剣盾旅記録   作:鳴神ハルキ

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卒業研究から解放された……なんて晴れやかな気分なんだ……
というわけで遅れて申し訳ありませんでした。とりあえず今回はユウリ側のお話です。


58、ユウリvsダイオウドウ

 壁画を背にするトレーナー、その目の前では圧倒的な暴力が巻き散らされていた。

 

「ぐっ、うう……!」

 

 体制を保つことすらままならないその環境は人間というひ弱な種族が身を置くにはあまりに過酷過ぎた。

 ポケモンの様に硬い鱗も、丈夫な皮膚も持たない彼女たちにとって飛んでくる岩の欠片でさえも危険物となり得る。

 そして、また一つ。

 戦いの中で偶然にも生まれた巨大な瓦礫(流れ弾)がトレーナーに向かって飛んできた。

 

「サルちゃん、おねがぁぁい!!」

「バチキッキ!!」

 

 そんな瓦礫に横から猛スピードで飛んできた影が打撃を与える。

 人の頭ほどもある大きな瓦礫は一撃で砕け散り、トレーナーには破片一つ飛び火することはなかった。

 

「助かったぁ。ありがとサルちゃん」

「ウキキ」

「……それにしてもとんでもないパワーね、あのデカブツ」

 

 ホッと一息ついたトレーナー、ユウリは目の前で力の限り暴れまわるダイオウドウを見てうんざりするように呟く。

 

 ビートが借りてきた対壁画破壊用生物兵器『委員長のダイオウドウ』。

 全てが破壊に費やされているかのごとく強靭な肉体はあらゆるものを蹂躙する。

 また、覚えている技は全てが近接物理技。補助技など不要と言わんばかりの脳筋ぶりだ。

 しかし、そんな単純明快な相手だったからこそ、両者のポケモンがもつ圧倒的なステータス差が浮き彫りになってしまった。

 

「まさかサルちゃんの攻撃がマジで全然通用しないとは思わなかったわ……」

「ウキィ……」

 

 頭を掻きながら押し黙る一人と一匹。

 初動こそ相手の油断を突き自分達を脅威として認識させる一発をお見舞いできた彼女達であったが、そこから相手の本当の実力を思い知ってしまった。

 

 鋼の表皮、鋼の肉体、鋼の耐久力。

 まさしく鋼タイプ。

 鉱物の利点を詰め合わせましたとでも言わんばかりの硬い・強い・重いを体現した相手にバチンキーの生中な攻撃は悉く弾かれてしまっていた。

 なんとか身軽さと手数においてはダイオウドウを上回っているのだが、肝心の攻撃が通用しなければ何の突破口にもならない。

 

「正直ちょっと舐めてたかも。これでチャンピオントーナメント準優勝? なら本物のチャンピオンはどんだけ遠いのよ……」

 

 ユウリは近所の兄貴分の顔を思い浮かべながらテレビの中の戦いを思い返す。

 まるで天変地異の様に激しい兄貴分とガラル最強のジムリーダーのエキシビションマッチ、あれは誇張表現でもテレビの中だけの話でもない、現実に起こりえることなのだと再認識する。その一端が、今、目の前で起こっているのだから。

 

「相手もこっちの攻撃が通用しないとみると駆け引きもしなくなって力押しの戦法に変えてきたし、これじゃあ手の出しようがないわね」

 

 心の中で溜息を吐くユウリは己の思考が段々と勝つことをから時間稼ぎの領域に傾いていくのを感じる。

 ここまでの事件を起こしたのだ、中々帰ってこない自分達を心配して遠くないうちに援軍がやって来るだろう。

 もしくはアカツキがビートを倒すのを待ち、叩きのめされたもこもこピンクからモンスターボールを奪ってそれで無力化させるのが一番効率の良いやり方だろう。うん、そうだ、それがいい。

 

 ユウリは至極まともな思考能力を残していた。

 誰よりも優れている分、そうした見切りの速さもピカイチだ。

 負けん気も人一倍だが勝てない勝負にいつまで手をこまねいていても仕方がない、ここは相手を時間いっぱいやり過ごす方向で……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来い―――――アーマーガア!!」

 

「マァガァァァァ!!!」

 

 と考えがまとまりそうになった瞬間、まばゆい光と音が周囲を照らし始める。

 

「これ、進化の光?」

 

