普通ではないふじのんと普通ではないお友達   作:星乃 望夢

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忘却録音

 

 年末が近付いていた。

 

 それはすなわちクリスマスという一大イベントがあるのだが。

 

「織姫さんとのイブは譲れない……!」

 

「私だって、彼と一緒に思い出に残るようなイブにしたいの……っ」

 

 今僕は2人の女性から腕を引っ張られていた。

 

 片方は藤乃、片方は霧絵。

 

 クリスマスイヴを誰と過ごすのかというところで藤乃と霧絵が揉める事になるなんて思いもしなかった。

 

「2人とも一旦落ち着こう。服の袖が取れちゃう」

 

「いっそのこと、織姫さんが決めてください。それなら納得します」

 

「そうね。あなたが決めたことなら従うわ」

 

 どうも難しい選択を迫られてしまった。

 

 藤乃の事は生涯を懸ける程に好きだが、それで霧絵を仲間外れにしてしまう事も違うだろう。

 

 そもそも藤乃とは恋人関係で良かったのだろうか。

 

 それに霧絵から向けられる好意もただの友だちとは違うのは伝わってくる。

 

 これは回答を間違えるワケにはいかない。

 

 ちなみに周りに助けてくれる仲間は居ない。橙子さんは何が楽しいのかニマニマとこちらを見ているだけだし、式は興味も無さげにぼーっとしているし、幹也先輩と巴は人形展の片付けで今ここには居ないから相談しようもない。たとえ居たとしても式に真っ直ぐな幹也先輩の意見が通用するかといわれたら無理かもしれない。

 

 良し、腹は決まった。いざ──。

 

「3人で過ごすんじゃダメ?」

 

「「ダメです!」」

 

 独占欲が強くなっているらしい2人の様子にどうしたものかと頭を悩ませる。ただこうして美人な2人に言い寄られているというのはどうも幸せでつい口許が弧を描く。前世は非モテだったからなぁ。

 

「でも公平性を出すならいつも一緒に居る霧絵には少し我慢してねって言うことになっちゃうよ?」

 

「なっ、うっ、そんな…、悲しいことを言わないで」

 

 霧絵は胸を押さえて俯いてしまった。そんなにショックを受けなくても。毎日一緒に居るじゃないか。

 

「好きな人が目の前にいるのに我慢するのは辛いことですよ織姫さん」

 

「だから折衝案として3人でクリスマス過ごそうって提案したんだけど」

 

「そういうのはわかりますけど、やっぱり2人きりの夜を過ごしてみたいのは諦められません」

 

「それは解るけど」

 

「良いの。私がわがままを言っただけだから」

 

 そう言った霧絵の手を藤乃が取る。

 

「やっぱり3人で過ごしましょう。霧絵さんを仲間外れにしても楽しめるわけではないですから」

 

「藤乃ちゃん…」

 

「霧絵さんもわたしの大切なお友達ですから」

 

「うん……。ありがとう、藤乃ちゃん」

 

 こりゃ間に入るのは野暮だ。と思えば2人してこっちの手を握り締めて来る。

 

「絶対、良い思い出になるクリスマスにしましょう。藤乃ちゃん、織姫さん」

 

「ええ。そうですね」

 

「そうだね。初詣も含めて2人と過ごせるのはきっと楽しいと思う」

 

 そう、楽しい思い出になる筈だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 クリスマスイブと聞くと幼い頃の──前世での話だが、サンタクロースがプレゼントをくれるのをワクワクしていた記憶を思い出す。毎年毎年、12月25日は朝から新しく届いたオモチャやゲームを遊び倒したものだ。

 

 

 まぁ、何が言いたいのかと言えば、そのワクワクを思い出す程に、自分は藤乃と霧絵とのデートを楽しみにしていた。

 

 午前中は買ってきたクリスマスツリーの飾りつけを楽しんだ。子供みたいにはしゃぐ霧絵は感性が少女そのものだ。微笑ましくなる。

 

 夜は観布子駅前の繁華街をイルミネーションを楽しみながら見て回った。

 

