亡命の王女と王女様の騎士   作:レーナ/アカデミア

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自粛期間は当小説で決まり!



4. 導き、邂逅、出会い

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ経っㅤㅤまたㅤㅤㅤㅤㅤㅤ!』

 

 

––––––––––––––。

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤよ』

 

 

––––––––––––––。

 

 

ㅤㅤい!ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ!早ㅤㅤㅤㅤㅤろ!』

 

 

––––––––––––––。

 

 

『シㅤㅤム受理、ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤす』

 

 

––––––––––––––。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………?」

 

気がつくと、未知なる場所にアサヒは立っていた。

彼には状況が理解出来ない。

ユースティアナが就寝したことを確認し、自らも眼を閉じたと思い込んだ矢先、見ず知らずの場所に彼は立たされていたのだから。

 

 

澄んだ青空

輪状に広がる繚乱の花園

中央にそびえる噴水、それを取り囲む泉

 

 

雲に近く、遮蔽物が一切見られない外観から察するに、地上より遥か高地に位置する屋上庭園であることだけがわかる。

 

ただ、何故自分が此処に?

 

アサヒは一呼吸置いて状況把握に努める。

先程、一人称視点で見えていたものは夢だろうか。夢にしてはどこか鮮明で、でも自分の記憶とは食い違っていて。

それぞれの場景における声の主が誰かわかるほど上手くは聞き取れず、視界も明確ではなく欠損していた。

明らかに自分の経験とは異なるビジョン。だが、それでも他人事とは思えない何かがそこにはあった。

 

 

「ウソ……貴方……こんなのって……」

 

 

閑散とした屋上庭園に突如響き渡る声。

その声の発生源を探るべく、アサヒは振り向いた。

 

-エメラルドグリーンにパープルを混色させた髪

-背にはピンク色の花弁を持つモニュメント

 

振り向いた先には面妖な雰囲気を放つ少女が立ち、酷く混迷した表情で口を押さえながらアサヒを見つめていた。

突としてその様な姿の少女を目にし、アサヒの頭の中は疑問符で埋め尽くされ、只々呆気に取られた表情で少女を見るしかなかった。

 

「そ、そうよね……いきなりこんな反応されても訳わかんないわよね……。ごめん、少し落ち着かせて……」

 

そう言い、少女は襟を正そうと深呼吸する。

初対面であるこの女性が、何故混迷した表情でこちらを見つめているのか、アサヒに知る余地は勿論ない。

 

ただ、先程の不明瞭なビジョンが少女には明確に見えていたとしたら? その内容に驚いているとしたら?

《一体 何を見ていたのだろうか》

そんな考えが彼の脳裏を横切る。

 

「取り乱して悪かったわ……。どうせすぐ忘れちゃうだろうけど一応名乗っておくわね。私はアメス、ごめんね……いきなりこんな所に連れて来ちゃって」

 

自らをアメスと称する少女は、続けて話す。

いつもなら何か返答したであろうアサヒも、この神秘的な空間に気圧され、口を噤んでいた。

 

「疑問だらけだろうけど時間がないから伝えておくわね……。貴方は、大きな運命の渦中に置かれた人物なの。そして、貴方は近いうちにもう1人の運命を背負った人物である“アイツ”と出会う」

「でもアイツ、今はほんと弱っちいから良かったら助けてあげて。貴方にも自分の使命があると思うけど、アイツとの出会いはきっと貴方とペコリーヌちゃんにも益をもたらすから」

 

アメスの発言ひとつひとつを反芻する時間など無い。

ただ、猜疑心は無い。

理由はわからないが、アサヒは彼女の発言に虚偽が無いことを本能で感じ取っていた。

 

「貴方をここに連れてきたのはそれを伝えたかったから。でも、それだけのつもりだったのに……こんなことになるなんて……」

 

「ごめんなさい………」

 

先程、一度落ち着きを取り戻したアメスだったが、やはり動揺は隠し切れず、再度取り乱した様子を見せる。

異質な少女の様子を気に掛け、アサヒは彼女に対して声を掛けようとしたが、上手く言葉に出来ない。

この場所に来た時から全身を覆う得も言われぬ浮遊感、それが彼の思考を阻害していた。

 

