普通ではないふじのんと普通ではないお友達   作:望夢

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相変わらずちーとも話は進まないけど、切りが良いので投稿するぞー!

しかしなんだ、またふじのんに押し倒されて貪り尽くされる夢を見てしまった。これはつまりなんだ? 書けと仰るのか? いやダメだ。書くにしては内容があまりにも倒錯的過ぎた内容だったぞ……。


殺人考察 (前)Ⅴ

 

 冬休みはあっという間に過ぎ去った。

 

 中学生最後の冬休みは、藤乃の両親との対話に費やされた。

 

 先ずは謝罪だった。自分が藤乃に関わったことで、魔眼が発現してしまったこと。これは藤乃の今の父親と本当の父親に。おそらくではあるが、藤乃の母は藤乃の異常については知らないのではないかと思っての事だった。

 

 こちらについてはあまりお咎めは受けなかった。藤乃が生きていくなかで何時か起こっていたのではないかという事だった。ただ危うく藤乃と接触禁止にさせられそうだったが。

 

 次に魔眼殺しでの藤乃の能力の抑止とコントロール。

 

 こちらについては半信半疑といったところだった。魔術の存在は知っていたものの、魔術協会との付き合いはない。だから魔眼を抑える品の存在には辿り着けなかった。

 

 こちらは橙子さんにも説得を協力してもらった。専門化である橙子さんに説明してもらう方が説得力があるからだ。

 

 最後に、藤乃の無痛症の回復だ。

 

 これについては拒否を示された。当たり前だ。今までそうして能力を封じてきたのだから。

 

 しかしそれで能力に蓋をしてしまってはいずれ蓋を破って手をつけられない力になって噴き出すと、具体的な規模はブロードブリッジや、大分盛ったが東京ドーム一個分の面積の森林程度軽く捻られると。それは千里眼を開眼した藤乃がするものだが、このまま蓋をし続けてもそうなってしまう可能性は否定できない。

 

 封じて無視すれば大惨事になり兼ねないのなら、自分の意思でコントロール出来た方が建設的だ。

 

 それに無痛症のままでも能力が表に出てきてしまったのなら、無痛症にしておく意味もない。

 

 その原因を作ってしまったのは僕なのだが。そして話は最初に戻る。僕が藤乃と離れれば藤乃の能力は表に出てくることはなくなるということだ。

 

 これについては橙子さんから否定が入った。藤乃の精神が不安定になれば余計に能力の暴走を招いてしまうだろうと。

 

 藤乃との接触を禁止しようとする話題が出ると、藤乃は僕の身体を横から抱き締めて父親たちを睨んでいた。生きた心地がしなかった。

 

 だから僕は藤乃に対して責任を取ると言った。

 

 彼女の能力が暴走してしまうようなら、彼女を殺すと。

 

 それは運命に対する明確な宣戦布告だった。もし、運命の通りに藤乃が人を殺すようなことがあれば。

 

 その時は、藤乃と一緒に僕も死ぬ。

 

 口ではなんとでも言えるから、腕の1本でも切り落として見せようとしたら藤乃にナイフを『(まが)れ』られてしまった。

 

 「視えて」いたけれども、そこは視れば曲げてしまえる藤乃には敵わない。それで藤乃を殺せるのかと言われたら、銃でも使えば簡単だろう。視て(まげ)るといっても、視るのは藤乃だ。

 

 その反射神経は藤乃に依存する。能力以外普通の女の子の藤乃に銃弾を見切るのは無理だ。予め藤乃に呪いを掛けておいて、遠隔で発動して殺すことだって可能だ。

 

 橙子さんならその手の呪殺に関しての知識だって豊富だろうし、僕にしても魔術での火力なら藤乃を殺しきれる。直死の魔眼でどうしても接近戦になる両儀式だから、藤乃の能力と相性が悪かったのだ。

 

