剣盾旅記録   作:鳴神ハルキ

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仕事が始まってから机の前につく時間は増えたのに執筆時間は減っている。
これは一体……?(PCでウマ娘しているからだと思います)


60、最強 vsビート

「ハっ、ハっ!」

「ブルルゥ!」

 

 二匹のポケモンが戦場となる地面を縦横無尽に駆け巡っている。

 

「『かみつく』!」

「躱して『サイケこうせん』!」

 

 アオガラスがアーマーガアへと進化し、早数分。戦場は空から大地へ、戦いは戦況が目まぐるしく入れ替わるここ地面でのポケモンバトルとなっていた。

 

 覆いかぶさるように飛び掛かるパルスワンの攻撃がひらりと躱され、返す刃で放たれた七色の光に姿勢を低くする。戦いは一進一退、どちらも押し切れない状態が続いていた。

 この二匹のように四足をフルに扱うポケモン同士の戦いは機動力の勝負だといっても過言ではない。俺のパルスワンはスピードに関してならばどんな相手にも負けない、そう自負しているが流石に敵も一流、一筋縄ではいかない。

 

「ポニータ、『こうそくいどう』!」

「消えたっ…後ろかッ!」

「『ようせいのかぜ』!」

「避ける暇はない、持ちこたえろ!」

 

 単純な素早さならばこちらが大きく上回っているのだが『こうそくいどう』による瞬間移動がこちらを翻弄してくる。目にも止まらぬ瞬間移動は効果時間を著しく絞ることによって本来の『こうそくいどう』以上のスピードを有していて、気がついた時には既に敵に踏み込まれた後だ。

 素早さと突破力ならばこちらが勝るが、バトル全体の流れは相手が握っている。中々に厳しい戦いだ。

 

「でもそれってさ、こっちが全力を出せばまた覆るってことだよ、ね!!」

「ッ、まだスピードが……!」

 

 だからといって悲観するほどではない。特に、フィジカルで勝る、というのは大きな利点だ。相手が技を使ってやっと肉薄するということはこちらが技を使えば均衡は崩れるということに他ならない。

 ここまで蓄えていた力を一気に開放し、身体能力をブーストさせて攻勢にかかる。

 

「フルパワーだ、『スパーク』!」

「迎え撃て、『とっしん』!」

 

「ガルルルゥゥ!!」

「ポニィイ!!」

 

 お互いにあらん限りの力で地面を蹴りつけ、こちらは雷撃を敵は純粋なパワーでもって激突する。

 雷を纏った突進攻撃とただの突進攻撃。さらにこちらはここまで温存していた力を解放しフルパワーで体当たりしているのだ、これで負けるはずはない。

 

…そうだというのにポニータの突進攻撃は進化後のパルスワンと拮抗していた。互角……いや、むしろ単純なパワーでは敵のほうが勝っているかもしれない。フルパワーを隠していたのはお互い様というわけか。

 

「だけど、不用心だよ!『スパーク』とそのままカチ合うなんてね!」

「ポニッ!?」

 

 根気強く競り合っていたポニータの体がビクッと跳ねる。

『スパーク』のような雷を帯びた攻撃と競り合えば、それだけで電撃が相手の体を蝕んでいく、視認できる範囲ではか細く微弱な電流であるが、一瞬たりとも力を抜けないこの状況下では十分な効果を発揮する。一瞬とはいえ体を硬直させた敵を一気に押し切り、のけぞった態勢に全力の『スパーク』がクリーンヒットさせる。

 

「胸部…急所狙いか……!」

「畳みかけろ、『かみつく』!」

 

 持ち前のタフネスさで攻撃を受け切ったポニータだったが、長時間の接触と急所への直撃は相手に【麻痺】の状態異常を背負わせる。降って生まれた好機を逃す手はなくこちらも一気呵成に攻め立てる。

 

「ゥワオオン!!」

 

 体の動きを制限されたポニータは自慢の健脚を潰され成す術もない。飛び掛かったパルスワンに組み敷かれ、大きく開いた《がんじょうあご》が抵抗できないポニータへと襲い掛かる。

 

「終わりだ!」

「まだだァ!!」

 

 ポニータのすらりとしながらも肉付きの良い首筋へ今にも歯が突き立てられようとした時、ドカンと両者の体が跳ねるように飛び上がる。

 いいや、跳ねたのだ。

 見ればポニータの脚がピンと突き立っている。ウマ型のポケモンが持つひときわ鍛えられた後ろ脚によってパルスワン共々無理矢理体を空へと押し上げたのだ。

 

「よくやった、『サイケこうせん』!!」

 

