普通ではないふじのんと普通ではないお友達   作:星乃 望夢

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巫条霧絵

 

 荒耶宗蓮を撃退し、霧絵を引き取って数日。

 

 爆弾魔事件以外には大したことも起こらず平和そのものに過ごせている。

 

 荒耶が霧絵を取り戻しに来るのではないかと思ったが、今のところその気配はない。

 

 ならば此方から打って出る事で荒耶宗蓮という宿敵を退けるべきなのかと思われるが、それは得策ではない。

 

 巫条ビルでの攻防こそ制するが、荒耶宗蓮の本体は小川マンションにある。

 

 魔術工房として完璧な、荒耶の体内とも言えるその場所で勝利出来るのかと思案して自信が持てない。

 

 ならばやはり事態が動くまで強行は避けるべきであると結論に至る。

 

 怖じ気づいたというわけではない。

 

 霧絵が荒耶宗蓮と接触し、もうひとつの器を与えた事は確かだ。

 

 本来ならば藤乃にも荒耶は接触するはずだった。

 

 しかしそうした人物に覚えはないという藤乃の言葉に胸を撫で下ろすと同時にならば霧絵本来の役目ではなかった「  」への試みという違う役割の転換に霧絵への関心が寄るのは無理もなかった。

 

 つまるところ、霧絵も藤乃もどうなってしまうのかわからなくて、現状維持で目を光らせるのが精一杯でベターであると言えた。

 

「いいのかよ。オレに刀を握らせるって、そういうことだぜ?」

 

「構わない。むしろそうでないと意味がないから」

 

 伽藍の堂の5階。作りかけで放棄され剥き出しのフロアは屋上となっている。

 

 そこで僕は式と向かい合っていた。

 

 式に頭を下げて願ったのは特訓の相手だった。

 

 今までは式をイメージしてやっていた。しかしイメージは想像でしかない。より現実的な──リアリティを追及するには本物の両儀式を知る必要があった。

 

 断られるかと思ったけれど、意外と式は乗り気で二つ返事で了承してくれた。お陰で映像やイメージでは補完しきれない彼女の所作──呼吸を知れた。

 

 しかしナイフによる戦闘能力は式の本気ではない。

 

 だから投影した刀を彼女に渡して、本気の彼女をこの身で体験する事にした。

 

「んじゃ、始めるぜ。間違って斬っても恨むなよ」

 

「いつでも良いよ。投影開始(トレース・オン)──!!」

 

 自分も刀を手にして式の構えに倣う。

 

 一瞬で間合いを詰めてきた式の一撃を、鏡合わせの様に刀を振るってやり過ごす。

 

「ハッ」

 

「フッ」

 

 煌めく刃に合わせて、此方も同じ様に刃を煌めかせて一閃を打ち払う。

 

 一合毎に対応は出来るが、此方は見てから動いているために紙一重での防御で精一杯だった。

 

 しかも式は本気であるけれど全力ではなく余裕を持っている。

 

 当たり前だ。式と比べて自分の下地はてんでなっちゃいないのだから。

 

 迫り来る式の斬撃の一つ一つを脳裡に焼き付ける。

 

 そこから付け焼き刃ながらも式の斬撃に相対する。

 

 一歩間違えれば大怪我間違いなしの真剣による特訓は否応なしに神経を磨り減らす。

 

 それを体力の限界が訪れるまでひたすら繰り返した。

 

「おかしなやつだな、お前」

 

「そうかな?」

 

 特訓を終えて負った切り傷に癒しのルーンを描いた宝石を用いた治癒魔術を施していると、式に声を掛けられた。特訓の結果は防戦一方で身体のあちらこちらに切り傷を負った自分と、服のほつれすら見当たらない式の様子から察してあまりある。

 

「わざわざオレの本気を見たいって刀寄越して。それで斬り結んでオレの真似をするなんてさ。もう1人のお前ならその必要なんてないだろ」

 

 刀を持った式は荒耶宗蓮の死因になる。その因果をぶつけてやれば荒耶を殺せると思ったから式に特訓の相手を頼んだのだった。

 

 自分の戦闘スタイルは両儀式の模倣だから。本当の式を知らなければ偶像で固められただけの強さに中身という強靭さが伴わない。

 

 中身が伴えば本当の意味で両儀式の模倣を達成出来れば、「両儀式」の因果を引き出せるなんて思ったからだ。

 

「そうかもしれない。でも僕自身も完成してないと意味が無いって思ったからなんだ」

 

