普通ではないふじのんと普通ではないお友達   作:星乃 望夢

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創作意欲がガス欠を起こしまして、それでもリハビリ的にチマチマ書いた結果コレですので、短いながらよろしくしてやってください。


臙条巴

 

「まさかあの荒耶を倒すとはな」

 

「式が居たからどうにかって感じでしたけどね」

 

 式との連携があったから結界に捕まっても対処が出来た。式が居なければ今頃自分は荒耶に捕まっていただろう。

 

「あのマンションは太極を象り極致に至る為の装置です。あの男が根源に至れば人理は破滅を迎えていたかもしれない。その為の抑止力として僕はともかく式は、あのマンションに導かれたのかもしれません」

 

「あの少年を助けるのは、その切っ掛けだったからと?」

 

「わかりません。ただ、見捨てるのも違うのかなって思っただけで」

 

 連れ帰った臙条巴の身体はかなりガタがきていた。

 

 出会って数時間の相手に特別抱く感情なんてなかったけれども、ただ見捨てるというのも後味が悪かった。

 

 夜も寝静まる頃に臙条巴を連れてきたことで機嫌が悪い橙子さんの指示を受けながら臙条巴の人形を造り、魂を移し替えて作業が終わったのはつい先ほど。

 

 徹夜明けのコーヒーを飲みながら事の顛末を語った。

 

「しかしあのマンションがヤツの仕込みだったとはね。ということは、お前は運命に打ち勝ったということか。一先ずおめでとうと言っておこうか」

 

「ありがとうございます。ただ小川マンションには他に関わる魔術師がいますので。まだ気は抜けません」

 

「なんだ、その魔術師もお前達で片付けてしまえば良かったじゃないか」

 

 橙子さんはそう言うが、昨夜は荒耶相手でお腹いっぱいだ。だから姿を現さないアルバをわざわざ探す様な気力はなかった。

 

「コルネリウス・アルバ。この魔術師が荒耶宗蓮の協力者の1人です」

 

「“運命”の啓示とやらか。ずいぶん懐かしい名前を聞いたな。それで? 私に何をさせたいんだ」

 

「特には何も。あちらが仕掛けてくるのならば迎え撃つだけです」

 

 橙子さんの旧友だとしても、こちらを脅かすのならば容赦はしない。

 

 そして一夜が明ける。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 出勤してきた幹也先輩のコーヒーを楽しんでいた時だ。

 

「──侵入者だ」

 

 橙子さんが呟く。

 

「黒桐、この指輪を持って壁際に立て。指には嵌めるな。すぐに客が来るが、声も上げず徹底的に無視しろ。いいな。そうすれば客はお前に気付かないからな」

 

 幹也先輩に草を結んだ指輪を渡す橙子さん。認識阻害の魔術道具だろう。

 

 一体なんだかまだ事態を把握できてない幹也先輩はそれでも言われた通りに壁際に立つ。

 

 一緒にコーヒーを飲んでいた霧絵の分は無いのかと目で訴えれば、橙子さんは首を横に振る。仕方がないので霧絵を守れる位置に陣取る。

 

 すると事務所のドアが開かれた。

 

「やあアオザキ! 久し振りだね、ご機嫌はいかがかな?」

 

 入ってきたのは全身赤ずくめの紳士然とした格好の男だった。

 

「コルネリウス・アルバ。シュポンハイム修道院の次期院長が、こんな僻地に何の用だ」

 

「はは。そんなの決まってるだろう! 全てはキミに会うためさ。しかし、面白い事もあるものだ。荒耶を討った者たちが君の関係者だったとはね」

 

「世間話をする為に来たのならお帰り願おう。人の工房に無断で足を踏み入れたんだ。殺されても文句は言えんぞ」

 

 面倒そうに橙子さんはコルネリウスに言い放つ。

 

「キミたちの方が先に無断で私の世界に入ったじゃないか。本来ならキミたちこそ不作法と罵られるべきだがね」

 

 コルネリウスの視線が僕と式に向けられる。ただそれもほんの僅かだけで、すぐに視線は橙子さんへと向き直った。

 

「荒耶が斃れた今、この国に留まる理由もない筈だが?」

 

「いいやあるのだよ。しかしキミの本拠地ではさすがに落ち着けない。楽しい話はくつろげる場所でするものだ。違うかい?」

 

「さてね。お前にとっては楽しいことでも、私にとっては退屈であるかもしれない」

 

 バタンっと、事務所のドアが勝手に閉じる。

 

「な、何を!?」

 

 ガチャガチャとドアノブをコルネリウスは回すが、ドアは開く気配はない。

 

「言ったろう、アルバ。人の工房に無断で足を踏み入れたんだ。その対価を支払わずに出ていけると思うな」

 

 そう言いつつ、事務所のロッカーからカバンを取り出す橙子さんは一言「出ろ」と告げると、カバンの仲から黒いネコの様なシルエットを持つ影が現れた。

 

「話が違うぞ、お前の使い魔は妹に破れたというのは偽りか…!」

 

「どうも最近物騒だったんでね。造り直した甲斐はあったらしいな」

 

 タバコに火を点けて咥える橙子さんの目は冷めていた。

 

Go away the shadow.(影は消えよ)──」

 

 落ち着いた、しかし限界近い早さで紡がれる呪文。だが目と鼻の先に敵が控えているのにも関わらず呪文を紡ぐのは悪手である。だがそれも解らぬ程度でもないコルネリウスは、威力は落ちるが、呪文を徹底的に短くして即魔術を放った。

 

