剣盾旅記録   作:鳴神ハルキ

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二話連続投稿となります。

前話
「54、vsサイトウ」から読むことを推奨します。


55、武の神髄 vsサイトウ

「見事なバトルでしたゴロンダ」

 

「よく頑張ってくれたヒトモシ」

 

 

 コートの中央で満足そうな笑みを浮かべたポケモン達を互いのボールに戻していく。

 激闘。互いの死力をかけゴロンダは自らの生命エネルギーを、ヒトモシは自らの体を限界まで削り切るほどの戦いであった。

 だが、今の戦いですらまだ戦いの前半戦に過ぎない。俺達トレーナーは新たなボールを手に、高らかにポケモンの名を叫ぶ。

 

 

「ゆけ、ネギガナイト!」

「ガナァイト!」

 

 

「いけ、ジメレオン!」

「レオォォン!」

 

 

 サイトウさんの出したポケモンはネギガナイト。ユウリやアイコの持っていたガラル地方のカモネギが独自の進化を遂げたポケモンらしい。カモネギの頃に持っていた大ネギよりもさらに強度と耐久性が向上したネギの(つるぎ)とネギの葉の盾を持つ、その姿は侍というよりは中世の騎士に酷似している。

 攻守ともに整ったネギガナイトを相手にこちらが選んだのはジメレオン。見るからに強敵、迷わずこちらの最大戦力を投入した限りである。

 

 

「先攻いただきます、『みずのはどう』!」

 

 

 先攻を奪取し、ジメレオンの代名詞ともいえる『みずのはどう』が撃ち出される。

 水の波動を圧縮した攻撃、当たれば大ダメージ必須の攻撃をネギガナイトは左に持つ盾で難なく受け止める。

 

 

「逸らしなさい!」

「ガッ……ナイト!」

 

 

 盾を少し傾けだけで、力の向きが逸らされた『みずのはどう』が空へと打ち上げられる。ネギガナイトの達人のような技術で見事に打ち上げられた水の波動に多くの観客、そして俺もジメレオン自身も視線が釘付けになる。

 そして、誰も注目していなかった右手に持つネギの剣が光った。

 

 

「砕け、『かわらわり』!!」

 

 

 サイトウさんの声に反応してばっと振り向く。

 そこには既に踏み込みを終え、ジメレオンとの距離を詰めて剣を振り上げるネギガナイトの姿があった。

 ネギの茎から作られた剣は盾以上の硬度と切れ味を持つという。なんとか気がつくことができたが、躱せるかっ!?

 

 

「ジメレオン、躱せ!」

「ッ! ジッメ…!」

 

 

 ジメレオンは体を捻りなんとか間一髪、ネギの剣が虚空を切り裂く。

 ジメレオンは剣を振り切ったネギガナイトの足元を掬うように横蹴りを仕掛けるが華麗に避けられてしまった。

 二匹はすぐさま飛びのき、距離が生まれる。

 

 

「見事、ならばもう一度!」

「ガナァァイト!!!」

 

 

 気迫の衰えないサイトウさんの指示にネギガナイトは左手に持った盾を体の前に構える。盾で体がすっぽりと隠れてしまった。

 

 

「盾を構えたまま…?」

「ネギガナイト、突撃(チャージ)!!」

 

 

 ネギガナイトは盾を構えたまま先ほどと遜色ない速度で突撃を仕掛けてくる。ジメレオンは即座に作り上げた『みずのはどう』で迎撃するが、体の前に構えた盾には突撃の力も乗っており容易に弾かれてしまう。

 

 突撃の勢いを加算した盾は凶器といっても差し支えないエネルギーを秘めている。

 だが今回は先ほどとは違う。俺もジメレオンも注意深く観察し。

 

 

「今だ、躱して『みずのはどう』!」

 

 

 勢いの乗った盾は『面』の制圧力でもってジメレオンを押しつぶそうとするが、紙一重でジメレオンが回避される。

 ネギガナイトの体を守る盾は避けきった。今度はこちらの番だとジメレオンが作っていたもう一つの小さな『みずのはどう』が至近距離で炸裂する。

 

 炸裂した『みずのはどう』はその小さな見た目からは想像つかないほどの衝撃ではじけ飛び、ネギガナイトの顔を歪ませる。

 何度も使ってきたジメレオンの代名詞だ、小さく見えてもその圧縮した水の力は普段のものと比べても遜色がない程だと自負している。

 

 こちらが『みずのはどう』の威力にご満悦していたところで、しかし、ネギガナイトも伊達に武術を修めているわけではなかった。

 突撃を躱され、反撃を食らったというのに、彼の体勢が崩れていなかったのだ。

 最適化された動きで盾が引き戻される。

 その盾は攻撃に移り無防備だったジメレオンの顔面に叩きつけられる。躱したばかりの盾が瞬時に戻って来るとは思い至らず、意識外から叩きつけられた盾の一撃にジメレオンの意識が刈り取られる。

 

 

「ジメレオンっ!」

「ネギガナイト、『かわらわり』!」

 

 

 無防備なジメレオンに向けて再び『かわらわり』が振り下ろされ、直撃したジメレオンの体が大きく吹き飛ばされる。

 何度もバウンドしやっとのことで立ち止まることができたが……傷は深い。それは攻撃が直撃する寸前にジメレオンが無意識のうちに盾とした左腕が動くことすらままならずプルプルと小刻みに震えていることからも明らかだった。

 

 

「畳み掛けます、『れんぞくぎり』!」

 

 

 そして負傷したジメレオンを休ませるつもりは毛頭ないらしい。

 一撃の威力から手数の多さを主体とした攻撃に切り替わる。鋭い切れ味を持つ剣が幾度も振るわれ、左腕を負傷したジメレオンは回避に専念するしかなくなる。だが振るうごとに速度の増していく『れんぞくぎり』は逃げ場を切り詰めていき、ジメレオンの体は次第に切り傷を増やしていく。

 

 

「そこです!」

「ナイッ!!」

 

「ジ……メッ!!?」

 

 

 回避にも無理が祟ってきたところでついにネギガナイトの一撃がジメレオンの喉もとを捉える。先端がジメレオンの喉に突き刺さり呼吸が閉ざされかける。

 生物としての急所にめり込みそうになった一撃に対して。

 

 

「掌から水を発射して飛べ!」

 

「ン…メェッ!!」

 

 

 腕の水線から勢いよく水を噴射させその力の反動を利用して後方へと一気に飛ぶ。決まりかけた急所への一撃を何とか回避させることに成功した。ついでに噴出した水はネギガナイトにも直撃しダメージにもなったらしい。だがそれにしたって……

 

 

「強すぎないかなぁ……っ!」

 

 

 体の動かし方、そして両腕に持った武器。手札が増えるというだけでこれほどまでに厄介になるのかと冷や汗を流す。

 人は武器を作り、その力で他の生き物たちに対抗してした。

 だがポケモン自身が武器を携え、武術や剣術を身につけるということはこれほど厄介なのかということを実感する。ユウリのバチンキーも二本の木の棒で戦っていたがこれはレベルが違う、洗練された達人の動きが今のネギガナイトには乗り移っている。

 

 

「だったらその武器を使えなくさせるぞ! ジメレオン、『みずのちかい』!」

 

