亡命の王女と王女様の騎士   作:レーナ/アカデミア

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ゲーム内ストーリー序盤を読むことを推奨します。



2. 少年と少女と追憶と

 

「えへへぇ……アサヒくん、アサヒくん……♪」

 

約10年の時を経た2人の邂逅から5分が経過した。

 

まるで縋り付く様な振る舞いから何らかの事情を察し、ユースティアナの言動を許容していたアサヒ。

しかし、それを加味しても大仰な拘束時間に疑問を持ち始めた。

 

「……ティアナ、いつまで抱きつくんだ」

「だってだって、ずっと会いたかったんですよ! はぁ〜 アサヒくんの匂い……」

 

そう言ってユースティアナは顔を擦り付け、更に深くアサヒの背中に手を回した。

 

「こうして抱きついているとわかるんですけど、アサヒくん、かなり大っきくなりましたね〜。昔はあんなにちんちくりんだったのに」

「そう言えば、昔はティアナに身長で負けてたっけ」

「はい!お父様とお母様に無断で私を外に連れ出したクセに、弱っちい魔物相手にも怯えたりするくらい小さくて」

「う"っ……」

 

触れられたくない記憶をこじ開けられ、アサヒは苦虫を噛み潰したような表情をした。

王宮に暮らす少女をいけしゃあしゃあと連れ出したものの、探索先で出くわしたのはプチグリフォンの住処。いくら小物と言えど、初めて魔物と出会う彼は怯えて足を震わせた。それが苦い記憶で無ければなんなのだろうか、と思っているとこだろう。

 

 

「それでも」

 

しかし。

ユースティアナにとっては。

 

「怯えながら……いつも私を守ってくれましたよね」

 

大切な記憶だった。

 

 

もちろん、魔物と遭遇するのは幼少期のユースティアナにとっても初めての経験だ。恐怖、不安。アサヒと同様に足を震わせた。

しかし、『彼』は自分の前に立ち塞がった。盾となり、決して何があろうとユースティアナを守り切ると奮起したのだ。

時には無傷では済まないこともあった。プチグリフォンは比較的大人しい魔物であり、その時は難を逃れたが毎度そう行くわけではない。ある時は腕にかすり傷を負い、ある時は膝を擦りむくこともあった。

だが、ユースティアナは一度も傷つくことは無かった。それは勿論、彼が盾となり、ユースティアナを守ったからだ。

 

 

「そして今日も、10年前と同じ様に私を守ってくれました!

私は、そんなアサヒくんの事がだいだいだ〜〜〜いすきですっ!!」

 

両手を大きく宙に扇がせて、ユースティアナは『だい だい だい』を表現した。

そして勢いそのまま、再度アサヒに抱き着いた。

 

「ティアナ…」

「えっへへぇ……♪」

 

10年前と同じく、人懐っこくて、スキンシップが過剰な少女。

そんないつまでも変わらない彼女に、アサヒは安心を覚えた。

 

「それにしてもビックリしましたよ〜。怯えてるだけだったアサヒくんが、あんな剣術を身に付けて、私を守ってくれるなんて」

「勿論だよ。あの”約束”を果たすために、この10年間の全てを捧げたんだ」

 

アサヒはそう言うと、神妙な面構えで自らの剣を見つめた。

 

「あの“約束”……。覚えててくれたんですか……!?」

「当たり前だって。絶対、叶えような」

「はいっ……! ありがとうございます……!」

 

 

お互い、【約束】の内容を口にする事は無い。

口にせずとも、決して忘れてはいないという信頼が存在するからだ。

 

2人が10年間に交わした【約束】は今なお色褪せることは無い。

その【約束】は

 

2人を固く繋いでいた。

 

 

「そういえば、ティアナは何でこんな街外れに?この年齢ならもう、国政に関わってると思ったんだけど」

「あ、え、えっと、それは……」

 

アサヒの発言を聞いた途端、ユースティアナは神妙な面構えに変貌した。

アサヒの疑念は至極当然。

彼女の家庭を知っているなら尚更、王家に属するユースティアナあろう者がこんな平野にいるのはおかしなことだと感じるはずだ。

 

彼女には明確な事情があってこの場に居る。

 

 

 

 

 

 

《数週間前》

 

「いたぞ!! そこの路地だ!!!」

「陛下の名を名乗る指名手配犯め!!大人しく捕まれ!!!」

 

「っはぁ…! はぁ……!」

 

