黄路美沙夜については一先ずは片が着いた。もう彼女に妖精を操る術はない。
しかしすべてが片付いた訳ではない。
黄路美沙夜に魔術を授けた黒幕が残っているからだ。
その黒幕は荒耶宗蓮に請われてやって来た玄霧皐月という魔術師だ。
「結局、オレはいらなかったじゃないか」
黄路美沙夜を保健室に放り込んで寮に戻ると、遅れて合流した式は少し機嫌が悪そうに見える。
「あの玄霧って教師と戦ったけどさ、なんなんだアイツは」
「玄霧先生と!? なんで…!?」
式の言葉に信じられないと鮮花が溢す。
「知らないよ。黄路ってヤツを助けるとかなんとか言って立ち塞がったんだ。ならやるしかないだろ?」
「だからってもう少し穏便なやり方とかあるでしょ!」
「玄霧皐月が今回の妖精騒ぎの黒幕だからね。いずれはやりあったかもしれない」
「そんな。あの玄霧先生が…なんで……」
式が玄霧皐月と戦ったのならば黙っている必要も無くなった為に真実を口にする。それに鮮花はショックを受ける。
「黄路美沙夜に請われたからさ。一年四組の生徒を地獄に叩き落とす術をさ。それが妖精を操る魔術だったんだ。玄霧皐月は
「ソイツが今回の黒幕なんだろ? だったらやることやって、早くこの学園からおさらばしたいもんだぜ。ここは窮屈過ぎる」
「そうは言っても式でもあしらわれたんじゃ僕達が行ったところで同じ末路を辿るだけだよ」
こと戦闘能力という意味では式が一番だろう。
その式を退けたのなら、玄霧皐月に明確な一手を期待するのなら藤乃の歪曲の魔眼くらいか。
「幹也から伝言がある。橘佳織の成績を調べろとさ。特に体育の出席率とかが重要らしいぜ」
「それならもう調べてあるけれど。それよりなに、幹也から伝言って」
「なんだ。もう調べてたのか。ならオレの頼み事も無駄足だったか」
「頼み事って、兄さんに何を頼んだのよ式!」
式に食って掛かる鮮花。その鮮花を少し鬱陶しがりながら式は答えた。
「葉山と玄霧の
式がこちらを見ながら言う。確かに自分には要らない情報だ。それを口にするのは簡単だが、折角調べてくれるのだから幹也先輩から鮮花に直接伝えて貰おうか。かといって何がどうなるかは変わらないと思うが。
とりあえず妖精騒ぎはこれで幕引きだ。
「なんだかあっという間でしたね」
「そうだね。ちょっと名残惜しいかも」
「今からでも遅くはないのではないですか?」
「経歴に女子高出身なんて書けるわけ無いでしょ」
藤乃に突っ込みを入れて肩に身を寄せてくる彼女を受け入れる。そのまま手を絡めあう。
「わたしはこのまま、織姫さんと高校生活を過ごしてみたいです」
「女装して女子高に通うなんて漫画みたいなこと出来るわけないでしょ」
「そうでしょうか? 誰も気付きませんよ」
「今回が特別なの。明日からは普段の境織姫に戻ります」
「普段の織姫さんも女装しているじゃないですか」
「それは、そうなんだけど」
痛いところを突かれてしまった。意味があって女装というか式の格好を真似ているのだが、今日の藤乃は押しが強い。いや、理由はわかっている。つまるところ未練と我が儘だった。藤乃的には同じ高校に通う未練を未だ捨てきれて無かったのだろう。そういう意味では申し訳無くもある。だが決して藤乃を蔑ろにしているわけでもないのは伝わって欲しい。
「うわっ、藤乃、ちょっと!」
「今日で終わりなら、今の織姫さんをバッチリ記憶に刻み付けます」
「だからっていきなり、絶対藤乃そっちのケがあるよ!」
「そんなことありません。相手が織姫さんだからです」
ベッドに押し倒されて腕を掴まれて、脚の間に身を入れてくる藤乃。さながら今から女を犯す男の図の様だ。勿論犯すのは藤乃の方で。自分は犯される立場にある構図だ。とはいえ流石にムードとかは自分も気にするが、こうなった藤乃は止められないので自分に出来ることは天井を見上げる事だけだ。
翌日。英語教諭の準備室で玄霧皐月の自殺遺体が見つかった。
部屋のあらゆる鍵は閉まっていたので自殺と判断されたそれが実は他殺なのを知るのは自分と、玄霧皐月を刺した犯人のみだ。
ただそんなゴタゴタがあったので礼園からの退去は1日伸ばさざるを得なかったが、これで完全に礼園での事件は幕引きと言って良いだろう。橙子さんにも満足のいく報告も出来るだろう。
残された駒は後1つ。ただその因縁は式と幹也先輩の方が強い。自分は降り掛かる火の粉なら払うというスタンスで良いだろうか。積極的に解決に動くには──その必要がある。
なにしろ私の腕を奪った男なのだから必ず殺してみせる。
to be continued…