 ダイオウドウとバチンキーも注意を惹かれる光の先にユウリは目を向ける。

 進化を告げる温かな光の中に漆黒の黒鉄が光沢を帯び始める。白い光を目いっぱい取り込んだ黒鉄は咆哮と共に周囲のあらゆるものを吹き飛ばす。

 瞬間、壁画前の広場を埋め尽くすように放たれる強者の『プレッシャー』、圧倒的存在感がビリビリと肌を伝わり、我こそが支配者だと言わんばかりの金切り声を上げる。

 

 新たな覇者の誕生にユウリの心が揺さぶられる。

 それはアーマーガアから発せられる王者の『プレッシャー』にあてられたせいか。それとも漆黒に光り輝く金属光沢に彼女の機械いじりとしての本能が揺さぶられたせいか。

 ともあれ、勝つことを諦めかけていた彼女の胸に、火種というなの闘争心が放り込まれた。

 

「―――アタシよりも目立つなんて、アカツキのくせに生意気じゃない」

 

 諦観の浮かび始めていた顔からは影が消え、代わりといってはなんだがアカツキやホップ達が見慣れた自信と笑みが舞い戻ってくる。

 

「アタシはハロンタウン一の修理屋であるママの娘! そのアタシが鋼タイプ(ダイオウドウ)に後れを取るわけにはいかないわね!」

 

 ユウリにとって鉄とは生まれた時から触れてきたごくごくありふれたもの。

 母親のぬくもりと同じくらい鋼の熱さと冷たさを知っている。

 だからこそ、恐ろしさはもちろんその脆さだって熟知しきっている。

 

 ハロンタウンの天才(天災)、いざ、本領発揮!!!

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

「まずはァ、電気の通りから確認しちゃいましょ! パチちゃん!!」

「チラチラァ!!」

 

 相性が悪い、とバチンキーを戻したユウリはパッチラゴンを投入する。

 自身より大きな存在を前に爛々と輝く瞳には、パッチラゴンの人懐こさとやんちゃさを感じ取れる。

 

「『でんきショック』!」

 

 はじける音とともに電撃が放たれる。

 パッチラゴンの強靭な下半身から精製された電気はダイオウドウの鋼の装甲を易々と通り抜けると、内部を焼き立てる。

 

「……パオオッッ!」

 

 電撃の威力に怯んだように片目をつむるダイオウドウ。

 ユウリの思惑通り電撃は鋼の硬度を無視してダメージを与えられるようだ。

 

「うんうん。やっぱり鉄には電気よね、でも……」

「パオオオオオン!!」

 

 しかし、苦しんでいたのもつかの間。

 ダイオウドウは両足を高く振り上げたかと思うと、勢いよく地面へと深く突き立てる。すると電撃が足を伝わり地面へと逃げていくではないか。

 

「やっぱり、そのくらいの知恵は働いて当然か……」

 

 ダイオウドウは歴戦のポケモン。

 トレーナーがおらずともその経験値(レベル)の高さが垣間見える。

 電撃がいくら通用しようとも地面に流されてしまえば何の意味も無くなってしまう。

 

「なら、『ドラゴンテール』!」

 

 その後もユウリ達は『ドラゴンテール』、『つばめがえし』と技を繰り返していく。

 だがやはりというべきか物理技ではダイオウドウの鋼の肉体に大したダメージを与えられない。

 鋼タイプの強みともいえる耐久力であった。

 

 だからと言ってそれらの攻撃が無駄だったわけではなかった。

 見事三度目の攻撃を当てたところでユウリは不審な顔をする。

 

「……こいつ、全然技を避けないわね」

 

 これだけ技を使っているのに一撃とて技を回避しない相手に胡乱な顔をする。

 そういえばバチンキーと戦っていた時も初撃以降は全て正面から受け止められたわね、と思い返したユウリはさらに不可解だとばかりに顔をしかめる。

 そんな感覚に意識を割かれている相手の隙を見逃すはずなどなく、今度はダイオウドウから打って出た。

 

「ォォォオオン!!」

「…ッ! ヤバッ!」

 

 受けから攻めへのあまりにも自然な以降に不意を突かれる。

 気がついた時にはずんぐりとした脚が高く振り上げられており、パッチラゴンの頭上へ鉄槌の様に振り下ろされる。

 あまりに圧倒的なパワーの前にパッチラゴンは抵抗虚しく地面に埋まるオブジェとなっていた。

 

