普通ではないふじのんと普通ではないお友達   作:望夢

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何も起きないとは言ったが、かなりぶっ飛んでる内容なので読み手を選ぶ話になってしまった。すまない。


伽藍の洞 Ⅱ

 

 はじめに見えたものは天井。

 

 此処が病院であるのを理解するのは難しい事じゃなかった。

 

「二年…か…」

 

 随分と長い間、眠っていた。

 

 いや、「(わたし)」に言わせれば眠っていたのとは違う。ただ横になっていただけ。

 

 精神的には眠っていた。でも肉体は生きていたのだから、私は起きていたとも言える。二年間、外界を認識していた。

 

 でも、身体を動かすのは魂だから。私には肉体の使用権がない。普通の人は身体が勝手に自分の意思から外れて動くなんて事はしない。だから私も、身体を動かす権利が基本的にはない。

 

 でも、今は私の意思で身体を動かせる。

 

「起きたか、織姫……」

 

 時間は夜。とっくの昔に面会受付時間は過ぎている。でも彼女はさも当然の様にそこに居た。

 

「おはよう、橙子…」

 

「師をいきなり呼び捨てとはな。いや良い。私の憶測が正しければ今のお前は別の「何か」になっていると思うが。どうだ?」

 

「ええ。でも残念よ。私も境織姫だもの。両儀式を投影していたからとはいえ、別の何かにはなれない」

 

「そうか。それで、別の境織姫になったのなら、私の弟子はどうなった」

 

「わからないわ。私はただ肉体に宿された人格だもの。魂が何を考えていたのかはわからない。ただ私が私として表に出るはずのないものが出てしまっているのなら、魂の目論みは達成されているのかもしれない」

 

「そうか。近い内にまた来ることになる。余計な気は起こすなよ?」

 

 そう言って彼女は去っていった。余計な気。確かに余計な気かもしれない。

 

 私は肉体に宿った人格。魂のない私は理性なんてものがない。あるのは肉体の本能。人らしく見えて、人の皮を被っている化け物。

 

 私という存在を傷つけた相手に殺意を抱くのは普通のこと。

 

 人間は身体を傷つけられても、心が傷つけられなければ我慢が出来る。心が傷つけられても身体が傷つけられなければ我慢が出来る。

 

 ただ身体しかない私には我慢する為の心がないのだから我慢が出来ない。今は身体が満足に動かせないから我慢するしかないだけ。身体が動くのならば、きっと我慢することなんてしなかった。ただそれだけ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 織姫は私の予想通りになっていた。

 

 あの日の晩。織姫は一度死んでいた。現代医学ではどうあっても手遅れだった。

 

 それでも私という人体に精通していて、それなりの腕を持っている魔術師が居たことは僥倖なのか、それともそれを見越していたのか。すべて織り込み済みだとしたら、恐ろしいやつだ。

 

 織姫には藤乃の血だけではなく、藤乃の命も分け与えた。もちろん藤乃には影響がない程度であるし、私も師として少しだけ分け与えた。あれで藤乃だけに分けさせたら今度は藤乃の命が危なかっただろう。

 

 それで一命を取り留めた。肉体の死は免れた。しかし精神の死は別だった。

 

 私の処置によって織姫は自身だけでは為し遂げられなかった陰陽の属性を補完したのだろう。男の命に女の命を取り込むという荒業だ。

 

 それで陰陽を満たし、両儀となった織姫は、死という道標に従って魂を遡る。一度行った場所だ。ここまでお膳立てしていれば辿り着けたはずだ。

 

 ただそこからへの帰りはどうするのか。

 

 「  」はすべての終わりにして始まりと言われている。

 

 終わりに向かったのなら、始まりに戻る事も可能だろうが……。

 

 私と会話した織姫はそうして生まれたものだろう。会話すら成立するかわからなかったが、境織姫として生まれたものならば肉体の経験として言葉を話せたのは頷ける。ただ産まれたばかりの存在だから判断基準もなにもないだろう。余計なことはしないようにと釘を刺したのもその為だ。

 

 でなければ今の織姫は何を仕出かすかわからない。

 

