最強のジムリーダーキバナと言葉を交わし宝物庫でガラル王国建国が記されたタペストリーを見た俺は、一日観光の予定を切り上げジムチャレンジに向けての特訓をすることにした。
とはいってもここはガラル地方の中心に位置する都市、ナックルシティ。
すぐ隣には自然の厳しさをこれでもかと詰め込んだ広大な平原地帯であるワイルドエリアが広がっているが、昨日の今日であの場所に戻るつもりも無い。では、この街中でどんな特訓をするというのか?
「俺はジムチャレンジ参加中のトレーナー、アカツキ!
戦いたい奴は誰でもかかってこい!」
街の中心にある広場に仁王立ち、高らかに宣言する。
ガラルの中心地であり中継地でもあるこのナックルシティにはあらゆる人達がやってきている。
そんな街の中心でこれだけ声を張り上げ挑発的な態度を取れば、
「オス、自分の挑戦受けてもらうッス」
やって来るわ来るわ。挑戦申し込みのトレーナー達がどんどん集まってくる。
広場には既に挑戦者とギャラリーで一つの大会が出来上がるほどの人間が集まって来ていた。
「この数は予想以上! でも挑まれたからには負けるわけにはいかない!」
「ウス、胸を借りるつもりで行くッス!」
老若男女問わずあらゆるトレーナーがジムチャレンジャーに挑まんと押し寄せてきた!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「アオガラスの『ついばむ』を耐えた!?
モンメンは草タイプ、耐えられるはずが――!」
「ガァアア!?」
「『きあいのタスキ』のおかげッス!
決めます、『がむしゃら』ッス!」
「メンメン!」
「『ついばむ』で迎え撃て!」
「ガガガァ!!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「カムカメ、『かみつく』よ!」
「ぱくぱくぱく!」
「近づかせるな!
ヒトモシ、『あやしいひかり』!」
「モシモシモシ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「久しぶりに思う存分翼を広げられそうね。
ココガラちゃん達、『つつく』!」
「アガアー!」
「かカカカ、ガア!」
「ぎしゃあ!」
「コーカオーカオ!」
「とっ、とりー!」
「グゲグゲ!」
「まとめて蹴散らせ!
パルスワン、『スパーク』!」
「ワオオオオン!!!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「天候を征すこと、すなわちバトルを征す!
ユキカブリの降らせた『あられ』は『つめたいいわ』の効果で永続しますよ!」
「ユッキカッブ!」
「厚手のこいつに寒さなんて関係ないね!
バイウールー、『にどげり』!」
「ンン、メェェエ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ポケセンのおやじに思い出させてもらったこの技で勝つ!
ソルロック、『フレアドライブ』!」
「ソルソルソルォォォ!!!」
「くっ、なんて熱量だ!
