつを甘やかすんじゃないわよ』
「う、そういえば神通力は心もなんとなく読めるんだった」
『ヘタレとかなんとか言いながら結局アンタもヘタレじゃない』
「ぐぐぐ……」
リーダーのロコンがうずくまったロコンに近づいて立たせようとするがなかなか立ち上がらない。
ムキになったリーダーロコンが神通力を使おうとするとロコンもうずくまったまま神通力で抵抗しようとする。傍から見てもわかる通り神通力の無駄使いだ。
『ぐぎぎぎ!』
『…ふへっ、新リーダーも大したことないね』
『ムキー! あんた派遣のくせに生意気よ!』
『そういえばぼく派遣社員なんだっけ。 派遣社員って何?』
「上から無理難題を押し付けられて、しかも働く場所が本来の所属先じゃないから肩身の狭い人」
『ええ!? ぼくそんな立ち位置なの!?』
『いいから起き上がりなさい!』
ついに神通力によって釣り上げるように立ち上がらされたロコン。
こうなってしまっては仕方がないと観念したようで神通力を断ち切って地面に降りる。
『うん。じゃあ、行ってきます』
「いってらっしゃい」
先ほどまで駄々をこねていたのはどこへやら。さっぱりとした顔つきになって別れを告げるロコン。その姿を見るとまるで自分の子供が仕事に行きはじめ成長したかのようで涙が出てきそうだ。
「じゃあこれ、お守り」
『これって……』
「『ほのおのいし』。仲間がピンチになった時にでも使いなさい」
小さな巾着袋に入れた『ほのおのいし』をロコンの首にかけ、頭を撫でる。
「体に気をつけてな」
『……っ、行ってきます!』
俺よりも先にロコンの方が耐えられなくなったのか顔を見せないようにして群れの方に走っていってしまった。最後の方は俺もロコンも声が震えていた。
『じゃあ、あたし達は早いとこ場所を移るわ。これからここら一帯は『雨』みたいだし』
「うちの子をよろしくおねがいします」
『……本当だったらうちの子でもあるんだけど』
「いやいや、もううちの子です」
『もとはうちの子です』
「いやいやいや」
『いやいやいやいや』
親ばか談義の様になってしまった。それがわかったから二人でぷっ、と噴き出してしまう。
『ほら新リーダー! 早く行かないと天気変わるよ!』
群れの中に入っていったロコンがどこか恥ずかしそうにはやし立てるとリーダーロコンは『じゃあね』といって橋とは逆方向の大きな岩のある方へと向けて群れを率いて行ってしまった。
俺は空っぽになったモンスターボールをお手玉の様にしながら、
「軽くなっちゃったなあ」
彼らの姿が見えなくなるまで見送るのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「うぉぉぉん、ロコンがいなくなっちゃったぁぁぁ」(俺)
『こいつ、めんどくせえな』(ジメレオン)
『まあまあ』(パルスワン)
『漢の別れに、涙は不要…』(アオガラス)
『そんなことよりボクの毛並みどう? ほら、この感触がさ』(バイウールー)
『先輩、誰も聞いてないっす』(ヒトモシ)
涙で視界が揺れながら自転車を漕ぐ。ボールの中からは聞こえないはずのポケモン達の声まで聞こえてきた、重症だ。悲しみを癒すために脳が現聴でも生みだしたのだろうか?それにしてはなんだか個性的だ。
涙で揺れた視界のまま漕ぐなど危ないとわかっているのだが止められない。
そして後悔した時には遅かった。
ガシャ!
「いて!」
何かにぶつかった。
なぜこんなところに電柱が?と思い少しバックするとそれは大きなコンクリートの柱だった。こんな人工物がどうして平原のど真ん中に…
「ブシン?」
コンクリートの柱が持ち上げられその向こう側から筋骨隆々なポケモンが現れる。
ポケモン図鑑を向けてみて判明した。きんこつポケモン、ローブシン。格闘タイプのポケモンだった。
ローブシン、『武神』という名のごとく今まで出会ったポケモンの中でも桁違いの力の圧を感じる。離れているというのにまるでその筋肉で体を掴まれているかのようだ。
ローズシンはぶつかった俺のことを値踏みをするように見た後にニヤっと笑い、
「ブッシ!」
「ッ! あっぶな!」
片手でコンクリートの柱を掴み上から殴りかかってきた。
なんとか避けたが、かすった髪のところがパラパラと散っていくのを見て冷や汗がにじみ出る。
「こいつ、カブさんのポケモンよりずっと強い…!」
体から溢れる圧倒的な威圧感。
このローブシンから感じるそれはローブシンの持つ特性や体質などからではない。ただただ圧倒的に強い、鍛錬や戦いを経て身に付けた強さがにじみ出ているだけだということが伝わってくる。
俺の今の手持ちでは逆立ちしたって勝てないということが、理解できてしまう。
「モッシモッシ!」
「うわ、ヒトモシ!」
するとヒトモシが勝手に飛び出してくる。なぜかやる気満々なヒトモシは小さな手でシュッシュッとシャドーボクシングをしてやる気をアピールしている。
「そうか、お前ロコンがいなくなったから」
「モッシモッシ!」
うちの主力であったロコンがパーティから抜けた今、炎タイプの後継として早く力を付けたいとヒトモシは伝えたかったのだろう。
ロコンがいなくなったからとくよくよしてはいられない。涙を拭いて改めてローブシンに向き直る。
「ヒトモシ、お前のやる気伝わったぜ!」
「モシ!」
ヒトモシはゴーストと炎タイプ、格闘タイプのローブシンとは相性がいい。もしかすれば、万に一つの可能性もあるかもしれない!
「いくぞ、ヒトモシ!」
「モッシッシ!」
「ブシーン!」
コンクリートを掴んだローブシンドシンドシンと音を立てながらがまっすぐこちらに襲い掛かってくる。
「ヒトモシ、『おにび』だ!!」
「ブーーーシーーー!!!」
「…………」
「…………」
ローブシンは全身を『やけど』と『ほのおのうず』による炎に焼き焦がされ、『こんらん』状態となったことによりわけもわからず自分を傷つけ苦しんでいる。その光景を俺とヒトモシは死んだ目で見つめていた。
い、いや違うんだ。最初は本当に、真剣に、真っ向から戦おうと考えていたんだ。
だけど、ローブシンはヒトモシに効果のない格闘タイプの技しか使ってこないし、ヒトモシの攻撃もコンクリート柱で防がれるしでどちらも全然ダメージを与えられなかったんだ。
バトルが膠着してどうしよう、と考えた結果俺達は『あやしいひかり』で『こんらん』状態にすることにしたんだ。
そうしたら……なんかこうなった。
「ブ、ブーシン……」
全身を二種類の炎が包み込み、『こんらん』状態で自傷を繰り返したローブシンがついに地にひれ伏す。
戦う前は勝てる気がしなかった超強敵だった。
それが……今は俺たちの目の前で地に伏して気絶している。
「なんだろう…この気持ち…」
「モッシ……」
相手に何にもさせず、こちらの思うままに展開を進め、かすり傷すら負わずに勝つ。
結果だけをみればパーフェクトなバトルだった、結果だけを見れば。
「これは、本当にポケモンバトルだったのか?」
心の中で自問自答を繰り返す。
本当にこれが正しいポケモンバトルだったのか、それは誰も知らないのであった。
でもヒトモシが一段階強くなりました。
Lv60のシンボルローブシンをLv27のヒトモシで嵌め殺ししてきました。
脳汁が湧き出るのと同時にとても申し訳ない気分になりました。