鉏比売を見る
「いや、その、転移しないように勾玉を、呪いました…」
俺と目を合わせないようにしりごみしながらつぶやいた内容は、反応に困るものだった。
「えっと、それは何というか、不運な、事故だね…」
「…いえ、すいません。予想できる事態でした。」
「いや、別にいいんだけどね、うん。」
ものすごくありがたいし、嬉しいけれど、今はみんなに同行したほうが良かった。本当に不運な事故だった。
あとなんで呪ったんだ……普通の加護じゃダメだったのか…?
「ふぅ…スゥ―、ハァ―…」
溜息をついた後深呼吸をして、気を引き締め直す。
「とりあえず、その話は置いておいて。みんながどこに行ったか分かるか?」
「ちょっと待ってくださいね……いました。65階層です。
それと、かなりのレベルの魔物がいます。今の彼らでは太刀打ちできないレベルの」
「…了解。最短ルートでどれくらいかかる。」
「ノンストップで行けば1時間かからないぐらいでしょうか。」
「加護ありだったら?」
「頑張っても40分ぐらいですね」
「手荒でもいい場合は」
「…神力を使った場合は、65階層まで穴を開けてショートカットする、ぐらいでしょうか。5分くらいでたどり着けると思いますよ?」
「ならそれで。早くいくぞ」
「了解です。後悔はないですね。」
「だれかが死んだらそれまでだ」
そう強く言い切って鉏比売の目を見つめる。
「…わかりました」
少しの静寂が過ぎ、小さく肯定の声が響いた。
そして、どこからともなく装飾のない和弓を取り出した。
「では…」
深呼吸をすると、矢を持たないまま弦を引く。そして少しだけ下に照準を合わせ、深く息を吸う。
すると弦を引く右手が淡く光り、そこから光と共に真直ぐな矢が現れる。
しかし、すぐに込められた力が変質し、それと共に鏃が一層眩く光る。
久しぶりに感じる神力の凄まじさに圧倒されるながらも、すぐに来るであろう衝撃に備えて全身を強化する。
身体強化が終わるや否や、鉏比売が引き絞った力を解き放つ。
鉏比売が矢から手を離した瞬間、すさまじいエネルギーがあふれ出す
力強く、暖かく、美しい。青々と燃える緑、雄大な生き物達の闘い。
生命が生まれ、関わり合い、そして死ぬ。
全ての生き物がいつか生まれ、またいつか死ぬ。
繰り返す
人間の感情
暖かい、柔らかい、優しい感情
冷たく、刺々しい、悲しい感情
全てがそこにあり、そこには何もない
どちらでもあるからこそどちらでもない
人間には理解できない場所、状況、意味、公式、法則
ぼんやりと、何かが見える。
誰だろうか
金と黒が入り混じったような髪
俺と同じくらいの背丈
顔はぼやけてはっきりと見えない
しかし、直観でわかる。神様だ、
何も言わずにこちらを見つめてくる
数秒間見つめ合っていると、どこからか声が聞こえてきた
神様は声を聴くと踵を返して、歩き出す
「龍也」
呼び止めようとして鉏比売に肩を揺らされている事に気づく。
初めて神力に触れた時よりも数倍短いが、意識が飛んでいた。しかし最後の神様は初めて見たものだ。何かの予言だろうか。
後で鉏比売に聞くしかないだろう。しかし今はみんなを助けに行かないといけない。
深呼吸をして大丈夫だと伝え、状況を確認する。
矢の当たった場所は消失し、60㎝ぐらいの穴が開いている。あれだけのエネルギーを放出した割には小さい気もするが、何か細工をしたのだろうか。
「早く入ってください。すぐに穴が塞がります。神力の痕跡を残さないようにいろいろ細工をしたんです。」
「なるほど、じゃさっさと行くか」
穴に飛び込み、滑り台のように滑り降りる。上を見ると、入り口からまるで巻き戻しのように穴がふさがっていく。神力の奇跡には毎度畏敬の念を覚えるが、鉏比売曰く、いずれ半神にさせられるらしいので畏敬の念も捨てたほうがいいのだろうか。
そんなことを考えていると穴の底に到着する。
「まだ誰も死んでないよな?」
「はい。まだギリギリで踏ん張っていますね。」
「了解。急ごう、いやな予感がする」
「そういうこと言わないでくださいよ、こっちです」
鉏比売に先導されて走り出す。
65階層というだけあって、20階層の魔物とは比較にならない強さの魔物がいる。
しばらく走っていると、前方にビーバーよりも大きいネズミのような魔物が岩陰に隠れているようで、岩から尾がはみ出ていた。
霊力を使って探ってみると、4匹が左右に隠れているようで、奇襲を仕掛けるつもりらしい。
矢を創りながら距離を測る。ネズミたちの隠れている岩まであと8mほど。弓に矢をつがえて3歩、霊力を矢に込める。少し体を開いて右足で地面を強く蹴り、さらに加速。飛びかかってきたネズミを二匹まとめて撃ち抜く。
体を傾け左から襲ってきたネズミをかわし、ブレーキをかけながら弓を十束剣に変形させる。
着地したネズミに向けて振り下ろした剣は何の抵抗もなく首を吹き飛ばす。
続けざまに最後のネズミの頭に剣を突き刺す。
「……ふぅ」
ネズミが動かなくなったことを確認して溜息をつく。
そのまま魔石の回収もせずに走り出す。
「94点。合格です」
(割と高いな。でもナビ優先してくんない?)