 藤乃の能力を知っているから、殺し方なんてスラスラと思いつく。本当に藤乃は魔眼以外普通の女の子なのだから。

 

 藤乃を殺す手段の豊富さから、彼女を任されたとは思いたくはないが、藤乃は暫く伽藍の堂で預かることになった。

 

 それで良いのか。良かったのか。それは今考えたところで仕方のない事だった。

 

 ただ言えることは、僕は藤乃の運命を少しだけ変えることが出来たという事だった。

 

 もしこの先、運命ではなく、藤乃に宿命として降りかかるものがあるのなら、僕はそれに備えて今を積み重ねるしかない。

 

 取り敢えず、今言えることは――眼鏡ふじのん最高です。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「藤乃の力は、緑と赤の螺旋なんだ。右目は右巻き、左目は左巻きの回転を生んで、対象を螺旋状に取り巻いた力が捻る。でもこれは藤乃が直接対象を視る必要があるから、障害物かなにかで藤乃の視界を遮ってしまえばやり過ごす事は出来る。煙幕とか有効だね」

 

「おいおい。そんなことを教えてどうする。いざという時殺し難くなるだろう」

 

「藤乃が特別なのはその眼だけですからね。他は普通の女の子ですから、いざとなったら藤乃の周囲一帯を吹き飛ばせば良い」

 

「ふっ。恐いやつだ」

 

 織姫さんと、織姫さんのお師匠さんの橙子さんとの会話。

 

 わたしはこの能力(ちから)と向き合う道を選んだ。だって、織姫さんが向き合ってくれたわたしなのだから、わたしが向き合わなければならないことだ。

 

 織姫さんは橙子さんの自宅兼事務所に住み込みで習い事をしていた。

 

 それは人形作りであり、魔術という魔法の様なもの。

 

 織姫さんの作る人形は、2頭身程度のデフォルメされた可愛らしい物だった。

 

 今はこれで精一杯で、橙子さんに比べれば自分なんて足元にも及ばないと。

 

 でも橙子さんの、精巧な、今にも動き出してしまいそうな人の人形よりも、織姫さんの作る可愛らしい人形の方が、わたしは好きです。

 

 人形は使い魔として使役して、普段の生活のサポートをする存在として使われている。洗濯物とか洗い物とか勝手にしてくれるのでとても便利ですね。

 

 そういった少しの時間でも、生き急ぐみたいに織姫さんは魔術に没頭している。わたしは魔術を習いに来ているわけではない為、織姫さんがどんなことをしているのかを知らない。魔術は極力他人に知られてはいけないことらしい。だから無理にも訊かない。訊く必要がないとも思う。

 

「しかし難儀だな。感情の昂りで暴発する程に強い力を制御するのは並大抵じゃないぞ」

 

「だから一番は能力についての理解を深めることですよね? 知っていればこそ、加減の仕方だってわかるものでしょ?」

 

 橙子さんにそう言って、織姫さんはわたしの手を握ってくれる。思ったよりも細くて、小さな手。

 

 今のわたしには、世界を感じ取る事が出来る。

 

 生きているのだと、実感できる。

 

 心ではなく、手触りの感触として、織姫さんの温かさを感じることが出来る。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 浅上藤乃――。

 

 織姫が連れてきた少女は確かに普通じゃない。物理的な破壊力なら最高の魔眼を持っていた。これに透視能力が加わるらしいとくれば、放っておくには惜しすぎる眼だ。そして、放っておけばかなり厄介な眼だ。

 

 織姫が浅上藤乃の異常性を肯定し続けてしまった事で洩れ出した能力は、それこそ浅上藤乃の記憶から境織姫という存在を消さなければ封じることなど出来ないだろう。

 

 そして、織姫も言っていた様に、本来ならば能力が洩れ出すこともなかった。

 

 その切っ掛けは、まさかの告白紛いの贈り物のやり取りだとは。

 

