「あー……疲れた……」
そう言って上着を脱ぎ捨て、薄いシャツ1枚になる天音。
「まだ簡単な護身用の魔術だからな?そんなんじゃ戦闘参加はいつになる事やら……」
呆れながら、霊斗が天音にタオルとスポーツドリンクを手渡す。
「それは霊君が火炎魔法使わせてくれないからじゃん」
「お前が使ったら周囲一体が消し炭になるだろう。仲間まで巻き込んでどうする」
そう言いながら、霊斗はソファに座る。
「むー……」
唸りながら隣に座った天音が腕を絡めてくる。
「おまっ!なにして!」
しっとり汗に濡れた肌の感触と、布1枚挟んでいるが、確かな弾力。
普段落ち着いていても、まだ齢18の霊斗には刺激が強い。
「訓練が終わって、疲れてる霊君にご褒美、だよ」
天音がそう言うと、その瞳が微かに光を放つ。
「やめ!お前っ!」
光を直視した霊斗の思考が鈍る。サキュバスの能力、催淫だ。
ちなみにこの能力は、自らが好意を寄せる異性にしか効果はないのだが、霊斗はそれを知らない。
「ほーら……素直になっちゃえ……」
天音の甘い声音に牙が疼く。
吸血衝動は、主に性欲によって発動する。
「くそっ……お前……」
抗い難い喉の乾き。思わず本能のまま動きそうになった時だった。
霊斗の携帯から警報の様な音がなる。
驚いた天音が能力の発動を止めたため、霊斗の身体が自由になる。
「緊急回線?なんだ……?」
霊斗が通話ボタンを押し、スピーカーモードにする。
「どうした?」
『お兄ちゃん?今、緊急で来た情報なんだけど、過激派が動き出したって』
「あの馬鹿共が……先走ったか」
『今神奈川に各地から集結してるみたい』
「地味に遠いな……まぁいい。すぐ向かう」
霊斗はそう言って電話を切る。切る直前に桃香が何か言っていたが、何か重要なことならもう一度かかってくるだろう。
「止めに行くんだよね」
「ああ。戸締りはしっかりしろよ?何があるかわからないんだからな」
天音にそう言って、霊斗は玄関に向かう。
そんな霊斗の袖を、天音が掴む。
「どうした?」
「闘う……んだよね?」
「場合によってはな。それより、急いで行かないとヤバい事になる。離してくれ」
霊斗がそう言うと、天音は霊斗に背中から抱きつく。
「訓練で魔力使ったんだから、補給してかないと……ね?」
抱きつく手が強くなる。それに合わせて、背中に当たる弾力が強くなる。
「お前……何言ってるかわかって……」
「わかってる。これまでだって何回かしたでしょ?」
「……あのなぁ、許嫁だからって無理にこんな事しなくてもーー」
「無理じゃない。霊君はさ、私が誰にでもこんな事すると思ってるの?」
天音の手が震えている。怒っているのか、泣いているのか。
「それは……」
「思わないなら、ちゃんと補給して行って。」
こうなった時の天音は何を言っても聞かない。
乱暴にならないように天音の手を解き、霊斗は天音を見る。
もちろん霊斗だって天音に好意を抱いているし、天音からの好意も気付いている。
だが、今は人間との戦争が始まるか否かの瀬戸際だ。
魔族の頂点に立つ緋月家当主として、色恋に現を抜かしている暇などない。
だが、今は魔力補給の為だ。許されるだろう。
霊斗は、自分納得させて、天音に言う。
「本当に良いんだな?」
「う、うん………」
深呼吸をして、天音の肩に手を置く。
そのまま天音の身体を引き寄せ、耳元で呟く。
「好きだ、天音」
「霊君……」
天音の返答を待たず、その首筋に牙を埋める。
痛かったのか、天音の肩が跳ねる。
しかし、吸血鬼の吸血には快楽効果がある。
段々と天音の吐息が甘いものになって行く。
必要分の血を吸い終わる直前、天音が霊斗の耳元で呟いた。
「私も、霊君が好きだよ」
「……勢いに任せて吸っちまうとは……」
「昔もそうだったじゃん。なんで今更自己嫌悪してんのさ」
天音の台詞に、その通りかと納得し、立ち上がる。
正直な所、吸血よりも勢いで告白したことの方が後悔しているのだが、事態は一刻を争うのだった。
「……行ってくる」
「行ってらっしゃい、気を付けて」
天音の言葉に頷き、霊斗は空間操作の魔術を発動した。