朝のニュースで殺人事件が報道された。
こう言っては犠牲者に失礼だろう。でも、殺人事件の報道はそこまで珍しいものじゃない。月に1度、或いは週に1度は日本の何処かしらで殺人事件があったのだと報道される。
ただそれが、この観布子市で起きた事だと知ると、僕の脳裏に過ぎるのは二年前の出来事だった。
遺体は鋭い刃物の様なもので切断されてバラバラになっていたそうだ。
いくつかの局では二年前の連続通り魔事件の再来なんじゃないかと煽り立てるところもあった。この二年間、観布子市を騒がせる殺人事件なんて起きていなかったからだろう。
身仕度をして部屋を出ると、式が待っていて、なんだかほっとしてしまった。
「遅い…」
そんな式はいつも通り不機嫌だった。
「おはよう、式。ごめん、ちょっとニュース観てて」
「ニュース…?」
珍しく式が関心を寄せてきた。いや、僕も少し時間を忘れてそのニュースに関心を寄せていたからだろう。だからいつもより10分遅刻だ。
「殺人事件。駅の方の路地裏であったらしいよ。殺されたのは四人。犯人は今のところ不明。鋭い刃物で身体がバラバラにされていたらしいよ」
「ふーん…」
「いや、ふーんって。食いついた割に無関心じゃない?」
「別に。誰が誰を何人殺したって、オレには関係無いからさ」
確かに式の言うことは尤もだ。殺人事件だからといって、それは式には関係無いことだ。
「それよりさ。そんなどうでも良い理由でオレは待ちぼうけさせられたんだぜ? どうしようかな。今此処で殺人事件でも起こそうか?」
「あはは。ごめんなさい」
こう言うときは素直に謝るに限る。ちょっと物騒だけれど、それは式なりの表現の仕方なんだろう。
そうだ。式には関係の無いことだ。
「殺人事件の事、そんなに気になるの?」
事務所に出勤して、コーヒーを飲みながら書類整理をしている傍らで、織姫が僕にそう言ってきた。
「あはは。僕そんな分かりやすいかな?」
「事件のニュースが映っているテレビに、しきりに目を向けていれば誰にでもわかるわ」
いくつものテレビが積み重なって置かれている階段下の目の前のテーブルで仕事をしていた僕の前に居る織姫だからわかってしまうのか。
仕事をしている傍らで、僕は脇目に新しい情報がないかと気にしていた。
確かにそれじゃあ、僕は事件の事が気になっていますと言っているようなものだった。
「そんなに気になるなら調べてくれば?」
「おい、トウコ…!」
橙子さんの提案に、奥の部屋に行く階段の手摺に背中を預けていた式は、橙子さんを睨んだ。
「放っておいても勝手に調べに行ってしまうでしょう。心配なら付いていけば良いのに」
「うるさい……」
今度は織姫に対しても、まるで唸り声が聞こえて来そうな顔を向けていた。どうして式はこうも織姫を嫌っているのか僕には見当が付かなかった。
「所員のプライベートにまで口を挟むつもりはないけれど。調べるのなら式か、都合が悪いのなら織姫を連れて行きなさい。別々の場所でならともかく、1度に四人も殺せる相手なら、幹也クンは出逢った瞬間に殺されてしまうわ」
確かに。人を殺した相手なら1対1でも僕は殺されてしまうだろうけど、抵抗は出来るかもしれない。
ただ、単純にその場で自分の四倍もの相手を殺せてしまうのなら、僕なんかは抵抗する暇なんてないだろう。
「私は大抵暇だから、声を掛けてくれれば付き合うわ」
「うん。ありがとう」
式は学校への復学もあるし、もし式の都合がつかない時は織姫にお願いしようと思う。
僕の方が歳上なんだけど、織姫も荒事は得意なのだとか。そりゃ、目の前でいくつもの人形を操って、その人形から火を出したり電気を出したりした光景を見せられたら、僕なんかよりも荒事は得意だと思ってしまう。
