普通ではないふじのんと普通ではないお友達   作:望夢

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ふじのんかわいよふじのん。

物語を考えて寝ると、その内容を夢に見るらしく、ふじのんの夢を見れたからモチベーションは高いものの、ふじのんに首を絞められるというなんともアレな夢で、起きたら毛布で首が絞まっていたというちょっと危ない状況だったものの、絞められた首を解いて血流が戻る時のジーンとする感じはなんか気持ちいいんですよね。まぁ、良い子の皆は真似しちゃダメだぞ?


浅上藤乃とお友達Ⅱ

 

 人生というものは魂の試練だという考え方がある。

 

 どんな人生でも、その魂が乗り越える為の試練であり道筋であるというものだ。

 

 だからその試練を途中放棄してしまった自分は、さらにキツい人生を歩むことになったのは必然であったのかもしれない。試練に耐えられずに逃げ出した自分に、神様が天罰を与えたのだろう。

 

 転生によって望まぬ第二の人生を送ることになった自分の心は、ハッキリ言って死んでいるのも同然だった。

 

 自殺を選んだ自分が生まれ変わった所で、その記憶を保持しているのなら、生活環境が一変してただ身体が若返った程度の違いでしかない。

 

 僕は他人が恐い。だって他人は僕を傷つけるから。精一杯頑張ってもその頑張りは評価されない。結果が他人より劣っているから。他人と同じ結果を出すのに他人より少し時間が掛かってしまうから。何をどうしても自分は他人に劣る人間だった。その度に他人とは上手くいかない結果を味わうことになる。他人というものは、僕を否定する(殺す)存在でしかなかった。

 

 自分なりに手を尽くしてもどうにもならないという結果にいくつも辿り着く。何度も何度も、自分なりに立ち向かってみた。それでもすべて無駄だった。だから他人と関わらない様にする為に、自分を終わらせた。終わらせた筈なのに。

 

 それでも再び他人と関わらなければならない自分を少しでも守るために『代わり身』のオレが存在する。或いはオレはこの世界で生まれ育つ筈だった境織姫という存在だったのかもしれない。それは考えた所で誰にもわからない。ただ言えることは、オレは自分自身を守るために生まれた存在であるというくらいだ。

 

 他人に劣る様なこともなく、せめて普通の人らしく過ごせる様な、自分には出来なかった完璧な自分を想像し、投影して生まれた人格。

 

 普段の生活においては基本的にオレが立ち回っている。人格を交代させるのは家の中の、自分の部屋という絶対的に安全な場所でだけだ。なにしろ二重人格なんて爆弾を両親に抱えさせるわけにもいかない。

 

 両親さえオレの事は知っているが、僕の事は知らない。つまり浅上藤乃に対してオレとしてではなく、僕として友達になって欲しいと言ったのは、それこそ作り物のではないありのままの彼女と友達になりたいと思うのなら、自分もありのままで申し入れる事が筋だと思ったからだ。

 

 どうして彼女と友達になりたいと思ったのか。他人が恐い筈の自分が何故、彼女を恐いと思わないのか。

 

 それはきっと、自分が彼女を一方的にだが知っている存在だからだろう。何も知らない他人は、何を考えているのかわからない。それは当たり前の事で、その当たり前の事が自分には耐えられない。だからその当たり前ではなく、何処の誰かではなく、創作物の登場人物という特別な彼女だからこそ、きっと自分は彼女に、他人に対して感じる恐怖を感じないのだろう。僕は酷い人間だ。

 

「境さんはどうして、わたしとお友達になろうと思ったんですか?」

 

「ん…?」

 

 給食の時間。小学生の様に周りと机を合わせてグループを作る様な事はなく、自分の席の近くの相手と机を並べるかする程度。思春期に差し掛かって、男女差の意識が芽生え始めるそんな時期。

 

 それでも、男女であっても友人となった自分と浅上藤乃は机を隣り合わせに付けて昼食を食べていた。

 

 友人となって、彼女に対してわかった事は、温和で基本的には受け身姿勢の人間である事。話し掛けられれば会話をするが、自らから言葉を語り出す事はあまりない。少なくとも自分に対して以外の人間にはそんな感じだ。

 

 ただ、それが境織姫という自分が相手だと、彼女の方から多くの事を語り出してくれる。

 

 それは他人に無関心で、浅上藤乃以上に受け身姿勢の自分が相手だから余計に彼女が言葉を語る様に見えるのかもしれない。

 

「……浅上さんを放って置けない。って、思ったからじゃ変かな…?」

 

 眼鏡を少しだけ取り、仮面の隙間から素顔を覗かせる様にして、僕自身の言葉を伝える。

 