でも、カブさんのマルヤクデの『キョダイヒャッコク』に比べればなんてことないよなぁ!」
「ジッメ!」
「かき消せ、『みずのちかい』!!」
「メレオオオン!!!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「はぁはぁはぁ……これで全員か!」
集まってきていたポケモントレーナーとの一対一のポケモンバトル。ジムチャレンジャーでなくとも強いポケモントレーナーというのはいくらでも存在する。
「すげえ、あのジムチャレンジャー本当に全員倒しちまった……」
「全部で何人いた? 28人くらいか?」
「いや、30人だな」
「途中のココガラ六匹使ってきてたばあさんも入れれば35体抜きだな」
「俺が、俺達がアカツキだ!」
『うおおおおおおおお!!!!』
『アカツキ!アカツキ!アカツキ!』
広場に集まったトレーナー達との連戦につぐ連戦。
トレーナーによって戦い方、ポケモンの種類も様々だった。
わざと苦手なタイプを使ってこちらの油断を誘い、『きあいのタスキ』からの『がむしゃら』を狙ってくる格闘家がいた。
ポケモンとの絆をひたすら高め最後までポケモンの戦い方を尊重していたミニスカートの少女がいた。
一度に六匹、六体ものココガラを同時に操るとんでもマダムがいた。
不思議な石を使い天候を自在に支配したジェントルマンがいた。
忘れられたはずの古の技を思い出させ太陽のごとき攻撃を繰り出してきた男性がいた。
そのすべてに打ち勝ちギャラリーの人たちからの歓声を一身に受ける。
さすがに30人抜きもすれば俺もポケモンもヘトヘトとなっていた、強がっては見せたがもうフラフラだ。
もはやギリギリ、後一匹でも戦えばボロが出てガラガラに崩れてしまうのではないかとまで思った。
だが、それでも、最後までジムチャレンジャー・アカツキという存在の底を大衆に見せることは無く、ギャラリーからの惜しみない歓声に背中を押されながら、『完勝』という言葉を引き下げポケモンセンターへと向かっていく俺なのであった。
「はぁ~~~~、死ぬかと思った」
予想の三倍くらい集まった挑戦者にギャラリーの中での30連戦は流石に堪えた。
ポケモンセンターに着いた俺はへとへとになった5匹の相棒をジョーイさんに預けると、まるで杖を失ったおじいさんのような足取りでソファーに向かって座り込む。
「っぱぁー! うまい!」
ソファーに座り込むと同時に買っておいた『ミックス・オレ』のプルタブを開け一気に中身を呷る。
複数の果実と甘味料、そしてミルクを配合して作られた甘いジュースはバトルで消費された水分と糖分を一気に補給させてくれる。
これだよこれ!
体が求めているほど美味しく感じるというのは本当らしい。今までで飲んだ『ミックス・オレ』の中で一番美味しかった気がした。
「まあ…それだけ無茶したってことなんだけどね」
達成感は人一倍、だが疲労感は人三倍くらいはあったのではないかと思う。
だけどその分得たものも大きかった気がする。
「トレーナーの数だけポケモンとの戦い方がある。それを体験できただけで十分かな」
多くのトレーナーとの戦いはそれだけきちょうな経験値となりトレーナーの俺だけでなくポケモン達も逞しく成長しただろう。
公共の腰掛けだというのに疲労感と充足感で眠気が襲い掛かってくる。
このまま眠気に負けてもいいかなーと、思いかけたその時、
「お願いがあります!」
「っどわわわぁぁぁ!?」
眠りこけそうになったところで突然声を掛けられる。
驚き、飛び上がり、眠気が吹っ飛んだところで声の主を見る。
短く切りそろえられた金髪と青い瞳。
自分とあまり歳の差もなさそうな、どこにでもいる普通の少年。俺からジムチャレンジャーとしての地位を差し引いたくらいの平凡さだ。
「先ほどのバトルを拝見させていただきました!
アカツキさん、ボクのお願いを聞いてはいただけないでしょうか!」
彼は腰を90度傾け、ほとんど歳も変わらなそうな俺に頭を下げてくる。
「か、顔を上げてください」
「お願いします!お願いします!」
今までジムチャレンジャーとしてインタビューを受けたりバトルをしかけられたりしてきたがこんなにかしこまられたのは初めてでおろおろと混乱してしまう。
頭を上げてくださいっていったのに何でさらに頭を深く下げてくるの!?わっつはっぷん!?
とりあえず歳も変わらなそうな少年を落ち着かせ話を聞いてみることにした。
「あるポケモンの捕獲を手伝ってほしい?」
「そうなんです……どんなに探しても見つからなくて、もう予定の日まで時間がないのに僕は一体どうしたら……」
「待って待って落ち着いて! えっと、とりあえずどんなポケモンを探しているの?」
「カジッチュ、というポケモンです」
少年から聞いたポケモンの名前をポケモン図鑑に打ち込んでみるとすぐさま答えは出てきた。
「あ、こいつ五番道路に居たあいつじゃん」
「え!カジッチュを見かけたことあるんですか!何処で何処にどんな!?」
「近いちかい。ターフタウンとバウタウンの間にある五番道路だよ!」
きのみを隠れ蓑にして生活するりんごぐらしポケモンのカジッチュ。
その隠匿性から狙って見つけることが困難なポケモンといわれている。そういえば俺もカレー作ろうとして偶々手にしたきのみの中にカジッチュだったんだっけ?