夕暮れの街頭、鎧を身に纏った集団が恐ろしい剣幕でユースティアナを追いかけていた。

 

「何で……何で誰も私を覚えていないんですか……!?」

 

ユースティアナは王位継承の儀として修行の旅へと出ていた。

しかし、ランドソルへ帰還した彼女を待っていたのは、祝福でもなく、労いの言葉でもなく、【民草からの糾弾】であった。

 

 

『誰だ!!お前は!!』

『陛下の名を偽る無法者め!!!』

『犯罪者!!』

 

 

かつての知人、王宮関係者、民間人、更には両親までも、自分へ笑顔を向けていた人物達は牙を剥いた。

齢17の少女にとって、心を折るにはその要因だけで十分だ。

ユースティアナの心は混迷を極めていた。

 

「誰か……誰か助けて……アサヒくん……!」

 

か細い声で嘆きながら、ユースティアナは街外れの草原に移動し、そこで食住を取ることになったのだ。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

ユースティアナは疑心暗鬼になりかけていた。

かつての親愛なる人々が総じて犬猿の態度を見せたのだ。

アサヒの事は信頼している。だが、信頼しているからこそ、彼が自分を突き放せばどうすればいいのか。ユースティアナは頭を抱えた。

 

「ティアナ…?」

 

突然黙り込んだユースティアナに対し、アサヒは疑念を持ち、彼女の顔を覗き込んだ。

 

( 大丈夫……アサヒくんなら……アサヒくんなら、誰も信じてくれなかったこの話を、きっと信じてくれるハズです……! )

 

決心し、ユースティアナは口を開く。

 

「アサヒくん、実は–––––」

 

 

 

 

「–––––という事があったんですが…その…信じてくれますか…?」

 

アサヒに事のあらましを説明し終えたユースティアナは、怯える小動物のように彼の顔色を伺った。

それ程彼女にとって彼の存在は大きい。もしここで見捨てられる様なことがあれば、彼女は立ち直れないだろう。

 

 

「ティアナ」

 

だが、彼は手を伸ばし

 

「えっ……?」

 

彼女を優しく抱き締めた。

 

「辛かったよな……よく頑張った……。話してくれてありがとう」

 

「っ……!!」

 

 

アサヒと再開する前のユースティアナの心は凍り付いていた。

彼女はお人好しだ。誰でも信頼し、肯定し、その器はまさに王女に相応しいものだろう。

そんな彼女だからこそ、親しい人物に拒絶され時の反動は計り知れないものだったのだ。

 

しかし、アサヒは彼女の心を溶かした。

かつて自分に笑顔を振り撒いてくれたランドソルの民に拒絶され、罵倒され、疲弊しきったユースティアナの心を。疑心暗鬼になりかけていた氷のような少女の心を。

 

 

ぎゅうっ

 

「私……わたしっ……

ずっと心細かったんです…!もう誰も私のことを覚えていないんじゃないかって……怖かったんです……!」

 

ユースティアナはアサヒの胸に顔をうずめ、涙を流した。

 

「うん、もう大丈夫だからな」

 

「アサヒくんっ……うっ……あっ……うああああああああああああああ……!!」

 

 

 

 

 

 

「ティアナはこれからどうする?」

「ん〜そうですね〜。私はこの辺りを住処として、情報を集めようと思います!」

 

ユースティアナが諸々の事情を告白してから10分が経過した。

ようやく泣き止み、平素の様子を取り戻したようだ。

 

「ところで、アサヒくんは何でこのタイミングでランドソルに?」

「そういえばまだ言ってなかったっけ。俺は」

 

「【王宮騎士団】へ加入する為に来たんだ」

「えっ!? えーーーーー!!?」

 

 

【王宮騎士団(NIGHTMARE)】

ランドソルを統治する王家直属のギルドであり、その活動内容は王宮の警備、市民の保護など多岐に渡る。

 

ユースティアナが驚くのも仕方がないだろう。先述した通り王宮騎士団は王家直属のギルドなのだ。勿論王家とのパイプも太い。

 

 

「で、でも!何でアサヒくんが王宮騎士団に!?」

「俺の親父が情報に携わる仕事柄なのは知ってるだろ? 数週間前に突然警備の増強をするって告知が入ったらしくて、ティアナの下で働けると思って応募してみたらまさかの内定でさ、きっと王宮は人手不足なんだよ」

「そ、そうなんですか……アサヒくんが王宮騎士団に……」

 

