剣盾旅記録   作:鳴神ハルキ

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はい、やっと四つ目のジムに来れましたね。
通称・操作パット壊しの異名を持つ四つ目のジムミッションです。いつもはジムリーダーとの戦いも一緒に投稿してたけど今回は分割です。


それと今回のジムミッションは少し内容を変えています。
ゲームではあのカーリングみたいなのに乗りながら坂を滑り降りている、というアトラクション内容でしたがこの作品では平らなツルツル床の迷路をあのカーリングみたいなので滑りながら攻略していくという内容になっています。


53、ジムミッション・ローリングカーリング

「オラァ!カレー解禁だァ!?嬉しいかァ!?」

『グ大尾オオオおお!!!』

「なんだこれ」

「わかんね」

 

 ささっとジムチャレンジ登録を終えポケモンセンターに宿を取った。

 カレー禁止生活三日目なのだが、今日はホップとのバトルでみんな頑張ってくれたので一日早い解禁にしてあげることにした。

 

「さらに今日はァァァ!! 市場で買ったこの最高級カレースパイスを使った特製カレーを作る!!! 楽しみかァァァ!?」

『鵜おオォォォォォ大!!!』

「もう鳴き声の体をなしてないわね」

「アカツキのポケモンになるとああなるのか……怖いぞ」

 

「今日は大盤振る舞いダァァァ!!!」

『伊やぁぁっぇぇっぇアァ!!!』

「なんかここまで来ると逆に興味湧いてくるわね」

「オレもなんかよだれ出てきたぞ」

 

 

 

ワイルドエリア某所

 

『っは!?今、みんながカレーパーティを始めようとしている?ずるいズルイ狡い!!!』

『あいつ定期的におかしくなってるわね』

『週に一度は自分の作ったカレーを献立に加えるとか言いだしたときは正気を疑ったぜ』

『ぼくは美味しいからいいけどね~』

『先輩…素敵…!』

『……アカツキさんのカレーが恋しいや』

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 さて、二日経った。

 展開が速すぎるって?今までが少しのんびりしていただけだから仕方がない。多分ジムチャレンジが終わったらイベント盛りだくさんになると思うから巻きで行こうとおもう。

 

「ぷー」

 

 いつものようにチャレンジユニフォームを身に纏いスタジアムのロビーで待機している。

 この二日間で格闘タイプとの戦闘訓練は積んできた。

 できることはやった、あとは勝つためにトレーナーである俺自身がしっかりせねば。

 

「お待たせ~、待った…?」

「待ってないし呼んでもない」

「ツレないボル♪」

「いきなりキャラが変わり過ぎて寒暖差で風邪ひきそうなんだけど…で、なに?」

「出場選手の緊張を解いてあげようと思ったボル」

「ありがとう、おかげで完全に緊張は解けたし何なら全身のありとあらゆる力が抜けた」

「それはそれは、なによりだボル」

 

 いきなり現れて彼女面してきたボールガイと名乗る不気味な生命体。最近ではゴーストタイプよりも意味不明なのでは?と思ってきた。

 いつものように現れてボールだけ置いていった。今回はヘビーボールか。

 ヘビーボールを手の中で弄んでいると、奴がボールの置き様に耳元でささやいていった言葉が反芻する。

 

『前の戦いで、ボクも君のファンになっちゃったかも……ボル♪』

 

「さ、寒気が……」ゾクゾク

 

 ささやかれた低音ボイスが耳元から離れない。呪いをかけられたんじゃないかと不安になってくる。

 

「やあ坊や」

「うひぃ!!?」

 

 ボールガイが去っていった直後にやってきた新しい来訪者の声にさらに耳が震える。

 

「なんだい、そんなに緊張していたら勝てるものも勝てないよ」

「あ、あれ? ポプラさんですよね? どうしてここに?」

「次はあたしのアラベスクジムだからね。こうやって一足先にチャレンジャーを見物して有望そうなのがいないか見に来てるだけさ」

「有望そうな…?」

「なに、勝ち上がって来ればわかるよ」

 

 そういうとポプラさんは首のファーに手を突っ込むとガサゴソした後一枚のカードを抜きだして、差し出してきた。

 

「あんたは中々面白そうだからね、これをあげるよ」

「これは、サイトウさんのリーグカードですね」

 

 そういえば今回はまだジムリーダーのリーグカードを入手していなかったことを思い出した。

 

「まず相手のことを知る。それができて一人前のトレーナーだよ」

「うっ…あ、ありがとうございます!」

「そう。純粋さは大事だよ。まあそれだけじゃあ、あたしのお眼鏡には敵わないんだけどね」

「???」

 