まるで

夢の中だ

 

「っと……少し話し込んじゃったわね。お姫様が待ってるから、そろそろ起こしてあげないと」

 

アメスがそう言うと、アサヒの体は光に包まれた。

 

「じゃあ……アイツに会ったら宜しくね。今の私には助言する事と、祈る事しか出来ないけど……」

 

 

【貴方に 太陽と星の祝福を】

 

 

その言葉と共に、アサヒは屋上庭園から姿を消し、アメスは穏やかな表情で1人の青年を見送った。

 

 

「頑張って……朝陽(アサヒ)

 

 

 

 

 

 

 

 

「–––––くん」

 

「–––––ヒくん!」

 

 

「アサヒくん!」

 

 

ランドソル郊外に位置するジュノー平野にて野営を行なっていたアサヒは、自分の名前を呼ぶ1人の女性の声で目を覚ました。

 

「ん……う……」

 

「あっ、やっと起きましたね〜。もう、お仕事遅れちゃいますよ?」

 

アサヒは寝惚け眼を擦りながら起き上がった。

寝起きという事もあるが、それ以上に彼の思考は鮮明では無い。

何か、何かを見ていた気がする。

それだけは覚えているが、内容が何なのか定かでは無い。

 

「ティアナ、おはよ……」

 

「はい! おはようございます、アサヒくん! それにしてもアサヒくんが寝坊なんて珍しいですね。朝、弱くないですよね?」

 

昨日、アサヒにエプロン姿を見せたいからと言って購入したらしいユースティアナのその姿に感想を投げかける余裕はなく、彼は起き上がったまま呆然と彼女を見つめた。

 

「どうしました? ぼーっとしちゃって。大丈夫ですか? もしかしてお仕事で疲れてるんですか? だっこしますか?」

 

そう言うとユースティアナはアサヒに密着し、体側に手を伸ばそうと試みた。

 

「ごめんごめん、大丈夫だよ」

 

ユースティアナの助力になろうとしている自分が彼女に迷惑を掛けたのでは元も子もない。

そう思い、アサヒは自分で立ち上がる。

 

「えぇ〜〜 折角アサヒくんと密着出来るチャンスだったのにぃ。それじゃあ、せめてアサヒくん成分を補給させて貰いますね! ぎゅ〜〜!」

 

ぎゅむっ

 

「あ、そういえば朝ご飯出来てるんで食べちゃってくださいね!」

 

そう言ったユースティアナの目線の先には、様々な手法で調理された料理が置いてあった。

が、肉質で分かる通り千差万別の異質な色である。

そう、これは所謂『魔物料理』だ。

 

「少し早く目が覚めたので、朝からお肉を取ってきちゃいました! さ、どうぞどうぞ!」

 

「いただきます」

 

その紫紺の肉を、アサヒは躊躇い無く口へと運んでいく。

ユースティアナが魔物料理を好きな事は既知であるし、幼少期から彼女は何度も魔物料理を振舞っている。

アサヒ自身、魔物料理に対しては耐性が高い。

 

「ん、美味しい」

 

「えへへ〜♪ いっぱい食べて下さいね!」

 

ユースティアナは、背後からアサヒに抱き着いたまま離れない。

アサヒは、抱き着かれたまま食事をする。

何とも奇々怪々な光景だが、幼い日よりスキンシップが慣習と化していた彼女に対して今更彼が疑問を持つ事も無いだろう。

 

結局、食事が終わるまで彼女がアサヒから離れる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【ランドソル国境付近】

 

肉眼でもその往来を確認出来る程、ランドソルは開放的な文化だ。

 

アサヒは王宮騎士団に、ユースティアナは昨日雇われたという飲食店へ、それぞれの目的地へと共に歩む2人は、ランドソル直前にて足を止めた。

 

アルバイトをするというユースティアナに対し、指名手配の身を案じたアサヒだったが、公的な機関でなければ管轄の目は厳しくないと彼女の口から告げられた。

何と歪な政治体系だろうか。

やはり、主君の座を無理やり改竄した今のランドソルは断片的に異常が含まれている。

 

 

