頑丈からのチイラ起死回生は強いや。
砂嵐でダメージも食らわないし、もしやトゲデマルかなり強いのでは?
「この『ハート飴細工』すっごく綺麗、手が込んでる!」
「でしょう。わたくしもナックルシティに来た時にはよくこのお店に通っていましてね。いつもはオリーヴ君にカロリー量を監視されているのですが今はそのオリーヴ君もいません! 気のすむまで食べましょう!」
「すいませーん、カレースイーツはないですか?」
「…申し訳ありません。当店にそういった品は…」
「そうですか…あ、だったら俺が――!」
「やめなさい。スイーツ店がカレーの匂いなんて漂わせたらお店つぶれるわよ」
ナックルシティにあるオシャレなスイーツカフェで舌鼓を打つ俺とユウリ、そしてローズ委員長。
この組み合わせがスイーツカフェでお茶をしているのを説明するには少し時間をさかのぼることになる。
ナックルシティの関所を越えて街に入った俺達の眼前に広がっていたのは街の中央にそびえ立つ巨大なスタジアム、とそれを包み込むほどのさらに巨大な城壁であった。
「大きいなー!」
「実はこのナックルシティはかつてのお城を丸ごと改造して作られた街、だそうよ」
「え、それって昔のお城の大きさが街一つ分あったってこと?」
「うーん、そうなんじゃないの? ナックルシティを囲んでたあの丈夫そうな壁も昔の城壁をそのまま流用してるらしいし」
「はえー、すっごい」
ガラル地方の中心地ともいえるこのナックルシティ。
街一つが丸ごと城壁に囲まれた堅牢な街。街を包み込む城壁にはところどころほころびや過去の戦いの爪痕のようなものが残されており、それがこの街の歴史というものを感じさせる。
ワイルドエリアという野生のポケモン達が跋扈する危険地帯と隣り合いながらこれほど発展と繁栄を築き上げているのはそれだけこの街を守る城壁が頑丈ということなのだろう。……さっきユウリとビートが壁の一部壊してたけど。
そしていつもならここで素早くスタジアムに直行しジムチャレンジの登録を行うところなのだが、残念ながらここにあるのは八番目のジム。まだ俺達が挑戦できる段階ではない。というわけで急ぐべき用事も特にないと思っている。
「今日くらいはこの街の観光とかしてもいいんじゃないかしら?」
「そうだね。カブさんのところで足止めを食らってる挑戦者も多いし……少しくらいはいいかも!」
顔を見合わせる俺とユウリ。
好奇心が抑えられなくなった俺達はすぐさま駆け出す、新しく来た街でやることと言えばただ一つ!
「うまい飯屋はどこだー!」
「美味しいスイーツとブティックがアタシを呼んでいるわ!」
田舎から飛び出した子供にとっては大都会など右を見ても左を見ても興奮の嵐、お宝の山にしかみえない。
観光をするというなら一分一秒たりとも無駄にできないぜ!
「いい匂いがする」
「あそこにあるバトルカフェね、エンジンシティにも同じようなカフェがあったわ」
「ああ、そういえばあったね」
店主と店内でバトルができるという風変わりなバトルカフェ。そこから漂う甘い香りが俺達の足を止めさせた。
エンジンシティのカフェと同じく店構えはガラスで出来ており外から中をのぞくことができる。店内はどんな感じなのかをちらっと覗いてみると、なんとそこには俺たちより先にナックルシティへと入って行ったビートが座っていた。
「甘いもの苦手そうな顔なのに珍しいな」
「いいえ、もしかしたらあの不機嫌そうな顔の癖に甘いものを食べた時だけ表情が緩むとかそういう設定かもしれないわ」
「…そういうのって女の子的には受け良いの?」
「いいわね」
「ッチ、ビート〇ね」
「……あんた、偶にあのピンクに対して口悪くならない?」
「顔がいいから」
「あら、あんたもそういうお年頃? うぷぷ、男の嫉妬は……」
「あとあんなに強いのに他のチャレンジャーのことをやたら見下す態度とかダンデさんに失礼なところとか一々言葉のチョイスが人の心を逆撫でしてくるところとかいっつも威張ってばかりのところとかノミとハンマーを捨ててドリルに使ってたところとか委員長のことばっかりで人のこと全然認めてくれないところとか……」
「わかった。わかったからもういいわ」
俺の口から次々と出て行ったビートへの不満は「男子ってめんどくさいわね~」とつぶやくユウリによって制止される。言いたいことはまだ山ほどあるんだけど…まあいいか。
そこから体を隠し、店の外から店内のビートを覗く。
席の関係で最初はうまく見えなかったが、対面に誰かが座っているのがわかった。
「あれローズ委員長じゃない?」