「それでどうしてそんなポケモンを?」
言っては悪いが『からにこもる』と『おどろかす』しか使える技がないカジッチュはポケモンバトルではそこまで活躍できるポケモンではない。
そんなカジッチュを一体なぜ?
率直に聞いてみると少年はおろおろと視線を泳がせ、終いには顔を赤くして俯いてしまった。
うーん、今から五番道路に行くにはもう遅い時間だし、俺も明日にはナックルシティを出発する予定だ。
申し訳ないが無責任なことはできない、丁重にお断りして……
「こ、告白したい女の子がいるんです!」
「kwsk」
そんな餌には釣られクマー!!!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ふむふむ、つまりは子供の頃から好きだった女の子が家の事情で引っ越してしまうからその前に気持ちを伝えたい。と」
「そ、そうです……」
「そこでカジッチュを渡して気持ちを伝えたかったけど見つからず、さらにその子が引っ越してしまうのは明日だと」
「う、うん……」
他地方から着た俺にはなじみが薄く知らなかったのだが、このガラル地方には”片思いの異性にカジッチュを贈ると想いが伝わる”という風習があるらしい。
この少年は片思いの幼馴染にカジッチュを渡して気持ちを伝えたいというのだ。幼馴染みに。幼馴染みにだ。
「よく俺に相談してくれた!」
「ひぃ!」
「ワグナス!我らの道は明るい、さあ今すぐ五番道路に向かおうではないか!」
「い、いいんですか?」
「もちろんだ!」
まさかリアル幼馴染みの告白イベントに出会ってしまうとは。
これは福音だ。幼馴染みの神様が俺に二人を繋ぐ天使になれと言っているに違いない!
「さあ行こう今行こうすぐ行こう!」
「で、でも五番道路近くのバウタウンに行く電車に乗っても今からじゃ…」
「心配するな、カモン『アーマーガアタクシー』!!!」
「ガァァァァァ!!!」
「俺はジムチャレンジャー。大会融資で『アーマーガアタクシー』は乗り放題なんだ!」
大会のお金で乗るのは申し訳ないが幼馴染みの恋路は全てにおいて優先される。
俺と少年はタクシーに乗り込み五番道路を目指すのであった。
「それで……その彼女のどこが好きなんだい?」
「……え?」
「優しいところ?かわいいところ?それとも性格?家族想いなところ?あ、家庭的な子ってのもあるよね?それとも今までに人には言えないようなすっごい体験を二人で乗り越えて絆を紡いだとか!あとあと二人の家はどれくらいの距離がはなれてるのかな?王道的には隣同士なのがベターだけど現実的には可能性が少ないのはわかっているよ?一軒分?二件分?それとも家同士は結構離れてるけど子供の頃に公園で出会って一緒に遊ぶようになったとか!良いね良いね滾ってきたよ!」
「(こ、この人に頼んで正解だったのかなぁ……?)」
五番道路までの道なり、少年には根掘り葉掘り聞く俺であった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「よし、じゃあ探すかルーク!」
「お願いするよアカツキ!」
五番道路のポケモン育て屋近くに降りた俺達はさっそくカジッチュを見つけるために行動を開始するのであった。
ちなみにルークというのは少年の名前である。
『少年』なんて他人行儀な呼び方いつまでもできるわけじゃないのでしっかりと自己紹介はした。というかそもそも同い年だった。
「カジッチュはきのみに擬態しているからよく観察することだね」
「うん。あ、そうだお前もよろしく!」
ルークが一つのモンスターボールを取り出し放り投げる。
「マイッカ!」
「お、マーイーカか」
