剣盾旅記録   作:鳴神ハルキ

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今回は繋ぎ回です。短いです。
あとリアルが忙しいので一週間くらいは投稿できないと思います。すいません。


56、戦いのあとの幕間

 四番目のジム戦が終わりを迎えた。

 胸のうちに湧いていた戦いの熱気が一秒ごとに静まっていく感覚を覚える。また、それとは対照的に観客席側の熱気は収まる気配がないというのがなんだか不思議な気分だ。

 

 戦いを終え、カイリキーの横に倒れ込んだバイウールーの下へ向かい体を起こす。少なくなってしまった体毛は、それだけでダイマックスバトルの激しさを物語っていた。

 

 

「今回は……本当にありがとう」

「ンメ……ゥンメェ……」

「ああ。今日はカレーにしよう。だから、今は体を休めておいてくれ」

 

 

 とびきりのカレーを作っておくさ、と胸を叩くとバイウールーは期待に満ちた顔でボールに戻っていった。これは期待に応えないとトレーナー失格だな。

 

 バイウールーのボールを腰に戻すと、ちょうどサイトウさんもカイリキーを戻したところであった。

 サイトウさんの顔からは感情の機微を遮る鉄仮面が剥がれ落ち、穏やかさな表情が顔をのぞかせている。戦っている時の、あの冷たくも勇ましい表情と比べると本当に別人かと思うほどだ。

 

 

「ありがとうございました。とても……ええ、とても良い戦いでした」

「こちらこそ。サイトウさんには胸を貸してもらった気分です」

 

 

 サイトウさんの差し出した手を握る。

 自分よりも背の高い女性を見上げる形で握ったその手は、「流石武道家だ」と思えるほど生命力に満ちていた。触れているだけでそこから力が流れてくるのではないかと錯覚するほどのパワーがこの人の身には溢れている。

 度重なる鍛錬の痕が残るその手は、しかし女性的な柔らかさも失っていない。なんだか不思議な感触だ。

 

 

「手合わせをして分かりました。貴方達との立ち合いで、わたし……思わず心躍っていたようです」

「俺も楽しかったです。どのポケモンもとても強くて、特にネギガナイトは強敵でした!」

「ふふっ、そう言っていただけるときっとこの子も喜んでいます」

 

 

 そうするとサイトウさんはどこか遠い目をしたような表情で心中を吐露する。

 

 

「わたし、今まではポケモン勝負は騒いだり慌てたりしてはいけないものだとばかり思っていました。わたしの動揺はポケモンに伝わり、その動揺は隙を生む。」

 

「武道家として、小さい頃より心だけは乱すなと教えてこられましたから。」

 

「ですが今日のバトルを通して痛感しました。」

 

「騒がないのが勝負であるなら、楽しむこともまた勝負なのですね。」

 

「武道家とジムリーダーは似ているが違うもの。今更になって気がつきました。」

 

 

 その話をするサイトウさんの瞳がどこを見ていたのか、俺にはわからなかった。ガラルの名を背負うジムリーダーとただのジムチャレンジャーでは立っている場所も見えているものも違いすぎる。

 それでも、俺に言えることがあるとすれば。

 

 

「また、バトルをしましょう。今度はもっとサイトウさんを楽しませられるバトルを」

 

 

「―――ええ、お待ちしています。」

「それでは、このかくとうバッジをお受け取りください!!」

 

 

 かくとうバッジ。

 サイトウさんがユニフォームのポケットからだしたそれを、俺は受け取る。そして同じくポケットから取り出したバッジリングの左下のくぼみにはめ込んだ。

 

 

「これで四つ目……やっと半分か」

 

 

 長かったような短かったような。それでもひとまずは、ここまでやってこれた。

 だったら、行くところまで行って、やれるところまでやってやるしかない。

 

 

「これからも様々な出会いと試合があるでしょう。」

 

「どうか、それらすべてがあなたたちの糧となりますように。」

 

 

 サイトウさんの言葉に締めくくられて、俺の四番目のジムチャレンジが終了するのであった。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

「アカツキ選手、今のご感想は!!?」

 

「やっぱり二刀流って最高だなって思いました。」

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 ドカッと音が鳴り、勢いをつけて座ったソファーがその柔軟性をいかんなく発揮し体を包み込む。片手に持った炭酸飲料が衝撃で揺れ、容器の中でシュワシュワという音を立てて暴れはじめる。俺はそれを躊躇いなく開封し、プシュという大層な音を立てて開いた容器の口から液体がこぼれる前に口に運ぶ。