「ふん…」
ただ今日は式に頼もうかな。そうじゃないと、この事務所で殺人事件が起きそうだ。
◇◇◇◇◇
「しかし、殺人事件とはね。今時珍しいものでもなかろうに」
タバコに火を点けながら呟く。
確かに1度に四人は人目を引き易いだろうが。
「仕方がないわ。人は常識の中で生きるものだから非常識には惹かれてしまうもの。そんな非常識を軽く流せてしまうのは、それがその人間の常識である時か、その人も異常であるから。そうした意味では、コクトーは普通の反応ね」
「その割にはお前も気にしている様子だが?」
常識が服を着て歩いている様な黒桐が殺人事件を気にするのも仕方がない。黒桐にはそうなるだけの背景を持っている。これがただの殺人事件なら、そんなことがあった程度で流せてしまうのだろうが、犯人も不明で複数人、しかもこの街で起こってしまった事だから黒桐も気にするのは仕方のないことだった。
だが非常識が服を着ている様な織姫が殺人事件を気にするのは変だろう。先程の言い分なら、織姫は殺人事件を軽く流せてしまうはずだ。それとも、織姫にもそう気にするだけの理由があるのかだ。
「非ずものでも常識はあるわ。それすら無いものは、本能で生きている獣と同じよ」
つまらないことを言わせるなと言わんばかりに、今の織姫にはトゲがあった。
◇◇◇◇◇
仕事が終わったその足で、僕は殺人事件の現場に立ち寄った。と言っても、遠くから見る位だった。現場にはまだ警官が居たから仕方がない。
現在わかっていることは、その殺された四人は市内の高校に通う学生。現場付近で夜遊びをしていた一団らしい。薬の売り買いにも手を染めていたとかで、ニュースキャスターにマイクを向けられた関係者が被害者の生前をそう語っていた。
前日の夜。つまり殺された日の夜にも彼らは現場から少し離れた駅の近くで遊んでいるところを目撃されている。その時刻は八時。つまりそれ以降に殺された事になる。
現場は人通りが少なくなる路地裏とはいえ、全くないわけでもない。それでも今のところ目撃者が居ないとなると、人通りが途絶える深夜に殺された可能性がある。
遺体を見た人に話を聞けたところによると、頭と手足が切断されていたらしい。
殺しただけでなく、そんな事までするのなら、確かにマスコミの言う二年前の連続通り魔事件の再来だと思ってしまう。
ただ、刃物で人の首や手足を切るだなんて相当力が要る作業だろう。そんなことを四人分の労力を使ってやる理由がわからない。それこそ、自分はそんな事を出来るんだと示しているみたいだ。
仕事上がりだからそこまで時間は掛けなかった。式を連れまわして夜遅くまで街を歩くのもどうかとも思ったからだ。
「幹也、今日は泊まっていけ」
「え? どうしたの、急に」
「いいから…」
式をアパートまで送り届けると、有無を言わさずに部屋の中に引き込まれてしまった。
式の様子は見てもわからないけれど、これは式なりに僕を心配してくれているのだろうか。
「うん。じゃあ、今日は泊まるよ」
断っても明日が恐そうだから泊まることにする。
ただ式の部屋は本当に寝泊まりするだけの部屋という感じで、ベッドと電話と冷蔵庫以外に部屋に持ち込まれた物はないという有り様だった。
全く娯楽のない寂しい部屋に、これなら自分のアパートに式を連れていった方が良かったかと少し後悔した。
式の部屋で一泊して翌日。
昼過ぎに出社した事務所は少し大所帯だった。
橙子さんと織姫が居るのは、この事務所兼自宅の住民だから当たり前として。
そこに藤乃ちゃんが居るのは今日が土曜日だから自然な光景だった。
そして、上京してきた我が妹の鮮花まで居る。