「うん、僕が初めて捕まえたポケモンなんだ」
「イッカッカ!」
マーイーカはふわふわと浮遊した後ルークの肩に乗る。よく懐いてるのが伺える。
「じゃあ二人、いや、三人で捜索開始だ!」
「おー!」
「マー!」
五番道路には大きな池があり、その周辺には林が生い茂り果実の生る木もよく生えている。
豊かで穏やかな自然環境はワイルドエリアとは違うほのぼのしさがあり、ポケモンを育てたり自然を楽しみたい人達にとっては絶好のスポットらしい。
キャンプをしている人やポケモンブリーダーをしている周囲の人にも話を聞きながら回ることにした。
「なかなか見つからないね」
「この辺りにはきのみが生る木も結構あるし、カジッチュにとっては絶好の場所なんだろうな」
ルークとマーイーカと三人で探し回ることはや一時間、未だ成果は無し。
日没までそう時間のない中の捜索ではやはり焦りが生まれてしまう。
捜索を続けているとマーイーカがどこからともなくきのみを持ってきていた。
「マーイーカ…まだご飯時じゃないだろ」
「イーカ」
どうやらお腹がすいてきてしまったらしくきのみを拾ってたらしい。
「ん、それ…?」
「アカツキどうしたの?」
「いや。マーイーカ、ちょっとそのきのみを貸してくれ」
「イッカ?」
「ありがと。 ん~?」
マーイーカの持ってきたきのみを受け取ってみると、見た目に反してかなり軽い。
カレー作りできのみを扱う俺は大体のきのみの重さというのを把握している。このきのみは大きさに対して明らかに重みが足りていない。
怪しいと思い試しに二つに割ってみると、
「マイッカ!?」
「わっ、中が空洞になってる」
「やっぱり。ポケモンが食べた後の抜け殻だったんだ」
きのみの内側が虫食い状態になっている、通りで軽かったわけだ。
そしてこのきのみまだ新しい上によく見てみると小さな穴が二つ開いているのに気がつく。
「きっとこのきのみの中に少し前までカジッチュが入っていたんだ」
「それ本当!?」
「うん。カジッチュは後ろに一つ、眼を出すためにもう一つ穴をあけるんだ。ほら、後ろときのみの上のところに穴が開いてる」
「ほんとうだ!」
「このきのみはまだ新しい、捨てたばかりか。
ってことは…マーイーカ、このきのみを拾ったところに案内してくれ!」
「マイッカ!」
マーイーカに連れられきのみが落ちていたという場所にたどり着くと、地面にいくつかのきのみが落ちていた。
そして落ちているきのみからそう遠くないところにまた新たなきのみを見つける。そんなことが3回ほど続いた後、
「多分、このきのみのなかにカジッチュが潜んでいるに違いない!」
今まで辿ったきのみが生えていたと見えるひときわ大きな果樹を見上げる。
豊作と言わんばかりの果樹には多くのきのみが生り、その足元には熟れて落ちた果実が幾重にも転がっている。
その中に一つ、明らかに怪しいきのみを見つけた。
「アレ!あれだけナニカ動いてるよ!」
「きっとあれがカジッチュだ、間違いない!」
運がいい。
ほんとうならこの無数に転がるきのみの中からカジッチュが入ったきのみを探さないといけなかったが、こうなればあとは逃げられないように慎重に行動すればすぐにでも捕まえることができるだろう。
俺はルークとマーイーカと顔を見合わせると人差し指を口に当てて音を立てないように、と伝える。二人にも伝わったようで人差し指を口に当てる。
そろりそろりと音を立てないように怪しいきのみに近づいていく。
きのみからはシャクシャクという音が聞こえているので中身食べることに夢中なのだろう、好都合だ。
一歩一歩慎重に近づき、あと少しでモンスターボールの圏内に入ると思ったその時、
