カスミトアケボノ 緋月編   作:緋月霊斗

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第6話

各地の魔族の権力者達の元を回り、恩恵保持者たちに要求する権利などを纏めた霊斗が自宅に帰りついたのは、既に日が暮れた後だった。

「ふぅ……今日も疲れたな……」

霊斗は鍵を開け、扉を開き家に入る。

「ただいまー……」

ダイニングに足を踏み入れた霊斗の目に映ったのは、椅子で寛ぐ敵、冬風夜斗だった。

「ん……あ、邪魔してるぜ」

軽い調子で挨拶してくる夜斗。

予想だにしなかった展開に混乱しながら、霊斗は夜斗を指差し、声を出そうとする。

「……!?」

しかし声は出ず、間抜けに口を開閉しただけの霊斗の頭に、細長い筒が突き付けられる。

霊斗に少女がライフルを向けていた。

「夜斗に指を向けるなって、私言わなかったかしら」

驚く程冷たい声音で言う少女。

霊斗は状況が理解できないまま答える。

「言われてない!絶対言われてない!」

「奏音、やめてやれ」

夜斗がそう言うと、奏音と呼ばれた少女は渋々銃を降ろす。

そのまま夜斗の隣に座る奏音。

すると、銃は虚空へ消えていった。

「お前らなんでここに……って天音は!天音がいたのにどうやって入った!?」

最悪の事態を考えながら霊斗が聞く。

桃香と蒼牙は遊びに行っている為、この家にいるのは天音だけだった。

自衛の魔術は教えているとはいえ、冬風達に勝てる訳がない。

まさか天音がーー

「その天音ちゃんに招き入れられたんだ。つか呼んだのお前だろ」

そう言って夜斗が霊斗に見せたのは、ピンクの可愛らしい便箋に書かれた招待状。

そこには丸い文字で懇親会を開くといった内容が書かれていた。

紛れもなく天音の字である。

「天音ぇ!」

「まぁそう怒るな、緋月当主。本来なら俺が開催し、通知せねばならん事だ」

夜斗はそう言ってコーヒーを飲み、吹き出す。

「天音ちゃんコーヒーに何入れた!?」

「え?砂糖と間違えたフリして塩を入れてみたんだけど、どうかな?」

キッチンから出てきた天音がそう言って首を傾げる。

「どうかな?じゃないわ!あとフリって言ったな!?完全にわざとだよな!?」

いつの間に仲良くなったのか、夜斗が天音にツッコミを入れる。

その天音に呆れたように奏音が言う。

「……天音、あまり遊ばないで欲しいわ」

「ごめんねー」

悪びれた様子もなく、再びキッチンに戻り、出てきた天音が笑う。

その天音に向けて、霊斗は魔術を起動する。

"ファイアアロー"、火属性の低級魔術を最低の威力に抑えて放つ。

「《執行者 》執行モード、ゼロワン。シールド」

奏音がそう呟くと同時に、天音の前に障壁が展開される。

それと同時に奏音が霊斗に再び銃を突き付ける。

恐らくこれが彼女の神機なのだろう。

「女の子に手をあげるものじゃないわ、緋月霊斗」

「また銃口を向けた!?銃口を人に向けちゃいけないって習わなかったのか!?」

霊斗は両手をあげて言う。

それを面白がっているように夜斗が笑う。

「「図書館」の狙撃手が人に向けないわけがないだろう?日本政府壊す前は奏音が反「図書館」勢力から防衛していたんだからな」

天音が再度淹れたコーヒーを1口飲み、霊斗に向かって言う。

「今日来たのは他でもない、他国の魔族の事だ」

真剣になった声音に気づき、霊斗は気を引き締める。

「……聞こう」

霊斗は椅子を引き、夜斗の正面に座る。

隣には天音が座った。

「時間を開ける意味もない、本題に入る。まず他国が攻めてきた場合、自衛権で駆逐するのは当たり前なんだが」

「当たり前ではないだろ……それで?」

「その際魔族が入っていた場合どうするかなと思ってな。日本の魔族はお前に文句つければいいし八つ当たりもお前でいいが」

平然と言う夜斗。

霊斗は流石にツッコミを入れる。

「よくはないな!?」

夜斗の八つ当たりなど考えたくもない。

自分以外の魔族の責任で殺されたくはない。

「過激派はどうでもいい、殺すからな。穏健派もよく思わないものがいるだろう。そういう奴らがきた場合はお前に八つ当たりする」

「……理不尽だ」

ため息を吐く霊斗。

それを気にした様子もなく、夜斗は続ける。

「海外の場合、穏健派も過激派もない。故に消そうと思ったんだが……それは緋月でどうにかなるのか?」

夜斗がそう言うと、奏音がパソコンを霊斗に向ける。

そこに映された映像の中では、欧州出身と思しき吸血鬼が、女子高生に暴行を働いている所だった。