「ふーん。そんなもんか? 付け焼き刃で勝てるやつだっていうのなら、代わりにオレが殺してやってもいいぜ?」

 

「式が因果に導かれてその時になったらお願いするかもね。それでも出来ることならその相手は僕が殺したい」

 

 荒耶宗蓮に対する抑止力。

 

 自分はそうなりたくて式を真似た。最後の死の因果を叩きつける為だけに、「両儀式」の様になる為に。

 

 それでも想像、偶像それだけでは物足りなかった本物の動き、呼吸を体感した事で投影の精度は上がったことだろう。

 

 あとはこれを身体に馴染ませて時を待つだけだ。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「おはようございます、織姫さん」

 

「おはよう、霧絵」

 

 何気ない朝の挨拶。それひとつでも、今の自分は死に脅かされること無く生きているのだと実感できる。

 

 死ぬまで病院から出られないと諦めていた。だからせめて、私を見つけてくれた彼の思い出になれたら良いなと思って、友達になって、眠る彼を待ち続ける事が私の生きる理由になって。

 

 今は彼と共に過ごせることが何よりも私に生きている実感を抱かせてくれる。

 

 歳下だけれど、どこか歳上の様に感じる彼。

 

 時間が止まってしまっていた私は、歳下の彼を歳上の様に敬う。それは私よりも彼の方が外の世界を知っているから。

 

 動ける身体になって我が儘を許してくれる彼につい甘えてしまう。誰かに甘えるなんて何時ぶりなのか。

 

 2年も待ったのだから少し位の我が儘は許して欲しい。

 

 本当に自由に動ける身体になったのだから友達とやってみたかった事が山ほどあるのは赦して欲しい。

 

「今日はどうする霧絵。また外に行く? それとものんびりする?」

 

「今日は…、えっと、どうしよう」

 

 彼は私が何を選んでも嫌な顔をひとつしないのを知っている。本当にダメな時はダメだって言ってくれるから、今日は大丈夫な日。でもここ連日彼を連れまわしていたから疲れとか気にしてしまう。そんなこと気にしなくて良いと彼は言うけれど。

 

「今日は、此処に居たい」

 

「うん。じゃ、今日は休みにしよっか」

 

 外を出歩くのも良いけれど、のんびりと過ごすのも少しは好きになれたと思う。もう手の届かない風景を憎む事も無いのだから。今の私には有り余る時間を脅かされずに過ごせるのだから。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 身寄りのない巫条霧絵を引き取って施術を施してと、古い血を手元に置いておけるメリットよりも手間暇が上回っていた。

 

 織姫を連れ戻す為に「  」へと挑んだらしい彼女は古い血と荒耶に授けられた霊体も相まって霊的素材価値は充分にある。

 

 また荒耶に利用されないとも限らない彼女を保護という名目で招いたのは織姫の願いあってのものだが、彼女自身何も持ち合わせがないから余分の請求は言い出しっぺの織姫にするのが道理だろう。

 

 本人もそれで構わないというのなら存分に扱き使ってやろうじゃないか。

 

「出来ました。お願いします」

 

「ん。まぁ、ギリギリ及第点ってところか」

 

 人形のパーツを隅々まで鑑定して評価を下す。

 

 織姫には本格的に人形作りに励んで貰うことにした。魔術ではなく人形作りを伝授させることを選んだのは、完璧な人形作りを他人に伝授したらどうなるのかという興味が出たからだ。

 

 1度手本を見せて、丁寧に説明し、適所で助言をするという手間暇掛かる時間だったが、着実に技術をものにする光景は見ていて面白くなる。

 

 根源接続者が造った人形は如何様になるのかという期待もあった。或いは始まりの人間を造れてしまうのではないかという淡い期待。私が諦めた道の先を織姫ならば歩めるのではないかという勝手な期待だ。

 

 ただその期待に応えようと、一番弟子は良く励んでいる。

 

 模倣という意味では織姫程の担い手はそう居ないだろう。時計塔でも頭角を現すには充分な素質を持っている。魔術回路という残念な弱点があるが、根源接続者という自らを利用してその場で根源から魔力を捻り出すという荒業で足りない魔力をクリアする反則技も持っている。

 

 まぁ、根源接続者だとバレれば一発で封印指定されてしまうだろうから、協会には自分から近づく事はないだろうがな。

 

 此処での生活も何時まで続けられるかわからない。だから知識だけは詰め込むだけ詰め込んで貰うことにした。

 

 そうして出来上がった人形は中々悪くはないものだった。

 

 

 

to be continued…

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