「バリバリバリス!」
「……なんかどっかでみたことあるなぁ」
「ひぃ、ヨクバリスだ!」
とても欲張りそうな大きな声とともにガサガサガサと更なる大きな音を立てて灰色の何かが落ちてきた。
それは度々俺が遭遇してきたヨクバリスであった。
ただ、なんだかやたらと太っている。
果樹の周りにはきのみの芯もたくさん落ちていることからこいつが食ったんだろうなぁ、というのが伺えた。
「カッジ!」ゴロゴロゴロ
「あ!カジッチュが!」
驚いたカジッチュがきのみごと飛び上がりゴロゴロと転がって行ってしまう。
せっかく見つけたというのに、他のきのみと見分けがつかなくなり一から探さなくなてはいけなくなってしまった。ルークと俺は肩を落とす。
「バリィ!?」
そして元凶たるそのヨクバリスは俺を見ると”またお前か!?”という顔をしてくる。こっちも同じ気持ちだ、くそったれ。
「だけどもうお前に負ける俺じゃあない!」
最初に出会った時はかなりの実力差があった。
二回目に出会った時はウールーとワンパチ二匹で撃退したものの逃げられてしまった。
だが俺達はあれから三つのジムバッジを手に入れ強さも経験も更なる高みに到達した。
怠惰に、強欲に、暴食をむさぼったこいつに負ける要素など一つたりともありはしないのだ!
目当てのものを目の前で台無しにしてくれたお礼もかねてぶっ倒してやる!と、腰のボールに手を伸ばし、
「って、あれぇ!?ボールがない!」
「ええ!?」
しまった!?
そうだ俺はトレーナー30人斬りを済ませた直後にここにきたせいでポケモンセンターに皆を預けたままだったのだ。
だらり、と冷や汗が流れる。
ヨクバリスも突然慌てだした俺を見てにやにやと笑みを浮かべている。どうやらポケモンを持っていないことがバレてしまったようだ。
「バリバリィ!」
やせいの ヨクバリス が おそいかかってきた!
「うっお、避けろぉ!」
「はぃぃぃ!」
「マーイー!」
ヨクバリスの『タネマシンガン』は地面にも穴を穿つほどの威力で、こちらをまったく寄せ付けないほどであった。
避けるのに精いっぱいだった俺達は近くの木に隠れてやり過ごすとヨクバリスもタネの発射を終えた。
「ふう、なんとかなったね」
「でもこれからどうするか、だな」
「イッカ……」
ルークとともに木の影からヨクバリスを観察する。
奴はあの木を根城にしているようで全く動く気がないようだ。ヨクバリスが占領している限りあの木に近づくことはできないだろう。
どうする。あの木のところにいるのは確かなんだけど…
そうだ、ルークとマーイーカが戦ってくれている間に俺がこっそり探してみよう、と思ったものの、
「(チラリ)」
ちらり、とルークとマーイーカを見てみるがかなり怯えている。
野生のポケモンには凶暴なポケモンだって多い。こんな状態の二人を戦わせるわけにはいかないか。
「ルーク、こうなったらどっちかが囮になってもう片方が近づいて探すしかないと思う」
「こくこく」
「だから……君達が囮になれ」
「ええ!?」
「マイッカ!?」
二人いれば何とかなるやろ(楽観)
マーイーカも”まあいっか”と同意してくれたようだし(棒)
緊急時に怯えているから、だとかどうとか言っている場合じゃあない。
既に日は傾き始めているのだ、夜の自然が怖いことはワイルドエリアで嫌というほど知っている俺は早急に事態の解決を推し進めることにした。
「いいか?あいつは今すごい太ってる、つまり動きはとても鈍いはずだ」
「う、うん」
「だから、きっと逃げ切れるはずだ!」
「楽観的すぎない!?」
「大丈夫、あいつの技で危険なのなんて精々あの巨体から放たれる『のしかかり』くらいだ。『タネマシンガン』も木の陰に隠れながらならなんとかなる!」