「ここから一歩踏み出せば、私はペコリーヌです」

 

ランドソル入国直前、決意を胸に、少女は目を見開いた。

第三者から見れば勃勃たる少女の姿に見えるだろう。

しかし、その少女の手が小刻みに震えているのを1人の青年は見逃さなかった。

 

「大丈夫。絶対忘れたりしないから」

 

青年は、少女の手を強く握る。

彼だけが、彼女に対してしてあげられる精一杯の事を。

 

 

「行こう、()()()()()

 

「–––––はい!」

 

 

アサヒとペコリーヌは呼応する様に手を取り合う。

いつしか少女の手からは、震えが消え去っていた。

 

お互いが立てた誓いに

また一歩、近付く音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜〜……」

 

夕刻に差し掛かる王都ランドソルの城下町を、1人の青年がまるで生まれたての子鹿のように疲労した様子で歩いていた。

王宮騎士団の初勤務を終えたばかりの彼だが、業務で疲労を感じている訳では無い。

 

事は、数時間前まで遡る。

 

 

 

 

 

 

「アサヒさん、おはよう!」

「やあ、おはよう」

 

例の陛下から言伝された自身の役職を聞く為、王宮騎士団内部の詰所へ訪れたアサヒ、そこにはジュンとトモの姿があった。

 

「団長、トモさん、おはようございま「来たか坊や!!」

 

アサヒの2人に対する挨拶は、突如部屋へと入室して来た『聞き覚えのある』声に阻まれた。

手入れの行き届いた金色の髪、突飛な黒鉄の鎧、高飛車な態度。

その姿を、アサヒが忘れる訳も無い。

そう、昨日鍛錬場にて刃を交えあった彼女だ。

 

「昨日は無粋な中断を受けたが今日は最後まで激しく愛し合おうじゃないか!さあ!剣を取れ!!」

 

彼女は止まる事なく一直線にアサヒに向かって進む。

しかし、1人の人物がその行く手を阻もうとした。

 

「おい、やめろクリスティーナ、困ってるじゃないか」

 

「どけ小娘、邪魔をするなら切り刻むぞ☆ 私は坊やに用があるんだ。それとも何だ、お前が坊やの代役をしてくれるのか? 役不足としか思えんがな」

 

邪険な2人の様子を見て、普段からこの様なやり取りをしているのだろうかとアサヒは考えた。

考えその通り、トモとクリスティーナの両名は何かと衝突を起こす事が多く、王宮騎士団でもちょっとした噂になっている。トモの正義像とクリスティーナの嗜好は正反対、まさに水と油のような存在だ。

 

 

「あっ おい!」

 

トモの抑制も虚しく、彼女の腕を振り払ったクリスティーナと呼ばれるその女性は、アサヒの前に立ち塞がった。

 

「やぁ坊や、1日ぶりだな、恋しくてどうにかなりそうだったぞ」

 

「おはようございます……クリスティーナさん」

 

敵意は剥き出しだが、彼女も同じ王宮騎士団の同志。

アサヒは、他人越しでしか聞いていないその名前と共に、彼女に挨拶をする。

 

「名前を把握してくれているとは至極恐悦、クリスティーナ様は嬉しぞ☆ よし、有象無象の名前なら一々覚えないが、坊やほどの腕を持つ人間の名前なら覚えてやろう、ほら名乗れ」

 

クリスティーナのその発言を聞き、アサヒは彼女に対して自分の名を明かしていなかったことを思い出す。

2人は昨日、あれ程のやり取りをしておきながらお互いの名前すら把握してはいなかった。

そう、お互い名前も知らない相手に対し、刃を交えていたのだ。

 

「アサヒです、宜しくお願いします」

 

「よぉしアサヒ、今から私ともう一度踊ってくれるだろう? まあ拒否など決してさせないがな」

 

そう言い、クリスティーナは自身の愛剣をアサヒへと見せびらかすよう向けた。まるで、拒否をしても強制的に戦闘にしてやろうと言わんばかりに。

 

実際にクリスティーナはこの方法で過去何人もの人間と戦闘をしてきた。

問答無用に斬りかかれば相手は自衛の為に刃を向けるしか無い。それは人間の中に刻まれた本能なのだから。

 