 告白というものは、己の内に隠していた心の中を打ち明ける物だ。

 

 それが男女間の関係ともなれば、相手に自分を受け入れて欲しいという欲求に根差すもの。

 

 織姫のやっていたことは、本来ならば肉体的な無痛症によっての封印と、無痛症である自身を異常なものとして否定し隠す事で精神的に封印されるはずだったものを、精神的な封印を取り払ってしまっていた。

 

 完全に取り払うのは難しくとも、この場合は、殻にヒビを入れるようなものだ。そして積み重なった肯定の意思は、女にとっては特大の自己肯定によって遂に殻をブチ破ってしまった。殻が割れれば中身が溢れ出るのは当然だろう。

 

 そういう意味では本当に早いか遅いかの違いだった。浅上藤乃が他人と関わり続ける限り、人として生きていく中で必ず立ち塞がる壁だった。

 

 自己を肯定することの出来ない浅上藤乃は、必ず他者に自己を肯定してもらおうとするはずだ。

 

 無痛症であることを隠すために他人に一定の距離を置こうとも、何時かは他人を求めてその秘密を打ち明ける相手が居たはずだ。

 

 だから彼女の不幸中の幸いは、そういった面倒な事を全部知っていて、はじめから浅上藤乃を肯定した境織姫という存在に巡り会えたことだろう。

 

 でなければ、それこそ織姫が変えたいと言っていた運命の通りになって面倒な事になっていた。

 

 内容は詳しく聞いてはいないが、予想される魔眼の力と、織姫が語った破壊力の規模からして、まぁ、タダ事じゃ済まなかったはずだ。

 

 ともあれ、浅上グループと縁が出来たのは儲けものだ。

 

 損得勘定で言えば、圧倒的な得だ。

 

 ならその還元を功労者である弟子に支払うのは当然のことだろう。

 

「ただなんかね。ああしてイチャイチャオーラ出されてると、独り身には毒だな」

 

 甘酸っぱすぎてコーヒーの味が変わりそうだ。

 

 身体の感覚を手に入れた浅上藤乃は、その全身で織姫を感じようとするからベタベタベタベタ四六時中手を握ったり抱きついていたり身体を寄せたりしている。今まで味わえなかったものをひたすら求めることは致し方のないものだ。それを咎めるのは織姫には無理だ。あれは浅上藤乃に対しては絶対的な肯定者で居続けるからだ。間違った道を浅上藤乃が歩まない限りは。

 

「あんな良い娘が居るのに他にもオンナが居るとは。アイツ何時か刺されるんじゃないか?」

 

 浅上藤乃がケガを負って通院していた病院で知り合った女の見舞いに行く。

 

 織姫がそうして積極的に動くのは、その女も、織姫の言う「運命」とやらに関わりがあるのか。

 

 私もその「運命」とやらに巻き込まれているのか。

 

 もしそうでなかったとしても、既に浅上藤乃という運命の環に、私も組み込まれてしまった時点で、その運命を持ってきた織姫と関わった時点で、なにかしらの「運命」に巻き込まれるのだろう。

 

 だが、中々面白味がありそうだ。だから何が起こるのかを楽しみにしているとも言える。

 

「しかし、便利だな。この子らは」

 

 我が弟子の作品。デフォルメされた2頭身の人形の使い魔。織姫から魔力供給出来ないため、この土地の霊脈から魔力を汲み上げて動いている。伽藍の堂の結界維持にも霊脈の魔力を使っているが、これくらいの小さな人形を常時動かしておくくらいのリソースを割く程度は問題ない。

 

 とにかく現時点の織姫が作れる最高の人形は、戦闘には耐えられないものの、人間の私生活の手助け程度は出来る。

 

 サイズが小さい分維持費が安い。なのに掃除や洗い物は勝手にやってくれる。四階の事務所と織姫の自室がある二階は、絶えず綺麗だ。

 

