普通ではないふじのんと普通ではないお友達   作:望夢

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なんか一気にアクセス数爆上がりしたと思ったらランキングに載っかってたのね。やっぱみんならっきょ好きねぇ。そして型月ファンに怒られないように頑張るけれど、なんか間違っていたりおかしいぞと思った時はそれとなく優しく指摘してくれ。なにしろ心はガラスなのだ。




浅上藤乃とお友達Ⅲ

 

 この世界は普通に暮らしている分には、普通の在り来たりな世界であると人々は思うだろう。

 

 しかし、この世界には魔術師という存在が居る。

 

 時計塔、魔術協会、アトラス院――。

 

 魔術や錬金術といった、常識にはない超常の技術。

 

 そうしたものに手を伸ばしたくとも、伸ばせない程度には、境織姫は普通すぎた。家系も普通で、身内に魔術師が居るわけでもない。前世の記憶を持っていて、二重人格である以外は本当に普通だった。魔術師の家系ではないのだから、自身に魔術回路が存在し得ないという可能性すらあるが、魔術師の家系ではなくとも魔術を扱える術はある。しかしそれにしてもやはり魔術の師となる人物の存在が不可欠だ。

 

 それに、境織姫は魔術師になりたいわけではない。あくまでも友人である浅上藤乃に待ち受けるだろう不幸を回避する為の術として魔術を身につけようとする魔術使いを目指すのなら、境織姫に魔術を授ける好き者は居ないだろう。或いは自らの魂を対価にすれば、そうした好き者も居る可能性もあるが、前世を持っていることと、魂の特殊性は、境織姫の妄想でしかない。前世の記憶を持っているという特殊性だけで、魂はなんの特殊性もないものならば意味はない。やはり魔術師に一度接触する必要がある。

 

 だが彼ら魔術師はそう易々と会える様な人種ではない。なにしろ彼らは一般人に関心がなく、そして神秘の秘匿を重んじる魔術協会の方針によって魔術が世間に知れ渡る事を極端に戒めているからだ。故にその秘匿を怠る様なことをした魔術師は粛清される。

 

 そうした観点から見ると、一般人である自分が接触した所で、魔術師であることなど明かされるはずもなく、或いは魔術の秘匿を侵す危険人物として消される可能性すらある。

 

 自分の目的のために協力を要請出来そうな魔術師となると、そんな都合の良い相手となると思い浮かぶのは人形師か、自分の魂を検分してもらう必要があるが、優雅たれのうっかり一族か。間桐は論外だし、アインツベルンに関しては会いに行ける距離ではない。こちらが目に見えて魔術師に対するメリットを持つ物さえ用意できればエルメロイⅡ世という選択肢もある。

 

 超常に対する超常の存在として吸血鬼の姫も考えたが、多分自分は有象無象として相手にされないだろうと考えて、その線は止めた。仮に超常の存在として吸血鬼になったところで埋葬機関に始末されるのは御免だ。

 

 とはいえ、魂の検分という意味では、吸血鬼の姫に会うのも考慮の内に入るだろうか。勝手なイメージだが、吸血鬼なら人の魂の質等も見極められるのではないかというものだった。しかし吸血鬼の姫が日本にやって来る時期は、残念ながら浅上藤乃の不幸を回避したい境織姫からすればすべてが終わったあとなので、その選択肢は取ることが出来ない。

 

 自分自身そこまで型月世界に詳しいわけでもない為、物語の流れは知っていても、細かな設定まで網羅しているわけでもない。

 

 冬木市でガス爆発が起こった等との報道がされている様子はないことからまだ第四次聖杯戦争は起こっていないのだろう。起こるにしても魔術師の戦争に関われるような力など持っていない。そのまま勝手に過ぎ去るのを待つしかないだろう。

 

 ともすると、優雅なうっかり一族を訪ねようにも、戦争直前のピリピリとした時期に訪ねても門前払いが関の山か。エルメロイⅡ世にしても、戦争の真っ只中に首を突っ込むという冒険をしなければならない。

 

 やはり頼れそうなのは人形師しか居ないのだろう。

 

 というよりこれはもう消去法だ。一般人が関われそうで、尚且つ明確な害意が無さそうな魔術師が人形師の彼女かエルメロイⅡ世、或いはうっかり一族の宝石大好き娘くらいしか思い浮かばない辺り、魔術師というものが一癖も二癖もある人種なのがわかるだろう。

 