 そして最後に訪れたのは繁華街から少し離れたホテル街である。

 

 もう何も言うことはない。少なくとも前を手を引きながら歩く藤乃の歩みに迷いはなかった。つまりはそういうことなのだ。

 

「もう2年も待ちましたからね。今日は寝かせませんよ、織姫さん」

 

「や、藤乃がその気なら良いけど。霧絵はどうするのさ」

 

「えうっ!? あ、や、その、あうぅ……」

 

 どういうことだか理解が及んだ霧絵は耳まで真っ赤にして俯いてしまう。

 

「どうします? 別に寝てても構いませんが」

 

「…わ、私は……」

 

「一先ず一緒にシャワーを浴びる所から始めますか?」

 

「そ、そうね。一緒にシャワーくらいなら。タオルで身体を隠せば多分平気、よね…」

 

 暴走ダンプカーふじのんは止まらない。

 

 無敵のふじのんは霧絵を言いくるめてしまった。

 

 後は男の自分が腹を括るだけである。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ある意味で記憶に残る夜を過ごして数日にはもう新年の始まりだ。

 

 初詣も3人で済ませて伽藍の堂に帰ってくると、鮮花が来ていた。それぞれ新年の挨拶を済ませると橙子さんが切り出した。

 

「鮮花にはもう訊いたんだが。藤乃、礼園の一年四組の事件についてなにか知っているか?」

 

「一年四組ですか? 2人の生徒が口論の末に互いにカッターで切りつけあったという事件なら」

 

「他にはなかったか?」

 

「他にですか? 関係あるかどうかは分かりませんが、妖精が現れたとかの噂なら聞いた事はあります」

 

「なるほど。藤乃も大して変わらんか。藤乃も礼園の生徒だし、ついでに話してしまおう。織姫、霧絵を連れて少し席を外してくれ」

 

「わかりました。行こう霧絵」

 

「え? あ、はい」

 

 霧絵を連れて事務所を出る。

 

 礼園女学院、妖精と聞いて思い出すのは忘却録音だ。

 

 礼園女学院で起こっている妖精騒ぎの真相を究明する事だったはず。

 

 さて。場所が場所だ。全寮制の女子高だから男の自分はお呼びでない。そう思っていたはずなんだが。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「それではシスター、失礼しました」

 

 鮮花がそう言って職員室の扉を閉める。

 

 鮮花と藤乃、この組み合わせは解る。互いに友だちで同じ礼園の生徒だからだ。

 

 そこに式も居る。これは解る。妖精の対処に妖精を視る事の出来る目として式が抜擢されたのも、原作ではそうだったから理解出来る。

 

 そして何故か礼園の制服を着ている自分。理解出来ない。なんでさ。

 

「とても似合っていると思いますよ、織姫さん」

 

「女の子の格好して似合っているってのはダメージが来ると思うんだよ、藤乃」

 

「コイツが居るならオレは必要ないと思うんだが。トウコって実は頭悪いんじゃないか?」

 

 気怠く息を吐く式に便乗する。いやまさか自分までも巻き込まれるとは普通思わない。何故なら自分はれっきとした男なのだから。

 

 エロゲじゃあるまいし、女装して女子高に通うなんてのは創作だから出来ることだ。

 

「僕も魔眼持ちだからって、こんな格好するなんて思ってもみなかった」

 

 なにしろ今日の朝起きたら橙子さんに礼園女学院で起きている妖精騒ぎの真相究明をやる事になった鮮花と藤乃を手伝ってやれと制服を渡されて式と共に礼園へと向かわされたのだから寝耳に水である。

 

「私は四組の担任の玄霧先生に話を聞きに行ってくるから、藤乃は四組の子たちに話を訊きに行って貰える?」

 

「ええ、分かったわ。行きましょうか織姫さん」

 

「え、あ、ちょ、藤乃!?」

 

 藤乃に強く手を引かれてその場から離れていく。式と鮮花をペアにして良かったのだろうかと不安が残る。

 

 少し行くと藤乃は歩みを緩めた。

 

