剣盾旅記録   作:鳴神ハルキ

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ダンまち三期面白いですね、思わず原作全巻買って更新が途絶えちまったぜ(責任転嫁)

僕はかわいい女の子も大好きですが、糞でか感情を向け合う男のライバルも大好きです。いいですよね終生のライバル、ダンまちのメインヒロインこと牛くんとかジャガーくんは大好物でした。


57、馬鹿野郎 vsビート

「ハァ、ハァ……」

 

 息を切らしながら階段を駆け上がっていく。一段上がるごとに薄くなる空気に、必然的に呼吸の回数が増えていく。

 目指す頂上からは時折何かが爆発するような轟音が響き渡り、一体何が巻き起こっているのかと不安が掻き立てられる。

 

「ソニアさんっ! 頂上まであとどれくらいですか!?」

「い、今登っているこの階段で最後よ!」

「了解っ!」

 

 同じく隣で階段を駆け上がるユウリと顔を見合わせ、さらなる力を足腰に加える。

 ゴールの見えた俺達が取る選択肢などいつも一つ。

 

「「俺が/あたしが先に辿りつくっ!」」

 

「ちょ、アカツキ君達はやっ―――――!」

 

 遠く後方にいたソニアさんの声がさらに遠くなっていくのを感じる。

 俺達の視線は階段の行きつく先ばかりを注視していた。

 

 

 

 俺達が向かっているのはラテラルタウン最大の名所といわれる古代の遺跡。

 それはラテラルジムの裏手に位置し、高い高い階段を登り終えた先にある。

 かつて俺達が見たターフタウンにある巨大な『地上絵』、それと双璧を成す謎多き古代遺跡の一つ。

 

 ラテラルタウンの『壁画』

 

 連日観光客が訪れ、あまりの芸術性の高さから「芸術すぎる壁画」ともいわれる観光名所。

 だが俺達がこうして息を切らして『壁画』を目指しているのはなにも観光のためだからではない。

 

 

 

 町に響き渡った轟音を聞きつけた俺はすぐさまその場を離れ、音のした北の方角へと向かった。

 たどり着いたのはラテラルジム。

 そこで目にしたのは人が人を押し退け、我先にと押し寄せる人の波であった。突然起きた謎の音と衝撃に町の観光に来ていた人、ジムチャレンジに参加・観戦に来ていた人は震え上がる。そして巻き起こった未曽有の人害ともいえる事態に対して、真っ先にそれらを鎮めたのはジムリーダーのサイトウさんだった。

 

 落ち着き払ったジムリーダーの声は人々の混乱を鎮め、迅速な対応を魅せる優秀なリーグスタッフやジムトレーナー達の誘導は人々の不安は少しずつ払拭させていた。

 とはいえ、それも標となるべきサイトウさんが一番に立って指揮を執ってこその収束だ。一番の実力を持つ彼女が居なくなってはそれこそ事態の巻き直しとなる。一刻も早い事態の究明を行うにはどうしても人手が足りない。

 

 そこで俺とユウリが協力を申し出たのだ。

 どちらも既にラテラルジムを攻略し、手が空いているフリーのポケモントレーナー。事態を確認して戻ってくるくらいの力はあります、と強く訴えかけた。

 最初は難色を示していたサイトウさんであったが手が足りないのも事実、最終的には協力を許してくれた。

 

『本来ならば貴方達も我々が守るべき一般市民です。ですが、この一時だけ……この町を任されたジムリーダーのわたしに、貴方達の力を貸していただきたい』

『はい。それが、この町で俺達がもらったものへの恩返しになるのなら』

『あたしもこの埃っぽいけど熱気にあふれた町が好きになっちゃいました。その町に危険が迫っているって言うなら、いくらでも手を貸します』

 

 こちらから協力を申し出たというのにサイトウさんは年下の自分達に深々と頭を下げる。それほど年の差があるわけでもないというのに、威厳と責任感に溢れた彼女の姿を見ると自然と俺達は素直な気持ちを吐露していた。

 たった数日過ごしただけだがこの町の活気や市場には沢山お世話になった。それを返せるのは今を置いて他にない。

 

『オレが行けないのは悔しいけど、二人とも頼んだぞ』

 

 未だジムチャレンジを突破していないホップは少し複雑そうな顔をしていたが、数日前と比べれば随分と良くなった顔色で俺達を送り出してくれた。

 

『うん、ホップのジムチャレンジが早く再開できるようにさくっと解決してくるよ!』

『アタシ達がいればこんな事件ちょちょいのチョイね、サイコソーダでも飲みながら待ってなさい!』

『ぐびっ(おいしいみず)』

『ずずっ(スープカレー)』

『飲んでる場合じゃないでしょっ!!』バシン

『りっ、理不尽!!?』

『あぁっ!?俺のスープカレーが!?』

 