ユウリの方が対面の相手が誰なのか、いち早く気がつく。
本当だ、よく見れば秘書のオリーヴさんらしき人が後ろに立っている。
ビートもいつもの悪態をつくような態度ではなくきちっとした態度で、まるで外行きの仮面をかぶった猫のようだ。
「―――と、いうわけでねがいぼしもジムバッジも順調に集めています!」
「さすがですビート選手。委員長に選ばれたことに自覚をもって励んでいるようですね」
「ええもちろんです! 委員長に頂いたこの機会、必ずや成果を上げてみせます」
「はは、嬉しいね。君の様に未来有望な若いトレーナーがこれからのガラル地方を背負っていくんだ。期待しているよ」
「ッッッ! 感激の極みです!」
「誰? あれ」
「ビートは委員長大好き侍なんだ」
憧れの人に期待をかけられて喜んでいるビート。いつもとのギャップは凄いけど。
「それにぼくの集めたねがいぼしが委員長を悩ます不安の種を取り払うことができるんですよね?」
「僕の、というよりはガラル地方の未来のためだけどね。それにねがいぼしだけでは足りない。ダンデ君……チャンピオンのような強いポケモントレーナーも必要なのさ」
自分の功績を誇るかのようにねがいぼしの話をしていたビートだがローズ委員長の『ダンデ君』という言葉に眉を顰める。
「………お言葉ですが、チャンピオンの推薦したトレーナー・ホップには実力の差を見せつけてきました」
「…ほう」
「ええそうです、あの程度のトレーナーを推薦したチャンピオンやその他の推薦トレーナーなど恐れるべくもありません。ぼくなら、チャンピオンにも勝ってみせます!」
「……うん、いいね。そうでなくっちゃ。ジムチャレンジはみんなで競い合い、盛り上げる最高の舞台だからね。これからも吉報を待ち望んでいるよ」
「……ビート選手、委員長とのお話にもひと段落がついたことですし少しお話したいことがあります。一緒にスタジアムにきていただけますか」
その後、ビートはオリーブさんに連れられてバトルカフェを出て行った。俺たちはというと慌てて物陰に隠れて、二名が店を出て行く姿を見送った。
「危なかった」
「…それにしてもあのピンク、調子に乗ったこと言ってくれてたわね」
ユウリが頭にかぶったベレー帽を掴み握りつぶす。先ほどのビートの発言に怒り心頭のようだ。
「だね、俺もさすがにホップやダンデさんを軽んじるあの発言は……」
「よくもアタシをその他トレーナー扱いしてくれたわね!」
「あれ! そっち!?」
どうやらユウリの怒りの矛先はそちらのようだ。
「だってそうでしょ。ホップが負けたのはあいつの責任よ、それにあんなピンクが何を行ったところでダンデさんの強さにはなんの陰りも起きないわよ」
ユウリの発言には、特にダンデさんの強さへの全幅の信頼のようなものを感じることができた。
最強無敗のダンデ伝説を近くで見てきたのだからそれも当然なのか。
「あのピンクもホップもダンデさんも倒して最後に頂きに立つのはこのアタシだってことを覚えときなさい!」
誰に言うでもなくそう大声で宣言するユウリ。まさしく天井天下唯我独尊のユウリらしい。
コツコツ
そして、ユウリが往来のど真ん中でそんなことを叫べばすぐ近くにいたあの人の耳にも目にも入るのは必然であった。
「やあ、ユウリ君にアカツキ君。お暇なら僕と一緒にお茶、なんてどうかな?」
これが冒頭に至るまでのお話である。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「『ミアレガレット』おかわりください!」
「なんの、俺は『フエンせんべい』十枚!」
というわけでオーズ委員長のおごりで絶賛カフェを満喫中だ。タダで食う飯はうまい。
「いい食べっぷりだ。これは僕も負けてはいられないね、僕には『ヒウンアイス』をくれるかな」
「ご注文、承りました!」
俺たちの注文を聞いた店主の方が大急ぎで厨房に戻っていく。ローズ委員長がお客ということで店主自らが注文を聞きに来るというまさかのVIP待遇だ。
「僕はお忍びできているわけだからああも緊張して対応されるとむず痒いのだけどね。もっとフレンドリーなのが望ましいよ」
「いやぁ、ガラル地方のありとあらゆるものの所有権を持つローズ委員長に逆らえる人なんていませんよ」ゴマすりすり
「そうでゲス。このガラル地方においてはまさしく『神』とお呼びしても不思議はないでゲス」太鼓もちもち
「はは、その口調やめてもらってもいいかな?」
「「すみませんでした!!」」
「よろしい」
ローズさん結構マジのトーンであった。