 リーグカードと意味深な言葉を残してポプラさんは去っていった。

 まあ直前とはいえジムリーダーのリーグカードが手に入ったのは僥倖だった。

 

「『親の英才教育で子供の頃からポケモンとカラテの修行をしていた。冷静で的確な判断力に優れる天才カラテ少女』か、デネボラさんに聞いてた話と大体同じかな」

 

 ポケモンバトルでは精神のスイッチを入れ替えてどんな状況でも冷静で的確な指示をだす天才カラテ少女。

 俺より少し年上、くらいだというなのに既にガラル地方のジムリーダーに就任している。それだけでどれだけの才能と努力をしてきたのかということがひしひしと伝わってくる。

 それにリーグカードを見る限りではポケモンと一緒になって修行をしているということでかなりコンビネーションもいいという。

 

「なにかいい情報が手に入るかと思ったけど、自信無くしてくるなぁ…」

 

 予想を大きく越えてくるジムリーダーの姿に意気消沈してしまう。

 本当に自分と同じ人間なのかと疑問に思ってしまうほどの経歴だ。

 

「ん?実は甘いものが大好きで、スイーツショップに出入りしているところが目撃されている」

 

 さっきまで感じていた大物感が一気に親近感に変わっていくのであった。

 

『――ジムチャレンジャー、アカツキ様。ジムチャレンジャー、アカツキ様。用意が整いましたのでユニフォームに着替え、ロビー中央の入場口までお越しください』

 

 ついに来たか。

 よし……じゃあ行くか!

 緊張はどこかに吹き飛んだ。

 さあ、まずは天才ジムリーダーに挑む前の肩慣らしと行こうか!

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

「それではアカツキ選手、このジムミッションのルール説明をさせていただきます」

「よろしくお願いします、ガンペイさん」

 

 毎度おなじみジムミッション・レフェリー10人兄弟の次男のガンペイさんに説明を受ける。

 

「ではまず、こちらをご覧ください」

 

 ガンペイさんに連れられてガラス張りとなった場所から今回のジムミッションの舞台となるフィールドを覗く。

 そこに広がっていたのは広大な迷宮。それもバウタウンでの水流迷路とは毛色の違う迷路であった。

 

「なんかカーリングストーンみたいなのがありますけどあれは?」

「よくお気づきになられました。あれこそが今回のジムチャレンジを攻略していただくにあたって使っていただく乗り物でございます」

「乗り物?」

「今回の」

 

 どうやら今回のジムミッションは今までのような自分で踏破するような形式とは違い、アトラクション形式のものということらしい。

 

「それではジムミッションスタートです!」

 

 ピピー!! というホイッスルの音とともに、俺の乗ったカーリングストーンなのかコーヒーカップなのかよくわからない『カー』という名の乗り物が射出される。

 床の材質、カーの底は極限にまでツルツルと磨かれていてほとんど揺れや摩擦が発生しない。射出の勢いと合わせてかなりのスピードだ。

 

「…あれが障害物か。

 たしか、このハンドルを回して…こうっ!」

 

 迷路となれば当然そこらかしこに壁と障害物が存在する。

 この乗り物は車のように自在に動きを操れるわけではない。そこで中央についてあるハンドルのようなもので動きを操作する、らしいのだが。

 

「うおぁ!? これ、乗り物自体が回転するから視界が――!?」

 

 ハンドルを回し、見事に障害物を回避したのもつかの間直後に問題が発生した。

 この乗り物、曲がったりするためにハンドルを操作するとそのままカー自体も大回転をするのだ。コーヒーカップ構造だから確かに理屈は理解できる、できるのだが。

 

「周り見えねぇ!?」

 

 くるくると回るのは搭乗者も例外ではない。

 視界は目まぐるしく動き、遠心力と平衡感覚のズレは吐き気すら催してくる。もはやカーリングのストーンでもコーヒーカップでもなく、独楽かなにかだ。

 そして満足に周囲を見ることができなければ当然。

 

「ッ!」

 

 乗り物に走る衝撃。

 大きな音とともに何かに当たった、乗り物の進路が目まぐるしく変わる。きっと壁にぶつかって反射してしまったのだろう。

 

「これ絶対無理でしょ!?」

 

 視界が常に回転し続ける中、迷路をクリアしろだなんて無茶苦茶すぎる。あまりの攻略難度に今までのジムミッションが優しすぎたのではないかという疑問と、突然難易度爆上がり過ぎだという自分でいうのもなんだが理不尽な怒りが湧いてくる。