 人形は3体。黒髪と、赤髪と、紫の髪――。何処と無く特徴があるのは、それが身近な被写体だったからだろうな。

 

 

 

◇◇◇◇◇

  

 

 

 年が明けて、彼がやって来た。いつも隣に居た女の子を連れて。

 

 その女の子も眼鏡を掛ける様になったらしい。お揃いの格好をしているのが、少し羨ましかった。

 

 冬休みの間はバタバタしていて顔を出せなかった事を彼は謝ってきた。私の事を忘れないでいてくれた事が嬉しかった。

 

 お見舞い品と言って、彼は私に人形をくれた。誰かからの贈り物なんて、何年振りだろうか。

 

 何処と無く私に似ている人形。彼の手作りなのだとか。

 

 彼は自分以外の友達として、彼女を紹介してくれた。

 

 そして、彼女も私の様に彼に救われた娘なのだと見ただけでわかった。

 

 お手洗いに行くと言って、彼が居なくなると気まずくなる。きっと彼女は、私が彼とお友達で居ることをあまり良くは思ってないのかもしれない。

 

「ひどい人ですよね」

 

「え…?」

 

「織姫さんは、ひどい人です。わたしみたいな人を見ると放っておけないんでしょう」

 

「私は……。私も、そう思うわ」

 

 彼女は、今は居ない彼に向けて仕方がないと言わんばかりの苦笑いを浮かべていた。

 

 彼女と彼に何があったのか、私は知らない。でも、何となくだが、想像は出来てしまう。

 

 きっと、誰にも見つけて貰えない自分を見つけてくれたのだと。

 

 そして、温かい笑顔を浮かべながら手を引いてくれる。大丈夫だよと言って。

 

 それは確かに、とてもひどい人だと言えるのかもしれない。 

 

 どうしてもっと早く見つけてくれなかったのだろう。

 

 彼が彼女を連れてきてくれたのは善意なのだろう。でも、私には彼女の存在は毒だった。

 

 有り得たかもしれない私を見せつけられている様で。

 

「…織姫さんのこと、好きなんですね」

 

「……わからないわ。彼は、私にとって突然過ぎたもの」

 

 そう。このまま、この病室の中で朽ちていくと思っていた私にとって、彼は突然過ぎた光だった。

 

 まるで暗闇の中で突然ライトを点けられた様に。

 

 突然スポットライトを当てられて戸惑う私を、彼は手を取って、掬い上げてくれた。

 

「でも、良いの。私は、長くないから……」

 

 きっとこれは、私の人生の終末に見ている最後の夢なのだと思う。

 

 明日も知れない私が、最後に見たいと願った、幸せな夢。

 

「良いんですか? それで」

 

「だって、彼には私は必要ないもの。最後に私は独りじゃないって思える思い出をくれただけで、私は満足だもの」

 

 彼女は私に悲しげな瞳を向ける。それは同情なのではない。先行きの短い私を想ってくれる瞳だった。

 

「……また来週。いえ、明後日、お邪魔します」

 

 ただ、それが一転して力強く、何かを決めた真っ直ぐな瞳に変わった。

 

「どうして? 学校だってあるし、彼と居られる時間が減ってしまうわ」

 

「わたしは良いんです。織姫さんとはいつも一緒ですから。それに、せっかくお友達になれたのですから、もっと色々とお話をしたいです。だからまた明後日、わたしとお話をしてください」

 

 彼女は彼がひどい人だと言った。でも彼女もまた、ひどい人だった。

 

 二人揃って、ひどい人たちだった。

 

 彼と一緒に居られる彼女が羨ましい。

 

 でも、こんな私の生を望んでくれる人が出来た。

 

 だからもう少し、生きてみたいと願った。

 

 彼と並んで彼女と一緒に歩く姿を夢見てしまうほど、私の心には死ではなく、生の鼓動を感じるようになりはじめた。

 

 

 

 

to be continued…


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