 炎の魔術は橙子の使い魔を確かに焼いたが、焼かれたのにも関わらずけろりとしている。

 

「バカなっ」

 

「行け…!」

 

 橙子さんが命じるとネコは真っ直ぐコルネリウスに向かって飛び掛かった。ばくんと言う擬音が聞こえて来そうな程の躍動感を伴なって開かれた口は容赦なくコルネリウスを呑み込んだ。

 

「た、食べちゃったんですか…?」

 

 人間が食べられるという些かショッキングな光景に霧絵が言葉を漏らす。

 

「そうだが? 魔術師同士の闘争に余計な感情は不用だ。殺るか殺られるか。それしかない」

 

 なんてことはないと、橙子さんは言う。

 

「あとは小川マンションの解体ですね。匿名で始末を魔術協会に頼めないですか?」

 

 タバコを吸う橙子さんに問い掛ける。すると橙子さんの表情が面倒くさそうに変わった。

 

「面倒な置き土産をしてくれたものだ。制御を外れた結界が広がるか、逆に縮むにしろ魔術の秘匿に引っ掛かる。やるしかないか」

 

 小川マンションの後始末を心底面倒くさそうに煙と共に吐き出す橙子さん。

 

「お手伝いしましょうか?」

 

「ネコの手でも借りたいくらいだ。頼むぞ織姫」

 

 小川マンションの後片付けは非常に気が滅入る作業だった。

 

 幹也先輩が調べ上げた30世帯分の遺体の片付けは特にだ。死が渦巻いていてよろしくない雰囲気が充満していた。

 

「しかし良かったんですか? コルネリウスの件は」

 

「他人の工房で先に攻撃したのは向こうだ。私のは正当防衛でしかない。それにヤツの目的は私だったのだろう? ならばそれ相応の対応はするさ」

 

 コルネリウスが荒耶宗蓮と繋がっているとは言ったのは自分だ。しかしそれで昔の旧友をあっさりと手に掛けてしまえる橙子さんのドライさが少しだけ恐かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 片付けを終えて一段落したものの、両手を上げて喜べるにはまだ早かった。

 

 荒耶宗蓮が残した厄介者。起源覚醒者──白純里緒が残っている。

 

 そちらは今は放置する。下手に手を出して幹也先輩が白純里緒を追う邪魔をする事もない。

 

 その結果として幾人かの犠牲者が出てしまうのも知っているが、今くらいつかの間の平和になった日常を噛み締めても良いのではないだろうか。

 

「何故、俺を助けた?」

 

 そう問い掛けてくるのは臙条巴だった。

 

「あのまま見捨てるのも後味が悪そうだったからさ。それとも見捨てて欲しかった?」

 

「わかンねぇよ、そんなの」

 

「余計な世話だって思うなら、その身体で生き残った分長生きすれば僕は充分さ」

 

「長生きって、今さらどう生きろってンだよ」

 

「差し当たってやることがないならウチで雑用係りなんてのはどう?」

 

 人形の展覧会なんかでは男手があるのに越したことはない。

 

「先ずは雑用を通して社会復帰すれば良いさ」

 

「ハッ、そう簡単に事が運べば誰も苦労なんてしないぜ」

 

 両親を亡くして自棄に浸る臙条巴の気分も解らなくはない。同じ様に社会復帰に何度も失敗して自棄になった経験がある。

 

「だから焦る必要がない伽藍の堂(ウチ)で一先ずやっていけばって言ってるのさ。所長の許可も貰ってるよ」

 

「お膳立てはされてるってことか。……わかった。暫く世話になる」

 

 こうして臙条巴も伽藍の堂のメンバーとなった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 巴は苦悩している事があった。

 

 事のあらましを聞かされても理解できた事は少ない。

 

 魔術がなんだ、魔術師がどうしたなんて言うのは全くさっぱり解らない話を聞かされた。

 

 ちょっとそこまで買い物に行って、運悪く事故にあった程度だとなんとなしに織姫に言われても納得は出来なかった。

 

 両親は死んで、本物の自分も死んでいるのに、何故自分は生きているのだろうかと。

 

「せっかく生き残ったんだから、第二の人生を歩むみたいに楽しめば良いと思うけど」

 

「そんな楽観的にすぐ成れるワケないだろ」

 

「悲観的すぎるのも心に良くないとは思うけどね。まぁそれも、今の臙条巴が抱いている悩みならそれは君が臙条巴として存在している事に違いはないでしょ」

 

「俺が俺として…」

 

 解らない言葉ではなかった。胸にすとんと落ちるにはまだ歪だったが、それでも今こうして悩んでいる自分は自分だけの物だと言えた。

 

「本物も偽物も関係無い。今この瞬間僕と話している臙条巴は君だけだ。一先ずそれで納得してみない?」

 

「わかったよ。良し、取り敢えずくよくよすんのは止めにする。境の言う通り前向いてやってやるよ」

 

「それは良かった。僕も顔の暗い新入社員を紹介せずに済みそうだ」

 

「言ってろ。すぐに真人間になって驚かせてやる」

 

 まだ空元気も良いところだが。そうでもしないと前に向けなさそうだった巴は前を向くことにした。

 

「はいお三方、しばし注目! 伽藍の堂の新入社員を紹介します」

 

 そう言って織姫は橙子以外の3人、幹也と式、霧絵の注目を集める。

 

「臙条巴です、よろしくお願いします!」

 

 矛盾螺旋を抜けた臙条巴というひとりの人間の再スタートが始まったのである。

 

 

 

 

to be continued…

 

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