 

しかし

 

 

「嫌です」

 

 

アサヒは、その意味を知っておきながら断固拒否の姿勢を見せた。

 

そのアサヒの返答に対し、クリスティーナは動揺は見せずとも一瞬怯んだ様な表情をした。

それもその筈、その方法で敵意を向けられた人物は覚悟を決め、向かってくる。もしくは怯えたまま挑むか逃げるかが大半だった。

面と向かって拒否する人物は過去にも片手で数えられる程しかいない。

 

「何故だ……? この状況が理解出来ないお前じゃあるまい」

 

「解ってます……。だけどあの日、誓ったんです」

 

そう、アサヒは、ユースティアナの為に剣を振るい、ユースティアナの為にその身を研鑽すると10年前のあの日に誓ったのだ。

 

「クリスティーナさんが刃を向けようが構いません、ただ、幾ら攻撃されようが絶対に此方からは反撃しません」

 

彼は私利私欲の為に剣は振るわない。

ユースティアナの立場を取り戻す為、こんな所で剣を振る訳にはいかないのだ。

 

 

「それに……」

 

決意めいた表情をしていたアサヒだったが、その言葉と共に、彼は神妙な表情へと一変した。

 

「多分もう……“あの手法”は通じない……」

 

アサヒが言う“あの手法”とは、昨日の模擬戦で用いた【絶対防御】とクリスティーナが自称した異能に対する攻略法だ。

 

『攻撃が当たらなければ、当たらない前提でその先を導き出す』

 

だが、彼女ならきっと1日でそれに対応してくる。二度は通じない。

1戦で伝わるほど彼女は類稀なる戦闘センスを持っている。それぐらい容易いことだろう。

 

 

「ふふ……ふふふ……」

 

「ハッハッハッハッハッハッハ!!!」

 

 

アサヒのその発言に続き、クリスティーナは剣を降ろし、突然高笑いを始めた。

アサヒにはその笑いの意味は解らないが、剣を降ろしたという事は聞き入れてくれたという事なのだろうかと彼は解釈し、胸を撫で下ろした。

 

 

「やはりお前は面白い☆ 必ずその剣を私に向かせてやるぞ、覚悟しておくんだな!!」

 

 

しかしそれは

見当違いだったようだ

 

 

 

 

 

 

それから昼食、休息中、勤務中、etc……

いかなる時間帯も戦闘を申し込むクリスティーナに付き纏われた彼は精神的疲労を味わわされ、今に至っている。

王都ランドソルの往来を歩く人々には、彼が肩を落として歩いている事が目に見えてわかるが、彼自身は疲労を見せまいと努めているようだ。

 

 

就業時間を終えた人々や夜の繁華街を求めて街を出歩く人で賑わう夕刻の王都ランドソルの中、彼はペコリーヌから伝えられたアルバイト先へと向かっていた。

目的地へ近付くに連れ、彼は辺りの景観に既視感を覚えていた。

 

(この辺って、もしかして……)

 

既視感を覚えるのも当然、彼が現在立っている場所は10年前にユースティアナと頻繁に訪れた場所だった。

アサヒに城下町へ連れ出され、最初に入店した飲食店の魔物料理が気に入ったユースティアナはアサヒと何度もその飲食店を訪れた。

 

「確か、あのあたりに……」

 

懐古心と共に、アサヒはその飲食店があったと思われる方角を向いた。

そこには、何やら人集りが出来ている。

明らかに異様な光景を不思議に思い、アサヒは野次馬心で近付いた。

 

するとそこには、彼がよく知る『ティアラを付けた少女』の姿が。

 

「ぷは〜〜〜! ご馳走様でした☆」

 

ペコリーヌの様子、多くのギャラリー、眼前に存在するよく通った飲食店、こんなにも判断材料が揃えば彼にとって状況を理解する事は容易かった。

 

「スゲェ嬢ちゃんだ……」

「見ろよ、巨漢の男が食い切れずに倒れてるぜ……」

 

数人の男性がチャレンジに失敗する中、ペコリーヌの様子は依然として通常運転である。

腹八分目、いや、彼女にとっては五分にも満たしていない。

 