 その後、二人でユウリに対する文句を言い合っていたらユウリの剛腕から放たれたアイアンクローで宙に吊られた……同年代の男児二人を片手で軽々と持ち上げるそのパワーにサイトウさんは目を輝かせていた。たすけて(震え声)

 

『『じゃあ、行ってきます!』』

『二人ともー、気をつけてなー!』

 

 痛みがじんじんと残るこめかみを抑えながら、俺達は長い長い階段を登り始めるのだった。

 

『なんでぇ!!? どうしてラテラルタウンの『壁画』を調べに来たらこんなことになるのよー!?』

 

 ついでにそこら辺を歩いていた博士の助手(自称)のソニアさんも捕獲したので三人で行くことになった。

 なんだか後ろで『ダンデ君もいないのに事件に巻き込まれるなんておかしいー!!』と叫んでいたソニアさんの台詞は聞かないことにした。一体なにしてたんだダンデさん……

 

 

 

 などと言っていたのは先の昔。

 『壁画』へと続く長い長い階段の最後の一段を蹴り飛ばして着地する。

 

「はぁはぁ……つ、疲れた」

「さ、流石のアタシでもこれはきっつい」

 

 ようやく頂上にたどり着いた。

 推定五百段。

 普通の建物が折り返し含めて二十五段くらいらしいので単純計算で二十階建てを一気に登ってしまったようだ。

 

「あ、ロープウェイ……」

「ちくしょうっ!」

 

 リーグスタッフの話も聞かず、若さのエネルギーが赴くままに目先の階段に爆走したことを後悔する。それも後の祭り、階段を登って発生した熱は体の内々に溜まって中々ひいてはくれない。

 切れた息を整えつつ周囲を見渡していると、またしても奥の方から耳をつんざくような轟音が響き渡る。

 

 

バゴォォォン!!!!!

 

 

 激しい音とともに衝撃波が駆け抜け、頭のニット帽があわや飛んで行ってしまうという寸前慌てて手で押さえる。ユウリもベレー帽を抑える。

 このような衝撃波すら発生させるこの事件、一体奥では何が起こっているのか。

 

「行こう、ユウリ!」

「ええっ!」

 

 ソニアさんを待つことなく、ユウリとともにさらに奥へと足を進めた。

 

 ―――――と、そこで待っていた驚くべき人物の姿を視界にとらえた途端、俺はこの事件の全容が何となく読めてしまった。

 それが無性に悔しくて、裏切られたような気分になって。だけど、府に落ちてしまうという嫌な納得感もあって。

 

 誰もが退去したはずの『壁画』の前に男がいる。両手を広げこちらに背を向ける姿は、まるでステージに立つ司会役が身振り手振りでこれから始める劇の始まりを伝えているかのような仰々しさであった。

 そんな男の姿を見た瞬間ここに来るまで抱いていた使命感や強壮感は吹き飛び、走りだし。

 

「さあ、ダイオウドウ! あなたも委員長のポケモンであるならば『ねがいぼし』を採掘できることを心の底からよろこ――――」

「――――なにやっとんじゃ我ァ!!!」

「ゴブゥゥウゥゥゥウ!!!??」

 

 男の背中に飛び蹴りを炸裂させていた。

 男児一人分の体重を乗せた飛び蹴りは深々と男の背中にめり込み、馬鹿みたいに大きく腕を開いていた男は飛べないムックルの様に腕をはためかせながら吹き飛んでいった。途中で態勢の取れなくなった男は顔面を地面にこすりつけながらズザザザザと滑っていった。

 

 その様子を見ていると、心にわだかまっていたモヤモヤとした嫌な気持ちがささやかながら祓われていく。

 あぁ善行(良い事)したな。

 

「――――悪は滅びた」

「だ、誰ですか!!? 人の背中に突然飛び蹴りを食らわせるなど非常識なっ!!」

 

 滅びた悪は蘇ってきた。ちぇ、大人しく黄泉に旅立てばよかったものを。

 復活したもこもこピンクは顔面グロ画像となりながら起き上がる。

 

「誰かと思えば…相変わらず貴方はぼくの行く先々に現れますね。ぼくのファンなのですか?」

「ショッキングピンクもこもこアフロにファンなんているわけないだろ。夢見んな」

「おっと? これは普段温厚で通しているぼくも頭の欠陥が切れてしまいそうですよ?」

「誰が温厚だ。温厚だって言うなら今のこの状況を説明して見ろ」

 

 辺りを見回すと、周囲には瓦礫と思わしき岩片がいたる所に転がっている。まるで工事現場で採掘作業をしている最中の様に荒れた今のこの場所を見て、数十分前まで観光名所として人がにぎわっていたなどと誰が思い至るであろうか。