鮮花は僕の知らないところで橙子さんと繋がりがあったらしい。
そして藤乃ちゃんとも交友があった。鮮花が藤乃ちゃんも通っている礼園女学院に転入したのだから面識があっても不思議ではないが。世間は意外にも狭いと、まさか自分がそんな立場を経験するとは思わなかった。
「あ、おはよう兄さん! っと、なんで兄さんと一緒にいるのよ…」
「別に良いだろ。昨日泊まらせたから一緒に出てきただけだ」
「とまっ!? 兄さんどういうことですか!」
僕が式の部屋に泊まったと式から聞かされると、鮮花は凄い形相で僕を見た。
「いやまぁ、昨日は帰りが遅かったから泊めて貰ったんだよ」
取り敢えず嘘は言ってはいないと思う。式の部屋に着いたのも7時くらいだったし。
「おはよう、コクトー」
「おはようございます、先輩」
「うん。おはよう、織姫、藤乃ちゃん」
テーブルの周りにあるイスに座っている織姫と藤乃ちゃんに挨拶をする。何やら織姫は何かしている様子で、その隣でその様子を藤乃ちゃんは見ているらしい。
二人が並んでいる姿はこの事務所で目にするのも何度目かになるけれど、初めて見たときは昔と変わっていないことにほっとした。
「出来た…。鮮花!」
「なに? うわっ!?」
事務所の入り口で式と何故か対峙している鮮花。昔からなんでか鮮花は式を苦手としている。
そんな鮮花を織姫が呼ぶと、振り向いた鮮花の顔に何かが張りついた。
「プレゼントよ。持って行きなさい」
「これ、私の人形…? え、動くの!?」
「私は冠位人形師蒼崎橙子の弟子よ? 動く人形なんて珍しくもないでしょう」
鮮花の顔に張りついたのは二頭身にデフォルメされた鮮花の人形だった。子供向けの可愛い人形なのに鮮花だとわかるのは、髪型とか着ている服が鮮花の物だからだろう。
鮮花の手の内から抜け出して、他の動いている人形に加わっていった。この事務所の日常的な不思議な光景は、童話みたいに人形がひとりでに動いている所だ。
それを作っているのは織姫で。他には橙子さんと藤乃ちゃんの人形もある。動いているところは見たことがないけれど、橙子さんの机には織姫の人形もあったりする。
「まぁ、動くのはこの伽藍の堂の中だけだ。外では魔力を込めない限り無闇矢鱈に動かんさ。……動かないよな?」
と、そんな少し不安な事を言うのは橙子さんだった。確かにこの事務所でならこの光景は普通だけれど、外で人形が勝手に動いてしまったら、ファンタジーかホラーになってしまう。
魔力とかファンタジーな言葉が飛び出してくるから、織姫の作る人形は橙子さんの人形と同じで普通じゃないらしい。
「それだと意味がないから、鮮花に渡した人形には魔力を貯蔵しておけるようにしておいたわ。動かしたい時は強く念じなさい。最近はなにかと物騒だもの。鮮花は可愛いのだから、万が一がないとも限らないでしょう。そんな人形でもお守りくらいにはなるわ」
「か、かわ、って、いや、まぁ、ありがとう…。貰っておくわ…」
可愛いと言われたのが照れ臭いのか。ちょっとそっぽを向いたけれど、ちゃんとお礼は言えたみたいだ。
式の事が苦手らしい鮮花だから少し心配だったけれど、織姫とは仲良くやっていけそうで安心した。
「えーっと、それって。その鮮花の人形も火を出したり電気を出したりするの?」
「ええ。でなければお守りの意味がないもの」
織姫が指を振ると、鮮花の人形が僕のところにやって来て、右手から火を出した。火だから熱いとわかるのに人形は燃えないのが不思議だ。
でもそんな勝手に動いて火を出す人形をお守りと言ってしまっても良いのか頭を悩ませた。お守りと言うよりホラー映画の呪いの人形じゃないよね?