 

 

「ぷはー! 戦いの後の『サイコソーダ』は最高だ!!」

 

 

 超激ウマギャグ()と共に喉を滑っていった甘く泡立つ炭酸飲料によって疲弊した脳と肉体が癒されていく。甘味は疲労した肉体を、勢いよく泡立つ炭酸の心地は精神を。

 この快感は平時に飲む『サイコソーダ』とはわけが違う。肉体と精神を極限まで酷使した先でのみ味わうことができる味の地平線。俺は今、その領域に足を踏み入れたのだ。

 

 

「まあ大層なことを言ってるけど、疲れた時の飲み物は美味しいってだけの話なんだけどね」

 

 

 『サイコソーダ』の入ったガラスの容器を傾け中身を呷る。一口目が「至高」なら、二口目は精々「めっちゃおいしい」くらいだ。評価度の知性(インテリジェンス)がぐんと低下したのがわかる。

 

 

「だがここでは終わらない。ここで炭酸飲料に合うきのみをドーン!!」

 

 

 カバンから取り出したるは先ほど市場で買ったばかりの新鮮なモモンのみとヒメリのみ。

 これらを絞って果汁にした後、使い捨ての紙コップに注ぐ。そしてそこに『サイコソーダ』を注ぐ!!

 

 

「これぞ『味変化の術』。くくく、我が知性(インテリジェンス)は誠に恐ろしきかな……っ!」

 

 

 ガハハハ!!!

 美味い!美味いぞ!!モモンのみフレーバーの『サイコソーダ』とヒメリのみフレーバーの『サイコソーダ』。一粒で二度美味しいとはこのこと!まあ一粒はきのみじゃなくて『サイコソーダ』の方なんだけどね!!

 

 

(サイコソーダ)っ!! 飲まずにはいられない!!!」

 

 

 ポケモンセンターのイートインスペースで大声を上げながら勝利の美酒に酔う。

 そんなアカツキの姿がネットに公開され、一躍『打ち上げのヤベー奴』の称号を手に入れるのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

「何故だ、納得いかないっっ!!?」

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 正気に戻った俺はそそくさと後片付けを済ませもう一度ソファーに腰を落ち着ける。先ほどまでの俺はどうかしていたようだ、人間の感情の高ぶりとはげに恐ろしきかな。

 

 

「それにしても、こいつらがすぐに元気になってよかった」

 

 

 今もらってきたばかりの六つのモンスターボールを撫で、今日の激戦を振り返る。

 本当に勝てたのが不思議なくらいの激戦だった。タイプ相性を用意にひっくり返すポケモン達の強さに、サイトウさんの冷静で的確な指示が合わさればあれほど恐ろしいこともない。

 

 そんなことを考えながら、今日のジムチャレンジを振り返る。

 

 

 

 チャレンジミッション。

 糞の一言、二度とやりたくない。

 

 ジム戦。

 楽しかった、もう一回戦いたいくらいだ。

 

 

 

 はい、反省会終わり!!!

 

 

「よーし、頑張った皆のために買い出しに出かけますかね!」

 

 

 落ち着けたばかりの腰を起こし、大きく背伸びをする。

 さあ、約束した通り祝勝会用のカレーの買い出しに出かけるためポケモンセンターを後にする。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

「さんきゅーな、アオガラス」

「アァガァ!」

 

 

 アオガラスが両足で掴んでいる手提げカバンを受け取り、中身をカバンの中に入れていく。

 軽いおつかい程度ならばやってくれるアオガラスの知能の高さ様様だ。

 

 

「さて、これできのみと野菜もそろったと」

 

 

 カレー用の材料が買い揃ってきたところで、そろそろ午後の三時。

 午前中がジムミッションで慌ただしかった分、午後は流れていく時間が遅いようにも感じる。大市は毎日のように店が入れ替わったりしているがそれでも初日にユウリと散々回ったこともあってそこまで興味を惹かれない。

 

 

「――よし、アオガラス。おやつ食べにいこうぜ」

「ガァガァ!!」

 

 

 おつかいを引き受けてくれたアオガラスだけにご褒美だ、そういうと嬉しそうに鳴くアオガラスの姿にやはりうちのメンツは食いしん坊なんだろうかと勘繰ってしまう。

 

 しばらくして一心地つけられるところを見つけると、近くにアイスクリームの屋台があった。日差しが強くて乾燥したこのラテラルタウンでアイスクリームとはニクイ商売だ、もってけ700円!