 何度も壁にぶつかり、そのたびに進路がコロコロと変化していく。これでは今自分がどこにいるのかもわからない。

 

「と、とりあえずこの回転をどうにかしないと!」

 

 ハンドルをガッ!と掴み、今回転している右の回転とは逆の方向である左にぶん回す。そうすることで相反する回転の力がぶつかり合い、対消滅を起こして、カーは緩やかに減退していく。

 回転自体はハンドルをうまく使うことでクリアだ。

 次の問題は。

 

「拳が飛んできてるゥ!?」

 

 目の前から飛んでくる『ダイナックル』と見まごう巨大な拳。

 超巨大ボクシンググローブに超巨大ストリングを合体させてつくられたその拳は圧倒的な迫力とともに圧倒的衝撃を叩きこんできた。

 

「ッッッ!!!?!?」

 

 重量級ポケモンの体当たりにも等しい衝撃を受けた乗り物が吹っ飛ばされる……もちろん搭乗者である俺も一緒に。

 宙を舞ったカーに必死にしがみつきながら、高くなった視点を生かしてこの迷路の全体を仰ぎ見る。

 ひときわ目を引くのがぽっかりと空いたポケモンバトルができそうなほど大きな空白部分、どうやらここから繋がるようだったので道順を頭に叩きこんだ。

 

「ぐt!!!!」 

 

 頭に地形を叩きこんだとほとんど同時にカーリングが地面に落ち、手ひどい衝撃が体を駆け巡る。

 拳にぶっ飛ばされた時の衝撃も酷いものだったがこうして地面に落ちた時の衝撃の方が肉体的には厳しい。お尻が痛い。

 

「だけど、次の目的地が決まったぞ!」

 

 転んでもただではやられない。

 なおも地面を滑り続けるカーリングのハンドルを握り、次なる目標地点に向かってハンドルを切るのであった。

 

 

 

 

 

「着いた!」

「ここまでやって来るとは。やるな挑戦者!」

 

 一度迷路を飛び出したところで待ち受けていたのは、カラテの道着に酷似したユニフォームを身に纏った男のトレーナー。

 

「わたしの名前はツヨシ! このジムミッションを任せられし、三人のジムトレーナーの一人だ!」

 

 こちらと同じくカーに乗ったジムトレーナーのツヨシ、と名乗る男性。

 ユニフォームの上からでもわかる鍛え上げられた肉体、どうやらポケモントレーナーとしてだけではなく武道家としてもかなりの実力者のようだ。

 

「では、いざ尋常に!」

「バトル!」

 

 ツヨシは腰のボールを蹴り上げ、ポケモンを出す。

 重厚な音と高音ボイスを響かせて出てきたのはキテルグマ、超強力な腕力を有するポケモンだ。

 

「バイウール!」

 

 こちらが出したのはバイウールー。

 『もふもふ』という特性を持っていて対物理性能がとても高い。例えキテルグマであろうと生中な攻撃ではびくともしないというところを見せてやる。

 

「ンメメェ……ンメェ!?」

「バイウールー!?」

 

 しかし、ボールから出て床に着地したバイウールーが突然体勢を崩す。

 突然の転倒に驚き、カーリングから身を乗り出してしまった俺も床に落ちてしまう。

 

「いてて……すいません」

「構わないぜ、戻ってみな」

「すいませ…どわぁ!?」

 

 ツヨシさんに促され、早くカーに戻ろうとした俺も足を滑らせ盛大に転がる。

 いてて…と頭をさすりながらもう一度立ち上がろうとしてまた足を滑らせ盛大に転げる。

 極限にまで磨かれたツルツルの床は立とうとした瞬間足をすくい、”何度目だろうが関係ない”とばかりに何度も俺を転がしてくるのだった。

 

「こ、これ立つことも難しくないですか!?」

「そうだ! この床のフィールドこそがジムミッションの洗礼だ!」

 

 首を縦に動かすツヨシさん。

 見てみればキテルグマは悠然と、この滑る床の上に仁王立ちしている。

 それに対してバイウールーはなんとか四足歩行で立ち上がれている、という状況だ。

 相手は格闘タイプジムのポケモン、よく鍛えられているというのは本当のようだ。

 

「それではいざ改めて!」

 

 なんとか乗り物に這って戻ることができると両者は既にやる気十分であった。

 

「バイウールー、『とっしん』だ!」

「キテルグマ、『かいりき』!」

 