 …………正直今の俺は怒っていた。

 

「ほら、何か、あるんだろ。ここをこんなに滅茶苦茶にして、関係のない人たちまで危険に晒した理由ってやつが」

 

 理由などとうにアタリがついているというのに、実際に本人から聞くまではどこか彼のことを信じようとしている自分がいる。

 流石にビートでもこんな真似はしないだろう。そんな風に考え、ビートの後方で未だ起こっている凶行から目を背けて更なる追及を続ける。

 

「たまたまここに居ただけとか、新しく捕まえたポケモンが言うことを聞かなくて暴れはじめたとか。そんなどうしようもない理由が――――」

 

「――――委員長のために『ねがいぼし』を集める。ただそのためだけですよ。それ以上に優先されるべき事柄がありますか?」

 

「―――――――、」

 

 そして男は、言った。

 認めたのだ。今もなお休むことなく破壊が巻き散らかされている状況で、ガラル地方の宝とまで言われている『壁画』が一秒ごとに壊されているというのに、そのことになんの感傷も抱いていない。

 

「この『壁画』の奥には未だかつて感じたことのない『ねがいぼし』の力が眠っています。この『ねがいぼし』を回収し、持ちかえれば委員長はさらに僕のことを認めてくれることでしょう」

 

 破壊の光景すら映っておらず、キラキラと光るビートの眼にはここにはいないローズ委員長の姿が浮かんでいる。その姿を見て、ついに堪忍袋の緒が切れた。

 

「ああ、それとも君がこの場所に来たのは『ねがいぼし』を回収して今からでも委員長に気に入られようという算段ですか? ですが残念、ここにある『ねがいぼし』は僕が全て回収させてもらいます。そのためにわざわざオリーヴさんから委員長のダイオウd――――」

「うるさい」

 

 その一言で、辺りがシンと静まりかえる感覚を覚える。不思議と、先ほどまでガンガンと響いていた破壊の音すら今では遠く感じる。

 ぐつぐつと渦巻いていた感情の一切が臨界点を超えて逆に冷え込んでいくような感じがした。

 

 ぐっと拳を握りこみビートを睨み付ける。ビートは話を断ち切られたことに目を丸くしたが、それだけだった。

 

「ふん、まあ良いでしょう。丁度いいですし、貴方との腐れ縁もこれで終わりにしてあげましょう」

 

 少し不満そうなビートが腰のホルスターに付いたスーパーボールを取り出す。

 溜まりに溜まった感情は今にも爆発してしまいそうだが、なんとか飲み下してモンスターボールを手にする。

 

「馬鹿は死んでも治らない……でも、力いっぱいぶっ叩けば直るかもな!」

「今さら自己紹介ですかっっ!」

「お前のことだよ、馬鹿ビートッ!!」

「このエリートに向かってなんという侮辱、後悔させてあげます!!」

 

 トレーナー同士の目と目があえば、ポケモンバトル。

 

 

 

ライバル の ビートに 勝負を挑んだ!!!

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 目の前で巻き起こる三文芝居の青春ストーリーを見ながら彼女は溜息を吐く。

 

 二年来の友人は主犯のもこもこピンクの姿を見た途端走り去ってしまった。

 現在もその主犯に頭がいっぱいのようで、今なお『壁画』を破壊し続けているポケモンの方には意識が向いていない様子だ。

 

 基本は内向的で常識人ぶる癖をして暴走すると周りが見えなくなるアカツキ。

 いつもは外交的でのほほんとしているくせに落ち込むと際限なく内に引きこもるホップ。

 

 似ていないのに、正反対なのにどこまでも似た者同士だ。

 どちらも手がかかるという部分で。

 

「仕方ないわね、こっちの方はアタシが何とかしてあげましょうか」

 

 長めの息を一度吐き、彼女は意識をぱちりと切り替える。

 彼女が向き合うは鋼鉄の巨象。一撃一撃の破壊力はクレーン車にも匹敵する。野生ではない、明らかに鍛え上げられたポケモンだ。

 

「いくわよ、サルちゃん!」

「バチチッキー!」

 

 ボールから飛び出したバチンキーは両手に持つ二本の棒叩いて自らを鼓舞する。

 そのまま主人の意思を汲み取ったバチンキーは、二本の棒切れを構えたまま敵に疾走する。

 

 その姿を視界の端に捉えたダイオウドウは、しかし歯牙にもかけず『壁画』の破壊を続ける。己が鋼の肉体に絶対の自信を持ち合わせているからこその慢心なのだろう。

 

 やがて大きく跳躍したバチンキーは鋼鉄にも等しい頑強な肌に向けて、二本の棒を大きく振りかぶる。

 木でできた棒切れなど簡単にへし折れてしまう、そんな誰もが思い浮かべる凡庸な結末を。

 

 

ボゴォォォオンッ!!!