 組み伏せ、絶対の有利を手にしたはずの体勢が力任せに破られてしまう。

 その間たった一刻の自由を得たポニータは即座に脚の力を緩め、額にある角へと全エネルギーを集束させる。殆ど零距離状態で放たれた七色の光が空中のパルスワンの脇腹を掠め、苦い感情が表情を歪ませる。とはいえ直撃しなかったのは咄嗟に空中で身をひねったパルスワンのファインプレーだ。ここを逃す手はない。

 

「もっとよく狙うのです!」

「引くな! このまま押し切れ!」

 

 こちらを近づけまいと放射される光の束を紙一重の距離で躱し、くぐり抜ける。ひねった体の遠心力を利用しポニータの体を突き飛ばしたパルスワンは、そのまま相手を地面へと叩きつける。

 

「終わりだ、『かみつく』!!」

 

 背中を強く打ち攻撃が中断されたところへ獰猛な猟犬が放たれる。晒された白い首筋を前に『もう我慢はできない』とパルスワンの犬歯がむき出しとなり、突き立てられる。岩さえも粉砕する『かみつく』がポニータの動きを完全に押さえつけ、沈黙するまで力を緩めない。

 そうしてようやく、ポニータは動かなくなった。

 

「ふぅ……」

 

 相手が完全に戦闘不能となったことを確認し、額の汗をぬぐう。

 互いに機動力が売りのポケモン同士。戦いはこれまでのバトルと比べてもかなりのハイペースで進み、ポケモン同様トレーナーの体力も大幅に持っていった。特に最後の最後、あの体勢から巻き返されたときは背筋が凍えた。

 

「……よくやったぞパルスワン!!」

「ワフゥ…」

 

 パルスワンも肝を冷やしたといわんばかりに腰を下ろし、頭を下げてほっとしている。こちらが手を振ると元気に吠え返してくれたので、まだまだ余力が残っているようで安心した。

 一方、そんな俺たちとは対照的にビートはほの暗い感情をあらわにしていた。

 

「クソ! どうして思うように進まないのです!」

 

 らしくもなく悪態をつく姿は常日頃冷静に戦いを進める彼らしくない振る舞いであった。

 

「くそっ、くそ。ぼくはスクールをトップで卒業して、委員長の推薦を受けたエリートトレーナーなんだぞ。そのぼくがこんな無様をっ!」

 

 三匹のポケモンを失ったことがそれほど響いたのだろうか。とはいえ戦いに敗れたポケモンをいつまでも晒している彼の姿は見ていられない。そう思って声をかけてもビートの耳には届かない。

 

「おいビート」

「オリーヴさんになんて報告する……委員長のポケモンまでお借りしているというのに……こんなところで……」

 

 いつも無表情で人を煽るときだけ感情を露わにする彼がどうしてここまで取り乱しているのか、俺にはまったくわからなかった。

 しかし、そこにはきっと彼がこの遺跡の破壊を決行するにいたったほどの理由があるのではないか、そんな風に思った。

 

「……でも、今のままじゃ俺の声も届きそうにないな」

 

 平静さを失った今の彼を言葉で制するのは不可能だ。滾りにたぎった今の彼に冷静になれ、と言ったところでそれはサウナの窯に水をぶちまけるようなものだ。下手に手を出せば大火傷を被るのはこちらだろう。

 だったら、ポケモントレーナーである自分にできることはただ一つ。

 

「―――こいよ、ビート! このまま終わるお前じゃないだろ!!」

 

 空をつんざくほどの大声量を挙げ、無理矢理耳に届かせる。

―――ポケモンバトルで負かして、止める。それしか方法はない!

 

「ビートは委員長に推薦されたトレーナーなんだろ。こんなところで負けるなんて、委員長の顔に泥を塗っているようなものなんじゃないか!?」

 

 敵への激励とも嘲笑ともとれる言葉はビートの感情に揺さぶりをかける。

 彼には委員長に選ばれた特別なトレーナーだ、という揺るがぬ自負がある。そんな彼がこうして敗北を喫する程の状況で、ましてや自分を追い詰めいている相手からそんな言葉を掛けられればプライドが沸点を超えるのは当然の結末であった。

 

「もう勝ったつもりですかっ! どこまでも癪に障りますね貴方は!」

「別に?勝ったつもりはないですけどぉ? あ、そういえば今日はカレーでお祝いする予定だったっけ。ならこんな用事は早く済ませなきゃなあ!」

「~~~っ!!?」

 

 自分が行った決死の計画があまつさえパーティーよりも優先度が低いとされたなればプライドの高い彼はすぐさま頭に血が昇るだろう。そうすれば彼の得意とするバトルは感情に支配され、本来の力の半分も発揮できないはず。このまま彼を怒らせてやるぞぉ!決して常日頃から溜まっている彼への鬱憤をここぞとばかりに開放しているわけじゃないからな!