「おめでとう嬢ちゃん。 はいこれ、景品ね」

 

「わ〜〜い! ありがとうございます!」

 

そう言うと、ペコリーヌは目を輝かせながら店員から景品を受け取った。

その景品には「食事券」と書かれている。あれだけの食事をしておきながらまだ食べる気だろう。

 

「あっ、アサヒくん!」 ぱあっ

 

用を終えたペコリーヌは往来に目を向けると、1人の男性の存在に気が付き、表情を一転させた。

 

「オイッス〜!」

 

先程の食事券を受け取る際同様に目を輝かせ、彼女はアサヒの下へと近付いた。

 

「お疲れ、()()()()()

 

「アサヒくんもお仕事お疲れ様です! あのですね、さっきこのお店の大食い大会で優勝してお食事券を頂いちゃったんですよ〜〜!」

 

「王家の装備全開だったな、見てたよ」

 

アサヒはそう言うと、ペコリーヌの頭部に装飾されたティアラに目線を向けた。

このティアラは王家の装備と言い、ユースティアナの血族であるアストライア王家に代々受け継がれている。所有者の筋系や身体能力を増長させる効果があるが、その対価として『お腹が空く』という何とも奇天烈な装備である。

 

幼き日のユースティアナはアサヒに対し王家の装備の効力を説明した。が、彼女の平素の食欲を考えると、『王家の装備が無くても無尽蔵に食べられるのでは?』とアサヒは思ったという。

そして10年後の本日、大食い大会で優勝した彼女の食欲が装備によるものか、彼女自身の食欲か、真実は定かではない……。

 

「アサヒくん、お勤めでお腹空いてますよね? お食事券もある事ですし、このお店で一緒にディナーといきましょう! さあさあ!」

 

ペコリーヌはアサヒの手を引き、彼を店内へと招き入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ン〜〜〜、マい……☆」

 

顧客で溢れかえる店の中、アサヒとペコリーヌはテーブル席に座っている。

2人は現在、ペコリーヌが『上から下まで全部!』と言ってオーダーした料理を食べている最中だ。

 

「この魔物料理、燻し方が絶妙でマジパないですよ! ほらほら、アサヒくんも! はい、あ〜〜〜ん」

 

そう言うと、ペコリーヌは何の気兼ねもなく料理を彼の口へと運んだ。

 

「ん、ほんとだ、おいしい」

 

アサヒの口へと料理を運んだペコリーヌは、何かを待ち侘びる子犬の様にアサヒを見つめた。

 

「はいはい、落ち着いて」

 

そう言うと、アサヒも鸚鵡返しするかの様にペコリーヌの口元に自皿の料理を運んだ。

 

「はむっ。ン〜〜〜、美味しいです☆」

 

その後もペコリーヌは時折、アサヒの口元に料理を運ぶ。アサヒも、お返しするかの様にペコリーヌの口元に料理を運ぶ。

これは幼少期から彼らの中で反復して行われた行為であり、それはいつしかルーチンワークとなり、10年後の今もこうして強く根付いていた。

その為、大衆の前だろうが2人は一切気に留めていない。

 

 

「もしや……ペコリーヌ様?」

 

一心不乱に食事を続ける2人の耳に、背後から幼い少女の声が聞こえた。

 

「おや? 私をペコリーヌと呼ぶその声は……」

 

反射的に振り向いたペコリーヌとアサヒの目線の先には、シルバーブロンドのショートヘアーをしたエルフ耳の少女だった。

そしてもう1人、少女の後ろに追従するかの様に1人の少年が佇んでいる。年齢はアサヒとペコリーヌ相応だと思われる。

 

「昨日のご飯王子とご飯姫!! オイッス〜!」

 

「おい……っす? 相変わらず、食欲旺盛なのですね」

 

ペコリーヌがご飯姫と呼ぶ少女は目の前のテーブルに盛られた並々ならぬ食事の量を見て感嘆した様子だ。

その会話を聞いていたアサヒだが、ペコリーヌの2人への呼称を聞く限り、昨日彼女から告げられた2人と理解した。

 