「そんな!」
「ルーク!カジッチュをゲットしたいんだろ!」
「ッッッ!!!?」
「幼馴染のジーナちゃんに気持ちを伝えたいんだろ!だったら!今!!ここで男ってやつを見せなきゃいつみせるんだよ!!!」
「……………」
「明日には引っ越しって言ってたよな。
だったらチャンスはもうここしかないんだぞ。
それとも、ルーク。お前の気持ちなんてその程度のものだったのか?」
「ッッ!!!!」
侮辱するような、突き放すような言葉でルークを焚きつける。
タクシーの中で何度も聞いた。
幼馴染みの女の子の名前はジーナ。
活発な性格の子でよく振り回されたりした。
でもそれ以上に優しくて、友達想いで、なによりポケモンへの愛情が強い女の子。
引っ越しをすると言っていた時には周りに強がって見せていたものの、影では友達と離れたくないと泣いていたという。
そんな子に気持ちを伝えるチャンスは今日、そして明日しか残されていない。
今を逃せばきっともう手遅れになるだろう。
だから焚きつける。
このまま後悔を続けるか、今立ち向かうか。
その選択を、迫る。
ルークが迷いを宿した瞳のまま口を開く。
「ぼ、僕が時間を稼げばアカツキがカジッチュを見つけてくれる?」
「ああ、まかせろ。草の根分けても見つけ出す」
「カジッチュをジーナに渡せば、想いは伝わる?」
「ああ、届く。カントー地方にだって、シンオウ地方にだって届くさ」
「今ここで頑張れば、明日から、後悔せずに済むかな?」
「ああ!絶対ハピーエンドになる!」
そこまで言って、ルークは一度目を閉じるとすぐに開く。
その目からは迷いというものが消え失せ、代わりに覚悟が浮かんでいた。
今までのどこか頼りなさそうだったルークの顔は鳴りを潜め、一人の男(ルーク)の顔になる。
「なら、任された!僕があのヨクバリスを引きつけてみせる!」
「任せた!」
ルークの右手を掴んで、託し、託される。
それから俺は知りうる限りの情報と作戦をルークに渡す。
今まで奴が使ってきた技や癖、それを踏まえた作戦を。
作戦会議と情報共有を終え、ルークとマーイーカがヨクバリスの前に姿を現す。
ヨクバリスは俺の姿が見当たらないとわかるとニヤニヤとした態度を取り始める。
「僕が、お前を倒す!」
「マイッカカ!!」
「バババリィィス!」
二人と一匹の戦いが幕を開けた!!!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そして俺の方はと言えば、
「パラパパッパパー!『むしよけスプレー』!」
二人のバトルを邪魔しないよう茂みに隠れていた俺はキャンプセットの中から『むしよけスプレー』を取り出す。
このスプレーの中にはポケモンの嫌がる成分(自然にはオール無害!!!ここ重要)が入っており、主にキャンプをしているときにポケモンが寄ってこないように使う道具である。
つまりこれを使えばたくさん転がっているきのみの中からカジッチュだけが嫌がり動き出す、ということだ。
「我ながら頭が冴えすぎていて怖い」
「マーイーカ、『サイコカッター』!」
「イッカァ!」
「バリィス!」
茂みに隠れヨクバリスたちが果樹から離れていくのを待つ。
ルークたちは必死にヨクバリスと戦い少しずつだがあのヨクバリスを果樹から引き離している。
十分に距離が離れれば一気に『むしよけスプレー』を散布してスピードゲットだ!
「っ来た、『ほしがる』だ!」
ルークの声にマーイーカが身を構える。
ヨクバリスの『ほしがる』が攻撃と同時にマーイーカから持ち物を奪い去っていく。
だがそれは既に対策済みだ!