 

「やーいやーい!委員長の追っかけ~!」

「子供ですか!!」

「使いっぱしり~!」

「うぐっ」 100ダメージ

「秘書さんの方が優秀~!」

「ぐぅっ」 200ダメージ

「というか委員長のお気に入りって多分ダンデさんなんで…正直ビートが委員長の隣に立つことは……」

「ぐはぁっ!!」 1000ダメージ

 

 赤い何かを口から吐き出しビートが崩れ落ちる。よしっ、ビートに対しては委員長が効果は抜群だ。このまま畳みかけよう。

 

「ところでさ、ビートの服って正直センスないよね」

「な…にぃ?」

「視界に入ったら嫌でも目で追っちゃうし、もうちょっと周りの人に気を使って目に優しい色にするとかしたら?」

「この……っ、さっきから言わせておけば! では聞きますが今貴方が着ているその服、それは何ですか!」

「は? みんな大好きツボツボのカレーTシャツですがなにか???」

「欠片も疑問だと思っていない顔!? まさかそのダサいTシャツを本当にお洒落だと思っているんですか!?」

 

 俺のお気に入りの一着であり、全人類が愛してやまないツボツボの『カレーTシャツ(税込980円)』を言うに事欠いてダサいだと!?ぶ〇してやる!!

 

「貴様ァ! 貴様は今全世界のカレーTシャツ愛好家(大半が10歳未満の児童)を敵に回したぞォ!」

「知るかァ! 大体ぼくはカレーより真っ白なシチュー派だァ!」

「なん……だと………?」

 

 こ、の男、今なんて言った?

 

「ま、まさかビート……君は、純白教(ホワイトシチュー)派の人間なのかい?」

「なんですかそれは…」

「無限のスパイスとその組み合わせから生まれるカレーが新たな可能性と混沌を司るというなら、純白のシチューはその真逆。決められた材料、決められたレシピ、決められた火加減で作り出されるホワイトシチューはまさしく変わらぬ秩序と停滞を司る料理といっても過言ではない……」

「過言だろ」

 

 目の前の人物がまさか純白の教えに身も心も絡めとらわれた咎人だったなんて……

 そのあまりの衝撃から、目からカレーが流れ落ちる想いだ。

 

「……なんですかその未開の地に住む部族を見た時のような眼は。やめろォ!そんな目でぼくを見るな!」

「そんなつもりはないよ。ただ、ここに主の愛(カレー)を知らない存在がいたこと。そして、それに今の今まで気が付くことができなかった未熟な自分が恥ずかしくなっただけさ」

 

 つー、と頬に一筋のしずくが流れる。なんという不徳、どうやらまだまだ精進が足りていなかったようだ。これからは慢心せず、さらなる邁進をしていこうとスパイスの神に誓った。

 

「こ、こんな男にぼくは後塵を拝しているというのか……っもっと顔向けできないじゃないか!」

 

 ビートが悔しそうに地団駄を踏み始めたところでようやくスパイスの神域から意識が戻ってくる。

 よしよし、煽りは順調。このままビートを言葉巧みに誘導して冷静さを失わせたところで一気に負かして正気に……って、あれ? いつのまにかビートが正気に戻ってる? なんで???

 

「くそっ、こんな頭のおかしなカレー野郎に負けるなんて一生涯の恥! 委員長の顔にカレーをぶちまけるようなものじゃないか!!」

「ちょっとまて、それはご褒美だろ!?」

「うるさい、頭のおかしなカレー野郎は黙ってろ!」

「『頭のおかしなカレー野郎』、イッシュ辺りの言葉に直せば『クレイジー・カレーマン』?やだ結構イカすじゃん」

「こ、こいつ無敵か!?」

 

 若干引き気味のもこもこピンクを見てみると、どうやらあれだけ高ぶっていた負の感情の高まりが鳴りを潜めた様子。

いったい何が原因なのか皆目見当もつかないがポケモンバトルで負かして無理矢理言うことを聞かせる、という当初の予定はいささか荒っぽいかなと思っていたところだ。今なら、もしかすれば言葉で彼を説得できるかもしれない。そう思って、俺は一歩を踏み出した。

 

「ねえビートもう一度聞いてもいい?」

「なんですか、もう頭の痛くなる話は聞きたくないのですが……」

「どうして、こんなことをしたの?」

「ッ!」

 