「もしかして、ペコリーヌにご飯を恵んでくれた2人?」

 

「はい、恵んだと言うか食べられたと言いますか……。して、ペコリーヌ様、そちらのお方は?」

 

「おっとっと、紹介が遅れましたね。こちら、昔からの友人であるアサヒくんです!」

 

「宜しく。ペコリーヌがお世話になったね、君の名前は?」

 

「私はコッコロと申します。アサヒ様、宜しくお願い致します。そして、こちらは私がお仕えさせて頂いている–––」

 

コッコロの目線を辿り、ペコリーヌとアサヒは彼女が手を仰ぐ方向へと目線を向けた。

 

 

「主さまでございます」

 

 

その声と共に、紺色の外套を羽織った少年は一歩前に進む。

 

が、彼はアサヒを目にした途端、アサヒから目を離さず、無言を維持した。

 

最初は怪訝に感じたアサヒだったが、彼もまた、その少年から目を離せないでいた。

 

 

《……………》

(……………)

 

 

友人という訳ではない。旧知の仲という訳でもない。

ただ、2人は目の前の相手に得体の知れぬ【何か】を感じ取っていた。

 

「あ、主さま……?」

「アサヒくん?」

 

コッコロとペコリーヌが2人を気にかけるが、2人は白昼夢に包まれたような様子のままだ。

 

「どうしたんですか? じっと見つめ合っちゃって。あっ、もしかして恋でもしちゃいました?」

 

「ブーーーーーーーーッッッ!!!」

 

突如聞こえた背後からの吹き出す声にペコリーヌとコッコロは気を取られる。

するとそこには、黒装束を纏った猫耳の少女が立っていた。

 

「あっ、昨日の倒れてた人!どうして此処に?」

 

ペコリーヌはその少女に見覚えがあった。

と言うのも、昨日アサヒと別れたペコリーヌがコッコロと出会った際、傍に倒れていたこの猫耳の少女を介抱したのだ。

 

「先程主さまと飲食店を探していたところ、昨日の御礼にとキャル様がこのお店を紹介して下さったのです」

 

「そんな事情があったんですね〜〜。 ところでキャルちゃんはどうして吹き出しちゃったんですか? もしかしてまだ具合が悪いんですか? 大丈夫ですか? ご飯食べますか?」

 

コッコロの発言から猫耳の少女の名前を『キャル』と把握したペコリーヌは彼女の体調を憂慮し、迫り、料理の入ったスプーンを押し付ける。

ペコリーヌの圧力に気圧され、最初は後退りしていたキャルだったが、次第に逃げ場が無くなり、彼女のスキンシップの餌食となった。

 

「あんたが変な事言うからでしょ!! ……って、コラ! スプーンを頬に近づけんなぁー!!」

 

(あいつを監視してただけなのに何でたまたま入った店でこの女とも出くわしちゃうのよ〜〜!! それに意味わかんないあだ名で呼ばれてるし、しかも……)

 

ペコリーヌの猛撃に視線を取られていたキャルだったが、何か思う所があるのか視線をアサヒへと移した。

 

(陛下から監視を追加されたあの男までいるなんて……それもペコリーヌと一緒に……。陛下が気に掛けるだけあって、何か関係があるのかしら……)

 

キャルは思慮深く考えたが、結局結論が出せずペコリーヌのスキンシップ撃退へと専念した。

 

 

 

 

ペコリーヌとキャルが戯れている間も、アサヒと紺色の外套を羽織った『主さま』と呼ばれる少年は狐につままれた状態だ。

コッコロも依然としてその2人を見守っていた。

 

「主さま……?もしかして女の子のみならず、アサヒ様ともお知り合いなのですか?」

 

コッコロの質問は全くの見当違いだ、確かにこの少年はランドソルにて数多くの女性と友好関係にあった。しかし、アサヒとは初の面識で、彼自身何故目の前の人物に目を惹かれるのか理解していない。

 

そしてしばらくするとアサヒは普段の状態に戻り、彼の方から沈黙を破った。

 

「あ……ごめん。なんかぼーっとして……」

 

アサヒが覚醒したのを確認すると同時に、外套の少年も普段の様子を取り戻した様だ。

それに合わせペコリーヌ、キャルも彼らへと視線を注目させた。

 