「ジッメァ!!」

 

 

 ジメレオンが右腕を振り上げ、力の限り地面を叩きつける。

 送り込まれた膨大な水のエネルギーが地中を駆け巡り、ネギガナイトの周囲を囲むようにして何本もの水柱が立ち上がる。四方を囲み、身動きの取れなくなったネギガナイトの足元から一際強烈な水柱が噴出する。

 

 

「決まった! 直撃だ!」

 

「甘いッ!!」

 

 

 こちらの声とは裏腹にサイトウさんの声は厳しかった。

 不審に思い、吹き上げる激流に飲み込まれたネギガナイトの姿を探す。常ならば水柱に打ち上げられたポケモンは宙を舞っているはずだと空を見上げる。

 するとたしかに、ネギガナイトはたしかに空にいた。だがそれは決して水柱が直撃し、為すすべなく吹き飛ばされたのとは違う。確かな意思と技をもって宙を舞うのではなく、飛んでいたのだ。

 

 翼を失ったはずの鳥の騎士。それが何故今頃になって空を飛ぶことができたというのかというと。

 

 

「盾をボードにしたのかッ!」

 

 

 不可避の激流を盾によって防いで、その衝撃を利用して空を飛んだのだ。

 彼のポケモンは進化の過程で自ら飛ぶ力を放棄した種族。かつての翼は今では武器を扱うための器用さと引き換えに、大空を自由に舞う力を失ったはずだった。だが、だからと言って彼らが空を飛ぶ術を忘れたわけではなかったのだ。

 

 空を飛んだネギガナイトを打ち落とそうと『みずのちかい』を撃ち出す。

 しかし、ネギガナイトは盾のボードを巧みに扱うことで自在に空を滑空しそれらを自在に躱していく。まるで翼を使っているように空を自在に動くネギガナイトをこちらは捕捉することができない。

 

 それも長くは続かなかった。

 盾を蹴り飛ばし、ネギガナイトが(つるぎ)を振り上げる。

 ネギガナイトの周りで渦巻く闘気は今まで受けたどの技よりも鋭く、受ければまずいと確信するものだった。それを回避する手立ては……なさそうだ。

 

 

「『かわらわり』!!!」

 

「『ふいうち』!!!」

 

 

 空から堕ちてきたネギガナイトの(つるぎ)と黒く染まったジメレオンの右腕が交差する。

 

 ジメレオンの反撃の凶手はネギガナイトの胸元を切り裂き、一筋の傷を残した。

 しかし、先んじて命中した『ふいうち』をものともせずネギガナイトの『かわらわり』は振り下ろされていた。片腕だった時とは一線を隔す威力の攻撃がジメレオンの脳天に突き刺さり、衝撃で地面がひび割れる。

 

 

 ズザザザザと音を立て摩擦を起こしながら、ネギガナイトは地面に着地する。

 それとは対照的に、ジメレオンは膝をついてしまった。

 

 

『うおおおおおおおおおお!!!!』

 

 

 翼を捨てたネギガナイトが空を飛び、一瞬の交差の後に膝をついたジメレオン。

 映画のワンシーンのような戦いに会場が湧き立った。キッと観客席で見ていれば俺もその側だったのだろうと思う。

 

 

 

 時に、最後まで気を緩めること無く、心は残ると書いて「残心」と言うらしい。ネギガナイトは武人だ、攻撃の後の立ち振る舞いからは余裕すら感じられる。

 

 そんな彼とは言え空を飛んだ体験と思う通りに攻撃が当たってどこか心が浮ついていたのではないか?

 

 

 

 

 確かな油断。

 にやりと口角をあげた俺とジメレオン。

 崩れた体を支えていた右腕が青く輝いた次の瞬間、地面から吹き上がった水の柱に飲み込まれ、今度こそネギガナイトの体が宙を舞った。

 

 

「ガ、ガナ…!!?」

「これはッ!」

 

 

 すさまじいまでに練り上げられた闘気と落下のスピードから「避けられない」と確信した俺とジメレオンは一芝居打つことにしたのだ。

 攻撃をわざと受けることによって相手の油断を誘い、先ほど空を飛ぶネギガナイトを打ち落とそうとしたときに使った『みずのちかい』を時間差で発動するように仕掛けておいたのだ。

 

 ジメレオンは嘘泣き、なみだめの名人。相手を騙すことなど基本技能でしかない。先ほどのお手本のような膝をつく様も、すべてはジメレオンの演技の一環だったのだよ……まあ実際は直撃した『かわらわり』が想定以上に強烈でジメレオンが本当に無事なのか焦りはした。だがそこはうちの最大戦力、最後まで強がってみせてくれた。最大戦力だったから耐えられた、最大戦力じゃなかったら耐えられなかった。

 

 ネギガナイトは頭から地面に墜落し、今度こそ大きなダメージを負う。

 

 墜ちたネギガナイトが剣を支えにしながらなんとか立ち上がる。

 その目の前には立ち上がったジメレオンがいる。脚はプルプルと震え、震えたままの左腕と酷使した右腕は既に体に引っ付いている棒と言っても差し支えないほど消耗している。

 だというのにジメレオンもネギガナイトも好戦的な笑みを絶やさない。

 

 

「ジメメェ……!」

「ガナイト……!」

 

 

 ジメレオンは酷使した腕を無理矢理動かし顔の横で水平に構えると、その指先をネギガナイトに向ける。

 ネギガナイトも地面に置き捨ててある盾に見向きもせず、剣を両手で構えると顔の右横で水平に構える。こちらも剣の切っ先はまっすぐジメレオンに向かっている。

 互いは荒い息を吐きながら、大きく一呼吸を吐いた後、トレーナーの声と同時に大きく目を見開く。

 

 

「『ふいうち』!!!」

 

「『かわらわり』!!!」

 

 

 再び黒く染まった凶手と(つるぎ)が交差する。

 踏み込んだネギガナイトが肩からバッサリ切り裂こうと袈裟斬りをしかける。その振りかぶった動作を見逃さず『ふいうち』は先んじて動き、剣の腹を叩いてバランスを崩す。剣がジメレオンの横をすり抜け、地面に突き刺さるとジメレオンは剣を踏みつけ咄嗟に抜けないようにと押し込める。武器を失ったネギガナイトの無防備な胸に向けて、「俺の勝ちだ」と黒く染まった凶手が吸い込まれていく。

 

 そのまま鋭い手刀がネギガナイトの胸に突き刺さり、急所を打ち抜いたと確信し喚起する。

 だが、当の本人であるジメレオンの表情が愕然とする。『ふいうち』は……鋼と化したネギガナイトの胸部によって受け止められていたからだ。

 

 

「体が鉄に……『てっぺき』かっ!」

 

「その通り! ネギガナイト!!」

「ガナイトッ!」

「『リベンジ』!!!」

 

 

 肉体を鋼とすることで攻撃を受け止められた。

 ネギガナイトの体から橙色のオーラが吹き上がる。

 攻撃を受けたことによって倍増したオーラはネギガナイトの体を一気に膨張させ、有り余る暴力となってジメレオンの体を掴む。激闘の連続で力を使い果たしたジメレオンの体が浮き上がり、地面に叩きつけられる。叩きつけられた衝撃とともに体からは意識が薄れていき……消えた。