 

 

「パオッッ!!?」

 

 

 粉々に打ち砕き、ダイオウドウの巨体を揺るがせる。

 揺れる自身の巨躯、二本の棒が叩きつけられた場所からはジンジン衝撃が響いてくる。そのことにダイオウドウは驚愕する。こんな見るからにひ弱そうな小さき者が己が巨体を揺るがしたのか、と思わず顔を向けるほどであった。

 

「あちゃー、今ので体を揺らすだけか。これは中々骨が折れる戦いになりそうね」

「バチキッキ!」

 

 バチンキーの渾身の一撃は大きな損害を与えるに至らず。

 それでも『壁画』の破壊に専念していたはずのダイオウドウが身を翻し、外敵の排除に指針を変えさせるには十二分なことだった。

 

「委員長のポケモンだか何だか知らないけど、所詮はチャンピオンを諦めたポケモンでしょ。なら、未来のチャンピオンであるアタシの敵じゃないわね!」

 

「パオォォォォォンンンッ!!!」

 

 コキコキと手首の骨を鳴らし、拳を打ち鳴らす。

 傲岸にして不遜なる挑戦者は、かくして思い切り相手の地雷を踏んずけながらも、自分の負けを微塵たりとも想像していないのであった。 

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

「ダブラン、『サイケこうせん』!!」

「ジメレオン、『みずのはどう』!!」

 

 二匹のポケモンが放ったサイコパワーと波動が激突しあう。

 高密度に凝縮されたエネルギー同士の衝突は、互いのエネルギーとエネルギーが反発し合うことで周囲の石畳をめくりあげるほどの衝撃を生み出していく。

 

「そこだ、『みずのちかい』!!」

 

 二つの力のぶつかり合いが終わった直後、畳み掛けるようにして地中から間欠泉のごとき激流が吹き上がる。

 フィールドの各所から勢いよく噴き出した水柱。そこから遅れて、特に大きな水の柱がダブランの直下から吹き出す。

 

 決まった。

 瞬く間もなく全身を飲み込んでいった、会心の一撃だ。

 

 しかし、直撃した水の柱が内側から光り輝いたかと思うと光を伴いはじけ飛ぶ

 バシャバシャと水が散布され、中から薄い透明な障壁を身に纏ったダブランの姿が現れた。

 

 

「――――『ひかりのかべ』、特殊攻撃によるダメージを大幅に削る。君のジメレオンのとっておきも大したことは無いようですね」

 

 

 流石というべき対応力とポケモンへの豊富な知識。間髪入れずに叩きこんだというのに、最高威力の一撃が易々と受け止められてしまった。

 やはりビート、手強い相手だ。

 

「あなたたちの実力、今のでほぼほぼ理解できましたよ」

「一度戻れ、ジメレオン!」

 

 完全に不意を突いた一撃が華麗にいなされ瞠目してしまったが、すぐさま思考を引き戻しジメレオンを交代させる。

『ひかりのかべ』が相手にあるのなら遠距離技の撃ち合いは不利になる。ならば。

 

「頼んだぞ、アオガラス!」

「アァガァ!!」

 

 飛び出したアオガラスはすぐさま飛行を始めるとダブランの視界に留まらぬよう急速で飛び回り始める。

 エスパータイプとの戦いでは足を止めるのは命取り、強力な特殊技が当たらないようとにかく動き回ることが大切だとアオガラスも学習しているようだ。

 

「急上昇っ、そこから『ドリルくちばし』!」

 

 ダブランの周囲をひたすら周回していると一瞬のスキが生まれる。それを見逃す手は無く一気に急上昇を加えた体で一気に急降下、位置エネルギーを蓄えた後一気に下降し強襲を仕掛ける。

 高速に回転する『ドリルくちばし』に力が集中する。これならば、ダブランの身を護る体液と手容易く貫けると確信した。

 

「甘いんですよっ、『リフレクター』!」

「なにっ!?」

 

 ダブランとの衝突寸前、二匹の合間に薄く透明な壁が出現する。

 それは先ほどジメレオンの必殺を防いだ『ひかりのかべ』とそっくりな物理を通さぬ障壁。ギャリギャリと音を立てて障壁とくちばしが火花を散らすが一向に突破できない。『ひかりのかべ』の他に『リフレクター』までも持っていたのかっ。

 

「ダブラン押し返しなさい、今度はこちらが急上昇して『サイケこうせん』です!」

「ダブゥ!」

 

 とうとう障壁を破ることなく押し返されてしまったアオガラス。ダブランは見た目にそぐわぬ俊敏性を発揮し頭上を勝ち取るとアオガラスに向けて強力な光線を浴びせかける。

 