《僕も……。ごめん……》

 

「お二人共、正気に戻られた様で安心しました……。何故あの様な状態になったかは気になりますが取り敢えず主さま、お名前を言えますか?」

 

コッコロはまるで幼児を誘導するかの様に彼に自己紹介を促した。

 

《僕はユウキ、宜しく》

 

その少年は自らを『ユウキ』と名乗った。

やはりアサヒには聞き覚えが無く、彼の謎は深まるばかりだ。

 

 

彼の自己紹介が終わるのを確認すると、ペコリーヌは2人に近付いた。

 

「ユウキくんですね、宜しくお願いします! お二人が何でああなったのか私も気になりますけど、今は皆んなでお食事しましょう☆ 私、このお店で大食いチャンピオンになって食べ放題券を貰ったんです! 昨日の御礼、しちゃいますよ〜〜〜」

 

「その様な事が……。では主さま、お言葉に甘えさせて頂きましょうか」

 

《うん》

 

「いや、私は……ってだから皿を近付けんなーーーーー!!!」

 

 

彼ら5人の晩餐と談笑は夜分遅くまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ランドソル王城前 / 愛の広場】

 

 

「ぷは〜〜〜、お腹いっぱい☆ 久し振りに大勢で食事が出来て楽しかったです!」

 

コッコロ、キャル、ユウキと別れたアサヒとペコリーヌは『門限まで時間ありますか?』というペコリーヌの質問の後、彼女の希望する地へと場所を移した。

 

「あの3人と食事するの、楽しかったな」

 

「はい! コッコロちゃん、キャルちゃん、ユウキくん、皆んな良い人でしたね。 また一緒に食事する約束もしちゃいましたし、楽しみすぎてヤバいです☆」

 

今朝は不安そうな表情を見せたペコリーヌだったが、その陰鬱な感情は完全に消え去った様だ。幼少期によく見た彼女の屈託無い笑顔に思わずアサヒも表情筋が緩みそうになる。

 

 

「ほらほらアサヒくん、こっちですよ、こっち!」

 

ペコリーヌに両手で手を引かれ辿り着いた場所は、ランドソル市井の夜景を眺望出来るスポットだった。

幼き日のユースティアナは、度々アサヒにこの場所へ来るよう頼んだが、今もなお、彼女の嗜好は変わらない様だ。

 

「わぁ……10年経っても綺麗ですね……」

 

「うん、変わってない……」

 

2人は握った手を離さないまま、一心にその景観を眺め続けた。

 

 

「私……お父様とお母様が守り続けたこの景色を守りたいんです。勿論、貴方と一緒に……」

 

 

その発言と共に、ペコリーヌの握る手は一層強くなった。

 

 

「うん、絶対」

 

 

そしてそれに答える様に、アサヒも力強くその手を握り返した。

 

 

2人は別れるまで無言で手を握り合った

言葉は無くとも、ただ相手を信じるかの様に

 

 

 

 

 

【ランドソル王城前 / 愛の広場】

 

ランドソルの絶景を見渡せる事ができ、多くの人々が交際相手に想いを告げる場所として利用された事からこの名前が付いた。

 

いつからかその話は一人歩きし

『願いは必ず成就する』

『誓いは遂げられる』等の噂が立つ様になった。

根も葉も無い噂に、世間では胡散臭い場所、名前負けするスポットと扱われていた。

 

 

ある【王女】が、1人の騎士と交わした約束を世間に公言するまでは–––––。

 

 

しかし今はまだ

想いを告げる際に利用されるただの名所である。

 

 

 

《次回》

【狂乱 再会 防衛】

【ギルド 設立】

 




次回予告詐欺わろた!w!w
まあアニメ見てたら色々インスパイア受けちゃうからしょうがないよね〜〜〜〜(マジでごめん)(バレる前に修正しよ)(ほんとごめ)

騎士くんを普通のかぎかっこで喋らせるとなんかちげーからこの形式にしたよ

予定は予定 期待しないでね!
お気に入りに登録モチベーション!さんくす!ぐーぐー!

次回もお楽しみに!

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