 

 

 

『ジメレオン戦闘不能!ネギガナイトの勝ち!』

 

 

『うおおおおおおおおおお!!!!』

 

 

 切札墜ちる。

 俺の不動のエースが落ちたことによって会場は更なる熱量で湧き上がるのだった。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

「負けちゃったか……」

 

 

 倒れたジメレオンの下に駆け寄り、優しくそっとボールを当てると戻っていく。

 近くで見たネギガナイトの体は想像以上に肉厚と迫力を兼ね備えていた。元の場所に戻ろうと背を向けようとして、ネギガナイトがボールに戻される。何事かと思い、振り返るとサイトウさんに声をかけられる。

 

 

「ジメレオン、とても良い戦いぶりでした。特にやられたフリなどは見事でした」

「ありがとうございます。こいつも……勝ててたらもっと喜んでいたと思うんですけどね」

「ええ。ですが最後の一撃、トレーナーである貴方の見立てが少し甘かったようですね」

 

 

 ネギガナイトは終盤まで技を隠し通していた。盾のなくなった状況でも攻撃を受けられる『てっぺき』と武器が無くても攻撃が可能な『リベンジ』、この二つをサイトウさんは冷静な判断力により最後まで秘匿していた。最後はそこが決め手になったと言っても過言ではない。

 

 

「それにこちらはまだ手負いとはいえまだ三体、そちらはあと一体」

 

 

 今腰に戻したばかりのネギガナイトのボールを含めた三つのボールに触れ、自分の手持ちが三体残っていることを示唆してくる。

 情報によるアドバンテージはいまここで示した。「情報の大切さは示しました。さあ貴方はどうします?」と暗に訴えかけてこられているようだ。

 確かに三対一、絶望的なまでの戦力差だ。

 だが。

 

 

「こいつが戦いたがっていますし……それに、負けるのは嫌いなんです!」

「……それでこそ。流石はチャンピオンに認められたトレーナーですね」

 

「だから、頼んだぞバイウールー!」 

「ンメェェェ!!」

 

「カポエラー頼みます!」

「カッポォ!!」

 

 

 ボールから元気よく飛び出すバイウールー。その四肢は悠然と地面を踏みしめる。

 ボールから気合よく飛び出すカポエラー。傷つきながらもその両目から闘志は消えていない。

 

 

「カポエラー、ジャンプです!」

 

 

 サイトウさんの指示にカポエラーは大きく跳躍する。その姿を見逃さぬようバイウールーと俺は空を仰ぎ見る。

 カポエラーは空中で身を捻り回転を起こす。重力と回転の力を乗せたかかと落とし、『トリプルキック』が空から襲い掛かる。

 

 

「『トリプルキック』!」

「迎え撃て、『にどげり』!」

 

 

 先の戦いでカポエラーの技を把握しておいてよかったと安堵する。一度、二度、と両者の蹴りが衝突し合いビリビリと空気が揺れる。バイウールーの蹴りはカポエラーのそれと遜色ない勢いでぶつかり一歩も引いてい。

 だが、カポエラーは二度の衝突で力が互角と悟るとせめぎ合うバイウールーの脚を踏み台としてさらなる跳躍をする。

 一度目の跳躍で駄目だったなら、さらに高く。先ほどよりも高く跳躍したカポエラーは、先ほどよりも多くの回転をかけながら三度目の蹴りをバイウールーに振り抜き、顔面を躊躇いなく蹴り飛ばした。

 

 

「バイウールー!」

 

 

 効果抜群の技を受け吹き飛ばされる。

 羊毛のない顔面を的確に狙ってくる今の動き、やはり戦い慣れているという感じだ。バイウールーは顔面を奮うと顔に着いた汚れを振り払いやる気に満ちた声を上げる。

 

 

「ンググ、メェェ!!」

「よしまだいけるな。いけ、『とっしん』!」

 

 

 バイウールーが走りだしカポエラーに向かって一直線に向かっていく。当たれば大ダメージは必至の『とっしん』は確かにバイウールーの技の中でも一番のパワーを持つ大技だ、だけどその大ぶりな動作からどうやっても相手に届くことが少ないのが難点だ。

 

 

「カポエラー、『みきり』!」

 

 

 気合の入ったバイウールーの攻撃はやはりというべきかカポエラーの冷静で的確な判断力で華麗に躱されてしまう。そして攻撃を躱した際にバイウールーの羊毛を掴んだ。カポエラーは『とっしん』の勢い残るバイウールーの体を。

 

 

「『こうそくスピン』、そこから投げ飛ばしなさい!」

「カッポォ!!」

 

 

 投げ飛ばした。

 カポエラーの見事な回転、そしてバイウールーの『とっしん』の勢いを利用した回転投げによってバイウールーの体が軽々と投げ飛ばされる。

 バイウールー自身何をされたのかわからなかっただろう。突撃を躱され、体を捕まれたと思ったらいつの間にか投げ飛ばされていた。そんな感じの表情をしている。

 

 だけどこれはポケモンだけの戦いではない、トレーナーである俺がここにいる。

 

 

「体を丸めて投げの衝撃を受け流せ!」

「させません、『インファイト』!」

 

 

 体を丸くし、投げの威力を殺しにかかろうとするがバイウールーの落下地点にカポエラーが待ち構える。アオガラスを倒したあの目にも止まらぬラッシュを入れようとしているのだ。

 バイウールーの体が今にも地面に触れようとしたところでカポエラーの左足が割り込みをかける。勢い良く振りかぶった左足はその体を蹴り飛ばさんと迫りかけ。

 

 

「今だ、『まねっこ』!」

 

 

 落ちるだけだったバイウールーの体から白いオーラが噴き出す。バイウールーの脳が想起し、先ほど投げられた際に無意識に目の端で捉えていたカポエラーの『こうそくスピン』を瞬時に模倣する。丸くなり毛玉と化したバイウールーの体が目にも止まらぬ速度で高速回転を始め、遠心力の乗った毛玉はカポエラーの蹴りを易々と弾き飛ばす。

 蹴りを弾かれ狼狽したカポエラーに、地面に接着し柔軟に形を変えた毛玉(バイウールー)はその勢いのままに飛び掛かる。 

 

 所詮は付け焼刃の『こうそくスピン』、回転のスペシャリストであるカポエラーにはたやすく受け止められるだろう。

 

 

「カポエラー、『みきり』!!」

 

 

 やはりというか、カポエラーの目が見開きバイウールーの動きが完全にとらえられる。

 回転を読み切りバイウールーの羊毛を掴み上げようと手を伸ばしたカポエラー。

 

 だが、止め方が悪かった。

 高速回転する羊毛。その羊毛の中からしなやかで強靭な脚が飛び出る。

 

 

「ガ、ガッポォ!!?」

 

 

 想定外の蹴撃はカポエラーの『みきり』を蹴破り、毛玉から飛び出した後ろ脚が腕を弾き飛ばす。

 

 

「『にどげり』!!」

 

 

 さらに飛び出した脚が顎を捉える。カポエラーの傷だらけの体が吹き飛び、これ以上のない隙を生んだ。

 瞬時に毛玉を解除したバイウールーは後ろ足に力を溜める。そしてこちらを見つめてくる。

 「いつでもいけるぜ」と。

 