 その人形師の彼女にした所で、何処に居るのか探すのはとても困難だ。それこそただの中学生である自分が彼女を探すとなれば、それはやはり様々な美術展を調べ回るしかないか。建築士の知り合いが居るわけでもない。建築士をしている方の彼女と接触するよりは、美術展に出展している彼女を探す他ない。

 

 そうした美術展に関する情報を暇な時に探して歩くものの、目ぼしい成果は得られていない。結界で隠れている魔術師を探すことの困難さを身をもって味わうことになるとは思いもしなかった。

 

 前世の記憶を持っているのなら、一度死を経験したという自覚を抱く魂ならば、少しくらい未来に希望を持てる夢を見せて欲しいものだ。

 

「最近の織姫さんは、難しい顔をしてばかりですね」

 

「そう、かな……?」

 

 突然降り出した雨。天気予報で雨が降るなんてやっていなかったから、傘なんて持ってきてはいない。いつものように放課後に藤乃と話していても止む気配のない雨。教室を閉める時間になったから仕方なく昇降口で雨宿りをしていた。

 

 藤乃からそんなことを言われて、惚ける様に言葉を紡ぐ。

 

「なにか、悩みごとでも?」

 

「……少し、ね」

 

 目の前に居る浅上藤乃という友人の事で悩んでいるといっても、打ち明けられる悩みというわけでもなかった。

 

 ただ心配そうに此方を窺う彼女を見るのは、心苦しい。

 

 そんな表情をさせたいわけではない。自分がこうも悩むのは、彼女に暗い影を落とさせたくはないからなのに。

 

「…ありがとう、藤乃。心配してくれて」

 

 僕という存在を傷つける事もなく、隣に居てくれる彼女には感謝しかない。僕は普通になろうとした彼女を傷つけるような事を言ってしまったのに、それでも友達で居てくれる彼女の為なら、彼女を守るためならば、僕は自分の命をいくらでも懸ける。懸ける事が出来る。

 

「いえ…。藤乃も、感謝してします」

 

 彼女の手が、僕の手に触れる。

 

「織姫さんのお陰で、藤乃は、藤乃で居られるんです」

 

 両手で僕の手を包み込む藤乃。その白くて綺麗な手を見る度に、こんな手を血で汚させてなるものかと強く思う。殺し合いなんてさせて堪るか、と。

 

 グッと、手を握る力が強くなった。感覚のない彼女は、力加減というものも手探りに近い。物に対してなら多少力が強くとも平気だろうが、それが人間相手なら力加減を誤ると痛みを感じるのは当然の事。

 

 だから藤乃は他人と余り接したがらない。表面上の受け答えはしても、自分にする様に誰かの手を握るようなことはしない。少なくとも、自分が知っている限りでは。

 

 だから込められた力の強さに、思考の海から掬い上げられる。つまり痛いと思う程度に、藤乃は力を込めていた。

 

「藤乃…?」

 

「あっ、いえ。……ごめんなさい。つい…」

 

 声を掛けると、藤乃は手を離して、自身の手を引っ込めようとするのを、僕はその手を握った。そうしないと、彼女が何処かに行ってしまいそうだと思ったから。

 

「織姫さん…?」

 

「や、…ごめん。つい…」

 

 今度は逆の立場で同じようなことを言ってしまった。続く言葉を見つけられなくて、ただ彼女と見つめ合う時間が生まれる。何か話題を探していると、藤乃が口を開いた。

 

「……織姫さんは、ずっと、藤乃と居てくれますよね…?」

 

 握った手に、指を絡めながら、藤乃は僕にそう言った。

 

 それはきっと、この先の未来を決める一言だったのかもしれない。

 

 その言葉を紡いだ彼女の瞳は不安に揺れていた。

 

 僕は彼女の手を、両手で包み込む。答えなんてはじめから決まっている。

 

「僕も、ずっと、藤乃と一緒が良いな…」

 

 それは男女の告白と言うよりも、互いに互いを必要とする相手を見つけられたから交わされた言葉だった。

 

 いつまで一緒に居られるかはわからない。ただ、彼女が望んでくれる限りは一緒に居続けたいと、僕はそう思っている。だって僕は、彼女の事が好きなのだから…。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 この頃の織姫さんは難しい顔を浮かべるばかり。誰にでも他人に打ち明けられない悩みの一つや二つはあるもので、それは藤乃にとっても同じこと。

 