 『サイケこうせん』に被弾しながら、アオガラスは何とか攻撃を耐え抜き、翼を翻してその場から離脱する。

 何とかなった……しかし、被弾を被り低空を強いられたアオガラスの動きは大きく鈍る。何とか指示をとばすが頭上を取られてからの戦いは不利の一言であった。ダブランはアオガラスが浮上を試みようとするたびに手早く迎撃の一撃を打ち込み、こちらに全く浮上する隙を与えてこない。

 

「このままじゃ巻き返せない……何かいい手はないか」

 

 上空を陣取る敵…強力な特殊技…辺りには避けた『サイケこうせん』が破壊した石畳の破片や、『みずのちかい』が噴き出た時の穴がぽつぽつと開いている。

 

「そこですダブラン! 三時の方向に『サイケこうせん』!」

「!!」

 

 ついにアオガラスの動きの癖が解読され、偏差を考慮した完璧なタイミングで七色の光線が撃ち出される。

 今からアオガラスがそれを回避する暇はない、だったら!

 

「突っ込め、アオガラス!」

「ッ!? ガァ!!」

 

 撃ち出された光線を避ける手立てが今はない。ならば……作ってしまえばいい!

 高速で回転を始めるくちばしが地面に向かって突き出される。

 迫る虹色、近づく大地。空の支配者は天に背を向け、大地と向かい合った。

 

 

「掘り進め、疑似ドリルライナー!!!」

 

 

 高速で回転するくちばしが穿孔角となり石畳に穴を穿つ。アオガラスは掘り進めた穴に身を投じ、地中の中へと消えていった。

 直後、七色の光線が殺到し石畳を粉々に砕いていく。

 

 地中を掘り進む飛行タイプという前代未聞の光景に動揺を隠しきれないでいたが、ビートは冷静に分析を進めていた。

 

「また意味のわからない策をっ。ですが、如何に『ドリルくちばし』であろうと飛行タイプのポケモンが長く地中を掘り進めることなど不可能なはず。自らより危険な場所に踏み込むなど―――!」

「ねえビート『レントラーの巣穴に入らずんばコリンクを得ず』ってことわざ、聞いたことある?」

「な、なにを」

「俺の生まれ故郷に伝わることわざでね、『危険な場所にこそチャンスが埋もれている』って意味なんだ。こんな風にねっ!」

 

 視界の端、石畳に開いた『穴』の中からそれは飛び立つ。

 

「その穴はっ!」

「その通り、『みずのちかい』で開いていた穴だよ!」

 

 ジメレオンの使った『みずのちかい』。間欠泉のごとく噴き出した水の柱は大地の各所を穿ち、地中の中に穴を巡らせていた。その穴を利用したアオガラスはビート達の予想を超えた方向から飛び出したというわけだ。

 自由に地中を動けないと踏んでいたビート達の思惑を裏切る高速の奇襲、一瞬にして攻めと受けが入れ替わり今度こそ空の覇者が天を取る。

 

「しまった、空を取られた!」

「今度こそ行くぞ、『ドリルくちばし』!」

「アァガァァァァ!!!」

 

 プライドの高いアオガラスは土で汚した体に怒りの力を漲らせる。

 快音を響かせる嘴が飛行の勢いを乗せ、ダブランの体を包むゼリー状の体液に突き立てられる。螺旋の力は体液をはねのけ、ゼリー状の体液を花火の様に吹き飛ばす。とどまることなく嘴は突き進み、ついにはダブランの体を貫いた。

 

 直撃を受けたダブランの体が浮遊の力を失い地面に叩きつけられる。

 体液の半分が吹き飛んだ体を鋭い爪の付いた脚でがっちりと捕まれたダブランの目には、アオガラスがどう映っていただろう。

 

「とどめだ、『みだれづき』!」

「ガァァァァ!!」

 

 空気を裂く嘴の音とともに叩きつけられる連撃は残っていたダブランの体力を全て削り切り、その意識を闇へと葬っていく。

 

 ダブランの体力を削り切ったアオガラスが距離をとると、ビートは悔しがりながらダブランをボールに戻す。

 腰に戻したスーパーボールから手を離し、隣にあったボールに手を付けたビートは間髪入れずにそのボールを振るう。

 

「お願いします、ゴチミル!」

「チミミル!!」

 

 出てきたのは小さな子供ほどの黒い人型のポケモン。ゴチミル、という名前からしてダブランと同じく彼が所持していたゴチムが進化したポケモンなのだろう。

 

「ガァァァッッ!!」

「チミミィ……」

 