「バリリ……バリィ!?」
「お前が盗んだもの……それはマトマのみだ!」
「マーイイカ!」
『ほしがる』によって強奪したきのみを食いしん坊なヨクバリスはすぐさま頬張る。
だがそれは激辛と名高きマトマのみ。
今までマッギョやアーマーガアでさえ悶絶させた最強のきのみの一つだ!
「バリィィィィ!!!!」
口腔内を焼く灼熱の辛味がヨクバリスを襲う。
たまらずヨクバリスは近場の水辺に向けて走り出す。
「ビンゴ!!」
「今だよアカツキ!」
「任せろ!」
茂みから姿を現した俺は、素早く果樹に近づき、手早く『むしよけスプレー』を散布する。
もくもくと充満する煙の中にはポケモンの嫌がる成分が封入されている。
煙はきのみの山の中に紛れ込んだカジッチュの潜むきのみの中へと入りこんでいき、
「ッチュチュチュー!」
「ジッチュウ!」
「カジカジー!」
「カッカジ!」
「チュチュチュウウウ!!」
「うわ、こんなに!?」
きのみの山の中から十体にも及ぶであろうきのみが転がり始める。
まさかこんなに擬態したカジッチュが紛れ込んでいたなんて!
「だけど、これなら絶対逃がさない!」
あらかじめ用意しておいたモンスターボールを腰から取り外し、一体のカジッチュに狙いを定めて投げつける。
綺麗な放物線を描いたモンスターボールは転がるカジッチュにヒットすると吸い込み、カチカチと音を鳴らしポン☆という音を立てて捕獲に成功する。
「よっしゃ!」
「やった!」
「イッカア!」
その瞬間をしっかりと捉えていたルークとマーイーカが飛んで喜ぶ。
これでなんとか告白までに間に合ったか。
「って、あいつ!」
安心したのもつかの間、コロコロと転がっていったきのみの一つが水場に一直線に向かっていた。
そして今その水場には、
「バリィ…バリィ…」
マトマのみの辛さを何とかするために水を浴びるように飲んだヨクバリスがいた。
未だ辛さで苦しむヨクバリスの下に、よく熟れた甘いきのみが転がっていけばどうなることかは明白だ。
「バリリィス!」
「チュ、チュウウウゥ!?」
転がってきたきのみ(カジッチュ)を捕まえたヨクバリスがカジッチュの悲鳴のことなど聞こえないとばかりに大口を開けて口に放り込もうとする。
「させるかぁ!
ホップ直伝、ダンデさんフォーム!」
いつだったかホップに習った最強に格好いいボールの投げ方。
落ちているきのみの中から適当なものを拾い上げ、体に染みついた投げ方に従って投球する。投げたきのみがヨクバリスの口の中にストライクする。
「バリィ?」
シャクシャクと音を立てて咀嚼するヨクバリス。
よく熟した甘いきのみにご満悦の表情だ。
その間にマーイーカがヨクバリスの手からカジッチュを救出する。
「でかしたマーイーカ!」
「マイッカ!」
自分の所有物であったきのみを奪われ憤怒したヨクバリスがマーイーカに狙いをつけ、飛んでいるマーイーカよりも高く跳躍する。
以前ですら小さなクレーターを作っていたほどの『のしかかり』だ。
丸々と肥えた今のヨクバリスの体ではどれだけの破壊力を伴うのかは俺にも未知数だ。
「ルーク!」
「うん、ここだね!」
マーイーカが覚えていた技にこの強力無比な『のしかかり』を最大限に利用できる技があった。
マーイーカは持っていたカジッチュを俺に放り投げてくると空から落ちてくる質量兵器に果敢に立ち向かっていった。
「(キャッチ)マーイーカ、いっけぇ!」
「マーイーカ、『イカサマ』!」
「マイイッカァ!!!」
空から落ちてくるヨクバリス、その体をマーイーカの触手が絡め取る。
ギョッとしたヨクバリスだがもう遅い。
マーイーカの触手が互いの上下を一瞬のうちに逆転させ、ヨクバリスが地面に叩きつけられる体勢に入れ替える。