 互いの指示が飛び交うとポケモンは足腰にぐっと力を入れる。

 キテルグマはその大きな図体から考えられないほど俊敏な動きで以って、バイウールーに接近してくる。

 だがバイウールーの方は力んだ足が地面に取られ、『とっしん』を出すことすらできずに転倒してしまった。

 

「バイウールー!?」

「キィィイイイ!!!」

 

 転倒したバイウールーにキテルグマの剛腕から放たれた『かいりき』が突き刺さる。

 丸々とした毛糸のようなバイウールーの体がいとも簡単に吹き飛ばされ、迷路の壁に叩きつけられる。

 

「大丈夫か!」

「…ンメェ!!」

 

 幸い毛皮に吸収され大したダメ―ジにはならなかったようでホッと一息を吐く。

 しかし、今のスピード……

 

「完全にこの地面を使いこなしている…!」

 

 滑るようにして急接近をしてきたキテルグマ。あの動きは一朝一夕で出来るものではないことが容易にうかがえた。

 相手は流れるように移動をして、こちらは立つことすらままならないこのフィールド。

 

「強い……!」

「来ないならこちらから行くぞ! キテルグマ、『とっしん』!」

 

 壁に寄りかかりながら立ち上がったバイウールーに対して、スケートの様に地面を滑りながらキテルグマが襲い掛かる。

 

「こっちも『とっしん』だ!」

 

 迫り来る巨体を前にして、バイウールーは咄嗟に今自分が寄りかかっている壁を足蹴にすると跳躍の要領でキテルグマに突進する。

 なんとか絞り出した攻撃。

 

「キイイイイイ!」

「ンメェ……!」

 

 しかし、やはりというか十分な助走をつけたキテルグマの『とっしん』に不完全な『とっしん』では対抗することができなかった。

 再び毛糸の塊ともいえるバイウールーの体が跳ねて飛ぶ。

 『もふもふ』で軽減したとはいえそれでも少なくないダメージがバイウールーに蓄積されていく。

 なにか事態を打開するアイデアを出そうと頭をひねっていると、吹き飛ばされたバイウールーがこちらに向かって飛んで来た。

 

「うおおおお、来るな!?」

「ごメェェェェン!?」

 

 そうはいっても飛んでいるバイウールーに進路変更などできず、俺の乗っているカーの中にダイブしてくる。 

 バイウールーが座席に突撃してきた衝撃でカーは動きだしスイスイと床を滑っていく。これによって灰色の脳細胞が打開案をひらめく。

 

「このままいくぞバイウールー!」

「メメェン!!」

「なるほどそう来たか…」

 

 バイウールを乗せたまま、カーを操縦し始める。

 そう、床が特殊でまともに移動ができないというなら俺が足になればいいんだ!

 ポケモントレーナーがポケモンバトルに介入するなど前代未聞だが、フィールドをこの滑る床のまま、トレーナーもカーに乗ったままにしているということはそういうことなのだろう。

 この乗り物は移動ができないポケモンの足代わりとするためのものでもあったんだ!

 

「バイウールー、『にどげり』だ!」

「ンメェ!」

 

 高速で床を滑りキテルグマに接近すると座席を蹴り飛ばしたバイウールーが飛び出し、キテルグマに強烈な『にどげり』を炸裂させる。

 強烈な二撃を加えたバイウールーはそのままキテルグマを足蹴にして距離を取る。

 俺は着地点にカーを滑り込ませ、再びバイウールーを座席に回収をする。

 

「いい作戦を思いついたな。これならまともに立っていられないポケモンに足場を与えることができる、と…」

 

 ツヨシさんも天晴と言ってくる。

 

「だがその程度の作戦、これまでやってきた幾多のチャレンジャーも思いついていたさ!」

 

 再度キテルグマに接近しようと走っていた俺達のカーの横っ腹に、見事な操作技術を魅せるツヨシさんのカーが突撃し叩き飛ばされる。

 

「ふははは、どうだこれで自由には近づけさせん!」

「くそ、キテルグマに接近しないといけないのにッ!」

「甘い甘い! そんなドラテク(ドライビングテクニック)でこのオレの操るカーから逃げようなどとは片腹痛いわ!」

「なんかキャラ変わってません!?」

 

 ハンドルを握ったツヨシさんは先ほどまでと性格が急変したかのように豪快な性格となりこちらを攻め立て始めた。

 それはこちらの作戦を自ら邪魔するだけにはとどまらず、キテルグマの攻撃にもそれは現れたのだ。

 