 

「決めるぞ、『しねんのずつき』!!!」

 

「ンメェェェェ!!!」

 

 

 地面が陥没するほどに踏みしめたバイウールーは傷だらけのカポエラーに向かって弾丸のように発射される。発射されたバイウールーは角で風を切り、額に想いを力に変えた思念の力を注ぎこむ。

 

 攻撃を察知したカポエラーは自身の怪我の具合から防御を放棄し、目を見開き『みきり』をしようとする。それは悪手だとサイトウさんが口を開くが一歩遅かった。

 酷使した視界は連続使用を許さない。『みきり』は不発し、カポエラーが完全に逃げ道を失う。

 

 最後の抵抗も虚しくカポエラーの体を思念の力を纏った突撃が粉砕する。突撃の衝撃に耐えきれず吹き飛ばされたカポエラーの体は地面に横たわるのであった。

 

 

『カポエラー戦闘不能!バイウールーの勝ち!』

 

 

『うおおおおおおおおおお!!!!』

 

 

 観客席から相性不利を覆したバイウールーに向けて惜しみない賞賛が降り注ぐ。

 歓声を浴び、バイウールーは戦いを通しても損なわれなかった艶のある毛並みを誇らし気に観客に見せつけるのであった。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 湧き上がる観客たちを他所にサイトウはカポエラーのボールを取り出し手早く戻そうとしていた。戦ってくれた彼の名誉のため、彼の負けた姿を一秒でも多く衆目に晒さないためにボールのボタンを押す。瞬く間にカポエラーの体は光に包まれていき手のひらサイズのボールの中に吸い込まれていく。

 

 

「よく頑張りました……あなたの最後の判断は間違っていませんでした。ゆっくり休んでおいてください」

 

 

 窮地に置かれた状況でも勝機を見据え、判断を下したカポエラーをサイトウは称賛する。成長した相棒の一面を見たおかげか、それとも湧き上がる観客たちに引きずられたのか……サイトウは自分の頬の筋肉が自然と持ち上がっていることに気がつく。

 バッと頬に手を当てて、咄嗟に頬のゆるみを隠す。視線を目の前のチャレンジャーに向けてみればアカツキはこちらを向いてはおらず勝利したばかりのバイウールーとともに作戦を立てている姿があった。その姿を見て再び戦いの高ぶりが燃え上がってくる感覚を覚える。

 

 

「(…どうしてこんなにも気持ちが湧き立つのですか…っ!)」

 

 

 サイトウの研ぎ澄ました理性を高ぶった感情が狂わせていく。武道家ならば心には波風一つ立てないのではなかったのかと理性が激しく自らを攻め立てる。

 

 

「(戦いの最中にこのように気持ちが昂る。まるで他のジムリーダーの方々や、あのチャンピオンと戦っている時のような感覚です)」

 

 

 確かに強い。関門ともいわれる三番目のジムを突破したというのも納得の実力だと思う。

 だが、そんなものはここに立つ最低条件でしかない。今だ未熟な面も多いと戦いの中で見破れるような場面も多い。だというのに何故……こんなにも気持ちが昂るのだろう……

 

 

「……それもこの戦いが終わってから考えれば良いこと。わたしはジムリーダー、今はこの戦いにのみ集中しましょう」

 

 

 疑問は残るようだが、今は目の前の戦いに集中しようと向き直る。その姿はまさしくジムリーダーと言えるだろう。

 バイウールーを視界にとらえたサイトウは一瞬の思考の後、勝利を譲らぬと強い面持ちでボールを手にする。

 

 

「ゆけ、ネギガナイト!!」

「ガッナイト!!」

 

 

 勝利の剣を掲げネギガナイトが飛び出す。

 激闘の直後である、ネギガナイトには疲労が蓄積している。だが彼は武人、それをおくびに出さない精神で以ってアカツキ達の前に立ちふさがる。

 戦いの熱気はポケモン達を巻き込み、未だ不敗の両者が激突する。

 

 

「いきます、『しねんのずつき』!」

「負けません、『かわらわり』!」

 

「ンメェェェ!!!」

「ナァァァイト!!」

 

 

 振り下ろされた剣と思念の力を込めた突撃が衝突する。互いに効果抜群な大技が衝突し合い、攻撃の反動により両者が大きく弾かれる。

 此処で止まるわけにはいかないという、強い面持ちはどちらも同じ。先に踏み込んだのはバイウールーだった。

 

 

「詰めろ、『まねっこ』!」

 

 

 バイウールーの体から橙色のオーラが噴き出し、『まねっこ』により模倣された橙色のオーラが二本の大角の内に集う。硬質化したそれは瓦を砕くための強靭な刃と化す。

 頭ごと奮う大きな動作で振るわれた『かわらわり』はネギガナイトの体を狙う。が。

 

 

「なんの、『かわらわり』!」

 

 

 同じく振るわれた『かわらわり』によって阻止される。ギャリギャリと鈍い音が響き、角と剣は軋み上がる。

 

 

「『まねっこ』とはなかなかユニークな技を使いますね。ですが、急造の刃で私たちの鍛錬を超えられるとは思わぬことです!」

「ぐ…ぬぉっ!」

 

 

 サイトウとネギガナイトの積み上げた鍛錬が拮抗をすぐさま覆しにかかる。

 技の練度というもので『まねっこ』で作り上げた『かわらわり』は大きく劣る。ネギガナイトの振るう『かわらわり』はバイウールーの刃を弾き飛ばし、流れるような動作で無防備な体を切りつける。

 

 易々と吹き飛ばされるバイウールーの体。しかし、サイトウとネギガナイトの表情は厳しかった。

 

 

「……流石はバイウールーの『もふもふ』です。ここまで威力が抑えられるとはっ!」

 

 

 直撃したはずの『かわらわり』は『もふもふ』により大きくダメージを軽減されたのだ。『てっぺき』が鋼鉄の硬度で攻撃を弾く剛の鎧ならば、『もふもふ』はあらゆる物理衝撃を軽減させる柔の鎧だ。どれだけの威力であろうと物理攻撃である限り『もふもふ』はあらゆる攻撃を防いでしまうのだ。

 

 そうこうしているとアカツキの指示が飛ばされバイウールーは再び橙色のオーラを噴出させる。

 

 

「また『まねっこ』……?」

 

 

 その光景にサイトウは困惑する。

 確かに先ほどは面食らったが今破られたばかりの攻撃を再び使うことの意味が分からなかったのだ。

 

 再び瓦を砕く刃を手に入れたバイウールーがネギガナイトに攻撃を仕掛けていく。

 先ほどとまるで変わらない距離の詰め方、本来ならば覚えないはずの技を使う何処か不器用な動作は武道家からすれば不格好としか言いようがない。

 困惑気味のサイトウとネギガナイトは様子を見るためか盾を構えて真っ向から『かわらわり』を受け止める。苦も無く受け止められた攻撃はネギガナイトの巧みな技術により受け流され、バランスを崩したバイウールーは前のめりに沈み込み転倒しそうになる。

 

 

「っとと」

「っンメメ…!」

 

 

