ふと、思いついた百合。 作:FM
私は今日初めて親友を泣かせた。
橘夢月…初めて会ったのは…小学生の時だった。
当時、転校生だった私はクラスに全くなじめなくて、いじめ…とまではいかないけれど嫌がらせを受けてた。
それがまだ小さかった私にはとても…とても苦しくてつらかった。
…でも、学校が終わって教室で一人泣いてる私に、そっと自分の持ってたジュースを渡してくれた。
それで…頭をなでてくれた。それが私と夢月の出会いだった。
一目惚れだった。
その日から夢月はずっと私のそばにいてくれた。
優しくて、可愛くて、私も夢月に何か…恩返しをしなくちゃと思って…。でも夢月がしてくれることをそのまま返しただけみたいなこともあったけど。
…思い出せば今まで夢月が泣いてた所、一回もなかったな。でも……
「可愛かったなぁ…。」
私はベットの上に転がってクマのぬいぐるみを抱きしめる。
これは中学一年生の時、夢月からクリスマスプレゼントとしてもらったものだ。
思い返してみると、今日は初めての連続だった。
初めての涙。
初めての『嘘』…。
「そうだ。ヒカリさんに電話しておこう。」
そう言って私はスマートフォンを取り出す。
『あー、もしもし?椿ちゃん?うまくいった?』
「ええ。先ずは何とか。予定通り今週の土曜に。」
『わかった。わかった。でも椿ちゃんもなかなかワルだねぇ。』
「だって…もうこうするしかないじゃないですか。じゃあヒカリさんまた。」
『はいは~い。』
通話終了のボタンを押し、スマホを閉じる。
そして間髪入れず、夢月へメッセージを送った。
「さて…。」
ベッドを降りた私は先週の日曜に買った「アレ」の使い方…薬剤師であるヒカリさん手製の説明書だが。それにしっかりと目を通す。
従姉のヒカリさんにわざわざ男装までしてもらって大芝居したんだ。一先ずプランAで進めてよさそう…。
「はぁ…。早く土曜日にならないかなぁ…。」
一週間は始まったばかりであった。
家に帰るなり、私はベッドの中へ飛び込んだ。
もし、最悪の事態だったら、絶対泣かない…そう決めていたのだったが…。
「…どうしよう。」
私はウサギのぬいぐるみを抱きかかえる。
これは中学二年生の時、椿から誕生日プレゼントとしてもらったものだった。
「…って言ったって私に何ができる?」
ひとり呟く。何もできない。答えは一つだけだった。私には彼女に「別れて」なんて言う権利もないし、もし権利が与えられたって、する勇気も持ち合わせていない。
そんな私が今できることは唯溜息をつくコトだけだった。私は…明日から椿へ普通に、今までと同じ用に接することが出来るだろうか…。そもそも、今までの私が過剰に彼女と接していたのかもしれない。
恋心は知られたくないと自分に言い聞かせていたが、本当は知ってほしかった…のかもしれない。
それさえ満足に理解できる私ではなかった。
「当然…だよね。そう。当然。」
つぶやくこと三度目。…今夜の食事はまともに通りそうにない。
「ん…?通知来てる…。」
自分のスマホを見ると椿からメッセージが届いていた。
心臓が高鳴る。もしかしたら「やっぱりアイツは悪い男だった。慰めてほしい。」みたいな内容かもしれない…!
急ぎパスコード…を解除する。そういえばパスコードは彼女の誕生日の数字だった。
「………」
自分でもなんだか言葉にできないような、なんだか後ろめたさみたいな感情が湧いてくる。
しかし、そんな心に「また」嘘をつく。
そう私は椿の友達だ。
パスコードが幼馴染の親友のカタオモイだった相手の…誕生日で何が悪い。
「…ッ!」
現実は夢じゃない。そう私の考えていることを裏切ってくることはさっき分かったんじゃないのか?夢月。
文面は…要約すれば「私の彼はとってもいい人なので今週の土曜にあってほしい。場所は椿の家」
という内容だった。
今度は急速に吐き気が襲ってきた。涙があふれ出てきた。
さ っ き 自 分 は 何 を 考 え て い た ん だ ?
彼女が認めた人を間違いなくバカに…いやそれ以上に否定するように言った。
そんな自分がもう嫌になった。
私は…私は…どういう顔をすればいいのだろう。
……私に椿のような笑顔を、形だけでも作れるだろうか…。
ヒカリさん…どうやら男装していたらしい、椿の従姉。
森本椿…昔イジメられていたらしい。そこを助けてくれたのは…。
橘夢月…好きな人の好きな人を受け入れることが出来そうにない。