「そらそらそら、『アームハンマー』!」

「キィィィイィ!」

「うわぁ!?」

「もう一つ、『アームハンマー』!!」

「キイイイイイ!!」

「当たるぅ!?」

「終わりだ、『アームハンマー』!!!」

「キキキイイイイイ!!!」

「ンッメェェ!!!?」

 

 先ほどのような素早さを活かした突撃戦法から一転して強力な『アームハンマー』を振り回すパワースタイルに変わったのだ。

 一撃一撃が必殺の威力を持つキテルグマの『アームハンマー』をまともに受けるわけにはいかないのでこちらは回避に徹するしかない。

 それも床を華麗に滑るキテルグマの俊敏性にいつまでも続かず、ついにはバイウールーを座席から吹き飛ばし床に叩きつけてしまった。

 

「これで自由には動けない、とどめだキテルグマ!」

 

 滑る床に落とされ満足に動けなくなったバイウールーに向けてキテルグマは滑走する。

 

「『アームハンマー』!」

「防御だ!」

 

 速度と腕力が濃縮還元された剛腕が振り切られた瞬間、バイウールーの体が丸くなり攻撃を受け止める体勢に変化する。

 バイウールーになったことで一層の弾力を手に入れた毛皮が衝撃を吸収する。

 しかしそれにも限界は存在し、丸が変形してくの字に折れ曲がったバイウールーが再び壁に向かって吹き飛ばされる。

 

「シャア! 直撃コース! これを耐えられたものは今までいなかった!」

 

 ツヨシさんも勝ちを確信する。それほどの快心の一撃だったのだろう。

 

「ん? チャレンジャーはどこにいった?」

 

 

 

 

 

「ここだぁ!!!」

 

 ポケモンバトルに気が向き、ツヨシさんの注意が逸れた瞬間、既に俺は走りだしていた。

 キテルグマがバイウールーに一直線に向かっていったのとは違い、大きく円を描くように移動していた。

 『アームハンマー』が降りぬかれ、壁に向かって直撃コースで吹き飛ばされたバイウールー。

 その進行先に被るように、滑り込む。

 

「バイウールー!」

「ッッ! ンメェェ!!」

 

 声を掛ければ返事が帰ってくる。あの『アームハンマー』の直撃を食らいながらそれでもバイウールーは戦闘不能に至っていなかったのだ。

 

「行け! バイウールー!」

「ンメェ!!」

 

 吹き飛んでいたバイウールーは空中で手足を伸ばし、防御フォームを解除すると、滑り込んだカーに強靭な後ろ足をめり込ませる。

 そして力を込めた後ろ足で車体を蹴り飛ばし、今飛んできたばかりのコースを否定するかのごとく一気に逆走する。

 そのコースの向かう先には腕を振りぬいたまま硬直しているキテルグマ。

 その大きな体めがけて、『アームハンマー』で飛ばされた勢いを乗せて。

 

「『しねんのずつき』!!!」

 

 キテルグマの体にバイウールーの角が突き刺さる。

 思念の力を込めた頭突きがめり込み、キテルグマの体が宙に浮きあがり、吹き飛ぶ。

 初激の再現とばかりに壁に叩きつけられたキテルグマの体がぐりぐりと壁に押し込まれ、バイウールーが角を引き抜き距離を取ると、それを追うようにしてキテルグマの体が地面に倒れ伏す。

 

『キテルグマ、戦闘不能。アカツキ選手の勝利』

 

「んなっ!? 目を回されたのはこっちかよ!」

 

 キテルグマが崩れ落ちるとともにレフェリーが勝敗を下した。

 ツヨシさんの勝ちを確信した笑みは一転して驚愕の色に染め上げられる。

 

「かー! ハンドルを持つと熱くなっちまうからいけねえや」

 

 そう嘆くツヨシさん。どうやら自覚はあるようだ。

 

「アカツキ選手だったな。いい勝負だった、次は普通のフィールドで思う存分戦いたいぜ」

「こちらこそ。出来ればもうこのフィールドはこりごりですけどね」

「…まだあと二人残ってることを忘れんなよ?」

 

 ツヨシさんとの勝負を終えると壁の一部が開いて次の迷路への道が開かれる。

 バイウールーをもとに戻した俺はカーを操り、次なるステージに足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

「だー、はぁー、わざと拳に当たらないと攻略できないなんて聞いてないぞ……」

「よくぞ第二のジムミッションを抜けたわね! 私の名前はアイコ、二人目のジムトレーナーよ!」

 

 計六回くらい巨大グローブに殴り飛ばされた先で何とか迷路を抜けることができた。

 待ち構えていたのは二人目のジムトレーナーのアイコさん、この人もカーに乗っている。

 

「互いに時間の無駄は省きましょうか!」

「拳に飛ばされて疲れ切ったあなたに負けるほど私もポケモン達もヤワじゃないことを見せてあげるわ!」

「いけ、アオガラス!」

「いきなさい、カモネギ!」

 

 二度目のバトル、こちらが出したのはアオガラス、アイコさんのポケモンはカモネギだ。

 

「一戦目の戦いから学んできたみたいね」

「はい! いくら床が滑りやすかろうと、空を飛ぶこいつには関係ない!