 

 

「――ん。流石にモーモーミルクを使ってあるだけ美味いな」

「ガァァ~」

 

 

 ベンチに腰掛けた俺達はアイスクリームに舌鼓を打つ。

 モーモーミルクから作られた濃厚な甘味が口いっぱいに広がり、乾燥した空気のせいで乾いた喉に潤いが舞い戻ってくる。ちらりと横に腰掛けたアオガラスを見てみればポケモン用の容器に入ったアイスクリームを嘴で器用に突っつきながら食べている。

 

 美味いか?と聞いてみれば羽を広げて満足を伝えてくるその姿に俺も満足。広げた羽が右腕に当たった、痛い。

 

 アオガラスは夢中でアイスクリームにパクつき、俺は大市の賑わいを遠目に眺め考え事をしながら食べているとあっという間に平らげてしまった。

 無くなってしまったアイスクリームを惜しみつつ残ったコーンを口に振り込む。甘さ控えめなコーンは後味が残らなくて好きだ。

 

 

 横目でアオガラスを見る。

 旅をしたことでいくらか察しが良くなった気がする。

 今の手持ちなんて6体もいる、ロコンも入れれば7体だ。ポケモンに接する機会がぐんと増えた分、自然な変化ともいえる。

 

 そして俺は、口を開く。

 

 

「……アオガラス。なにか無理してないか?」

 

 

 。

 

 

「……………」

 

 

 アオガラスは夢中でパクついていたアイスクリームから嘴を外す。じっと見つめる俺の顔を見て、アオガラスは自分が強がっていたことが見抜かれたのだと察したようだ。それから空を見上げたと思うと、空を羽ばたいていく鳥ポケモンが見えた。大空を羽ばたいて行く黒い影はアオガラスの同類だ。

 

 しばらく空を見つめていたアオガラスは、突如として翼を広げるとその背中を追うように空へと飛んで行く。

 飛んでいくアオガラスを見つめることしかできなかった。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 大空はどこまでも広がる我らの故郷。

 そして我は誇り高きガラルの覇者となりいずれ空に君臨するもの、アオガラスである。

 今はもろもろ考え事に耽るため大空を飛んでいる最中だ。

 

 大空は良い、地上の喧騒を忘れることができる。

 考え事をするには……ちょうどいい。

 

 

 

 

 此度のジムチャレンジ、先鋒を任された我は何もできずに敗退した。

 

 タイプ上の相性では空を有する我が地上で腕を振るう相手に対して圧倒的に有利であったにもかかわらず……だ。

 

 我はなにも出来ず、なにも残せなかった。

 

 後ろに控えていた仲間たちのためにただの一撃を与えることすらできなかったのだ。

 

 

 

 

 その後、治療所で目覚めてから思い知った。

 

 我らの中で最も強いジメレオンは強敵と戦い、相手を戦闘不能一歩手前にまで追い込んだのだと。

 

 まだ実戦経験の浅いヒトモシですら相手を引き分けにまで持ち込んだという。

 

 そして……バイウールーの奴などは相性の不利を覆し三体を相手取り勝利を収めた。

 

 

 

 

 それに比べて我はなにをした。

 相手を侮り、油断し、なにも残せぬまま地に墜とされ無様を晒した。まだ弱かったあの頃と比べれば随分と力はついたはずだというのに、これでは何ら成長をしていない。これでは空の覇者など夢のまた夢だ。

 

 そんな考え事に耽っていると目の前に先ほどの同胞の姿が見えた。

 きっとまだ進化して間もないのだろう。飛んでいるスピードは我と比べればかなり遅く、本気になれば一息で追い抜いてしまえそうだ。

 

 だというのに、その自由な翼をどうしても追い抜くことができなかった。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 しばらくして、アオガラスが空から戻ってくる。その姿は飛んでいった前よりも酷く小さく見える。

 アイスクリームもすっかり溶けて元の形を失ってしまっていた。

 

 

 この意気消沈した様子から、きっと今日のジムチャレンジに関わることだろうと何となく察した。

 

 俺はトレーナーとして、しっかりとこいつに伝えなければならない。

 

 意を決して、

 

 

「あのな、アオガラs―――」

 

 

 

 

 

 

ドカーーーーーーーーーーン!!!

 

 

 

 

 破壊を伴う轟音によって、ラテラルタウンの平穏は打ち壊される。

 

 




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