 根源接続者――自分達の存在と引き換えにしてそれを産み出したとするのなら、それは悲惨なことだ。

 

 そうでもしなければ抗えない「運命」という敵。境織姫では抗えない相手に抗う事の出来る存在を創る。織姫には創るものとしての才能が有ったわけだ。

 

 おそらく今の織姫に話したところでその手の会話は成立しないだろう。「  」へと接続しているから多少は賢いだろうが、今の織姫は赤ん坊も良いところだし、何よりも魂が違うのだから記憶の参照も出来ないだろう。

 

 根源への到達を諦めた私の手元に、根源にたどり着いた者が居るのも皮肉な話だな。

 

 知らないから両儀式は中途半端になってしまった。

 

 知っているから境織姫は完璧になってしまった。

 

 知っているのも困り果てたものだ。

 

「気分はどうだ、織姫」

 

「どうもしないわ。今日も、何も変わらない。私の身体はどこも悪くはないのに。検査の毎日でウンザリよ」

 

 両儀式のカウンセリングをする一方で、知人であるということで私は織姫のカウンセリングも受け持っている。

 

 なにしろ織姫は記憶喪失として扱われている。

 

 両親の名前も顔もわからない。そうした記憶は産まれたばかりの織姫にはないからだ。

 

 今の織姫が参照出来る記憶は、投影魔術を使うようになってから連続通り魔事件に巻き込まれるまで。

 

 投影した人格が体験していた記憶だけだそうだ。

 

 それは今まで境織姫を構成していた魂ではないのだから、織姫が築いてきた記憶を読み取れないのも仕方がないのだろう。

 

「しかし私はお前とも会っているから疑問にも思うんだ。どうして今のお前は女なんだ?」

 

「私は「両儀式」の投影よ? 境織姫であっても「両儀式」でもあるのだから、女であっても変ではないでしょう? まぁ、身体が男なのは少し不便ね」

 

 男の身体に女の存在を投影する。両儀へと至るためにしていた強力な自己暗示にまでなっていた投影魔術。

 

 本当に筋金入りのバカだった。

 

 ただそうすると、織姫が投影していた両儀式が何故男言葉を使っていたのかの疑問が埋められない。今の言い方からすれば、私が会っていた時にも女言葉でなければ辻褄が合わない。

 

「それもそうよ。両儀式であっても「両儀式」じゃなかったもの。「両儀式」になる為には両儀式になるしかなかった。たとえそれで自分が消えてしまうとしても」

 

 バカな子達でしょ? そう織姫は笑った。まるで愛しく慈しむ様に。

 

「だがそれならお前は両儀式になるはずじゃないのか?」

 

「それもちょっと違うわ。私は確かに「両儀式」の投影だけれど、私は境織姫だから、「境織姫」という形に落ち着いたとも言えるわ。実際、私は境織姫としての自意識を持っているもの」

 

 言葉遊びの様な言い方は要領を得ない。いずれにせよ、今の織姫は扱い方を間違えれば世界が破滅する爆弾なのは確かだ。

 

 「  」へと接続しているのなら、この世の終わりを創るのも、始まりを創るのも織姫の意のままだからだ。

 

「それよりも橙子。出来ることなら私か隣の娘の部屋を変えるのをオススメするわ。私は良いとしても、今のあの娘は私に引っ張られるのは良くないもの」

 

「どういうことだ?」

 

「あの娘は欠けてしまっているから。その欠けた部分に入り込もうとする輩が出てくるわ」

 

 織姫の隣の病室は両儀式の病室だ。そして壁越しに両者は頭を向かい合わせている。それは病室の構造上の偶然なのだろうが、そこまで出来すぎならいっそ作為的な物すら感じてしまう。

 

「なにか知っているのか?」

 

「いいえ。でもわかるのよ」

 

 そう言った織姫の眼の色が変わっていた。何を視ているのかはわからないが、何かを視たのだろう。

 

「わかった。だが部屋を直ぐに移すのは難しいな。となれば守護のルーンでも用意するか。……お前の方も必要か?」

 