淡々と説明するアサヒの傍ら、ユースティアナは俯いていた。

それもそのはずだ。現在の王宮には、ユースティアナから地位を奪い、民を欺く者が権力を働かせている。

アサヒがその懐に入ると言うのだ、良い気分ではない事は間違い無いだろう。

 

「でも」

「真面目に働いて、腕を磨いて、ティアナの役に立とうと思ってたけど、さっきの事情を聞いたらそうはいかない。ティアナ、俺はスパイだって何だってする」

 

「えっ? だ、だってそんなことしたら……!」

「ティアナ」

 

心配そうに取り乱すユースティアナの発言に、アサヒは被せるように発言した。

 

「言っただろ、俺にとってはティアナとの”約束”が全てなんだ。ティアナから地位を奪った奴が治める王宮になんて興味無い、どんな面か拝んでぶん殴ってやる!」

「アサヒくん……ありがとうございます……!」

 

 

少年と少女は、お互い笑顔を見せ合った。

 

 

 

 

 

 

「よし、そろそろ行こうか」

「はい! アサヒくん、どうかご無事で」

「ティアナもな。それじゃ、夜にまたここで会おう」

「は〜い!お気をつけて〜!」

 

 

ユースティアナは、剣を携え歩き出すアサヒを見送った。

その景観は、幼き日に彼と別れた時とどこか似ている。

 

 

 

 

「うっ…ひぐっ…アサヒくん……」

 

ランドソル王宮付近、幼い少年と少女、それを取り巻く様に両者の保護者が佇んでいた。

少女は泣きじゃくり、少年はそれを心配そうに見ている。

 

「こらティアナ、ちゃんとアサヒくんに別れの挨拶をしないと」

「イヤです……アサヒくんとずっと一緒がいい……!」

「もう……ごめんねアサヒくん、ティアナは貴方と別れるのが嫌みたいで……」

「………」

 

我慢しているが少年の目にも涙が浮かんでいる。

本当は少年も彼女とは離れたくないのだ。

しかし、少年は決心し、彼女の手を握った。

 

「ティアナ!」

「ふぇっ……?」

 

「約束する、俺は絶対このランドソルに戻ってくるから!

また一緒に冒険をしよう!」

「アサヒ……くん……」

 

少年の態度に呼応するかの様に、少女は泣き止み、口を開いた。

 

「じゃあ……もう一つ約束して欲しいです……」

「いいよ、何?」

 

 

そして 告げる

 

 

「私が王女になったら、王宮で、ううん……私のそばにずっといてください!」

 

その場に居合わせた少年と少女の両親は驚いた。

本人はわかっているのかどうかは知らないが、その発言とは皇帝の補佐として一生を遂げることを意味するのだから。

側から聞けば子供の冗談にすぎないのだろう。

しかし、アサヒとユースティアナにとっては違った。

 

「うん。わかった、約束する」

 

少年と少女は小指同士を結び、誓いを交わした。

 

少年は手を振りながら去って行く少年の背中を見送った。

その背中は小さく、魔物に怯えていた頃の彼を表していた。

 

 

 

 

だが、今は違う。

その背中は、幼い日に見た彼の背中より遥かに逞しく見えた。

 

「アサヒくん……もうすっかり、立派な男の子なんですね……」

 

(あ、あれ…?アサヒくんも立派な男の子なんだと認識し始めたら、少しドキドキしてきちゃいました…ヤバい…ですね…?)

 

「…って!!何を考えているんですか私はー!!きょ、今日の食材を探さないと!」

 

1人で赤面し、ユースティアナは慌てふためいた。

と同時に、彼女の嗅覚が何かを捉える。

 

「ん?これは? 炊きたてご飯の匂い!?」

 

ユースティアナは突風の様に、森の中から香るご飯に匂いに釣られて走り去って行った。

 

 

 

 

 

 

「ランドソル王宮……昔と変わってないな……」

 

通行証を差し出し、青年は門の中へと誘われるように移動する。

 

 

 

《次回》

 

【出会い】 と 〈出会い〉

 

そして、王宮騎士団【選抜試験】

 




予定は予定、未定に見せかけて未定ではないよ

皆さまのお気に入りがモチベーションです。
感想、お気に入り ありがとうございます。

次回はアサヒくんと王宮騎士団編。
専用装備が無い頃の彼女に勝つ事は出来るのでしょうか。
お楽しみに!
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