「…ッ! 戻って、パチちゃん」

 

 悔しそうにポケモンをボールへと戻す。

 だがまた一つ、ユウリは相手の力を把握することができた。

 

「技は『10まんばりき』。相性もあるけどカセキポケモンのパチちゃんを一撃……ね」

 

 現代に生きるポケモンと比較するとかなりのタフネスを持つパッチラゴンを一撃でダウンさせてしまう『10まんばりき』。

 一つ一つの情報を大切にするように、ユウリは知識を脳裏に焼き付けた。

 

 その後、ユウリはヌオーを呼び出す。

 ぬるぬるとした体表、のんびりとしているようで偶に俊敏な動きをするヌオーは歴戦のダイオウドウをして後手に回させた。

 『マッドショット』と『だくりゅう』を併用し一帯を沼地に変えたヌオーは万全の状態でダイオウドウに強襲を仕掛ける。

 

「ウパちゃん、『マッドショット』!」

 

 泥濘にあしをとられたダイオウドウの動きは鈍り、逆にヌオーは水中以上の機動力を発揮する。

 追撃のごとく放たれる『マッドショット』は被弾の直後に硬質化する特殊な泥の弾丸だ。

 泥が体に張り付き、さらに動きが鈍ったところに叩きこまれる『アクアテール』はダイオウドウの要所を狙い撃つ。

 ヌオーの生態をうまく活用した戦法にユウリは確かな手ごたえを感じていた。

 

「オォォォォオン!!」

 

 だが、それまでの優勢がダイオウドウの『パワーウィップ』によって全てを覆される。

 

「伸びた!?」

 

 緑色のオーラを纏ったダイオウドウの鼻部が天を貫く巨木の様に丈を増やす。

 伸びた鼻部から放たれた『パワーウィップ』の一閃がフィールド一帯を薙ぎ払い、一瞬にして元の石畳が連なる遺跡跡に引き戻される。

 薙ぎ払いの直前に危機を感じて空中へと脱出したヌオーであったが、泥のフィールドが消され機動性が失われた彼に返しの『パワーウィップ』を回避する手段はなかった。

 

「これも駄目……動きを封じてもあの伸縮自在の鼻がある限り手数は減らない」

 

 集中して集中して集中して集中して集中して集中して集中して集中して集中して。

 情報のひとかけらも逃さないと、集中力を高めるユウリ。

 カリカリと爪を噛む今の彼女に、己の目頭が異常な熱をもっていくことに……気がつかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウリは観察の鬼である。

 

 彼女をよく知る男、ホップの言葉である。

 

 各分野において非凡な才能を発揮するユウリは十人が見れば十人が認めるほどの才人といえる。

 多芸で多趣味、本人が自称する通り「万能の天才」と言っても過言ではないかもしれない。

 

 そんな彼女の才能の中で、特に突出している才能が存在する。

 

 それは「対象を観察する」という才能だ。

 

「目が良い奴ほど上達も早い」という言葉がある通り彼女はお手本さえあれば大抵のことを難なくやってのける。

 それはただ眼が良い、というだけではない。

 相手の動き、呼吸、視線、力の入れ様、僅かな癖等本人の知る由でもないところまで見抜く観察の鋭さに起因している。

 彼女の多芸ぶりは普段から周囲をよく観察しているからこそのものであり、自身の才能の発揮口を理解していたからにすぎない。

 

 もちろん、彼女自身が多数の才能を持ち合わせていることは変えようのない事実である。

 ただし、それらすらも彼女の「観察する」という才能に比べれば格段に劣るものであるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼女が顔を歪め、こめかみを抑えながら戦いを続けている。

 

「グっ!」

 

 ダイオウドウという格上の相手。

 その動きを観察する、という行為は生半可なものではない。

 どうでなくとも彼女はバトルの指示出しを行い、戦いの余波から生まれる瓦礫などの二次被害から身を護っているのだ。

 そんなマルチタスクに流石のユウリと言えども疲れが出始めているのだ。

 

 そして、疲れの影響によりカモネギが墜ちる。

 

 格闘タイプのカモネギはユウリが三度のバトルから見抜いた相手のパターンをもとに送り出した自慢の切り札であった。

 