 もう1つの人格との境界線。切り換えるスイッチとしているのが眼鏡だった。

 

 眼鏡を使わなくても人格の切り替えは出来る。ただ、その時は眼鏡という区切りが無いために主人格の方にも心理的な感触が直接伝わる。眼鏡という仕切りがあるからこそ、記憶を共有していても、『代わり身』が受け止めた嫌な事を他人事として処理できる。

 

 故に自分は眼鏡を境界線としている。

 

 彼女への質問への答えは、そのまま口にした通りだ。

 

 自分が浅上藤乃について何も知る事がなければ、彼女に対して友達になりたいと言うことさえなかったのだろうか。それこそただの隣の席の女の子という程度の存在で終わってしまったのだろうか。彼女がただの他人であったのなら、やはり他人として恐怖を感じる相手の一人でしかなかったのか。

 

 考えた所で答えは出ない。なら今の自分の思う通りの事を伝えるしか出来ない。ありのままの彼女と、ありのままの自分で友達になりたいと言いながら、自分には彼女に対して秘密にしている事が多すぎる。

 

 ならすべてを打ち明けられる相手が友達なのか。それも少し違うとは思う。そう言った秘密さえ告げられるのは親友とか、或いは恋人、或いは夫婦や家族等と言ったさらに一歩進んだ関係の相手であるだろうし、語るにしても自分の秘密は簡単には語れないものだ。すべてを打ち明けた所できっと気味悪がられる。或いは変人か狂人扱いか。

 

「わたし。自分の面倒くらいは自分で見れます…」

 

「……40度の熱出して顔も赤いのに、自分はなんともないって顔してた鈍い浅上にか?」

 

 眼鏡を戻してオレは言葉を語る。それでも人格は別でも思考は共有しているから自分の思った事はオレ達の総意だ。

 

「あれは……ちょっとだけいつもより身体が動かし難いとか、なんとなく重たいってくらいは感じてました」

 

「そういうところだぞ?」

 

 唇を尖らせてまるで拗ねた子供の様に自分は鈍い訳じゃないと言う彼女に、自分は意地悪く揚げ足を取るような言い方をする。気になる娘の注意を引きたくて意地悪をする子供でもあるまいに。

 

 自分が二重人格である事を告げたからか、彼女は自身の普通ではないところ。浅上藤乃の秘密を語ってくれた。『痛み』がわからない。痛みを感じる事が出来ないと。

 

 痛覚がないということは、何も感じる事が出来ない。目で見て事実を認める事が出来ても、感触として認識する事が出来ない。よって、彼女は生に関する実感がとても希薄なものになる。或いは生きている実感すらないのかもしれない。

 

 彼女の痛覚が無いことは後天的な事で、彼女の魔眼を封じる為の処置でもあった。

 

 素人考えではあるが、彼女に無痛症をもたらしている薬の服用を止めれば無痛症は治まるかもしれない。しかしそれをすると彼女の魔眼の力が表に出てきてしまうだろう。魔眼との付き合い方など、魔術師でもない自分にはどうすることも出来ない。

 

 どうにかできそうな存在を識ってはいるが、何処に居るのかは知らない。或いはそうした魔眼の存在を知った『魔法使い』が会いに来てはくれないだろうか。

 

 今の自分に出来ることなどなにもない。ただ普通になろうとした浅上藤乃を、普通ではない浅上藤乃に留めるような事を言ってしまった自分の責任として、彼女の異常性が露見しないように気を配る事なら出来る。例えば彼女が学校で怪我をしないようにだとか。

 

 なんて最低な友達も居たものだ。彼女と友達になるために、彼女が築くはずだった縁を、未来を、無茶苦茶にするような身勝手な人間だ。

 

 わかっていても、はじめて恐怖を抱く事のない、特別な相手(彼女)に振り向いて欲しいと思う事は、醜い事なのだろうか。いけない事なのだろうか。

 

「……そういえば。折角お友達になったのですから、『浅上さん』、なんて他人行儀な呼び方ではなく、『藤乃』、と、呼んでくれませんか?」

 

「…………良いねソレ。アイツは喜ぶよ。ならアイツの事も『境さん』じゃなくて、『織姫』って呼んでやれば良い」

 

 彼女の申し出に面食らって頭が真っ白になってる純情な主人格さまに変わって、オレがそう言ってやる。

 

 確かに思考は共有しているものの、オレは境織姫が耐えられないものを耐えるために生まれた存在だから、本人が頭が真っ白になろうが真っ暗になろうが、オレはなんともない。

 

「…境さん、……織姫さんも、織姫さんでは?」

 