 アオガラスがうなり声をあげゴチミルを威嚇にかかる。そういえば過去、アオガラスはココガラだったときにゴチムの『サイケこうせん』一撃でやられてしまっていた。プライドの高い彼はそのことを思い出して戦意が溢れ出しているのだろう。

 

「なら今度こそ返上するぞ、『みだれづき』!」

「近づかせるな、『がんせきふうじ』!」

 

 アオガラスはみなぎる力を翼に乗せ空を駆ける。先ほどダブランと相対した時よりも上がったスピードを以てゴチミルへと接近する。

 ゴチミルの小さな体に接敵する寸前アオガラスの体が急旋回する。次の瞬間、進行方向だった場所にアオガラスの体ほどもある岩が続けて降り注ぐ。

 

「くっ、退避だ!」

「逃がしません、連続で『サイコショック』!」

 

 攻めの姿勢から一転、またしても追われる側に回る俺とアオガラス。

 乱雑に降り注ぐ『がんせきふうじ』から一転、統率された動きを見せる物質化されたサイコエネルギーの塊が射出される。何時ぞやの第二鉱山での戦いと同じく、空の逃げ場を封じようと四方を包囲しにかかる。

 

「前と同じと思われるのは心外だ。アオガラス、トップスピード!」

 

 だが今回戦っているフィールドは狭い鉱山の中とは違う。空中を自在に飛び回りながらの三次元的な戦い得意とするアオガラスはその翆眼で『サイコショック』の包囲網の穴を見極め、瞬間的に大きく加速することで包囲を脱することに成功する。

 

「ちっ、『がんせきふうじ』!」

 

 包囲を脱っしたアオガラスが強襲を駆けるも、ビートは素早く指示出しを行い岩の雨を降らせる。無作為に襲い掛かる岩は統率された動きとは違い予測が不可能、回避を続けるしかない。

 とはいえゴチミルの『がんせきふうじ』も無尽蔵に岩を作り出せるものではないはず、いつかは隙が生まれるはず。それまで回避を続ける、そんな風に戦略を固めつつあるとビートが口を開く。

 

 

「ふっ、ちょろちょろと逃げ回るその姿。まさしく負け犬のような戦い方ですね」

「ッ!?」

「ガラル地方の空の支配者と名高きアーマーガア、その血筋たるポケモンがなんと情けない事でしょうか」

「ガガァァ!!」

「乗るなっ、アオガラス!」

「まあそれも仕方ありませんか、そんなアオガラスならね!」

 

 

 呆れを含んだ吐息とともにビートの口が回り始める。

 

「今朝の試合観ましたよ。ええ、本当に無様な戦いでした。意気揚々と出したアオガラスが見せ場の一つもなく敢え無く敗北する姿はね」

「ッッ!!」

 

 アオガラスのことを『役立たず』だとビートは切り捨てる。

 そこにはトレーナーである俺への当てつけも含まれているのだろうが、傷心のアオガラスにはなによりもその言葉が深く突き刺さった。

 

「そこから先は見る価値もないと後にしましたが……あなた達が彼女を降したという事は奇跡でも起こったのでしょう。もしくは彼女も大したことが無かった、という事でしょうか」

「ガァァァァ!!」

 

 己を侮辱され、仲間の勝ち取った勝利すら貶めるビートの言葉にアオガラスのプライドが音を立てて反発する。

 回避に徹していた身を翻し、怒りに顔を歪ませ降り注ぐ岩に突貫していく彼の姿は、泣いているようにも見えた。

 

「アアァァァ!!」

 

 敵のところへ。

 飛んでくる岩の破片や切れ端に体を裂かれながら、アオガラスはただ一心不乱に敵のもとへ攻撃を届かせようと突き進む。

 

 あと一歩、目前まで接近したアオガラスの嘴がついにゴチミルを貫く。

 とまでいったところで、不規則な軌道を描いたまま突如飛来したピンク色の塊がアオガラスの横顔を叩き爆発の煙を上げる。

 

「『サイコショック』っ!? まだ残していたのかっ」

 

 すべての回避できたと思っていた、というのにまだ『サイコショック』を残していたのか。

 たったの一つとはいえ直撃を被ったアオガラスの機動力は急激に失われ、ゴチミルの目前で致命的な隙を晒す。

 

「ゴチミル、『ねんりき』!」

「ゴチ、チミミミ!!!」

 

 目と鼻の先まで接近したアオガラスの体が『ねんりき』によって縛られる。

 

「負け犬には、瓦礫の中がお似合いです」

 

 体の自由を奪われたアオガラスに待っていたのは、降り注ぐ岩の洗礼。

 雨の様に降り注ぐ岩が羽を砕き、頭を殴りつけ、アオガラスの体を瓦礫の中へと消し去っていった。

 

 