 ただ、近頃は眼鏡を掛けていない時でも何処か遠くを見ている虚ろな眼をしている織姫さんをこのまま放ってはおけなくて。そうしてしまったら、織姫さんは何処か遠くへと行ってしまうような気がして、藤乃は織姫さんの手を強く握ってしまった。

 

 不覚。身体の感覚のない藤乃(わたし)が最も注意しなければならないのが人との接触。力加減を間違えれば相手に痛みを与えてしまう。痛みというものがわからない私でも、普通の人は痛みというものを忌避するものだと知っている。それは二重人格である以外は普通の人と変わりのない織姫さんも同じこと。だから慌てて織姫さんの手を離したとき、織姫さんは藤乃(わたし)の手を掴んでくれた。

 

 見つめ合っている織姫さんの瞳にはいつも通りの穏やかさが戻っていた。藤乃を見てくれる優しげな目が、心地好くて、安心できて。

 

 どうして織姫さんが遠くを見るような眼をするのか、藤乃にはわからない。

 

 でも、織姫さんが遠くへ行ってしまうなんて。

 

 そんなこと、考えたくもない。

 

 織姫さんが居なければ、藤乃は、藤乃で居られなくなってしまう。

 

 自分の都合で、他人を縛り付ける事はいけないことだと知っている。

 

 でも、そんないけないことをしてでも、藤乃には織姫さんが必要だから。

 

「……織姫さんは、ずっと、藤乃と居てくれますよね…?」

 

 だから、藤乃は織姫さんに問い掛けた。織姫さんの返事を知っていて、それでも藤乃はその言葉を直接、織姫さんから聞きたかった。出逢って一年でも、織姫さんがどんな人なのか、藤乃は知っているから。

 

「僕も、ずっと、藤乃と一緒が良いな…」

 

 藤乃の言葉を聞いたとき、キョトンと面食らった様に呆けてしまった様子の織姫さんの顔は、中々見ることの出来ない顔で、そんな顔はある意味で織姫さんの自然な顔はとても愛らしいと思いました。

 

 そして、思っていた通りの返事をくれた織姫さんは頬を染めながら、自信がない上目遣いで、俯きながらこちらの顔色を窺うようにして、言葉を紡いだ。

 

 そして段々と顔から耳まで赤くなって、身体もフラフラとしはじめて……。

 

「織姫さん……?」

 

 ぽふっと、音を立てて、織姫さんの身体が藤乃へと寄り掛かる。

 

「…………あのバカ…!」

 

 眼鏡を掛けてもいないのに、眼鏡を掛けた織姫さんが出てきた。

 

 そして学生服の中から眼鏡ケースを取り出して、眼鏡を掛けたあと一息吐く。当然触れあっていた手、寄り掛かっていた身体も離れてしまって、惜しい、と、思いました。

 

「お前もお前だ浅上! 見てるこっちがこっ恥ずかしいことするなよ!」

 

 床の上に乱暴に座り込んで、立っている藤乃を睨み付ける織姫さんの顔はまだ赤いままだった。

 

「あの、体調が優れないようなら、保健室に」

 

「別に。放っておけば収まる…」

 

 そっぽを向きながら吐き捨てる様に織姫さんは返してきた。織姫さんと違って、眼鏡を掛けた織姫さんには、どうやら藤乃は嫌われている様です。

 

「織姫さんは、大丈夫ですか…?」

 

「慣れないことした所為で頭がパンクしただけだ」

 

 わたしも隣に座って、織姫さんの様子を問い掛ける。どうして織姫さんがああなってしまったのか、藤乃にはわからなくても、わたしとして考えれば見えてくる事もある。

 

 まるで愛の告白の様なやり取りは、ともすればそれを意識してしまった織姫さんは気恥ずかしさからあんな風になってしまったのかもしれない。

 

「可愛らしいですね」

 

 そう、なんて可愛らしい人。出来ることならもう一度、あの恥じらう織姫さんを見てみたい。そしてもっと恥じらう姿を見てみたい。辱しめてみたい。

 

「危ない女だな、お前…」

 

「そうでしょうか…?」

 

 そう言った織姫さんの瞳は、この時だけはいつもの何処か遠くを見ている物ではなく、呆れた様子で。

 

 わたしはそんな織姫さんの視線を受け止めながら、心に芽生えた疼きを反復する。この衝動をぶつけたとき、織姫さんはどんな表情をしてくれるのか。

 

 わたしの中ではもう、織姫さんが藤乃(わたし)の事を拒む等とは微塵も思い浮かんではいなかった。

 

 

 

 

to be continued…


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