 何とか体勢を立て直し距離をとりなおしたアカツキ達を一体何がしたかったのかとサイトウは訝しんだ。

 

 それは再三の『まねっこ』によってその表情はさらに厳しくなる。

 『まねっこ』により模倣した『かわらわり』を振り回し突進するバイウールー。なんの変化も工夫もない攻撃の焼き増しにジムリーダーであるサイトウは溜息を吐く。チャレンジャーであるアカツキ達は己の殻を破かぬことには先へは進めない、だというのに考えなしとしか言いようのないこの行動には落胆しかなかったのだ。

 

 

「……もはやこれまで。終わらせましょうネギガナイト」

「ガナイトッ!」

 

 

 ネギガナイトの振り上げた剣が闘気を纏い、バイウールーとは比較にならない『かわらわり』を作り上げる。

 

 飛び掛かるバイウールーは頭部を振るい仮初の『かわらわり』を振るう。ネギガナイトはそれを片手で握った『かわらわり』で容易く対処してしまった。

 力関係は変わらない。最初こそ拮抗するものの『かわらわり』だがすぐさまネギガナイトが主導権を握り瞬く間に攻撃は押し返されていく。

 

 苦しげにうめくバイウールーの姿に「やはり策は無かったのか…」とサイトウが内心で溜息を吐く。

 そんなサイトウとは裏腹に、アカツキはどこか悪戯小僧を彷彿とさせる笑みを浮かべ。

 

 

「―――確かにそちらの方が何枚も上手です。でも、それならそれで使いようはある!」 

「……なにを?」

「そちらはネギの剣が一本、でもこっちは二本っ!」

 

 

 アカツキが大きく芝居がかった口調で人差し指を突きつけ、折っていた中指を起こす。一本から二本、その言葉の表すものとは。

 

 

「ぶっつけだけど頼んだぞ! もう一本の角も使って『まねっこ』!」

「ンメェェェ!!」

 

 

 後にアカツキは、「ほら、二刀流って格好いいじゃないですか」と子供のような笑顔で語ったという。

 『かわらわり』同士が衝突しせめぎ合う中、バイウールーが更なるオーラを内よりひねり出す。橙色のオーラはバイウールーに生えてあるもう一つの角に集まっていくと瞬く間に二本目の刃を形成させていく。二本目の『かわらわり』が作り出されると、つばぜり合いの力関係が一気に逆転する。

 

 

「ガガッッ!!」

「なっ、ネギガナイト!」

 

「一本で勝てないなら、二本使えばいい!!」

「ンメメメメェェ!!」

 

 

 アカツキの奇策。

 『まねっこ』で模倣した『かわらわり』が片方の角しか用いなかったことに気がついた彼は「じゃあ二本目いけるんじゃね?」と思った次第だ。出来立てほやほやで出来るかもわからない思い付きの奇策。

 だが奇策は確かに力を発揮した。

 二つの『かわらわり』がネギガナイトの『かわらわり』を押し返し形勢を逆転させている。単純な数の差とはいえそれが馬鹿にできるほど、両者に力の差は無かったのだ。

 

 

「押し切れぇぇ!」

 

 

 二つの刃に切り込まれネギガナイトのネギの剣に亀裂が走る。

 アカツキは勝利を確信し、バイウールーはあと一歩だと押し込める力を強める。このまま押し込めばいずれ剣は限界を迎えることだろう。

 

 アカツキの奇策は嵌まり彼は歓喜する。

 だが、その光景を見て歓喜したのは彼だけだったのだろうか。いいや違う、それと対面していたサイトウこそが歓喜に打ち震えていたのだから。

 

 

「(そう、そうです……そうでなくては、チャレンジャー。いいえ、アカツキ!!)」

 

 

 チャレンジャーの劣勢を切り抜ける閃きとそれに答えたポケモンの姿にサイトウの感情がさらに揺さぶられる。ジムリーダーたる彼女らが望んでいたなによりの光景、自分達を乗り越え先へと進んでいくその姿こそジムリーダーが求めていたものだ。

 

 

「(―――ああ、そういうことですか。あの胸の高鳴りは、感情の高ぶりは彼のどこから湧いてくるともわからない可能性に、ジムリーダー(わたし)が期待していたからなのですね)」

 

 

 そうして、歓喜に打ち震えたサイトウは己が鉄仮面を捨て去る。

 

 

「ネギガナイト! 『てっぺき』です!」

「―――ガ!!?」

「ええ、使うつもりはありませんでしたがチャレンジャーが示して見せたのです。なればこそ、私たちジムリーダーは全力でそれに相対しなくてはなりません!!」

 

 

 ネギガナイトは驚愕の顔でサイトウを振り返る。それは本来ならば公式戦などで使われるサイトウの持つ切り札の一つ。それを、ただの挑戦者であるアカツキに使えというのだから仕方のない反応であった。

 それに対してサイトウは「かまわん、やれ」と興奮気味に首を縦に振るっている。

 鉄の仮面と冷静な態度をかなぐり捨てた主の姿にネギガナイトは少し溜息を吐くも、次の瞬間には闘志を込めた眼に変わる。

 

 鋼の力が腕を伝い、翼を伝い、剣へとたどり着く。青々とした緑色と白を基調としていたネギの剣が光り輝き鋼の光沢を帯びていく。強度も切れ味も従来の鉄と遜色ない程であった植物の剣は鋼鉄の力を纏いさらなる頑強さと切れ味を手に入れる。

 

 

「そんなのあり!?」

「チャレンジャーアカツキ、あなたには言われたくありません!」

 

 

『うおおおおおおおおおお!!!!』

 

 

 サイトウのネギガナイトが見せた剣の鋼鉄化に観客も吼える。公式戦でしか見せられないというジムリーダーの本気の一端が垣間見られたことによって興奮度がさらに高まったのだ。もはや最終バトルかと見まごうほどの興奮を見せている。

 

 

 

 盛り上がりが続く中でも二匹のせめぎあいは続く。激突は幾度の優勢と劣勢を交互し、今度こそ拮抗に入っていた。

 

 

「メ…ンメェェッ!!」

 

 

 しかし、ここにきて限界が近づいてきたのはバイウールーの方であった。どちらも二つの技を同時に行使という無茶をしているものの、バイウールーの場合は『まねっこ』で引き出した本来なら覚えることのない技の行使。それに加えてぶっつけ本番の奇策だ。消耗はそちらの方が早いに決まっている。

 対してネギガナイトの方は鍛錬してきた成果の賜物である。疲れはあるものの限界にはまだほど遠い。

 

 

「もらいました。そこです!!」

 

 

 そして『まねっこ』で模倣した『かわらわり』が限界を迎え、刃は砕けて元の角に戻る。

 叩きこまれた鋼鉄化した『かわらわり』はバイウールーの『もふもふ』の鎧すら切り裂き本体にまで辿り着き、バイウールー本体を切りつける。

 

 

「グッ、ンメェェェ!!」

 

 

 効果抜群の技が完璧に入り、今度こそバイウールーの悲鳴が響き渡る。

 『もふもふ』の鎧を切り裂きこれ以上ない程の有効打を決めたことでサイトウもネギガナイトも笑みを浮かべる。このまま『もふもふ』を切り裂き、邪魔な鎧をとっぱらい丸裸にしてやろうとまで思った。