「それよりどうだった。何かわかったか?」
「なにか調べごとですか?」
「殺人事件の事が気になるんですって」
「兄さん?」
「うっ」
橙子さんの言葉に鮮花が訊ね、用件を織姫が話してしまうと、鮮花が僕を睨んできた。
「殺人事件を調べるなんて。兄さん、警察でもなければ探偵でもないでしょ。お願いですから、余り危ないことには首を突っ込まないでください!」
「ま、まぁ、うん。わかってるよ。でも式が居るから大丈夫だよ」
「なんでそこで式が出てくるんですか!」
式の名前を出したことで鮮花の剣幕が増す。いや、僕にしても橙子さんに連れていけって言われただけだし。その理由はわからないけれど、橙子さんが言ったのだから意味はあるんだろう。
「きゃあああ!?!? な、なにするのよ織姫!!」
「ほら、私の腕から逃げられないくらいじゃ、コクトーは守れないわよ?」
何故か織姫が鮮花を横抱き、いわゆるお姫様抱っこなるものを敢行した。いや、なんでさ。
「も、もう! そう言うことは藤乃にやってあげなさいよ! あと恥ずかしいから降ろしてっ」
「あら。藤乃にはもっと凄いことしてあげてるから良いのよ。ね? 藤乃」
「わ、わたしに訊かないで、ください……。…お姫様抱っこ……わたし、してもらったことないのに……」
「ほら見なさい! 藤乃落ち込んじゃったじゃないの!」
「あらあら。ちょっと陰のある藤乃も良いわね」
「こン、バカぁぁぁ!!」
じたばたと暴れる鮮花を抱えたまま、織姫は藤乃ちゃんのもとに行くと、なにかを話して、そして藤乃ちゃんも立ち上がって事務所の出口に向かっていく。
「ちょっとお茶してくるわ」
「だから、もう、降ろして……。わかったから、参りましたから……」
「次は、その、わたしも良いですか……?」
「ふふっ。ええ、良いわよ」
「お土産よろしくねー」
橙子さんにお土産を催促されながら、鮮花と藤乃ちゃんを連れて事務所を出ていく織姫は、最後に振り向いて僕に向かってウィンクして行った。
「ようやく静かになった」
そう言って式は奥の部屋に行く階段の手摺に背中を預けた。まぁ、織姫のお陰で助かったのは事実かな。
「コーヒーがてら話を聞きましょうか。淹れてちょうだい」
「あ、はい。わかりました」
鮮花にはまたあとでフォローを入れておくとして。僕はコーヒーを淹れたあと、橙子さんに昨日の時点でわかったことを伝える。
「なるほど。確かに態々死体をバラバラにするのは、それ自体が世間に対するメッセージになってしまう。二年前の連続通り魔事件と同じ様にな」
「でも。そうしてまでする意味はなんなんでしょうか。もし犯人が二年前の事件の犯人だとしたら、また自分が人殺しを始めたって態々警察に知らせる様なものですし」
「或いはそう思わせる意図があるかもしれんぞ? 二年前も今回も、犯人像なんてものは何一つない。確かに1度に四人は普通じゃないと思われるから、この土地の普通じゃない人殺しに結びつけてしまうのは仕方のない事だがね」
橙子さんの言う通りだ。僕自身、そうして二年前の連続通り魔事件に結びつけようとしてしまっている。昨日は調べる時間も少なかったし、情報は全然出揃っていない。今回の事件と、二年前の事件を結びつけるなんてそれこそ根拠のない妄想の類いでしかない。
「式。今日も付き合って貰っても良いかな?」
「…まぁ、暇だしな。付き合ってやるよ」
取り敢えず、また仕事終わりに調査だ。それで式が泊まっていけって言いそうなら、今度は僕のアパートに連れていこう。
◇◇◇◇◇
「もう。せっかく幹也に会えたのに! どうして邪魔するのっ」
アーネンエルベに着いた私たちは、というより鮮花が手当たり次第に注文し始めた。怒りを沈めるためにやけ食いするらしい。
「だからお詫びにこうして奢ってあげているじゃない」
「こんなことで私は騙されませんからね!」
そう言いながらも鮮花はガツガツとケーキを平らげていく。鮮花を連れ出したのはなんとなくだった。強いて言うなら、彼女の為?
