御伽噺の中の存在、魔族が実在することが明らかになって数年。島国日本では試験的に魔族と人間の共存が始まった。
しかし人間からすれば未知の存在であり、それを受け入れる事に否定的な意見も多くあった。
否定的な人間は魔族を差別し、迫害した。
魔族もそれに対抗する為に人間に攻撃をする。
そんな負の連鎖が、魔族と人間の間に消えない溝を生んだ。
互いの攻撃が悪化し始めた矢先、日本政府は魔族にある提案をした。
もちろん政府の要人は人間であり、提案も人間に有利なもの。それを魔族が受け入れる訳もなく、魔族は人間に対して全面戦争を持ちかけることにした。
それに待ったをかけたのが、魔族の中でも特に強い発言力を持ち、高い能力を持つ魔族を多く輩出する名家、
「だったら人間に大人しく屈しろと言うのか!?」
男ーー見た目は人間だが獣人であるーーが、机に手を叩き付けて言う。
「そうは言っていない。政府に対してこちらからも要求を出して、それを呑ませればいい」
そう言って少年が答える。
それに吸血鬼の女が反論する。
「高々数年しか生きていない若造に我らの屈辱がわかるものか!」
「なら実力で俺を排除するか?」
「それは……」
そう言って女吸血鬼は口を噤む。
「俺が日本政府に言うことを聞かせる。たとえ力ずくでもな」
少年はそう言って席を立つ。
「できるのか?お前に」
獣人が少年の背に向けて問う。
「当たり前だ。緋月の名にかけても魔族の安寧を手に入れる」
そう言って少年は会議室を出る。
少年の名は
名家緋月家の当主であり、現在日本に存在する吸血鬼の中でも、最も強い力を持つ者だった。
「それで、どうするのさ」
霊斗に聞くのは彼の弟。名を
「どうもしねぇよ、向こうが動かない限りな」
「あちらから仕掛けさせるって事ね。そうすればこっちの大義名分も立つもの」
寝転がり、猫を撫でながら少女ーー
「そういう事だ」
そう言って霊斗は席を立つ。
「どこか行くの?」
「
天音とは霊斗と同じく魔族であり、霊斗の許嫁ということになっている少女だ。
種族はサキュバスだが力は弱く、能力的にも戦闘向きでは無いため、霊斗が時々様子を見に行き、無事を確認している。
「ふーん……」
「なんだ、なんか用あったか?」
「ううん。天音ちゃんによろしくね」
「わかった」
そう答えて霊斗は一路天音の元へと向かうのだった。
「それで、なんで俺は拘束魔術で縛られてるんだ。こんな事のために教えた訳じゃないんだが」
「霊君が悪いんだよ!私だけ仲間はずれにするから!」
「いや、別に仲間はずれにした訳では無くてだな……」
身体の自由を奪われ、
こういう話を聞かないところが無ければ満点の美少女なのになぁと思いながら、天音を見上げる。
綺麗に手入れされた長い黒髪に蒼い瞳、整った顔立ちをしている。おまけに胸もでかい。
「視線がいやらしいんだけど」
「気のせいだろう。とりあえず離してくれ」
「やだ」
容姿に関してはその辺のモデルなんかにも引けを取らないくらいなのに、性格はガキの頃から全く成長していない。
いい加減自分が異性だということを自覚して欲しいと思いつつ、霊斗は対抗魔術を使う。
「え、わっ!なんで拘束外れてるの!?」
「対抗魔術に決まってるだろ。教えたはずだけど?」
「あははー……そうだっけ……」
誤魔化すように笑う天音を押しのけて、霊斗は起き上がる。
「あ……れ、霊君、怒ってる?」
押しのけられて、不安そうに聞く天音に、霊斗は笑顔で答える。
「いや、怒ってないぞ?」
「よ、よかったぁー…… 」
「この後の魔術訓練はいつもの10倍コースだ」
「絶対怒ってるじゃん!」