大人のマジトーンは子供にとってどんなゴーストタイプよりも体を震え上がらせる。というわけで一瞬で態度を改める。
『ヒウンアイス』に舌鼓を打つローズさんはコーヒーとともに優雅なティータイムをおくっている。その真ん前でバリバリ音を立てながら『ミアレガレット』と『フエンせんべい』を食べるユウリと俺はどうにも場違いだ。
「ふう。さて、お茶もひと段落したところで何を話しましょうか」
最後のひと口を堪能し、アイスの甘さと冷たさを湯気立つコーヒー洗い流したローズさんが一息をつく。
「あ、質問いいですか」
思い切ってローズさんに質問をしてみると心よく引き受けてくれる。
俺が聞きたかったこと、それは、
「ビートとローズ委員長はどういうご関係なんですか?」
「わたくしとビート選手……ですか?」
「はい。ビートの行動は手段はどうあれローズ委員長に認められたい、役に立ちたいという思いが先行しているようなので」
ビートはあの態度から全方面にケンカを売っているが、ローズ委員長のために行動し、ローズ委員長のためにねがいぼしを集めたりしている。
言い方は悪いがあのビートがそこまでローズ委員長に心酔しているのは憧れや尊敬などよりもっと強い感情があるのではないかと思ったのだ。
「君たちはビート選手のリーグカードは持っていますか?」
「持ってます」
「アタシも持っています」
俺は第二鉱山で、ユウリは自転車を直した時に貰ったというリーグカードをカバンから取り出す。
いつみてもふてぶてしい決め顔で右手の腕時計を構えているのが無性に腹が立つ。
「そちらの裏面に書かれている紹介文におおよそのことは書いてあると思うのですが…」
「え、裏面に紹介文とかあったの?」
「あるわよ。ほら」
そういってユウリがカードの裏側をこちらに向けてくると確かに何かが書かれてある。
自分の持っていたリーグカードを翻して裏に書いてある自己紹介文に目を通していると、少し懐かしむような目でローズ委員長が語り始める。
「彼は幼少の頃から保護施設で育ちましてね。施設の職員の方からも他の子どもたちともなじめずにいたそうです。
わたくしが慈善事業の一環としてその施設に訪問した際、プレゼントしようと思ったポケモンが彼に懐いてしまったのが始まりですね」
「そのポケモンってもしかしてミブリムですか?」
「おや、よくわかりましたね」
ビートの一番の相棒で特に彼が大事にしていたのがミブリムであった。
他のポケモンと比べても隔絶した強さだったのはそういうことだったのか。
「話を戻しましてそのミブリムを使ってわたくしとバトルをしたいと彼が申し込んできましてね」
「もしかしてビートが勝ったんですか?」
「いいえ、もちろんわたくしが勝ちました。これでもわたくしバトルの腕には少々自信があるのです」
力こぶを作るように自信のほどを語る。
するとユウリに横から肘で突かれる、なんだと思っているとローズ委員長のリーグカード取り出し裏側を見せてくる。
「えーと、『過去のチャンピオンリーグで準優勝…』……準優勝!?」
リーグカードの裏側と委員長の顔を相互に見比べる。
「苦く、輝かしい過去の栄光ですがね」と苦笑するローズさん。
ガラル地方で一番偉い、とまで言われる人間がさらにてゃんぴおんと戦うほどの強さも持ち合わせていたというのが驚愕だ。そこにどれだけの才能と努力があったのか、俺では想像することすらできない。
「彼には類稀なるポケモンバトルの才能があったにで、いくつか教育の機会を設けてあげた…くらいですかね。
わたくしとしてはガラル地方の発展のためにその力を振るってほしかったのですが」
そう締めくくる委員長の目にはどこか憂いのようなものが浮かんでいた。
ビートの話がひと段落したところで、次は何を話そうか?とローズ委員長は首をひねる。
うんうん悩んだ末にぱあっと顔を明るくし、手を叩く。
「そうだ、君達にねがいぼしの話をしようじゃないか」
『ねがいぼし』、その単語の名前を聞いて無意識に右手のバンドを見るとローズ委員長がうんうんと頷く。
「そう、君たちの腕に着けてあるダイマックスバンドについている不思議な石のことだ」
「願いを持つ人のところに落ちてくるって言われているんですよね」
「そう! まさしくその通りだ。夢馳せる想いに引き寄せられて落ちてくる、何ともロマンチックだよね」
ローズ委員長の言葉通りこのバンドについてあるねがいぼしは旅立ちの日に誓いを立てた俺達三人のもとに空から落ちてきたのだ。まさに俺たちを運命づけたと言っても過言ではない。