 いけ、『ついばむ』!」

 

 空を自在に飛び交うアオガラスに床による制約は存在しない。

 カモネギが座する場所まで一気に滑空したアオガラスのくちばしが迫る。

 

「受け止めて!」

「ネッギ!」

 

 効果抜群の攻撃を自慢のぶっといネギで受け止めるカモネギ。

 あのネギは太く、分厚く、味わい深いことで有名だがその強度も有名だ。例え鳥ポケモンの攻撃にさらされようがびくともしない。

 

「いくわよ、『いわくだき』!」

 

 攻撃を受け止めたカモネギがアオガラスを払い除け、両手で構えた大ネギを一気に振り下ろす。

 

「かわせ!」

 

 当たれば岩をも粉砕する一撃をヒラリと躱していく。

 確かに、ガラル地方のカモネギはあの太く大きいネギで他地方のカモネギを上回る力を有している。だが、それにより失ったこともあるのだ!

 

「空を飛んで翻弄しろ! 小刻みに『ついばむ』だ!」

 

 飛行タイプのポケモンと見まごうカモネギだがそのタイプは格闘タイプ、攻撃力耐久力とともに飛行タイプであった頃のカモネギを大きく上回るが、彼らは空を飛べなくなってしまったのだ。

 空を飛ぶ飛行タイプと地を移動する格闘タイプ。その決定的な相性の差は覆らない。

 

「『いわくだき』が当たらないッ!」

「そこだ、『ついばむ』!」

「ガァ!!」

 

 接近するたびに大ぶりな一撃を振り下ろしてくるカモネギだが、空中でひらひらと動き回るアオガラスに決定的な一撃を与えることができない。

 ネギで防御しようにも攻撃直後の隙を上手く突くアオガラスの攻撃にカモネギは防戦一方となっている。

 

「やるわね!」

「ええ、このままいかせてもらいます!」

 

 ひときわ大きく空へと昇ったアオガラスがカモネギに狙いを定める。

 最高の一撃で一気にとどめを刺すという魂胆だ。

 しかし、狙いを付けられたにも関わらずカモネギは笑っている。見ればアイコさんも笑っている。

 

「カモネギ、乗り込みなさい!」

「ネギィ!」

 

 なんと今度はアイコさんのカモネギがカーに乗り込む。

 動き回ってアオガラスの狙いを外そうという魂胆なのだろうか。

 

「いくわよいくわよいくわよ!」

 

 そういい始めたアイコさんはカーを動かすことなくその場でハンドルを急回転させ始める。移動しながらハンドルを回すならともかく、その場で回り続けることに何の意味が…と思っていると、ぐるぐると回る彼女たちのカーに向かって風が流れ始める。

 見ればカーの回転に合わせてカモネギがネギをぶん回しはじめていた。

 

「『ぶんまわす』!」

「ガガァァ!?」

「ひ、引きずり込まれる!?」

 

 カモネギとカーが生み出した回転が竜巻の様に立ち上り、渦を発生させる。

 強烈な回転によって生まれた気流に空を飛ぶアオガラスは抵抗虚しく引きずり込まれていく。

 

「これこそが対飛行タイプ対策よ!」

「逃げるんだアオガラス!」

「『はたきおとす』!!!」

 

 『ぶんまわす』によって自由を奪われたアオガラスが竜巻の中心地で自由に動けるカモネギの一撃により叩き落とされる。

 『いわくだき』にも負けない大ぶりな一撃がクリーンヒットし、アオガラスが地に叩きつけられる。

 そしてツルツルと滑る床のせいで爪に覆われたアオガラスは立ち上がることすら難しい。

 

「一気に決めるわ、『いわくだき』!」

 

 竜巻を飛び出し、自在に滑るカモネギはネギを上段に構え一撃必殺の構えを取る。

 堂に入った完璧な構え、あの一撃が決まれば勝機は無い!

