「ふぁ……無駄に疲れた……」
欠伸をしながら湯船に浸かる霊斗。
少しでも夜斗に敵意を向けようものなら、問答無用で殺気を放つ奏音がいたのではゆっくり話をする事も出来ない。
疲れからか、強烈な眠気が襲ってくる。
ウトウトと霊斗が微睡み始めた瞬間だった。
「入るよー!」
声と共に浴室の扉が勢いよく開いた。
「な、なんだ!?」
あまりに突然の出来事だった為、立ち上がろうとして足を滑らせた霊斗は壁に頭を打ち付ける。
「わわ!霊君大丈夫!?」
「あ、あぁ、大丈夫だ」
そう言って差し出された手を掴み、そこで違和感に気づく。
「……なんで入ってきた」
「そこに霊君がいるからだよ!」
「意味わかんねぇよ!」
笑顔でサムズアップする天音に風呂桶を投げつける。
「いてっ!」
顔に桶が直撃し、天音が仰け反る。
その瞬間身体に巻かれたバスタオルが外れる。
それを視界に移した瞬間、霊斗は全力で湯船に潜った。
顔に当たる涼しい風で意識が戻る。
「……ここは……?」
「リビングだよ。霊君ってば急に潜るんだもん、びっくりしたよ」
それは100%お前のせいだ、という台詞を飲み込み、天音に聞く。
「で、なんでお前はそんな薄着なんだ」
天音はシャツ1枚に下は下着しか付けていない。
「だってお風呂上がりだと暑いじゃん」
そう言いつつうちわで霊斗を扇ぐ天音。
「……俺はもう平気だから」
霊斗はそう言って起き上がる。
すると天音は、少し名残惜しそうな表情をしながら今度は自分を扇ぎ始める。
そんな天音に再び質問をする。
「それで、今日はなんで急に入ってきたんだ?」
「んー……なんとなく」
「なんとなくでそんな事するな……」
豊かに主張する天音の胸元から目を逸らしながら霊斗は言う。
そんな霊斗の反応を見て、天音はいたずらっぽく笑う。
「興奮しちゃった?」
「……してない」
「本当に?」
「……してない」
「ふーん……えいっ!」
目を逸らしたままの霊斗の腕を抱き寄せる天音。
「なっ!?お前!?」
「これでも……興奮しない……?」
少し不安気に聞く天音。
霊斗は諦めたようにため息を付いて言う。
「……ちゃんと、その……興奮……してるから……」
「ほんと?」
「ああ……だから頼む、離れてくれ」
「やだ」
霊斗の頼みを一蹴し、更に強く抱きつく天音。
「た、頼むから……離れろ……」
「え!?霊君鼻血!?」
「もう無理……」
そう呟き、霊斗は再び意識を手放した。
「アイシクルスピア!」
声と共に氷の槍が地面に突き刺さる。
魔術を使った本人、蒼牙は地面に座り込む。
「疲れた……」
「お疲れ様、蒼牙」
「ありがとう、桃香」
タオルとスポーツドリンクを受け取り、蒼牙は座り直す。
その隣に桃香が座る。
「兄さん達、交渉上手くいったかな」
「わからない。でも、お兄ちゃん達なら大丈夫」
そう言って桃香は蒼牙の肩に頭を預ける。
そんな桃香の頭を撫でながら、蒼牙は聞く。
「……あの後、召喚獣が目覚めた感じはある?」
「全然。お兄ちゃんの血でも駄目だったみたい」
「そう……」
胸の内にモヤッとしたものを感じながら、蒼牙は夜空を見上げる。
雲が出て、星も月も見えない。
「雨降りそうだし、そろそろ帰ろうか」
「うん」
ゆっくりと家に向かう二人だった。