「でもね、ねがいぼしに秘められた力はロマンチックな力だけじゃないんだ。詳しくはこのタブレット端末で説明しよう」
懐から取り出した端末をこちらに向けて真っ黒な画面を起動させる。
画面にはねがいぼしを模した赤い石を塔らしきものに集め、塔の中でエネルギーに変換する様が描かれている。そして、エネルギーの向かう先は夜の中で明るく光り輝く街と笑顔のローズ委員長のイラストだ。
「わかりやすいですね」
「この塔というのがだねナックルシティの中心にそびえ立つ、あのナックルスタジアムなんだよ」
ガラス張りの窓から外をのぞく。
ここからでも見ることができる巨大なドラゴンが翼を広げたかのようなあのスタジアムにはそんな役割もあったのか。
「わたくしたちの暮らしにとって電気やガス、水道などのエネルギーは無くてはならないものだ
わたくしの関連グループではねがいぼしのエネルギーによって皆さんの生活を支えることを目標としているのです」
そう力強く力説するローズさん。
今までそれほど考えたことが無かったが改めて考えると俺たちの周りには便利なものが溢れている。それは、ガラル地方を旅しキャンプなどで生活するようになったことでより強く感じるようになった。
「……でも、今の話を聞いてるとねがいぼしがなくなったら俺達の生活は成り立たなくなるんじゃないですか?」
もちろんねがいぼし以外からエネルギーを取り出すこともできるのだろう。
しかし、現在のガラル地方では多くのエネルギーをねがいぼしから取り出したものに頼り切っている。ビートがローズ委員長からの依頼によってねがいぼしを集めているというのも中々切実な問題から来るものでもあったのだと考えればつじつまが行く。
すると、俺の疑問が意外だったのかローズ委員長は目をパチクリさせながら見てくる。
「アカツキ君、君は中々いいところに着眼点を持っているね。普通キミくらいの歳だとそこまでは思いつかないと思ったのだけどね」
「俺もねがいぼしを掘ったりしたことあるので。ねがいぼしって思っている以上に貴重な品物だってことに気がついたんです」
「そうだね。ねがいぼしはこの地方のいたる所に落ちて来てはいるが、それを実際に人が手にすることはとても少ない。見つけるのには非常に労力がかかるんだ」
「その分一つだけでもすごいエネルギーを生み出してくれるんだけどね」とはローズ委員長が話す。
そういえばテレビや雑誌の広告なんかで、『結婚のきっかけは彼氏から貰ったねがいぼしのアクセサリー』とか『ねがいぼしを拾ったことで女の子にモテモテになって、髪もふさふさになりました』とか見たことあったっけ。俺も引っ越してきた最初の頃は物珍しくてよく見てたけど、広告の方は胡散臭くてすぐに見なくなった。
「でもいつかトレーナーがみんなダイマックスバンドを持てる、みたいな日が来るかもしれないわね!」
ユウリの発言にローズ委員長もなかなか興味深そうな目で見てくる。
「ガラルの皆がダイマックスバンドを……なるほど、それは確かに面白い発想ですね」
「皆がみんなダイマックスバンドを持てたら、それこそローズさんも言っていた”ガラル地方の皆がダンデさんくらい強くなる”っていうのも不可能じゃなくなるかもしれませんね」
「むむむ! そう考えると居ても立ってもいられませんね。
なるほどなるほど、そういったアプローチもあるのか!こうしてはいられない、わたくしの方でも仕事に取りかからなければ!」
ユウリの言う『全トレーナー総ダイマックスバンド計画』を聞いたローズさんは居ても立ってもいられないとばかりに席を立ち上がると席に置いてあったメニュー表を掴んで、背もたれにかけていたスーツを華麗に羽織る。
「いやぁ、やはりダンデ君の推薦した若きトレーナーだけはある。君達若きトレーナーとの話はいつだって有意義だ。ガラルの未来も安泰だよ。
支払いはこちらに任せてくれ。あとでわたくしのところに請求が来るようにしておくからキミたちは存分にお茶を楽しんで行ってくれたまえ」
そういって意気揚々とカフェを出て行ったローズ委員長。
「君たちには、いつだって期待しているよ」
「大人だぁ……」
「痺れるわぁ……」
その後、ガラル地方一のお金持ちの財力に甘えるようにたらふく食べさせてもらったのだった。
後日、
「委員長、バトルカフェからの請求書が届いています。こちらで処理をしておきます」
「ああ、頼むよ」
「累計……5万円!? 委員長、私が目を離した隙にいったいどれだけカロリーを摂取したのですか…?」
「ははは、未来への投資だよ」