空間を歪め、ゲートを作りそれを潜る。
何度かそれを繰り返して目的の場所に向かう。
「繋げられる距離に限界があるのがなぁ……」
呟きながら空間の歪みを駆け抜ける。
目的地までの最後のゲートを潜ると、強烈な血の臭いが鼻を刺激する。
「ここか……だいぶもう片付いてるな」
霊斗はそう言って、この惨状を作り出した本人を見る。
「よう、緋月一族当主」
「…「図書館」の冬風……。じゃあこの惨状は……」
「そういうことだ。襲われたから迎撃したにすぎん。まぁ、文句があるなら受け付けるが」
そう言った冬月夜斗の持つ剣がギシギシと音を立てる。
霊斗はその剣を眺めて言う。
「それが神機か」
「俺達
吸血鬼の中でも召喚獣を使えるのは一部なのだが、それは黙っておく。
あまり自分の召喚獣も見せたくは無いのが本音だ。
どう戦うか考える霊斗に、夜斗が問う。
「で、ここでバトルするか?」
しないで済むならそれでいい。そう思い、霊斗は両手を挙げて言う。
「しない。俺は過激派を止めに来ただけだ」
そんな霊斗を見て、夜斗は言う。
「ならいいさ。今後とも、衝突が無いことを祈る」
神機が夜斗の手元から消滅する。
そして、思い出したかのように夜斗は霊斗に言う。
「…あ、俺は夜斗っていうんだ。以後お見知り置きを、ってね」
「俺は霊斗。知っての通り、緋月の当主だ」
「よろしくな、霊斗。俺たちは火の粉を振り払うので精一杯…ということにしとくかな」
冗談めかしていう夜斗に霊斗は言う。
「嘘つけ。あれだけ派手に殺せるくせに」
「詮索は無用だ。互いにな」
そう言った夜斗は能力を使う。
霊斗は警戒し、魔術起動の準備をする。
「戦いはしたい。言ったろ。まぁ、なにかと大変だろうけど、頑張れ」
夜斗の姿が消え、後には惨劇の跡と過激派の生存者が残る。
「……冬風夜斗……ね」
相手にするのは面倒だと思いながら、残った過激派に向けて言う。
「俺は進撃を許した覚えはない。まだ死にたい奴らは残れ。そうじゃないなら大人しく帰れ」
霊斗が魔力を放出すると、恐れた魔族達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
残った者が居ないことを確認して、霊斗はゲートを開いた。
「ただいま」
「おかえり、霊君」
天音に迎えられ、霊斗はリビングに向かう。
「って待て。なんでお前がここにいる!?」
霊斗が天音に聞く。
「え、だって桃香ちゃんが」
「私が呼んだの。お兄ちゃんはどうせこっちに帰って来ると思ったから」
キッチンから桃香が出てくる。
霊斗は桃香に問う。
「なんで俺が家に帰るのと天音を家に呼ぶ事が繋がるんだ」
「それを今から話そうとしたの。まずはこれみて」
桃香はそう言ってテレビを付ける。
そこには何かの記者会見の様子が映っていた。
「冬月夜斗……」
内容は冬月ら「図書館」による日本政府の乗っ取り。いや、破壊の方が正しいかもしれない。
「なるほどな……これは使えるな」
霊斗はニヤリと笑う。
霊斗としては好機だった。日本政府という面倒な者を相手にせずとも、「図書館」の最高権力である冬月夜斗さえ説得すれば魔族の安寧は守られやすくなる。
それに、冬月としても面倒な争いはしたくないはずだ。ならば交渉の余地は充分にある。
「にしても、なんでさっき電話してきた時に言わなかったんだ?」
「言おうとしたらお兄ちゃんが切っちゃったんでしょ!」
「そ、そうか。すまん」
ため息を吐いて、桃香はキッチンに戻って行く。
難しい年頃だと思いながら霊斗は自室に戻る。
「疲れた……」
ベッドに倒れ込み、霊斗は呟く。
肉体的疲労よりも精神的な疲労が強い。
いっそこのまま寝てしまおうかと思ったとき、扉がノックされる。
「ねぇ、霊君。今いい?」
「天音か。いいぞ」
霊斗が返事をすると、扉を開けて天音が入ってくる。
「どうかしたのか?」
「疲れてる霊君を労わってあげようと思って」
天音はそう言って、手に持ったグラスを差し出す。
中にはスポーツドリンクが入っている。
「……なんか変なもん入ってないだろうな?」
「失礼な!何も入れてないよ!」
天音はそう言って霊斗の隣に座る。
「……本当に何も入ってないよな?」
「あんまりしつこいと襲うよ?」
「悪かった……いただきます」
霊斗は恐る恐る口をつける。
「美味い……」
「でしょ!我ながら上手くできたと思うんだ!」
天音はそう言って胸を張る。
霊斗は二口、三口と飲んでいく。
「ところで霊君」
「ん?どした?」
「今日はどうだったの?」
天音が聞く。
「あぁ、恩恵保持者のトップと会ってきた」
「え!?大丈夫だったの!?」
「向こうも戦闘の意思はなかったみたいだしな。政府の人間なんかより余程話ができそうだったな」
「そ、そうなんだ……」
平然と答える霊斗に、呆れたように笑う天音。
そんな話をしていると、リビングから桃香の呼ぶ声が聞こえた。
「行くか」
「そうだね」
欠伸を噛み殺しながら、食卓に着く霊斗だった。