 

「……ッ! 風の流れに乗るんだアオガラス!」

「ガァ!」

 

 しかし天はこちらも見放していなかった。

 空を飛ぶアオガラスを無理矢理引き付けるほど強力な竜巻はカモネギがその中核から外れても簡単には消えていなかった。

 その風の流れに敢えて乗ることによってアオガラスの体は浮き上がり、空に復帰する。

 

「利用されるなんてねッ! だけどそのまま竜巻に入ればさっきの二の舞じゃないかしら!」

「いいや、今度はその竜巻も乗りこなして見せる! いけ、アオガラス!」

「ガァァァ!!!」

 

 先ほどの様に引きずりこまれるのではなく、敢えて真っ向からその竜巻に突撃する。

 竜巻は中心こそ静かだがその周囲は暴風によって乱れた気流が渦巻いている。生中な飛行タイプではいとも簡単に羽根を奪われるだろう。

 だが、こいつはガラルの空を背負う誇り高きアーマーガアの直継、この程度の竜巻乗りこなして見せる!

 

「ガァァァァ!!!」

 

 竜巻の力を手に入れたアオガラスが新たなくちばしを携えて、ガラルの空の覇者が誰なのかを高らかに宣言する。

 

「『ドリルくちばし』!!!」

 

 渦巻く回転が甲高い音を立てて、カモネギのネギを貫く。

 カモネギも全身の力を使ってネギを盾にするが、アオガラスの『ドリルくちばし』がそれを易々と貫通する。

 真っ二つに裂けたネギの割れ目から顔を出した螺旋の一撃が、地に落ちた空の格闘家を貫いた。

 

『カモネギ、戦闘不能。アカツキ選手の勝利!』

 

 どこからともなく響き渡るアナウンスが勝者を告げる。

 すると回転のおさまったカーからアイコさんが声を掛けてくる。

 

「こ、このわらひ達の対ひろうしぇん法を破るな、なんて……」

「目回ってますよ」

 

 カーで近づいてグロッキー状態のアイコさんの背中をさすると声にならない悲鳴が流れ続けた。

 

「…まだまだ修行が足りませんでしたね。次が最後ですよ挑戦者、がんばってください」

 

 新たにひらいた扉を抜けると、

 

 

 

 

 

 

 右を見ても左を見てもキョダイボクシンググローブが並んでいた。

 

「ふざけんなッッ!!!!」

 

 流石に悪ふざけが過ぎると思うの。

 

 

 

 

 

「ぜーぜーぜー、心臓に悪い」

「おお、あの百にも及ぶ拳を抜けてくるとは大したものだな」

 

 悪ふざけステージを抜けた先には最後のジムトレーナーがいた。

 最後の迷路は迷路ともいえないまっすぐの道のりだったのだが、入り口から出口までびっしりと並べられた巨大グローブがカーのギリギリにまで迫って来るので本当に心臓に悪かった。ほんの数センチズレれば以降は出口までタコ殴りにされていたかと思うと血の気が引けてくる。

 

「それじゃあ、ジムリーダーに挑もうという無謀なチャレンジャーを打ち負かすとしようか」

 

 比較的年が近そうな青年は手足をこきこきと鳴らしながら準備運動を始める。

 しかし俺はそんなことには目もくれず、ガクガクと震えながら地面に足を下ろす。久々の普通の地面に感謝感激だ。

 

「……地面って…いいね…」

「ああ、どれだけ踏み下ろしても受け止めてくださる。我らの母なる星の偉大さを教えてくれる」

「……もしかして、あなたも…?」

「オレは…乗り物酔いが酷いんだ…」

 

 心の中で無言の握手を交わす。

 

「オレの名前はトシヤ!」

「俺はアカツキ!」

 

「「バトルだ!!!」」

 

「いけ、サワムラー!」

「頼んだ、パルスワン!」

 

 トシヤの出す初めて見たポケモンに図鑑を差し向ける。

 サワムラー、キックポケモン。脚がバネで出来ている格闘タイプのポケモンだ。

 

「いくぞ、『メガトンキック』!」

「サッワァ!」

 

 トシヤの指示でサワムラーが『メガトンキック』を繰り出す……三メートルも遠くから。

 だというのに、パルスワンの顔面に強烈な『メガトンキック』が突き刺さりぶっ飛ばされる。

 

「え!?」

「バネの長さは伸縮自在、サワムラーとの間に距離なんて有ってないようなもんさ」

 

 サワムラーの脚はバネの特性を生かしてどこまでも長く伸びるというのだ。距離を無視する足技、追撃を避けるように指示を出す。

 

「『にどげり』!」

「走れ!」

 