「イッカァァ!!!」
『イカサマ』は相手の攻撃が強ければ強いほど威力を増す技、
「バリリィィィィ!!?」
ヨクバリスは自分の放った『のしかかり』のエネルギーが全て自分の身に叩きつけられ、目を回す。
あのヨクバリスと言えども自分の最強技を食らっては立っていられなかったようだ。
こうして目当てのカジッチュゲットに成功した俺達だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ジーナ、受け取ってくれ!」
カジッチュを掴まえた俺達はすぐさま『アーマーガアタクシー』に乗り込みナックルシティへ戻った。
日は既に暮れた。
宝物庫前にジーナを呼び出したルークはその時を今か今かと待ち、開口一番やってきた彼女に捕まえたカジッチュを差し出した。
傍から見てもガチガチだなぁ、というのがバレバレであった。
「待って待って。いきなりじゃわからないよ」
「あ、ご、ごめん」
「もう…その色々説明を省いちゃう癖、早く治した方がいいよ?」
年の近い弟のような、近い人にだけ見せる心配を封入した軽めな口調でルークのことを窘める。
「うっ……」
「それで、この子はどうしたの?」
「う、うん!その、引っ越しちゃうジーナのために何か贈り物ができないかな、って思って。友達に手伝ってもらってさっきやっと捕まえられたんだ」
「へえすごいね!友達って誰と?エリック?ビスタ?」
「いや、今日会って今日友達になったばかりの友達なんだ。それなのに僕のお願いを手伝ってくれてさ……」
「そっか……じゃあアタシがいなくなっても大丈夫そうだね」
「えっ?」とルークが顔を上げる。
ジーナの顔は幼馴染に新しい友達ができたことを祝福するような、でもどこか悲しそうな顔をしていた。
自分がいなくなってもこの人は大丈夫なんだな、とでも言いたげな安心とちょっぴりの寂しさを混ぜたような笑顔。
そんな顔を見てしまってはルークも声を張らずにはいられなかった。
「そんなことないよ!!!」
「ルーク?」
「ジーナがいなくなるのに大丈夫なわけない!ずっと、ずっと一緒にいたのにいきなり居なくなるなんて、大丈夫じゃないよ!!」
「ルーク……」
ルークの眼から涙とともに今まで押し込めていた気持ちが噴き出る。
近いからこそ、言うことが恥ずかしかった。
好きだからこそ、伝えるのが怖かった。
ルークは伝える。
今まで胸に秘めていた感情をこれでもかと言わんばかりに言葉に乗せて、夜の宝物庫前で叫んだ。
「好きだ、ジーナ!」
「―――――――」
「このカジッチュは僕の気持ちなんだ、受け取ってくれ――くだ、さい」
そしてもう一度カジッチュを差し出す。
高ぶった感情を吐き出し切ったせいか最後はもじもじと顔を赤くし、彼女を直視できず目を逸らしている。
「―――ありがと」
「あっ……」
ルークの手から想いとともにカジッチュが受け取られる。
ジーナは手にした赤い果実を胸に抱く。
それはまるで果実とともに受け取った気持ちを胸の宝箱に大切にしまっているようにも見えた。
「ずっとずっと遠くに、他の地方に行っても大切にするね。
カジッチュも、
―――君の気持ちも」
「あ、あ、あああのその、、あ、ありがとぅ……」
彼女の満面の笑みを受けたであろうルークの顔が真っ赤に染まる。
そのまま笑顔のジーナに手を引かれ、ルークたちはナックルシティの夜の街に消えていくのであった。
「美しいものを、見た!」
やっぱり幼馴染みは最高やな!
「お!お前もそう思うか?」
「チュゥゥゥ!!」
「じゃあ俺達も戻るか。これからよろしくな、カジッチュ」
「チュゥゥゥゥ!!」
新しい仲間のカジッチュを肩に乗せ、こちらも夜の街に消えていくのであった。