「ごめんなさい織姫さん。ちょっと浮かれちゃって。お揃いの制服を着て学校に通うのって、なんだか素敵じゃないですか」

 

「それは、そうなのかな?」

 

「ええ。とても良いことです!」

 

 今の藤乃の勢いは暴走ダンプカーモードに近い。

 

 無敵の藤乃相手には為す術を悲しいかな持っていないのだ。

 

 自分の我が儘で同じ高校に通えなかったのを気にしているのだろうか。

 

 荒耶宗蓮という運命に打ち勝つ為だったとはいえ、少しばかりの罪悪感が沸き上がる。

 

「でもやっぱり無理があるんじゃないかな」

 

「そうでしょうか? そうは見えませんけど。それに普段の着物姿とあまり変わらないと思いますが」

 

「あれは意味があるから着てるだけだよ。まぁ、今は意味があるから渋々だけど着るけどね」

 

 しかし薄いワケじゃないのに礼園の制服は少し身体のラインが浮き易く見えてしまう。

 

 だからなんだというワケじゃないが、骨格云々で自分が男だとバレやしないか一抹の不安はある。

 

 さてはて、玄霧皐月は鮮花と式が向かったのだから、こちらはこちらの仕事をするだけだ。

 

 一年四組の生徒から話を訊くに当たり、普通では答えてくれないから少し暗示を掛けて調べさせて貰った。

 

 とはいえ手に入る情報は今彼女達を苦しめている手紙のことばかりだ。本人さえ忘れている秘密が手紙として送られてくるということ。差出人は分からない。

 

 後は妖精の出没話も何回か聞くことが出来た。

 

 そして一年四組の生徒たちが隠したがっている秘密も。

 

 一年四組の生徒は高校生から礼園にやって来た生徒が大半だという。

 

 今までなんら縛りのなかった彼女達に礼園の校則は重い呪縛だっただろう。

 

 ハメを外したくて仕方のない生徒もいただろう。

 

 前任だった葉山英雄が自分の担当していたクラスの生徒を脅して外に連れ出し、援助交際をさせていたと言うことだ。中には自分から望んで連れていかれた子も居たそうだ。

 

 他にも証言を得られたのは橘佳織という女生徒の話だ。11月、礼園で起きた火事の唯一の犠牲者。

 

 彼女もまた葉山英雄の犠牲者だ。

 

 望まない妊娠をさせられてしまい、自殺に追い込まれた悲しい女の子だ。

 

 玄霧皐月のもとへ話を訊きに行った鮮花と式だが、目ぼしい収穫はなかったそうだ。

 

「援助交際なんて。そんなのが礼園(ウチ)で起こってたなんて。葉山はクズね」

 

「声を落として鮮花。誰かに聞かれたらコトだ」

 

 そう僕が言うと、口を押さえる鮮花。

 

「それよりも問題なのは鮮花の記憶が抜かれた事だ。僕が男だとバレてしまったかもしれない」

 

「妖精を操る魔術師が告げ口したらマズイわね。私が迂闊だったわ…」

 

 鮮花と式と合流したら、1時間程鮮花は記憶が無いという。

 

 どんな記憶を奪われたのかは判らないが、敵に1本取られてしまったのは確かだ。

 

「まぁ、告げ口されたらされたでそいつは僕の敵になったも同然だ。その時は僕も動かせて貰うよ」

 

「織姫、物騒なことを言わないでちょうだい。私が通う学校で殺人事件なんて起こされたくないのだけど」

 

「それはあちらの出方次第さ」

 

 今の自分はあくまでも鮮花と藤乃のお手伝いさんだから出しゃばるつもりはないが、こちらに害意を向けるのならばその限りじゃない。

 

「とりあえず寮に戻ります。方針、改めなくちゃいけないみたいだから」

 

 ここで僕が妖精を操っている人間が誰なのか告げれば話は早いだろうが、それはそれで頑張っている鮮花には悪いので言葉を伏せる。そもそも証拠の無い原作知識として知っているだけだから卑怯だろう、そういう埒外からの真相は。

 

 

 

 

to be continued…

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