「そうね。この身体はまだ満足には動けないから貰っておくわ」

 

 意外、と思いながらも、織姫の身体は普通の人間だった事を思い出す。根源に接続しているとはいえ、そう簡単には変わらないのだろう。あるいは変えることを本人が嫌っているか。あくまでも織姫の目的は藤乃の運命を変える事だった。なら、考えている程心配することはないのか。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 織姫さんが眼を覚ました。それを聞いて心の底から安堵し。そして記憶喪失だと聞かされて、暫く呆ける事しか出来なかった。

 

 織姫さんの様子を見て来た橙子さんから伝えられた織姫さんの現状。

 

 織姫さんが目覚めた事はとても嬉しいことなのに。

 

 嬉しさではなく、悲しさから、泣いてしまいそうだった。

 

 会う気なら覚悟しておけと橙子さんに言われながらも、霧絵さんにも会いに行くわたしは病院へは行かないという選択肢はなかった。

 

 病院へ行って先に霧絵さんに会おうと思ったものの、今日は調子があまりよろしくはないようで眠っているということだった。

 

 ここまで来てしまった手前、わたしはひとりで織姫さんと会うことを決めた。

 

 記憶喪失ということは、織姫さんはわたしの事も忘れてしまっているのだろうかという不安が胸を締め付ける。

 

 実際、織姫さんは両親の事を覚えてなかったという。

 

 人にとって一番身近な家族の事を忘れてしまった織姫さんが、わたしの事を覚えているという可能性は極めて低い。それこそ織姫さんにとってわたしはただの他人になってしまっているかもしれない。

 

 怖い。怖いけれど、このまま会わずにいる事をしたくはない。

 

 勇気を出して、わたしは織姫さんの病室のドアを叩いた。

 

「……どうぞ」

 

 二年振りに聞いた織姫さんの声は変わらず穏やかなものだった。

 

「そろそろ来る頃だと思っていたわ」

 

 ベッドで身を起こしていた織姫さんは、二年間で伸び続けた髪の毛のお陰で女性にしか見えない姿になっていた。そしてその穏やかな顔も声も、女性らしいと感じる。

 

 まるで織姫さんの中身が入れ替わってしまったように。確かに織姫さんであるのに織姫さんではない。そう感じるのだ。

 

「織姫さん、ですよね」

 

 病室を間違えてはいない。なら目の前に居るのは織姫さんなのに、どうして女性言葉を話すのだろう。

 

「ええ。まぁ、驚くのも無理はないでしょうね。でも私が境織姫なのは確かよ。といっても、私にある記憶は橙子の他にはあなたと霧絵だけ。私の生まれた後に関わった人間はたったそれだけだもの」

 

「わたしのこと、覚えているんですか…?」

 

「覚えている、か。記憶喪失にされてしまってはそうなってしまうけれど、別に記憶喪失というわけでもないわ。ただ、私にはそれだけしか記憶がないだけ」

 

 取り敢えず座りなさいと、織姫さんに薦められて椅子に座る。まじまじと織姫さんはわたしを頭から爪先まで見つめる。見た目は織姫さんなので、そんなに見つめられると恥ずかしくなってしまう。

 

「綺麗になったわね。こんな良い娘に好かれて、あの子達は幸せ者ね」

 

 まるで他人事の様に言う織姫さんは、慈しみを込めた笑みを浮かべていた。場違いにも綺麗だと思ってしまう。

 

「ごめんなさい。折角会いに来てくれても、あなたの知っている境織姫は此処には居ないの」

 

「……いえ。…覚悟は、してました……」

 

 嘘だ。目の前の織姫さんは、わたしを知っている様に言うけれど、わたしの知っている織姫さんではないと嫌でもわかってしまう。

 

「酷いでしょう? 私はあなたを知っている。でもそれはあなたにはなんの慰めにもならない」

 

「……織姫さんは、どこに…」

 

「わからないわ。私が居るからなのか、あの子達が居ないから私が居るのかも」

 