「――――これでアオガラスも戦闘不能。さあ、早く次のポケモンを出したらどうですか?」

 

 瓦礫の中に消えていったアオガラスを見届け、こちらを向き直すビート。

 その言葉からは挑発に乗り、まんまと嵌められたアオガラスへの嘲笑が含まれていた。

 

「なに勘違いしてやがる」

「ひょ?」

「まだ俺のアオガラスは戦闘不能になんかなっていないぜ」

 

 不敵な笑みを浮かべてその言葉を一蹴する。

 流石のビートもその言葉に慌て、積み上がった瓦礫の痕を見直す。

 そこには今も『がんせきふうじ』で積み上がった岩々が、アオガラスの姿を隠している。

 

「ば、馬鹿なことを言わないでください。効果抜群の岩タイプの技の直撃を受けて、アオガラスごときが耐えられるわけが―――――」

「アオガラスっ、そのままでいいから聞いてくれ。さっき言えなかったことだ!」

 

 ビートの言葉をまたもや遮り、岩の中のアオガラスに語りかける。

 ベンチで語れなかった話の続き、それを、今、綴る。

 

 

「今日のジムチャレンジで、お前、自分が役立たずだったなんて考えてるんだろう!」

「それは違うぞっ!!!」

「お前がいたから勝てたんだ。嘘も、誇張も一つだってない。俺たちみんなの総意だ!」

 

 

 腹の底から空気を振り絞り、瓦礫の中まで届けと声を張り上げる。

 

 なにを言っているんだ、とビートの顔は訴えてきている。

 

 ガラ、と瓦礫の少し崩れる音が聞こえた。

 

 

「お前がカポエラーの手の内をすべて暴いてくれたから、ヒトモシに繋がってそこからジメレオン、バイウールーにバトンが繋げられた!」

「偶然じゃない。あの時、あの場所でサイトウさんが一番危険視していたのは他の誰でもない、お前だったんだ!」

 

 

 2分にも満たなかったあの短い戦いの中で、カポエラーは己の手を全て開示していた。

 当時は不思議にも思わなかったが、改めて考えてみればおかしかった。

 

 サイトウさん、彼女は強敵であったはずのジメレオンに対してすら最後の最後までネギガナイトの技を隠していた。

 俺に手の内を隠すことの重要性を教えてくれた彼女が、なぜアオガラスと戦った時にはカポエラーの持つ技を全て開示してまで戦ったのか。

 

 この場に来る直前、俺はサイトウさんにその本意を尋ねていた。

 すると彼女は微笑みながらこう言った。

 

 

『貴方の手持ちのポケモンの中でアオガラスが一番危険だったからです。』

『彼らは総じてプライドは高いですが、とても賢い。一度危険だと察知すれば容易にこちらの手に乗ってきません、ですから、全身全霊。全てをかけて倒す必要があったのです』

 

 

 一番呆気なくやられたと言われるアオガラスをこそ彼女は一番警戒視していた。

 

 

「お前が何も残せなかった? 違う、お前が残してくれたからこそ俺達は勝てたんだ!」

「お前が居なかったら勝てなかった! お前を出していなかったら負けていた!」

 

 

 ガラガラ、と瓦礫の崩れる音に追従するかの如く瓦礫の隙間から温かな光が伸びる。

 もはや考えておいた言葉は出し尽くした。

 

 最後はただ心の思うがままに叫ぶ。

 

 

「――――そのお前がこんなところで負けるわけないよなぁ! サイトウさんに笑われちまうけど、それでいいのか!!」

 

 

「ガアアァァァァァァ!!!!!」

 

 

 バーゲンの様に積み上げられていた岩の瓦礫が光と共に内から吹き飛ぶ。中にはアオガラスの体躯ほどもあった岩々が発泡スチロールの様に粉々にはじけ飛んでいく。

 

 光の中で、『大きな翼』が羽ばたいた。

 

「来い―――――」

 

 光の中に手を伸ばし、名を叫ぶ。

 

 白銀に光る白い光を振りほどき、漆黒の翼が視界を埋め尽くす。濡羽色だった黒い翼が、光を寄せ付けぬ黒が、光沢を帯びた冷たく硬質な漆黒へと変貌していた。

 柔らかく頬を撫でていた翼は、岩をも砕く頑強な翼に生まれ変わった。

 そう、彼の名前は―――!

