訓練が終わったので自室に戻ると、鉏比売が出迎えてくれた。
「おかえりなさい。訓練はどうでしたか?」
「今日は顔合わせみたいなもんだから、何もしてないよ。ただ身分証みたいなものをもらっただけ。」
「身分証ですか?」
ポケットからステータスプレートを取り出し机の上に置き、指をさす。
「これ。」
「なるほど、能力を数値化して成長度合いを見る霊具ですか。」
「ステータスプレートだとさ。あと霊具とか神器のことはアーティファクトっていうらしい。」
「アーティファクトですか。」
「ま、長いから霊具でいいだろ。で、このステータスなんだけど、"ステータスオープン"」
そういって鉏比売に俺のステータスを見せる。
「この寵愛って多分お前のことだよな?」
「そうですね。文字化けしてますが、内容からしても私の寵愛でしょう。改めて寵愛というと少し恥ずかしいですね…。」
「で、だ。なんでこれ文字化けしてるんだ?」
「無視ですか…まあ、いいですけど。それで、理由ですけど、大体はわかります。」
「ほう。」
「訓練の待ち時間が暇だったのでこの世界の神に挨拶しようと思って"神の目"で探していたのですが、この世界、神がいないんですよ。」
「神がいない?だとしたらなんでこの世界は存続してるんだ?」
「変なのがいるんです。人間より上位なんですけど、神よりは全然下位の存在がいるんです。」
普通、世界や星というものは神様がいる。神様がいない星に虚構を持った生命体が生まれると、虚構*1の重さに耐えられずすぐに星が自壊してしまうのだ。虚構を神が支えると、星や世界は安定し、虚無を持った生命体と共に進化していく。すべての星がそうやってできているのだが、鉏比売曰く、神はおらず、代わりにおかしな存在がいるらしいのだ。
「つまりは、そのおかしな存在、まあ神もどきでいいか。その神もどきが、神の役割を担っているってことか?」
「おそらくですが、そういうことでしょう。文字化けはおそらく、神もどきよりも上位な、私の名前をこの世界で言うところの魔法が理解できないんですよ。」
「なるほど。虚構を受け持っている存在より上位の存在は受け入れないのか。ってことはこの世界の人間はお前のことが見れないんじゃないか?」
「はい。そういうことです。これで龍也と一緒に行動できますね。」
「それは良かった。退屈しなくて済む。」
「ええ。これで一緒に鍛錬ができます!最近は休日しか鍛錬ができませんでしたからね!」
「お、おう………話を戻すけど、その神もどきはどうにかしなくてもいいのか?」
「うーん、あんまり気にしなくてもいいですど…神もどきは神ではないので、死ぬんですよ。
この世界で何と言うかは知らないですが…黄泉の国に入れなくて、消失してしまうのです。」
神は死ぬことはない。虚構がある限り、死ぬことはないのだ。
それは神という概念的存在が虚構の中に取り込まれ、神の本質が概念と物質の両方になるからである。
「神もどきは神よりも下位なので、神のように本質を重ねることができないんです。
だから物質的な体が死んだら神もどきは死んでしまいます。今は概念として存在しているようですが…もし物質的な体を持ってしまうといずれ死んでしまうでしょう。
問題なのはそのあとなんです。虚構を支える存在がいなくなると、人間の魂が虚構と混ざって消失してしまいます。」
「ってことは、神もどきが死んだら人間も亜人も魔人も死ぬってことになるのか?」
「はい。でもまあ、今は物質的な体を持っていない状態なのであまり気にする必要はないでしょうけど」
「でも一応の対策はしといたほうがいいだろ?知り合いができたら寝覚めが悪い。」
「対処できないわけではないですよ?神がいれば神もどきは死んでも人間は死にませんから。」
「……まあ、おいおい考えるか。」
「あら、別にそれでもいいですよ?半神でも神の役目は務まります。なんなら今からしますか?」
「しねーよ!あほか!心読やめろ!第一、鉏比売が行動できなくなったらかなり行動が制限されるだろうが!」
「確かにそうですね…私が36ヶ月も戦えなくなると大変です…」
「…………はぁ…まあそれは最終手段としてだ、こっちに連れてこれる神様のあては?」
「神がほかの世界を気にするとでも?」
「わかってるよ…お前が特殊なことくらい」
神という存在は、自分の守護する領域外にはてんで興味がない。
例として、日本神話の神様は海外の人間に興味がない。
それは異世界であろうと同じで、異世界がどうなろうとどうでもいいという神様が多い。例外的に博愛主義の神様もいる。だがそういう神様はみんな忙しそうで、いつも何かの業務に追われている。
鉏比売はかなり人間的な考え方をする珍しい神様なのだ。
「まあ、地球に帰ったとしてもいつでもここに来ることはできるので、あんまり気にしなくてもいいですよ。」
「わかってるよ…」
♦♢♦
あれから2週間がたった。
鉏比売の尋常じゃない鍛錬に何とかついて行って、ようやくレベル8である。
天之河は俺より鍛錬の量が少ないのにレベル10になっていた。正直キレそうだった。
鉏比売によると「龍也はもとから鍛錬をしていたのをむりやりレベル1にしたのでちょっと成長しにくいのかもしれないです」とのこと。尚更キレそうになった。
まあでも、地球でも弓は鍛錬していたし、胸鉏比売の寵愛により技能が付きまくっているので、地球よりいろんなことができて面白かった。戦争のことを考えると憂鬱だが、鉏比売には戦神の一面もあるのでその加護があると思えば多少は気が楽になる。
魔法は、水属性の適正しかなかったが詠唱はいらなかった。魔力操作という技能のおかげらしいのだが、そもそも地球でも霊力の操作はある程度鍛錬していたのでもとからできたのだが、とても驚かれた。俺からすれば詠唱なんて相手に何をしようとしているかばらすようなものなので考えられないことなのだが…
まあともかく、神子というレア天職は、レア度に見合ったステータスと技能を持っていたのだ。
ステータスはともかく、俺は基本的に弓を使って戦うため矢が当たらなくては意味がない。
そのためメルド団長の組んだメニューとは別に、鉏比売と自主練をして過ごしている。
「0.6mm下、次。……0.3mm上、次。」
これは苦行じゃなかろうか。
0.3mmというのは、的の中心からの距離である、動く的の。
動くというのもただ上下左右に動くだけではなく、斜めや、円形、八の字など、変なふうにしか動かないのである。当たっている時点でかなりすごいことはわかっているのだが、鉏比売曰く、「0.1mmもずれたら殺しちゃいます。気絶させられません」とのこと。どういうことだよ。
(合計4.6mm、平均は0.3。昨日よりはよくなってますね。じゃあ、いったん休憩にしますか。)
(はぁ……毎回言ってるけど厳しすぎないですかね?)