 

 

 そこまで考え、追撃を加えるため剣を抜こうとして気がつく。…………剣がびくともしないことに。

 

 

「ガ、ガナイト?」

 

 

 ピシピシと音を立てて硬質化していくバイウールーの羊毛が光を反射する鋼の色となっていく。

 顔を上げたネギガナイトが見たのは表情筋が許す限りに釣り上げられ、自慢の羊毛を切り裂いた怨敵ネギガナイトを睨むバイウールーの姿だった。

 

 ネギガナイトは悟った、これは相手の逆鱗を踏んだのだと。

 

 

「グンメメメッェェェェェ!!!」

 

 

 悲鳴は憤怒の咆哮へと変わり、その音圧でネギガナイトの体が吹き飛ぶ。

 

 態勢を翻したバイウールーの後ろ脚が振るわれそこから『にどげり』が放たれる。肉体の飛んでいたネギガナイトは防ぐ間もなく上空に蹴り飛ばされる。体勢を立て直す暇もないネギガナイトに向けて、バイウールーの怒りの力があらん限りに込められた『しねんのずつき』が炸裂し肉体を粉砕する。

 

 

「ガガ………っガ……」

「ネギガナイト!!?」

 

 

 『しねんのずつき』を容赦なく叩きこまれついにダメージに耐え切れなくなったネギガナイトが着地もできず地面へと墜落する。

 

 

『ネギガナイト戦闘不能!バイウールーの勝ち!』

 

 

『うおおおおおおおおおお!!!!』

 

 

 流れるアナウンスがネギガナイトの戦闘不能を告げ観客先はさらに盛り上がる。

 コートのアカツキはそれに対して「あちゃー」と顔を掌で抑え、ジムリーダーは変貌したバイウールーと戦闘不能となったネギガナイトをみて茫然とするのであった。

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

「お前なぁ……いくら毛が切り裂かれたからって……」

「グメメェェェェ!!!」

「うわぁ、角を振り回すな角を!」

 

 

 怒りのままにネギガナイトを叩きのめしたバイウールーが暴れ角を振り回す。あ、やめて!ユニフォーム千切れるから!どうやら怨敵は倒したというのに未だに鬱憤が晴れない様子だ。

 

 

「それにしても『まねっこ』で『てっぺき』をコピーしてからの『にどげり』、『しねんのずつき』とはずいぶん大盤振る舞いしたもんだな、バイウールー……」

 

 

 『まねっこ』による『てっぺき』で『もふもふ』を鋼鉄化させ突き刺さっていた剣を固定し、『にどげり』でカチ上げたところに『じねんのずつき』でトドメとは何とも殺意の高い技の使い方だ。バイウールー自身、落ち着いてからは息を切らしてフーフー言っている。

 

 

「後でブラッシングと毛に良いきのみ買ってあげるから、な?」

「……ンメェ」

 

 

 自慢の毛を切られたことがそれほどショックだったのだろう。今もバッサリ斬られたお腹の部分を埋めようと毛づくろいをしている。

 バイウールーの頭を撫でながら対面するサイトウさんを見つめる。その顔からは戦いの直後からずっと変わらなかった鉄火面が剥がれ落ち、感情をのぞかせている。

 

 

「最後は流石に予想外でしたね。わたしたちもまだまだ修行が足りません」

「……ガナイトぉ……」

「まだまだわたしたちは鍛錬の半ばということです。また明日から精進しましょう」

「ッ! ガッナイト!!」

 

 

 ネギガナイトを優しく労わりボールに戻すと、サイトウさんはまたもや表情を硬くしてこちらを向いてくる。

 

 

「失礼、お見苦しいものをお見せしました」

 

 

 またも硬くなった表情。

 だがその表情は戦いの中ずっと続いていた鉄仮面のような表情からすれば幾分温かみや柔らかさを感じさえる表情だ。

 先ほどまでが戦いのサイトウさんならば、この表情こそが普段の姿なのだろうか。

 

 

「―――では、最後のバトルとしましょう」

「あ、戻った」

 

 

 それもつかの間またもや鉄火面に戻ってしまった。

 

 

「……世話しなくて済みません。わたしもジムリーダーとして、手を抜くわけにはいかないのです。」

 

 

 それに、

 

 

「それに、こちらの方が貴方もお好みなのでしょう?」

 

 

 今までは感情のない鉄仮面のようだった表情の中に、今ではトレーナー特有の戦いへの高揚と闘争心が浮かんでいる。

 ビリビリとした闘気は今までの比ではなく、それが肌にまで伝わってくる。

 

 それはついにジムリーダー・サイトウの本気を引きずり出した、ということに他ならず。

 

 

「ほら、貴方も笑っていますよ」

「―――そう、みたいですね」

 

 

 頬を触れば自らの口角も上がっていることに気がつく。

 ああ、楽しいんだと改めて思う。

 純粋な力比べも、力の差を覆そうと思考を回すことも。先ほどのような閃きから奇策をひねり出すことすら楽しくて仕方がないように思えてくる。

 

 そんな二人の闘争心と呼応するかの如く、腕に嵌めたダイマックスバンドから目を瞑りたくなるほどの閃光が走る。

 

 

「―――来たか!」

「―――来ましたね」

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

 

 

 モニター越しに見る彼の姿はどこまでも眩しく、その戦い方は尊敬する兄の影をちらつかせる。

 戦うたびに強くなり、突飛で奇抜な戦闘は観客を飽きさせない。その戦いから目が離せなくなり、一体次はどんな戦いを見せてくれるのだと引き込まれる。

 カメラがコートの中の彼を捉える。

 その顔はポケモンと出会ったほんの一か月前くらいから見るようになった顔だ。

 

 何度も戦ったし、幾度も全力でぶつかった。

 初めてのバトルではまさか打ち負かされるとは思わず、二度目のバトルは互いの出せる全力と本気の戦いだった。

 三度目、橋の上での戦いは同じポケモン同士を使い彼に一泡吹かすことができたがまたもや負けた。

 そして先日の戦いでは兄の力を示すと意気込む自分と正面から戦い、兄とは違うということを突きつけられた。

 

 そんな彼はモニターの中で満面の笑みを浮かべながら戦いを続けている。

 

 

『バイウールー、『ダイサイコ』!!!』

『カイリキー、『ダイアーク』!!!』

 

 

『ンンメメェェェェェェエ!!!』

『リィィィキィィィィイイ!!!』

 

 

 激しいぶつかり合いの衝撃はコートのみならずスタジアム全体を揺るがしている。ダイマックスならではのド派手で大迫力な戦い。腕のダイマックスバンドを見つめ、彼とコートで対面することをよく夢想する。

 

 そこには自分と彼と、後もう一人。子供の頃から隣にいる幼馴染みの三人が立っている。

 いずれ戦い、しのぎを削るのだ。そう約束し、誓いを交わした三人の中で……いつも最初に敗退するのは自分だ。

 

 彼も幼馴染みも普通の人にはない特別な才能を持っている。ポケモンの力を引き出し、ポケモンとともにあるその在り方は自分などではとても追いつけないのではないかと何度も思わせられる。特に幼馴染み、なんかあいつだけは色々とおかしいと思う。天は二物どころか三物四物与えているんじゃないのだろうか。