 

「―――――アーマーガア!!」

「マァガァァァァ!!!」

 

 鋼を纏ったアーマーガアが咆哮する。

 翼で風を巻き起こし、上げた甲高い声にはアオガラスの頃には無かった『プレッシャー』が付与されていた。

 

「チ、チミミミ!?」

 

 そんなアーマーガアの咆哮を受け、ゴチミルの体が震えあがる。

 ガラルで生まれ育ったあらゆるポケモンの遺伝子に刻み込まれている畏怖の記憶が、空の覇者の咆哮によって呼び起こされる。カチカチと歯を鳴らし、身体を抱いて震えるゴチミルの体から戦意と呼べるものが見る見るうちに削られていく。

 

「終わらせるぞ、いいな!」

「マァガァ!!」

「『はがねのつばさ』っ!!!」

「ガァァァァァア!!!」

 

 漆黒の黒鉄と化したアーマーガアの翼が光を纏って飛翔する。

 進化する前とは比較にならないほどの速度を手にしたアーマーガアは、飛び上がった先の雲を切り裂いたかと思うと威力は十分だと言わんばかりに頷き、急加速を加えながら敵へと突貫していく。

 

「ゴチミルしっかりしなさい!!」

「チ、チミル…」

「よし、『サイコショック』!」

「チ、チミミッル!」

 

『プレッシャー』により戦意のほとんどを削がれながら、なんとか残った僅かな戦意をかき集めたゴチミルが『サイコショック』を撃ち出す。

 サイコエネルギー塊は綺麗な羅列を描きながらアーマーガアに殺到し、連鎖爆発する。

 

「よし、当たった!」

「チミミ…!」

 

 鋭い爆発の音と煙が立ち込め、命中したことに歓喜するビートとゴチミル。

 空中に立ち込めた煙が姿を隠し、アーマーガアの安否を隠す。

 

 次の瞬間、煙を切り裂き黒鉄の体が姿を現した。

 

「なっ!?」

「チミミ!?」

 

「ガァァァァ!!!」

 

 鋼の体には傷一つ、埃一つ付いてはいなかった。

 その純然たる事実と咆哮する『プレッシャー』が残り少なかったゴチミルの戦意を根こそぎ奪い、心をへし折る。

 

 迫るアーマーガアにゴチミルは反応さえできなかった。

 茫然と立ち尽くしていたゴチミルの体は、大きく広げた翼によってくの字に曲がり弾き飛ばされる。宙を舞い、恐怖の威圧を、鋼鉄の冷たさを心の芯にまで刻みこまれたゴチミルの意識が戻ってくることは無かった。

 

 ピクリとも動かなくなったゴチミルを前にビートの肩がわなわなと震え、手に持つスーパーボールがカタカタと鳴っている。

 アーマーガアの進化にゴチミルの戦闘不能、二つの衝撃を受け入れきれなかったのだろう。

 

 そして、ゴチミルを降して戻ってきたアーマーガアの方はというと。

 

「アーマーガアっ!」

 

 地面に降り立った途端体がカクンと崩れおちる。

 糸の切れた操り人形のように崩れ落ちたアーマーガアに駆け寄り、体をさするとそれですら痛みだとばかりに顔をしかめる。

 進化により体の傷は癒えた。しかし、戦いで受けたダメージが消えるわけではない。二度の戦闘で受けたダメージと疲労の中での進化はかなりの体力を消耗を要したようで、これ以上の戦闘は不可能だと体が語っていた。

 

「でっかくなったなぁ、お前…」

「マガァ…」

「はは、もうお前を肩には乗せられないな」

 

 まだ小さなココガラだった時を思い出す。肩によく乗っかってきた彼だが、もう乗せることはできなさそうだ。

 

「……ありがとう、お前のおかげで助かった」

「マーガァ……」」

「あとは、俺達に任せて休んでくれ」

 

 ボールを体に押し当て、光とともにボールに収納する。

 アーマーガアを収納したボールが掌の中でカクカクと震える、それがアーマーガアからの「任せた」という返事に聞こえた。

 

 そして、ふと思い出す。

 アーマーガアがまだココガラだったとき、彼はゴチミルの進化前のゴチムに一撃でやられてしまっていた。

 同じように進化したアオガラスも第二鉱山でダブランの進化前であるユニランと戦った時は苦戦を強いられ、退くことで精一杯だった。

 

「……お前は、十分強くなってるよ」

 

 相棒の確かな成長を噛み締め、改めて気持ちを引き締める。

 アーマーガアが入ったボールを腰に戻した俺は、ビートの方を向き直す。こちらの視線に気がつき悔しそうな顔を浮かべたビートに向かって、俺は満面の笑みを向けてこう言った。

 

 

「さあ、次のポケモンを出しなよ」

 

 

 先ほど、ビートに言われた言葉をそのまま返す。

 戦意は萎えるどころか勢いを増し、さらなる戦いの興奮が俺の心を急速に満たしていくのだった。

 

 

 




続きは近日中に挙げたいですが、ライバルキャラに関してはわりとめんどくさい性癖の作者がうだうだ悩んでいるため遅くなることに9万ペリカ!
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