 再び襲い掛かってきた強烈な二撃をパルスワンの俊足が置き去りにする。

 

「いくら伸びても、その間は無防備だ! 『かみつく』!」

「ワオオン!」

 

 片足を伸ばしたサワムラーは無防備。サワムラーの脚が戻る前にパルスワンが接近する。

 パルスワンの『かみつく』がサワムラーの体を捉え、そのあごの力にサワムラーも苦痛をあらわにする。

 

「悪タイプでこれほどのダメージか」

「『がんじょうあご』は伊達じゃないぜ、そのまま噛み千切れ!」

 

 ギリギリと食い込んでいくパルスワンの牙がさらに深く食い込んでいく。

 

「飛べ、サワムラー!」

 

 ようやく伸びた脚が戻ってきたところでサワムラーが空高く跳ね上がる。バネを用いた跳躍は普通のポケモンが生み出せる跳躍力を優に超える。

 体に噛みついたパルスワンとの間に脚を挿入したサワムラーは、渾身の力で以って蹴り技を叩きこんだ。

 

「『とびげり』!」

 

 バネの反動を利用して、無理矢理パルスワンを引きずり剥がしたサワムラーは一筋の流星となる。

 高所からの落下の力を加えた流星と見まごう一撃が、爆発のような音とともに床を大きく破壊する。

 

「サワムラーの特性は『すてみ』、反動のくる技をためらいなく使えるんだ。その分、こいつも多く傷つくことになるけどな」

 

 爆発の煙中から足を少し負傷したサワムラーが飛び出してくる、ダメージも食らったがまだまだ戦えるといった顔だ。

 トシヤは今の攻撃で確実にパルスワンを仕留めたと思っているようだ。だが、パルスワンもただではやられない!

 生還したサワムラーの体に一筋の電気が走る。それは体の自由を奪い、サワムラーの体を硬直させる。

 

「これは『麻痺』か!?」 

「ご名答、さっき空中で押し退けられているときに『ほっぺすりすり』で『麻痺』状態にしていたんだ!」

「ということは!?」

 

 未だモクモクと煙が滞留する中、甲高い遠吠えが響き渡る。

 煙を引きずりながら一匹のポケモンが飛び出る。

 

「あの一撃を耐えたようだな!」

「そっちこそ、『麻痺』しながらなのに冷や冷やする威力だったよ!」

 

 パルスワンもサワムラーも大きなダメージを負った。

 互いに自慢の攻撃を受けながら倒れていない相手を見て対抗心をより一層燃やしている。

 

「いくぞ!」

「ワォオオオオ!!」

 

「やるぞ!」

「サッワァ!!」

 

 互いの燃え盛る対抗心は力となって現出する。

 

「『スパーク』!!!」

 

「『ブレイズキック』!!!」

 

 バチバチと弾ける雷撃を、

 ”相手を焼き焦がせ”と体に纏う。

 

 メラメラと燃え盛る炎が、

 ”相手を燃やし尽くせ”と脚に灯る。

 

 二匹の譲れぬ対抗心がぶつかり合い、ぶつかり合った雷撃と炎が床を焼いていく。

 身を焦がすほどの攻撃がぶつかり合い、爆発を起こした後で両者が吹き飛ばされる。地面に足をこすりつけ、無理矢理止まらせる。床には焼け焦げた跡が軌跡として残っていた。

 

「……いい戦いだった」

「……ありがとう」

 

 トシヤが両手を合わせ、頭を下げる。

 礼をしたのと同時にサワムラーの脚のバネが弾力を失い、地面に崩れ落ちる。

 

『サワムラー戦闘不能。アカツキ選手の勝利!』

『アカツキ選手! ジムミッション達成です!』

 

 最後のジムトレーナーを打ち倒したことで、バトルの勝敗とともにジムミッション達成のアナウンスが流れる。それと同時にコートの方から歓声が上がって言うのが聞こえた。

 

「いいバトルだった。おかげでジムチャレンジャーだった頃を思いだしたよ」

「トシヤもジムチャレンジャーだったの?」

「三年前にな。だけどここで負けちまって、それからここのジムトレーナーとして修業しなおしているんだ」

 

 ガシッと握手をする、今度は心の中ではなく直に。

 

「オレは勝てなかったけど、お前なら勝つと信じてるぜ!」

「サイトウさんを俺が打ち負かしてくるよ!」

 

 俺は強く握ったその感触を確かめながら、一歩一歩コートへ進んでいくのであった。

 

 

 




へへっ、途中から書き直したら12000字越えしたぜ……ガクっ

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