 オレの言葉に首を傾げる浅上藤乃。確かにオレも境織姫であって、境織姫以外の何者でもない。『代わり身』だと言っても、境織姫であるからこそだ。境織姫から外れてしまっては自分を守ることなど出来なくなってしまう。それでもオレは『代わり身』でしかないから、境織姫に向けられる好意はオレが受け取るべきものじゃない。

 

「ま、好きに呼べよ」

 

 ただそれを他人に理解して貰える様にする言葉選びが出来るほどオレは賢いわけじゃない。これは感覚的なもので明確な線引きはない。近いものを挙げるならば、卵の殻だろうか。中身の弱い物を守るために存在する外殻。境織姫に向けられる好意は境織姫が受け取るべきもので、外殻であるオレが受け取ってしまえば、オレは境織姫でいられなくなってしまう。卵に話し掛ける奴は居ても、卵の殻に話し掛ける馬鹿は居ない。

 

 だから浅上藤乃の言葉はオレにとっては劇薬に等しい。

 

 なにしろ誰もがオレを指して境織姫という存在を定義しているが、唯一浅上藤乃だけは、境織姫を二人の人間として個々に定義してくる。

 

 それによってオレは一人の境織姫という別の存在となってしまう。それはダメだ。それは、それではオレは、境織姫の『代わり身』という存在の根本を揺るがされる。

 

 オレが浅上藤乃にぶっきらぼうに接するのは多分そんな理由。必要以上に話すことで存在の根幹を揺さぶられたくないからだ。

 

 それが、オレには耐えられないものだった。

 

 それが極僅かではあっても、オレが境織姫という存在からズレを生じさせる。

 

 境織姫は彼女を好ましく思っている。主人格であり、存在の根幹が彼女の事をそう思っているのに、オレは浅上藤乃が苦手だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 1つの身体に二つの存在を持つ少し変わった、普通ではないお友達。境織姫さん。

 

 眼鏡の掛け外しという動作で全くの別人を使い分ける織姫さんのそれは、普通の人から見ればただの一芸に見えてしまうのかもしれない。

 

 ただ、織姫さんとお友達になった藤乃には、それが羨ましかった。

 

 普通ではない自分を守るための存在を欲したわたしは、そんな織姫さんを真似て、わたしと藤乃という一人称を使い分ける様になっていた。

 

 わたしという存在は、普通で在ろうとする浅上藤乃の自己投影。眼鏡を掛けている時の織姫さんに該当する、他人(普通)に合わせたもの。

 

 そして、藤乃という存在は、彼にだけ見せる本当の浅上藤乃。

 

 他人の事を恐いと言う織姫さん。では藤乃の事は恐くはないのだろうか?

 

 少なくとも、藤乃のお友達である織姫さんは藤乃を恐がってはいない事はわかる。普段の眼鏡を掛けている織姫さんからは想像できない穏やかな表情で、織姫さんは藤乃と接している。

 

 ただ、それは藤乃の前でだけで、他人の前には決して織姫さんは出てこない。出て来たがらない。そんな臆病な人。そうなってしまうだけの理由は、眼鏡を掛けている織姫さんから聞き出す事が出来た。

 

 曰く、小学生の頃にイジメを受けてしまった事が原因であると。

 

 眼鏡を掛けている織姫さんが他人に無関心なのも、それが理由であること。他人と関わることがなければイジメにも飽きるだろうという彼らの防護策。それを6年間続けていたから、今さら変えるのも面倒なのだとか。そして普通ではない自分を普通ではないと気づかせないには、必然的に関わる人間を極力減らす事が利口である。下手に普通に振る舞って大多数と関わってボロを出すよりも、その方が疲れないし、自分を偽り押し殺す事もないから。

 

 なんて寂しくて、可哀想な人達なのだろうか。

 

 普通ではないから、普通になろうとせず、他人への期待など抱かずにいれば関わる事さえしなければ、自分達の平穏を保てる。

 

 それでも織姫さんは他人と関わらずにはいられない。それは藤乃がそうであるように。

 

 他人が恐いと言いながら、手を差し伸ばしてしまう優しい人。

 

 羨ましくもあり、嫉妬を抱き、恨みもして、それでも藤乃が織姫さんとお友達であるのは、そんな優しい人の優しさが嬉しかったから。

 

 普通で在ろうとする浅上藤乃ではなく、藤乃(自分)を見つけて、拾い上げてくれたから。

 

 普通で在ろうと、押し殺さなければならなかった藤乃を救ってくれた人だから。

 

 ありのままの藤乃(自分)を生かしてくれた人だから。

 

 そんな臆病で、寂しくて、可哀想な、優しい人が、藤乃は好ましいと思ってしまったから。

 

 浅上藤乃は、境織姫とお友達となった。

 

 

 

 

to be continued…


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