「もう織姫は私の敵よ! 両儀式だって。なんで『シキ』って名前は私の敵しか居ないの!」
「でも鮮花。式が強いのは本当の事よ? 今の鮮花が100人居ようが1000人居ようが勝てないわ」
「そんなこと…」
「あなたはまだまだ普通の女の子だもの。私に勝てない様なら、あの娘にも勝てないわ」
「そうは言っても。織姫は身体は男じゃない。力じゃ勝てないわよ。そんなの反則」
「確かに身体は男でも、あの娘の方が強いわ。普段なら」
「なんか含みのある言い方ね…」
まだ魔術を習い始めたばかりの鮮花に、さてどう説明しようかとも悩むものの、実際に見せてしまう方が早い。
「そうね。鮮花はこのナイフをこの場で壊せる?」
そう言って私は備え付けの食事用ナイフを鮮花に手渡した。
「それは……無理よ」
「まぁ、そうでしょうね。ちなみに私とあの娘と、藤乃はこの場でも壊せるわ。橙子も出来るでしょうね」
「うぅ…」
ちょっと意地悪だったかもしれない。でもそれくらい分かりやすい方が実力が違うのだとわかって貰えるだろう。
「私とあの娘の能力は同じ。私達は物の「死」を視れるの」
また別に取り出した食事用ナイフを手に取って、鮮花の手に持つ食事用ナイフと打ち合わせる。鉄同士が鳴らす音を聞いてもらったところで、鮮花の持つ食事用ナイフを殺す。
「うそ……。だって今…」
「鉄だけじゃないわ。この眼はありとあらゆる物を殺す事の出来る眼なの。ただの人間じゃ、まず太刀打ちは出来ない」
殺した食事用ナイフを拾って、投影魔術で同じものを創り出す。この世で最も力の無駄遣いした気分だけれど、これなら鮮花も納得はするでしょう。この娘の常識はまだ一般人だから。
「だったら、織姫を倒せる様になれば、両儀式だって倒せるってわけね?」
「まぁ、そういう理屈になるでしょうけど。普通そこは諦めたりするものでしょう」
「お生憎さま。その程度で折れるほど、私が兄さんに向ける想いは安くはなくってよ。それに、織姫を通して両儀式の弱点だって知れるんだもの。私の邪魔をした敵を纏めて倒せる様になるんだから一石二鳥よ!」
納得させるどころか焚き付けてしまった様子。藤乃とはまた別方向でこの娘もおバカさんなのだろうか。
「覚悟してなさい織姫! 先ずはあんたから倒してやるんだからっ」
背中で炎でも燃えてそうな鮮花に指差し指名されてしまう。
「あの、鮮花…」
「なによ?」
「周りの皆さんが、驚いています…」
「ふえっ!?」
途中からヒートアップし過ぎて今の鮮花は注目の的になっている。それに気づいた鮮花は顔を赤くさせるけれど後の祭り。
「も、もう! 織姫の所為で赤っ恥じゃないっ」
「ふふっ。鮮花は面白いわね」
「面白くない!」
「あぁ、だから鮮花、少し落ち着いて。織姫さんも煽らないで…」
「だって可愛いのだもの」
「あとで覚えてなさいよぉ…っ」
喚く鮮花と、それを落ち着かせようとおろおろする藤乃。それを見て笑う私。
中々騒がしくも楽しいお茶会はあっという間に過ぎて行く。
鮮花を連れて1度事務所に戻って、鮮花には橙子へのお土産を持たせて私達は病院へ向かう。
週に1度、霧絵のお見舞いに行くけれど、霧絵はまだ眠ったまま。飛んでいる霧絵を迎えに行かなければ戻って来ないのだろう。
ただ、飛んでいる霧絵が何処に居るのかがわからない。でもこのままだと霧絵は死ぬ。
冷たい地面に紅い華を咲かせて横たわる霧絵の姿が視えてしまったのだ。
この眼で視えてしまった霧絵の終焉はそう遠くない内に実現してしまう。なにしろ終焉を視てしまう眼なのだから。
だから私は霧絵を探して夜の街を歩く。
霧絵が視た俯瞰の風景を探して。
でも、それを邪魔する者が居るから。私はまた、剣を握った。
to be continued…