「いえいえ。反省というのはとても大事ですから。あ、そこ右です」
(自由っすね…)
「立ち止まらずに討伐出来たら100点でしたね。」
(ちなみにどうすればよかったんですかね?)
「今の龍也の実力だと、反転から切り降ろし、そのあと切り上げ、それで反転。みたいな感じですかね。」
(突きの時間が無駄だったわけね。次があったら生かしますよ)
「はい、ぜひそうしてください。
あとちょっとで着きます。かなりギリギリなので急いでください」
(了解)
♢♦♢
「道なりに行くとと広い空間があります。大型の魔物の奥にクラスメイトの方々がいるので攻撃は慎重に」
「了解…!」
身体強化でさらに速度を上げる。道を曲がると、巨大な影が、魔法を受けてたじろいでいる。
大量の霊力がはじけている。みんな頑張って抵抗しているようだ。
広い空間に出る。魔物は魔法をこらえ続けている。
間に合う。
魔物が霊力を前方に集め、障壁のように展開し走り出した。
魔法が途切れたのか。なんにしろ早く殺さないと。
地面をけり、飛び上がる。
弓を構え、矢を創る。
引き絞る。
しかし、矢を放つ寸前、地面が砕けた。
どうやら石畳の橋だったらしく、魔物の強力な攻撃によって崩れてしまったらしい。
橋の下はとてつもなく深く、底まで落ちてしまえば上ってくることはできないだろう。
しかしそんなことはどうでもいい。
南雲が、崩れた橋と共に落下していくのが目に入った。
「鉏比売‼ハジメを‼」
俺では間に合わないと察し、鉏比売に助けを求めるが、鉏比売は動かなかった。
なんで、と声が出そうになったが鉏比売は大丈夫と念話を送ってきた。
どう考えても大丈夫には見えないが、胸鉏比売という神様は嘘を吐かない。信頼していいんだろう。
となるとさっさと向こう岸にわたったほうがいい。
弓につがえていた矢を創りかえる。霊力で縄を作り、矢をつなげる。そのまま対岸に矢を放ち、ペグのように突き刺す。そのまま縄を上り、大量の魔物を生み出していた魔法陣を破壊する。魔法陣は陣でしかないので、壊してしまえば機能を失う。
思っていた以上にもろかったので少し驚いたが、それよりも現状確認が先だ。
メルド団長や後衛職の生徒たちが驚いた表情をしながら見つめてくる。
白崎が気絶しているようだったが、命に別状はなさそうだ。
どうやらハジメ以外は無事らしい。緊張が解け、溜息をついてしまう。
「タツヤ!なんで向こうから…いや、そんなことは後だ。今は生き残ることだけ考えろ!撤退するぞ!」
さっきまでの驚いた表情が嘘だったかのようにメルド団長は声を上げる。その声に反応し皆はのろのろと動き出す。
「メルド団長、残りの魔物は全部俺がやるんで、皆の護衛頼みます。」
それだけ言い切って、矢を構える。
「ああ」
メルド団長はうなずくと、騎士団員に指示をし始めた。
鉏比売の寵愛に、対軍戦闘時4倍とかいう技能があった。言葉通りだとすればこういう状況において俺は、普段の4倍の力を発揮できるということだ。
さて、弦を引きながら自分の体に感覚を研ぎ澄ます。確かに圧倒的に力が高まっているのを感じる。
そういえば、魔法陣を壊した時も同じようにステータスが上がっていたのだろうか。
淡々と処理しながら鉏比売に尋ねる。
(寵愛のステータス4倍って今発動してる?)