 事実、今までの戦いから手に入れた情報から戦いを優勢に進めた。

 特に大きな戦果としてダイオウドウの脚を一本奪った。

 四本ある脚のうち一本が無視できない負傷を負い、ダイオウドウの盤石の姿勢を崩すことに成功した。

 

 だが、それが悪運を引き寄せた。

 今までの動きができないと見るや否やダイオウドウは即座に攻撃のパターンを変化させ、敵をステータスの差で圧倒する乱雑な戦い方から積極的に鼻を用いて相手を刈り取る範囲攻撃へと戦法をシフトさせた。

 その突然の変化にユウリと言えど対処が追いつかず、些細なミスが積み重なり最後は『じゃれつく』の直撃を受けてカモネギは一撃でやられてしまった。

 

 カモネギをボールに戻す際、ユウリは頭を押さえる。

 タラりと何かが肌を伝う。

 拭うとそれは鼻から流れた血であった。

 だがそんなことすら些事であると、ユウリは今の戦いの反省点を洗い出そうと躍起になる。

 

 相手の力量が想定以上だった。

 咄嗟の対応力が桁違い、経験の差だ。

 的確に相性を見極める、知能も高い。

 甘いもの食べてェ!

 

 頭痛が激しくなり、ギシギシと神経が軋み始めている。

 熱にうなされたような症状のなかで、何故かユウリは笑みを浮かべていた。

 思考が最適化され始めなんだか周囲がスローに見え始めた。

 だが急速な負荷に体はついて行っていない。

 だとしても今、戦いを止めるわけにはいかない、と決定付け痛みから目を逸らし彼女は新たなボールに手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ッッ!?」

 

 その手を、突然の来訪者によって掴まれる。

 

「だ、誰!?」

 

 すべすべとして手触りの良い手。

 優しく馴染んでくる体温が心地よい。

 そんな手の持ち主は、

 

「―――わたしよ、わたし」

「ソ、ニアさん?」

「正解。まったく、女の子がしちゃいけない顔してるわよ」

 

 現れたのはソニア。

 アカツキ達において行かれていた彼女がようやく頂上にたどり着いたのだ。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 ソニアはハンカチを取り出すと水で濡らしてユウリの顔を拭う。

 冷たく適度に湿らされたハンカチはユウリの顔を覆っていた熱を適度に奪い、顔についていた血の跡を優しく拭い去る。

 

「集中するのは良いけどトレーナーが熱くなり過ぎちゃダメでしょ、ユウリらしくもない」

「え、どうして、ここに……?」

「君たちがわたしを無理矢理引っ張って連れてきたんだけど!?」

 

 ソニアの存在を完全に失念していたユウリに対してソニアは声を上げ、肩を落とす。

 

「ふ、ふふ。いいのよ。わたし、昔からそういう扱いなのは知ってたから」

 

 ソニアは脳内からダンデに振り回されていた頃の記憶を引っ張り出し、すぐさま記憶の奥底へボッシュート(返却)

 これ以上落ち込むことを本能が拒否したようだ。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 正直、今の今までソニアの存在を忘れていたユウリは内心から罪悪感がじわっと湧いてきてしまう。

 なんとかフォローしようと考えるのだが戦いで火照った頭脳は中々気づかいに回らない。

 つい出た言葉がさらにソニアの心を抉る。

 

「ご、ご苦労様でした。えーと、筋肉痛とか来てません?」

「……グッフ」

 

 高度な若さマウントを食らったソニアの心が限界を迎える。

 若さに触れる発言は全ての女性に対して効果は抜群なのだ。

 失意の中でソニアは膝を抱えて縮こまり、プルプルと震えてしまい始めた。

 いや違う。

 これは階段登りすぎて足にキているのだ。

 

 そんな大人の姿を見たユウリはというと、

 

「――――っぷ、あ、あはっあはははは」

 

 今の今まで勝つため心血の全てを注いでいたユウリは、そんなソニアの姿に和んでしまった。

 脳裏を通り過ぎるのはダンテとホップと三人でソニアをなんやかんやと弄る日常の光景。

 最近はそこに新人のアカツキも入った日常の光景を思い出すと、自然と体に入っていた余計な力が抜けていった。

 

「ユウリ……酷い……」

「あははっ、ご、ごめんなさい。でも、なんかスイッチ入っちゃって」

 