「これは……」

「見て分かる通り、欧州型……つまりはイギリス辺りの魔族だ。まぁ無論このあと消したんだが、これが問題だと言われると困る」

次の瞬間、映像内の吸血鬼の頭部が弾け飛ぶ。

奏音の狙撃だ。

どれほどの距離から撃っているのかは分からないが、弾丸は違わず頭の中心に当たっていた。

恐ろしいまでに正確な狙撃だ。

映像内の場所は岐阜県。

若干遠いが、こちらの名を出せば従うだろう。

「……それは、俺がなんとかする。この映像をもらってもいいか?」

霊斗はそう確認する。

「ああ。奏音」

名前を呼ばれると奏音は立ち上がり、椅子にかけてあるポーチからUSBメモリを取り出す。

それを夜斗に向けて差し出す。

「これに映像が……?」

「ああ。存分に役立ててくれ」

夜斗はそう言って霊斗にメモリを投げる。

霊斗はそれを受け取り、表面を見る。

「魔術妨害術式……」

「それも奏音の恩恵だ。一応暗号化してるからな、それを魔術で解かれては困るだろう」

夜斗は得意気に言うが、霊斗は暗号など解けない。

「暗号化解けないぞ、俺」

「それは大丈夫だよ、霊くん。解析ソフトさっきもらったから」

天音がそう言ってウインクする。

「使えるのか…?」

「よゆーだよ。私だもん」

天音はピースして言う。

こんなふざけた言動ばかりしている天音だが、パソコンなどには強いのだった。

夜斗は二人を微笑ましげに見て言う。

「さて、仕事の話はこれで終わりだ。あとはお前から要望はあるか?」

「あ、ああ……」

霊斗は座り直すと、メモを取り出す。

「まず、魔族の差別が無くなるような法案が欲しい。もちろん魔族側が人間を差別しないための物も」

「まぁ、根本的な所を変えるのは難しいだろうな」

夜斗はそう言ってため息をつく。

「今は殆どの人間も魔族も互いを嫌っている。例外はいるにしても、その溝を無くすのには時間がかかるぞ」

「分かってる。それに関しては多少案がないことも無い」

霊斗の言葉に夜斗が目を光らせる。

「ほう……」

「それは後だ。先に要望の方から簡潔にまとめる」

「わかった。続けてくれ」

夜斗に促され、霊斗は口を開く。

「次に、魔族にも人権と似たようなものを作る事。これは人間と大差ないだろうから、問題はないだろ」

「そうだな。人権を魔族にも適用するといった形でいいだろう」

夜斗の言葉に頷き、霊斗は椅子に深く座り直す。

「まぁ、あまり要望と言うほどの事は無いんだ。単に魔族と人間が平和的に手を取り合って暮らせれば」

霊斗が言うと、夜斗も目を閉じて同意する。

「同感だ。それを実現するには互いの過激派が邪魔だがな」

夜斗は腕を組み、霊斗に聞く。

「過激派の対策はどうする」

「それは最初に言った案に取り込んである。それの説明に移りたいが、いいか?」

「あぁ、聞かせてくれ」

霊斗は頷いて、懐から書類を取り出す。

「これは……交換留学?」

「ああ。魔族と人間、互いの学生がそれぞれ相手側の学校へと留学する」

もちろん、自衛が出来る人間や魔族である事が条件だがな、と付け加え、霊斗は夜斗を見る。

「これなら、過激派はそこを潰そうとしてくるだろうし、互いに傷つける事は無いというのを証明しやすいだろ」

霊斗の案に、夜斗は目を閉じて考え込む。

「そうだな。問題は互いに誰を留学させるかだが……」

「魔族からは桃香と蒼牙を出すつもりだ。そっちからも、あんたらの仲間から出して貰えば分かりやすくて助かる」

霊斗が言うと、夜斗は再び考え込む。

「……一度持ち帰って検討させてくれ。できれば行う方向で行きたいが……まぁ、追って伝える」

「了解した……今日はこのぐらいにしておくか」

「ああ。他国の魔族の件、頼んだ」

「任せておけ、じゃあまた」

霊斗がそう答えると、夜斗は席を立つ。

それに続いて奏音も席を立ち、ポーチを手に取る。

「またね、奏音ちゃん」

「うん、またね、天音」

天音が手を振ると、少し照れたように手を振り返す奏音。

そして二人は帰っていった。

「天音、いつの間に二人と仲良くなったんだ?」

「うーん……二人とも優しいし、あんまり敵意も感じなかったからねぇ。自然とって感じかな」

「優しい……?」

「それより、お風呂入ってきなよ!入れてあるから!」

「ああ、そうするよ」

天音に促されて、霊斗は風呂へ向かうのだった。

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