 ここに来て直後の俺は壁を破壊するビートの姿を目撃したせいで自分を制御できないほど激昂していた。だがポケモンバトルを介して落ち着きを取り戻した今なら彼と腰を据えて話ができるのではないか、そう思った。

 

「だ、だから先ほども言ったでしょう。この壁画を破壊して奥に眠る膨大な量の『ねがいぼし』を手に入れる! そうすれば委員長の計画が一気に進み、ぼくはそこに貢献できる。そうなればチャンピオンなどよりもっと評価してもらえる筈なんです!」

 

 それでも現実は変わらない。

 ビートの言葉は最初と同じく、いくら俺が落ち着いたからと言って到底納得できるものではなかった。

 

「これはオリーヴさんに任された重要な任務! 絶対にしくじるわけにはいかないのです!!」

 

 だが、その中に聞き流せない一文があった。

 

「『オリーヴさんに任された』……?」

「ハっ!?」

 

「しまった!」と言わんばかりに両手で口をふさぐビート。頬には冷や汗が流れ、顔色がみるみるうちに悪くなっていく。表情や仕草からは普段は滅多に覗かせないであろう焦りや焦燥感といったものが増えていき、どう見ても口にしてはいけないことを口走ってしまったという感じであった。

 そうか、今回の凶行はあの人の企てだったのか。そういえば以前委員長とお茶をしたときにビートは彼女と共にどこかへ行ってしまった。もしかしてあの時から今回の計画は進行していたのか?

 

「さ、さあ話が終わったのならバトルの続きを再開です!」

「ちょっ、まだ聞きたいことが……」

「聞きたいことがあるのならポケモンバトルで勝って聞き出してみなさい!」

 

 もっと聞きたいことがあったのだがビートに無理矢理話を打ち切られる。さらに言えば彼の目には再び使命の闘志が燃え始めていた。どれだけ歪んでいたとしてもビートの行動の根底にあるものは委員長への忠誠、その使命を思い出し彼は今一度復活を遂げたのだ。

 

「まだここで君を倒せば立て直しは効く。ぼくは絶対にあの人達の期待に報いて見せます!」

 

 闘志を取り戻したビートの左手から最後のボールが開口する。

 

「いきなさい、テブリム!」

 

 それはこれまで見たことも聞いたこともない姿のポケモンだった。淡いピンクと水色が目立つそのポケモンは巨大な頭部から伸びる二本の触手のようなもので体を支えた奇怪なポケモンであった。

 しかし、これまでの彼との戦い、激戦からそのポケモンの正体を見破るのは難しいことではなかった。

 

「テブリム……ミブリムの進化後ってところか?」

「その通り。長く辛い鍛錬と特訓の末ようやく進化を遂げた、最強のポケモンです」

 

 ビートの言葉からはテブリムに対する絶対の自信と信頼が伝わってくる、それと同時にその体から発せられる力の圧も。どうやら『最強』というのもハッタリではなさそうだ。

 

「これまでの戦いが全て余興に思えるほどの力を見せてあげます」

「だったら、見せてもらうぞ!」

 

 先に仕掛けたのは俺とパルスワンであった。

 息を整えたパルスワンが再びトップスピードでフィールドを駆け巡る。目にも止まらぬ俊足は地面から小さくきめの細かい砂を宙へと巻き上げると、辺りに黄土色の土煙をあげていく。

 視界を埋め尽くすほどの大量のスモーク、こうなってしまってはこちらからもよく見えないほどだが。

 

「(パルスワンには自慢の鼻がある。こちらからは相手の位置がお見通しだ!)」

 

 巻き上がる粉塵の中でもパルスワンの鋭敏な鼻は相手の正確な位置を補足している。十分に土煙を上げたところでパルスワンはブレーキをかけ、音もないまま土煙に紛れる。

 

「………」

 

 抜け足、差し足。忍び足。ゆっくりと音もなく忍び寄ったパルスワンはテブリムの背後をとる。

 

「いけ、『かみつく』だ!」

 

 大きく顎を開け、残った距離を一気に埋めるように地面を蹴る。俊脚とともに振り抜かれた牙が何も見えない粉塵の中、無防備なテブリムへと襲い掛かる。

 

パアッン!!