 うらめしそうに、涙の浮かんだジト目で下からのぞき込むソニアの姿にユウリはさらに腹を抱える。

 ひとしきり笑いきった後、ユウリは目元ににじんだ笑い涙をぬぐいながら綺麗さっぱりした状態で顔を上げる。

 

「ふー、ありがとうございました。お陰で頭も冷えましたし、あとはアタシだけで……」

「ていっ」

「ぷひゅ」

 

 ダイオウドウに向き直そうとしたユウリの顔をソニアの両の手の平が挟み込む。

 意気込んだ時に吸った空気が口の中から吐き出され、ユウリが普段起こさないような間抜けな音を立てる。

 

「(頬をむにむにされている)」

「むむ、なんてもち肌。やはり若さか、若さなのかなぁ……」

「あのソニアさん……」

「っは! ごほん……ユウリ、あなたにも引けない時がある、それはわかっているわ」

「……」

「三体もやられてあなたが簡単に引き下がれるわけないもんね」

 

 これでもソニアとユウリも長い付き合い。

 ユウリが仲間をやられた状態で簡単に引き下がれないことも彼女は理解している。

 

「でもね、勇気と無謀は一緒じゃないのよ」

「そんなことは、ないです。脚一本使えなくなった今のダイオウドウになら遅れは取りません」

「……賢いあなたがらしくもないわね」

 

 ソニアはユウリの頬を挟んだまま顔を上げる。

 視線の先にはソニアとユウリを見つめるダイオウドウがいる。

 

「あなたは強くなった。」

「ハロンタウンに居た頃よりも、旅立った時よりもずっと強くなったわ。」

「でもね、今のユウリでも、あのダイオウドウには逆立ちしたって勝てない」

 

 ダイオウドウを見据えて、その力を瞬時に理解する。

 

 ソニアに言葉で「勝てない」と断言されたユウリは悔し気に拳を握る。

 

 わかっていた。

 カモネギが退場した時点で自分が持つポケモン達ではダイオウドウには逆立ちしたって勝てないことが。

 だが、だからといって逃げることは許されない。

 何故なら自分はポケモントレーナーで、ポケモン達に恥じない戦いをしなければいけないからだ。

 

「だったら……どうしろって言うんですか」

 

 滅多に弱音を吐かないユウリが絞り出すように声を上げる。

 それはどうしようもない問題に直面し、正解が導き出せないまま気持ちだけが燻っていく感覚だ。

 これまでどんな壁も自力で乗り越えてきたユウリにとって、本当に解決策が思い浮かばない絶望的な状況だった。

 

「アタシの力じゃ、ポケモン達を勝たせてあげられない……」

 

 手のひらを見つめ自らの無力を嘆くユウリ。

 

「じゃあ、わたしを頼ればいいのよ」

 

 だからこそ、ソニアはあっけらかんと言う。

 

「……………え?」

「自分の力で足りないなら他の人のから力を借りればいいだけでしょ。ポケモントレーナーなんてその最たるものじゃない」

 

 一人のトレーナーと一体のポケモン、足りないからこそ互いに補い合うのだとソニアは語る。

 それは今まで自らの力と才覚のみで道を切り開いてきたユウリだったから、導き出せなかった選択肢。

 

「わたしなんて何をやってもおばあさまに怒られてばっかりでね。昔はダンデ君やルリナにもいっぱい助けてもらったわ」

 

 しみじみと言うソニアの言葉には彼女だけにしかわからない苦悩や感謝が詰まっている。

 しかし、最後には笑顔を浮かべながら言う。

 

「だから、今度はわたしが貴女に力を貸してあげたいの」

 

 頬を離れた掌が、今度はユウリの目の前に差し出される。

 

「前を向きなさい、貴方の周りには貴女に手を貸してくれる大人も友達も沢山いるわ」

 

 先ほどは熱暴走しかけのユウリを無理矢理掴んだソニアの手だが、今度は自分で選択しろと言っているようであった。

 差し出された手にしばらく狼狽したユウリだったが恐る恐ると手を伸ばし、最後には覚悟を決めた表情で強く手を掴み取る。

 

「……アタシが勝つために力を貸してください!」

「えぇ、お姉さんに任せなさい!」

 

 

 

 

 

 




ひとまずここでカットです。
続きは……そこまで長くかからないと、いいな……
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