 

 そんな二人とオレでは釣り合わない、アニキの弟として相応しくないのでは。そう思うことも多い。

 だけど決めたのだ。二人のライバルとして、アニキの弟として。特別な彼らの背中を負うのはいったんやめだ。

 

 

「―――だから、負けんじゃないぞアカツキ…」

 

 

 コートの中で激突する二匹の巨大ポケモン。その戦いは佳境に入ろうとしていた。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

「ぐうぅぅうぅっ!!」

『グゥゥウメメェェェ…ッ!!!』

 

 

「どうしました、その程度ですかあなた方の力は!!」

『リィィィキィィィィ!!!』

 

 

 ダイマックスしたポケモン同士のバトルはいつも大迫力で大興奮で……大規模だ。

 

 

「くそっ、やっぱり分が悪いか!」

 

 

 敵はキョダイマックスしたカイリキー。あちらがダイマックス技の撃ち合いではなくその巨体で掴みかかってきたときは冷や冷やしたものだ。なんとか角で弾き飛ばし『ダイサイコ』を決めてやったのは良いが、お返しに放たれた『ダイアーク』でこちらも大ダメージを受けた。

 

 ……そう、大ダメージを受けてしまったのだ。

 バイウールーの特性『もふもふ』は大きくなってもその効力を失わない特性なのだが、ダイマックス技は全てが非接触。こちらの防御を貫通してくるのだから相性が悪すぎる。

 見上げてみればまだ一度ダイマックス技を使って受けただけだというのにバイウールーは息を切らし始めている。無理もない、不利タイプ相手に三連戦。『もふもふ』でいくらダメージを抑えようがそれを上回る勢いで疲労がのしかかっているのだ。

 

 

「(もう一発でも喰らえばバイウールーは保たない。『ダイウォール』を使わないと……)」

「カイリキー、『キョダイシンゲキ』!!」

「―――ッ! くそ、『ダイウォール』!!」

 

 

 解決方法を考える暇もなくサイトウさんとキョダイカイリキーは攻め立ててくる。

 キョダイカイリキーは腕がひび割れるほどにダイマックスエネルギーを集中させると、四本の腕を振りかざし『ダイナックル』の連打を打ち出してくる。一発一発が本物の『ダイナックル』に匹敵する拳の連打はとてもではないが今のバイウールーが耐えられるものではない。切らされる形で『ダイウォール』を使用させられてしまった。

 

 

「これであと一回ですね!」

「もう後がない! これで決めるしかない!」

 

 

 『キョダイシンゲキ』の拳を防ぎ切り、攻撃の隙が生まれたカイリキーを見てからバイウールーを見上げる。

 あと使えるダイマックス技は一回きり。

 既に布石は打ってあるが、決め切れるかどうかは不安が残る。この一撃で決められなければもう一度再戦しなければならないと考えると安全策に走りたい気持ちも湧き上がってくる。

 そこまで考えて、俺よりも先に挑戦し一発でジムを攻略していったユウリの顔が思い浮かぶ。

 

 

『まあアタシは超天才なわけだし? それと比べれば、あんた達は一回くらい負けてもしょうがないんじゃないかしら???』

 

 

「上等!! 絶対に俺達も一回で攻略して見せるさ。なあ、バイウールー!」

『ンメメメェェェェェェエ!!!』

「気合十分だな!」

 

 

 バイウールーもここで負けるつもりは毛頭ない、と巨大な体を震わせて、ラテラルタウン全域に届きそうな唸り声をあげる。

 先に打っておいた布石、それは『ダイサイコ』による“サイコフィールド”にある。あのフィールドが張ってある間、お互いは急激にスピードの上昇する技の効果を無効化されるという特殊なフィールドである。そしてもう一つの効果、それは。

 

 

「『お互いのエスパータイプの技の威力が上昇する』! これで決めるぞ、バイウールー!」

『グゥゥメェェェェェエ!!!』

「『ダイサイコ』!!!」

 

 

 バイウールーの頭部付近の空間が歪みあがる。超濃密に練り上げられたサイコエネルギーは空間に歪みを起こすのだ。

 そこから放たれた極大のサイコエネルギー派が放たれキョダイカイリキーの体を飲み込む。

 

 

「カイリキー、耐えなさい!」

『リ、リィィィキィィィィイッ!!!』

 

 

 “サイコフィールド”の力を得た効果抜群のダイマックス技にキョダイカイリキーの体が軋み上がり、立ちふさがる巨体が頼りなく見える。効果抜群のダイマックス技をそう何度も耐えることなどできない。

 

 

「いけぇぇぇぇ!!!」

『ンメメェェェェェェエ!!!』

 

「耐えろぉぉぉぉ!!!」

『リィィィィキィィィイ!!!』

 

 

 ダイマックスポケモンのぶつかりで床がめくれ上がりヒビが走る。

 キョダイカイリキーを苦しめるサイコエネルギー波が一部が逸れ、観客席の方へと飛んでいく。それは観客席付近の障壁に阻まれる、霧散していく。それが観客たちの興奮をさらに加速させる。

 

 ぶつかったサイコエネルギー波が大爆発を起こしコート全体が爆風と煙に包まれる。その爆発で俺の体は吹き飛びゴロゴロと転がっていく。

 

 

「いつつ……っ、カイリキーは!?」

 

 

 すぐさまに立ち上がり爆発の煙が視界を覆う中、それをかき分ける。頭の上からはダイマックスしたポケモンのうめき声が聞こえてくる、それがバイウールーのものなのかカイリキーのものなのかわからず不安を加速させる。

 空調設備が働き視界を覆う煙がスタジアムの天井に吸い込まれ、段々と霧が晴れていく。

 霧が晴れ、明瞭になった視界に入ってきたものは。

 

 

「―――はぁはぁはぁ。耐え、ましたよ……」

『リ、リィィキ、キィィ………!』

 

「っはは、まじかぁ……」

 

 

 膝をつき、呼吸を乱しながらもダイマックスを維持したままのカイリキーがそこには残っていた。上を見上げてみればバイウールーは全ての力を使い果たしたようでゼーハーと先ほど以上に荒い息を吐いている。

 

 もはや、打てる手はない。 

 

 

「決めます、『キョダイシンゲキ』!!」

『リイィィィィキィィィィイ!!!』

 

 

 キョダイカイリキーの拳が振り上げられ、直後に『ダイナックル』と見まごう拳の嵐がバイウールーを襲う。

 ダイマックスエネルギーの塊であるダイマックス技は『もふもふ』の鎧をものともせずに直撃し、爆発する。効果抜群の攻撃の嵐と爆発に飲み込まれバイウールーの体がどんどんと見えなくなっていく。

 

 バイウールーの鳴き声が響き渡り、一秒でも早く目を逸らしたい気持ちに包まれる。だけど……ここで目を背けることはポケモンへの最大の侮辱だと思った俺は最期まで目を背けることは無った。

 

 最後の拳が直撃し大爆発を引き起こす。

 すべてのダイマックスエネルギーを使い終えたところでキョダイマックスカイリキーの体が急激にしぼんでいき、見慣れた人間サイズの大きさへと戻っていく。バイウールーの方も、最後の大爆発とともに体からダイマックスエネルギーが抜け小さくなっていった。

 

 

 

 

 それはどこか晴れやかな気持ちだった。

 そういえば今までユウリやカブさんに負けたことはあったがそれ以外ではあまり負けたことが無かったな、と今更ながらに振り返る。ユウリの時はまだ初心者で、カブさんの時は途中で戦意を喪失していた。ビート?あれは実質相討ちで、そのあと勝って一勝一分で俺の勝ち越しだから。

 だからだろうか。全力を振り絞り負けた時はこんなにも晴れやかな気持ちになるのだと初めて知った。

 

 

 ………いや、嘘である。悔しい。悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!