 俯くわたしに、織姫さんが手を伸ばして、わたしの手を包み込んでくれる。二年前に片腕をなくしてしまったから、片手の感触しかないけれど。その仕草も、手触りも、わたしの知っている織姫さんだった。でも、わたしの知っている織姫さんは此処には居ない。

 

「…もうここには来ない方が良いわ。思い出しても、辛くなるだけよ」

 

 織姫さんはそう言って、わたしから手を離そうとして。わたしはその手を握り返した。

 

「それでも、あなたが織姫さんなら、わたしのお友達であることに変わりはないですから…」

 

「私の話を聞いていたの?」

 

 手を取った織姫さんは、優しくわたしを否定した。

 

 でも、ここで織姫さんの手を離してしまったら、きっともう会えないと思ってしまったから。来週、織姫さんのお見舞いに来ても、織姫さんは退院してしまっていて、誰にも何も告げずに居なくなってしまって。きっとまた、血塗れで、何処かで見つかるのだろうと思ってしまったから。

 

「今の織姫さんだって、わたしの事を知っているのなら、わたしのお友達なんです」

 

「……ホント、暴走ダンプカーみたい」

 

「え…?」

 

「人の話を聞かないバカな娘ね、って言ったの」

 

 呆れた様子で溜め息を吐くのは、やっぱりわたしの知る織姫さんだった。

 

「そもそもどうしてあなたは私を受け入れるの? あなたからすれば、二年振りに会話した相手がいきなり女言葉で話してくるのよ? 普通、気味が悪いとか気持ち悪いとか関わりたくはないって思うものでしょう」

 

 批難がましくわたしを睨む織姫さん。

 

 わたしは織姫さんの言うようにバカなのかもしれない。

 

 というより、織姫さんはやっぱり織姫さんなのだ。織姫さんが言ったように、口調が変わっていても、織姫さんは織姫さんだった。

 

「だって。わたしは、藤乃は普通じゃないですから。ちょっとした普通じゃないことなんて、わたしには普通のことですから」

 

「………ホント、バカな娘」

 

 心底呆れたと言わんばかりに言葉を紡ぐ織姫さん。たとえどんなことを言われても、浅上藤乃が織姫さんを拒む事は有り得ないのだから。それを織姫さんだって知っているはずだ。もしそれを忘れてしまっているのなら、今この瞬間にまた覚えて貰えば良いだけだ。

 

「ふふ。はい。藤乃はバカな子です。でも、そんなバカな子にお友達になろうと言ったのは織姫さんなんですよ? なら、織姫さんはわたし以上にバカな人ってことですね」

 

「それは私が言った事じゃないから知らないわ。……でも、そうね。やっぱりダメね」

 

「織姫さん…?」

 

 織姫さんに手を引かれると、わたしはそのまま織姫さんの胸元に抱き寄せられていた。

 

「境織姫はあなたを愛していたのだもの。だからあなたを嫌いになることも、避けることも、離すことも出来ないの」

 

 織姫さんではなくても、織姫さんは織姫さんなのだから、やっぱり織姫さんだった。

 

「私にある記憶はほんの少ししかないけれど、それでも私にある境織姫の記憶には、あなたを愛している記憶しかない。それがどれだけあなたを傷つけるとわかっていても、私はあなたに対して負の感情を抱けない」

 

 織姫さんは独白を紡ぎながらわたしを抱く力を強くしていく。とても強くて、強くて、苦しくて。

 

 それでも、言葉と身体から織姫さんの想いが伝わってくる。

 

「執着はしない主義なのだけれど、やっぱり私も境織姫と自分を認識してしまった時点で、あなたに対しては境織姫の価値観に引っ張られてしまうようね。でもそれも仕方がないわ。私はあなたの為にあの子達が産み出した存在だもの」

 

「織姫さん…?」

 

「…ごめんなさい。いきなり色々と言われてもわからないでしょうね。でもそれで良いの。心配だったけれど、会ってしまえば何て事もなかった」

 

 身体を離した織姫さんは不安げに、それでもどうにか伝えようと、自身のない上目遣いはやっぱり織姫さんだった。

 

「もし良かったら、私とも、お友達になって欲しいの。ダメ、かしら……?」

 

