「ねんりょうはおっけーぼくじょう。ばななでせいせいされるのをかくにん」
「ちくびをたいくうほうにかんそうする。はんちょーのきょかは……あとでもらう!」
「後にすんな。そして却下だ!」
「で、でもじょうはんしんのぶそうがふあん!」
「……実はな、俺の乳首にはサテライトキャノンが搭載されているんだ。だから心配はいらない」
「さてらいときゃのん!? なんか、かっこいい!」
「だろ? だから乳首以外の武装について調べてくれないか?」
「まかせろー」
ふぅ……こいつらを放っておくとロクでもないことしやがるな。
あれから妖精たちに体を調べてもらい、情報が整備班長の元へと集まってきた。砂にはメモのような数式や謎の文字が並び、別人のように働く妖精たちに度肝を抜かれた気分だ。
乳首に執着するおバカもいるんだが、一生懸命に頑張っている姿を見てしまうと文句も言えない。
やがて、リーダー格の三人がそろって俺の膝に乗ってきた。
「ご主人さま。結果が出たのです」
「その様子だと、なにかしら問題があるようだな」
「けつろんからもうしあげますと、ごしゅじんはバケモノですな」
「それは、まぁ深海棲艦だから」
「そう単純な意味ではありません。深海棲艦や艦娘の要素を持った、人間に最も近い生物である……というのが我々の見解なのです」
「……もう少し具体的に頼む」
「おれたちにもくわしいことがわからねぇってことさ」
「仮定となりますが、ご主人さまはゴリラ型の深海棲艦か、艦娘型チンパンジーの二択となるのです」
「バナナさえあればうごきますからな。さいこうにエコですぞ」
エコかどうかなんてどうでも――よくない、大切だったわ。
しかしこいつら、どうあっても俺を人間扱いするつもりはないらしい。これを一時間近くにわたって議論してたってことだよな? きっとゴリラかチンパンジーで意見が分かれたと見える。
納得はいかないが、燃料問題はバナナの残量と考えればいいのか。なら次は、安全で気軽に補給ができるようなパラダイスを探すんだ。そもそも、これこそが本来の目的なんだから。
条件は簡単、深海棲艦が弱い海域で、俺を受け入れてくれる優しい提督がいて、可愛らしい艦娘に囲まれた鎮守府がいい。
ダメ元でこれらの要望をリーダーたちに伝えてみようか。
「あ?」
外務大臣ったら、冗談ですよ~やだなーもう。
「す、すまない。安全な場所といったら鎮守府しか思いつかなくてな。さっきもイ級から撃たれただろ? 人間や艦娘だって俺を見たら攻撃してくるはずで――って俺には味方がいないのか」
「確かに深海棲艦は脅威ですが、今の艦娘たちにご主人さまを打ち倒す力はないのです」
「おいおい、それは艦娘を舐めすぎだ。練度の高い艦娘なら、駆逐艦でも俺の装甲なんて軽くぶち抜いてくるぞ?」
「ごしゅじんのそうこうを? ぎそうやせいびはおろか、ほきゅうすらままならぬというに……それはふかのうですな」
「“提督″が健在だった全盛期ならありえたかもですが、形だけの鎮守府にご主人さまを打ち破れる戦力は残っていないのですよ」
「……さすがに、冗談だろ?」
「ごしゅじんはしらなかったか。もうあたらしいかんむすはうまれない……じんるいのはいぼくはまぬがれねぇのさ」
妖精さん曰く、つい最近とても大きな戦いがあったそうだ。
その戦いで最後の提督と主力艦隊を失い、今では各地の鎮守府が敗北寸前まで追い詰められている。そして深海棲艦の圧倒的な物量を前に戦線は押し上げられ、艦娘の奮闘によってなんとか防衛している状況なんだとか。
今や生き残った艦娘だけが唯一の希望だが、新たな艦娘は生まれず、艤装や補給さえままならない日々が続いている。
――どうしてそんな大切な提督を最前線に向かわせたんだ?
そう尋ねたら、本人が自主的に出撃したのではなく、上層部の命令であったらしい。
そう教えてくれたリーダーの表情は、暗い憎悪に満ちていた。
「……君らだけでも、新しい艦娘を建造できたんじゃないのか?」
「しざい、ようせい、ていとく。このみっつがそろってはじめてかんむすをけんぞうできますでな」
「世界はその核となる“提督″を失いました。それも深海棲艦だけではなく、人間は悪意によって自らの希望を刈り取ったのです」
「……この広い世界で一人も残っていないなんてありえるのか? 君らにも見落としがあるかもしれないだろ。ほら、俺みたいな例外だってあるわけだし」
「それが……わかってしまうのですよ。今の我々にとってご主人さまは最後の依り代。この絆を失ったとき、我々はこの世から消え去ってしまうでしょう」
どうせ夢を見るなら、いちゃラブからの重婚でコメディな艦これが見たかった。こんな現実風味な苦痛のエッセンスはいらないんだよ……のほほんと艦娘を眺めるだけで満足だってのに。
あぁ、時雨に会いたい……遠くから眺めるだけでもかまわない。
できれば時雨に会って触って抱きしめて、ついでにカッコカリからの駆け落ちもしたい。子供は野球チームを作れる人数で我慢するよ。
まったく、夢くらい気持ちよく見せてほしいもんだ。
「…………今の俺たちにできる最善策はなんだ? 保身に走るとしても、深海棲艦で埋まった世界を生きていけるわけがない」
「そうですね。いかにご主人さまとはいえ、数百隻に囲まれては苦戦を免れません。まずは必要な道具をそろえて計画を練るのです!」
「苦戦どころか塵にされるわ。それで、道具を作るには資材が必要なんだよな? どこでなにを集めればいい?」
「あれをもってきてくだされ」
整備班長の指先が、海に浮かんだイ級の残骸を指し示す。
深海棲艦を持ってこいと?
「アレでいいのか?」
「あぁ。ごしゅじんがしんかいせいかんをたおしてもちかえる。それをおれたちがかこうしてどうぐにかえるんだ。かんたんだろ?」
「わかりやすくていいな! よーし、オジサン頑張っちゃうぞ~」
「海上では十分にお気をつけください。残念ながらご主人さまに見合う装備がないので、あそこにある岩などがおススメなのです」
「バナナを食って岩で殴れと申すか……文明から遠ざかっていくな」
「ここでそうびしていくかい?」
「……お、おう」
ご主人にはお似合いですぞ! と大笑いする整備班長のほっぺをムニムニしたあと、岩を放置して海上へと足を踏み出した。