(でも、なんやかんや言いながら一回誤差0出したじゃないですか。もうちょっとですよ。)
(その、もうちょっとを2年前から聞いてるのは気のせいでしょうかねえ?)
(さあ、気のせいじゃないですか?)
(…さいですか)
そんな雑談をしているとハジメが訓練場に入ってきたのが目に入った。
(ハジメはどう?)
(あまり直接言うと失礼ですが…戦えないでしょうね。ただ素振りをしているだけで強くなれるというわけではないので…もっと細かい技術を素振りから身につけることができるのは才能がある人だけです。)
(お、おう…思ってたよりズバッと言ったな……)
(最初に失礼といったでしょう?それに事実を言うことは悪いことではありません。)
良くないことはあると思う
(あっ…龍也。)
唐突に鉏比売が声を上げた。目線の先に目をやると、檜山達子悪党4人組がハジメの脇腹を殴っていた。
(ッ、これから戦争だってことわかってんのか…!)
しかし、仕方ないとはいえ、腹が立つというものだ。
(……はあ、もうちょっと大人になってほしいもんだ)
(この年頃だとおかしくはないでしょうけど…とりあえず速く行ってあげてください)
(ああ……)
思春期の男子がいきなり大きな力を持ち溺れるのは仕方のないことではあるが、少し考えればその行為に意味がないことぐらいわかるだろうに。
イライラした心を落ち着けるため深呼吸をしてから、檜山達に声をかけた
「何してるんだ?」
小さく声をかけると檜山達はぎょっとした顔をして構えていた魔法を解除した。
「っ!く、訓練だよ。ほら、攻撃を受ければ耐性が上がるかもしれないじゃないか」
「ふ~ん。じゃあ、俺が訓練してやるよ。この中で一番ステータスが高いのは俺だしね」
そういって弓を構えると、檜山達はおびえた様子で声を出す
「や、その……」
「なんだよ?やらないのか?」
「い、いや、俺は、いいよ」
檜山は焦ったようにそう言ってそそくさと立ち去って行った。
そして、それにつれたって逃げていく他の3人を見てため息が出た
「はぁ…」
「…ありがとう、日碕君。この前もだけど、かばってくれて。」
「別にいいよ。あいつらがガキ過ぎるだけだ。白崎に好かれてるお前をひがんでるだけだろ。見苦しいったらありゃしない」
「あはは……好かれてるわけじゃないと思うけど…」
「ま、気にすんな。殴られた場所、大丈夫か?痛むようだったら白崎のとこにでも行けよ。」
「うん、大丈夫。本当、ありがとう」
「だからいいって言ってるだろ?俺は鍛錬に戻るから」
一方的に会話を切りそのまま鉏比売が座っている横に座る。
(お疲れさまでした。ずいぶんイライラしていましたね。)
(ただでさえみっともないってのに。ましてやこれから戦争に参加する人間があんなことやってる暇ねえだろうが。)
(まあまあ、落ち着いてください。全員が悲観してネガティブなムードになるよりはましですよ。)
(それはそうなんだけど………はぁ…)
(いざとなったら私が何とかしますよ。神様を舐めないでください。)
(はいはい、最終手段だけどな。)
(さて、そろそろメルドさんの訓練が始まるので私は部屋に戻りますね。)
(ん。じゃ、あとで)
(あ、そうです。渡すのをすっかり忘れていました。はい。)
(ん?ああ、勾玉か。サンキューな)
(いえいえ。私のためでもありますので。それでは)
(おう。また)
♦♢♦
訓練が終了した後、いつもなら夕食まで自由時間なのだが、今日はメルド団長から伝えることがあると引き留められた。生徒たちが注目する中でメルド団長は野太い声で告げた
「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」
そういってすぐに帰ってしまったメルド団長の後ろ姿を眺めながら、これからのことを思うと溜息が出た。
駄文しか書けない
設定は適当