 ガバッと、もう色々と我慢できなかった。それは卑怯すぎる。

 

「藤乃……?」

 

「もう。織姫さんは、どんな織姫さんも、織姫さんは酷い人です…」

 

 織姫さんに頼まれたら、わたしは、藤乃は、断れないのを知っていて、そんな事を言うのだから。

 

 押し倒した織姫さんを見下ろす。織姫さんは女の子の様にも見える人だった。気弱で臆病な人だった。

 

 でも、それでも男の子なんだと感じる芯の強さを持っていた。

 

 それを感じない今の織姫さんは、見た目通り女の子の様に儚くて。

 

 あぁ、こんな織姫さんをイジメたらどんな顔をしてくれるのだろうか。

 

「……忘れていたわ。あなた、見掛けは文学系に擬態する肉食動物だった」

 

「覚えているんですか…?」

 

「ええ。その手で、指で、舌で。散々この身体を犯して、汚して、壊して、貪って。仕方がないわね。猛獣の目の前に新鮮な肉を吊るして置くような事をしたのは私だもの」

 

 織姫さんを押し倒したわたしに腕を伸ばして、その腕は首にまわされた。

 

「でもここは病院よ? 誰かに聞かれてしまうかも」

 

「大丈夫ですよ。織姫さん、声を殺すのは得意でした」

 

「知っているわ。そう、私も境織姫。殺すことは得意よ?」

 

 そう、織姫さんは殺すことが得意なのだ。織姫さんはいつだって浅上藤乃を殺すのだ。

 

 見つめ合って、不敵に笑って見せる織姫さん。

 

「わたし、止まれないかもしれません…」

 

「そうね。私を壊したくて堪らないって顔になっているわ」

 

 織姫さんの手が、わたしの頬に触れて、細い親指が口許をなぞる。

 

 身体が段々と熱くなってくる。鼻ではなく、口で息をする様に荒くなっていく。

 

 それでもやっぱりここが病院であることが、最後の一線を踏み留まらせる。

 

「意外と我慢強いのね。それとも、私が女だから気になるのかしら」

 

「そうじゃ、ありませんよ…」

 

 織姫さんは織姫さんではない。でもやっぱり織姫さんだった。それをわかってしまったわたしは、たとえ目の前の織姫さんが女の人でも構わない。織姫さんを壊したいと思っているのがその証拠なのだから。

 

「ふふ。こんなことをするから、私は藤乃が言ったように、藤乃以上にバカなのかもしれないわね」

 

 そう言った織姫さんは、虚空に向かって、何かを裂く様に手を振った。

 

「何をしたんですか?」

 

 わたしは魔術に詳しくはないけれど、織姫さんが何かをしたのはわかった。だって、織姫さんの眼が蒼い光を放っているのだ。その眼を、同じ様な眼を、わたしも持っているから。

 

「私は殺す事が得意なの。特に私に降り掛かる「死」を視る事に長けているの。だから私に降り掛かる「死」を観測して殺したの。バレてしまったら、私も藤乃も、社会的に「死んで」しまうでしょう?」

 

 なんてデタラメな人なんだろう。昔から何処か遠くへ行ってしまいそうな眼をしていた織姫さんだけれど、文字通り遠いところに行ってしまった。

 

「置いて行かれた気分です……」

 

「解釈の差よ。あなたの眼も、あなたの解釈次第で出来ることは山程あるの」

 

 そう言って、織姫さんはわたしから眼鏡を取ってしまった。

 

「さっきのこと。織姫さんは未来を殺した様にも聞こえるんですけど」

 

「それが私の「死」に関わるものだからよ」

 

「とんでもない屁理屈を聞いた気分です」

 

「別に止めても良いのよ?」

 

「いいえ。止めません」

 

 お友達になったばかりでこんなことをするなんて。それはとてもいけないことだとわかっている。

 

 でも相手は織姫さんなのだから仕方がない。織姫さんでなくとも織姫さんなのだから。

 

 浅上藤乃は、織姫さんのすべてを愛しいと想っているのだから。

 

 

 

 

to be continued…


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