 今、すごく悔しい。身が裂かれそうなほど悔しい。こんな大勢の前で負けたこと、ジムリーダーとはいえ自分とそう歳の離れていない相手に負けたこと。そして、なによりポケモンを勝たせてあげられなかったのが、一番悔しい。

 何とか……涙は流さなかった。偉いと思う。だって俺、まだ12歳だからね?偉いよね、母さん。

 

 

 

 何とか気持ちの整理をつけたところで、爆発の煙が随分と薄くなっていることに気がつく。

 爆発の中心地には、倒れたバイウールーがいる。そんな当たり前の光景を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ン、メェェ……」

 

 

 思い描いていた。

 

 

「―――バ、バイウールー……?」

「そんな、ありえない!!?」

 

 

 爆発の中心地で、バイウールーは確かに生き残っていた。

 あれだけ大切にしていた毛は爆発によって多くが消失し、残っている部分も焦げて真っ黒になっている。

 

 それでも、そこに立っていたのだ。

 

 

「な、なんで……」

 

 

 今までの経験からしても耐えられるはずがない。お前ももう十分頑張ったじゃないか。

 

 

「なのに……どう、して」

 

 

 そんなことを考え、減りに減ったバイウールーの体毛の中でキラリとなにかが光り、シャリン♪と聞き心地のいい音が鳴った。

 

 

「………あ」

 

 

 それはウールーだったころから彼の首にかけていた『やすらぎのすず』。

 『やすらぎのすず』はポケモンの気持ちを安らがせトレーナーとの仲を促進させる、と言われている。

 

 

 

 

『バイウールーは アカツキを悲しませまいと もちこたえた』

 

 

 

 

 よく懐いたポケモンは、奇跡を起こすという。

 

 

「グッ……ンメメェェェ!!!!!」

 

 

 ダイマックス技を耐えきったバイウールーが咆哮する。その両眼に俺の姿が納めているのがわかった。

 バイウールーの眼の中に顔を歪ませ今にも泣きそうになっている男の姿を見つけた。誰だ?俺だ。全然隠せてないじゃないか、馬鹿。

 

 熱くなった目頭を腕でこすって拭くと、目の周りには少し赤みとかゆみが残る。

 それでもなんとか、落ち着いて周りを見ることができるようになった。

 

 視線の先には全身黒くなったバイウールーと、ダメージの影響で膝をついたカイリキーの姿があった。その先のサイトウさんを見れば、目を見開いて驚いている。

 今だ、今しかない。

 バイウールーも瀕死一歩手前、カイリキーも一撃で倒れそうなほど消耗している。だとするなら。

 

 

「「先に攻撃を当てた方が勝ち!!!」」

 

 

 サイトウさんと俺の言葉が被る。どちらも口角を上げているのがよくわかった。

 あと一撃を当てれば勝ち、だとするなら。

 

 

「バイウールー、『にどげり』!」

「カイリキー、『ダブルチョップ』!」

 

 

 先に当てるか、手数の多い方が勝つ!!

 

 

「って、カイリキー腕四本あるじゃん!ずっる!」

 

 

 バイウールーが突撃するのもつかの間衝撃の事実を思い出した。

 

 

「まってバイウールー、カムバーーーーック!!」

 

 

 手数勝負という無謀な戦いに突撃していくバイウールーを止めることはできない。

 四本の腕から『ダブルチョップ』(大嘘、四回攻撃だぞ)を使用したカイリキーはそのうちの一本でも当たれば勝ちとなる。それに対してこちらは『にどげり』の内の一発が当たれば勝ち、数の差は倍だ。勝てるか…っ!こんな勝負…っ!

 

 無情にも振り下ろされたカイリキーの四腕、その一つである左上の腕がバイウールーの体を狙って真っすぐ振り下ろされる。

 それをバイウールーは左に避けるステップで回避する。

 

 

「それは、囮です!」

 

 

 左に避けたバイウールーに次は左下の腕が襲い掛かる。左上の腕よりもさらに左側から伸びた腕は横なぎに振られステップしたバイウールーの体を捉えようとする。

 

 

「ンッメェ!!」

 

 

 バイウールーは左下の腕に対して『にどげり』の一つを使用して右後ろ脚で腕を弾く。だが無茶な体勢で迎撃をしたせいでバランスが崩れる。そこにめがけて右上の腕が振り下ろされる。

 

 

「右上だっ!!」

「ッ! ンメェ!!」

 

 

 バイウールーは崩れた体勢を敢えて崩すことで体を回転させ、右上から降ってきた攻撃を左後ろ足で弾き飛ばす。

 

 

「―――ですが、これで打ち止めですね」

 

 

 そして残った右下の腕が全ての手を使い切ったバイウールーの体を貫こうと一直線に向かう。手刀、ともいえる形はカイリキーの筋力をもってすれば確かに刀のような切れ味を持つことだろう。

 宙を回転しながら迎撃したバイウールーの体に最後の手刀がまっすぐめり込む。

 黒く焦げた体毛は普段のような防御力を発揮するには至らず、攻撃の当たったところからボロボロと崩れ落ちていく。やはり判断を誤ったか、と悔やむがもう遅い。

 

 ボロボロと零れ落ちる羊毛。果たしてバイウールーの本体とはどんな体積をしているのだろう。

 ズポッ、という間抜けな音を立ててカイリキーの腕がバイウールーの体を貫通して向こう側から出てきた………あれ?

 

 

「もしかして……」

「羊毛に誤魔化されて本体に当たりませんでしたか……」

 

 

 バイウールーの体を包み込む羊毛は厳密にいえば本体ではない。髪の毛を切断したところで頭部まで切れることは無いように、カイリキーの手刀は膨大な体積を誇るバイウールーの体毛だけを切り裂いたのだ。

 切れた端からボロボロと零れ落ちていく自分の体毛を見ながらバイウールーは悲しみの涙を流す。そして悲しみの感情は思念の力を生み出す。“サイコフィールド”の力を吸い上げたバイウールーは、悲しみから得た力とともに高らかに叫ぶ。

 

 

「『しねんのずつき』!!」

「ンメェェェェェェ!!!」

 

 すべての腕を使い切り無防備となったカイリキーの腹部に『しねんのずつき』がめり込む。体を吹き飛ばすほどの力のない弱い弱い一撃だった。

 それでも、ぐらりと体が揺れる。重厚な音とともに倒れたカイリキーの姿だけは、本物であった。

 

 

『カイリキー戦闘不能。よって、勝者チャレンジャー・アカツキ!!!』

 

 

 




にまんじ!!!!!


………馬鹿かな?
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