(はい。結構上がってますね。こちら側にわたった時点で発動してました。)
(なるほど)
予想通りステータスが上がっていたらしい。どういう基準でステータスが上がるのか検証しておきたいが、どうやって検証しようか。まあ、今考えている場合ではないだろう。帰ってからじっくり考えることにした。
そういえば、ハジメはどうなるのだろう
(彼はとても強いです。多少変化はあるでしょうが無事に帰ってきますよ)
(未来視?)
(はい。助かることが分かってる人を助けるために神力を使うのは意味のない行為です)
(それならよかった。じゃ、さっさと帰るかな)
(そうですね。あっちの階段を昇れば20階層まで一直線です)
(え、それあるんだったら神力使わなくてよかったのでは?)
(滑ったほうが早かったですから。)
(さいですか…)
先に説明しておいてほしいと思ったが、とりあえず帰還することを優先しよう
「終わりました。とりあえず、あっちの階段から帰れますよ」
「ああ。頼む」
「了解です」
簡潔に返事をして階段へ先導する。
確かにここを降りるより、穴をあけて滑ったほうが早くつくのが納得できるほど長い階段だった。
ただでさえ疲れていたクラスメイト達は、薄暗く狭い空間でさらに気が滅入ってしまったのか、階段を昇る足音しか聞こえてこなかった。
しばらく進むと上方に魔法陣の書かれた扉が見えた。
クラスメイト達の顔に、少しだけ生気が戻る。
(あれは?)
(さっき転移した部屋につながってます。霊力を籠めればあきますよ)
(了解)
扉の魔法陣に手をかざし、霊力を込めると、扉は隠し扉のように回転し奥の部屋につながる。
鉏比売の言う通り、20階層のトラップのあった部屋にたどり着いた。
クラスメイト達は、安堵の吐息を漏らす。
一番ステータスの高い天之河でさえ、壁を背にもたれかかっていた。
「お前達!座り込むな!ここで気が抜けたら帰れなくなるぞ!魔物との戦闘はなるべく避けて最短距離で脱出する!ほら、もう少しだ、踏ん張れ!」
メルド団長は休みたいという愚痴を一睨みで封殺し、クラスメイト達は渋々立ち上がり、歩き始めた。
道中の魔物は、発見次第俺が射抜いていったのでみんなの体力の消費は最小限にできただろう。
そしてついに1回層の正面門まで帰還すると、クラスメイト達は安堵の表情を見せた。
(ひとまず、お疲れさまでした)
(お疲れ。で、いろいろやった方がいい?)
(ですね。まあ、宿に帰ってからやりましょう)
♢♦♢
その後、一行は一直線に宿に帰り、ほぼ全員が泥のように眠った。
そんな中、俺と鉏比売は宿の部屋に忍び込み、これからの活動に支障が出ないようにするため細かい記憶を改ざんするという、なかなか非人道的な行為を行っていた。
俺が目立ちすぎたところを都合よく改ざんし、異常に思われないようにしているのだ。
実はこの作業は怨霊退治で目撃者が出るたびに行っていたのだが、ここまで個人的な理由で記憶を改ざんするのは初めてだったりする。
「なんか、自分のために記憶改ざんすんのはちょっと罪悪感わくな」
「その割には迷いがないですよね」
鉏比売が眠っている生徒に手をかざすとほんのりと光を放ちそのまま消えていく。
「何なら改ざんしようって言いだしたの龍也ですし」
「どうせ鉏比売もやる気だっただろ」
「そうなんですけどね。これ以上二人で一緒に入れる時間が減っては困るので」
「嬉しいけど、神様として正しいのか甚だ疑問だね」
「神様なんてそんなもんですよ。よし、終わり」
「よし、戻るか」
玄関のドアを閉め、盗んだマスターキーで鍵を閉める。
部屋に戻り布団に入ると、鉏比売に襲われた。
次の日、起きてすぐに問い詰めると、神力を使って疲れたので襲ったとのこと。
どうせ疲れてないだろうと思うが、良かったので許すことにした。
戦闘シーンは難しいし、今までで一番駄文だった気がする。
誤字脱字等あったらご報告宜しくお願いします。
あと感想とか書いてくれると嬉しいです。
ちょっと変えました