 

「ワッパ!?」

 

 完全な死角、テブリムの背後から襲い掛かったはずのパルスワンが横方向から殴りつけられる。土煙の中からすごい勢いで叩き出されたパルスワンの顔には確かな打撃痕があり、迎撃を受けた動かぬ証拠であった。

 そしてその直後大きな風の流れが生まれ、辺りを覆っていたはずの土煙がぐんぐんと流されていく。強風に体を持っていかれないよう必死で耐えていると、その中心からは高速で回転するテブリムの姿が出てきた。

 

「さあ見せてあげなさい、あなたの力を。テブリム、『ぶんまわす』!!」

「ブゥンブゥン!!」

 

 頭部から出ていた二本の触手。どうやらあれがテブリムの主武装らしく、高速で回転している触手は回転の勢いが増すほど威力を増しているようだった。コマのように回るテブリムはミブリムだった頃とは一線を画すスピードで迫ってくる。

 

「『かみつく』で迎え撃て!」

 

 触手に殴り飛ばされパルスワンはダメージが大きいのかゆらゆらと立ち上がり目を吊り上げて敵を睨む。それでもぴくぴくっと鼻を揺らし敵の位置を見極めると大きく口を開く。

 

「そこだ!」

「ワオオオン!」

 

 回転する敵の触手をガッチリと顎と牙で挟み付け、完全に受け止める。完璧なタイミングとそれに負けないパワー、どちらもあってようやく成功した必然だ。

 

「そのまま離すなよ!」

「わふぅん!」

 

 エスパータイプがまさかの物理技主体。以前のスタイルとは打って変わったその戦い方に面を食らったが、攻撃を受け止めたこの態勢はこちらが絶対的に有利。この距離なら何をするにしてもパルスワンの方が速く動ける。

 

「反撃だ、『スパ―――っ!」

「―――甘い!!」

 

 触手へと強力な電撃を流そうとしたのもつかの間、なにかが風を切る音が聞こえる。

 ブウゥン!という強い音はなにか長ものが振るわれるときに出る音、そこまで理解したとき容赦なく襲い掛かった。

 

「ッッわお!?」

「パルスワン!!?」

 

 二つ目の触手がコブシの形となってパルスワンのボディに突き刺さる。それはこちらの『かみつく』を完全に予見したタイミングだった。ビートは読んでいたのだ、こちらの『かみつく』を。

 放たれた重い一撃は腹を打ち据え鈍い音をたたえて体ごと吹き飛ばす。

 

「もう一度、『ぶんまわす』!!」

 

 吹き飛ばしたパルスワンに向けた追撃。黒く染まった触手をぶんぶんと振り回し、流れるように二発をたたき込む。

 地面を三回転半もして転がってきたパルスワンはとっくの昔に戦闘不能になっていた。

 

「そんな……」

 

 倒れたパルスワンに駆け寄る。まだまだ体力的には余裕のあったパルスワンがたった二回の攻撃、それもエスパータイプの物理技でやられてしまったことに戦慄を覚える。

 

「サイトウさんの所の格闘タイプにも勝るとも劣らない。なんてパワーだ」

 

 格闘タイプと比べても遜色のない圧倒的なパワーは目の当たりにした者の背筋をヒヤリと震えさせる。勿論俺もその例外には外れず、声は途中から震え出していた。これでまだ力の一角を露わにしただけというのが……とても恐ろしい。

 

「どうしました。まさか、この程度で戦意を失ってしまいましたか?」

 

 顔にも出ていたのかここぞとばかりにビートが言葉を振るう。

 それは先ほど俺が彼にかけていた言葉をそのまま投げ返してきたかのような切り口で、まっすぐと心の核心に触れようとしてくる。

 

 強い、震えるほどだ。

 だが違う。この震えは決して恐れからきただけの震えではない。確かに強い。以前ワイルドエリアで相対した歴戦のローブシン(ゴーストタイプには手も足も出なかったが)ほどではないが、今の俺たちでは現実的に見て厳しいなと警鐘が鳴るほどの凄い力を秘めていることを感じる。

 

「すっ……すっげえ!!」

「!?」

 

 衝撃は受けている。頭では「こいつやべーぞ、勝てねえって」と警鐘が鳴っている。

 だけど―――そんなのは小さなことだと()が訴えかけてきている。

 

 すごい相手だ。

 こんな奴と戦ってみたかったんだ。

 

 そんな風に俺の体を突き動かそうとしている。今体を支配している体の震えは―――つまりは武者震いであった。もはや事件のことなどどうでもいい、戦いたい。溢れだした戦意が恐怖による恐れをまとめて塗りつぶしたのだった。

 そして俺はパルスワンを戻す。手早くホルスターに仕舞うと、次のボールを手に突きつける。

 

「楽しいよビート! 君とのバトルはいつだって!!」

「その大口もすぐ利けなくしてあげますよ!!」

 

 次のポケモンは、君に決めた!!

 

 

 




鳴神ハルキ先生の次回作にご期待ください(大嘘)
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