「うぇ、まっず!!」
「はくなー」
「たんくにはけー」
ダメだ、燃料の直飲みはできない。
イ級の残骸を砂浜に運んでから、試しに燃料タンクを引きずり出して飲もうとしたが、とても飲めたもんじゃなかった。
こうなると現状の燃料補給はバナナのみ。さきほどバナナの残りを外務大臣に確認したところ、かき集めれば世界一周も夢ではないそうだ。途中で腐るだろ、という指摘はスルーされている。
それにしても、妖精さんの技術は魔法のようだった。
始めは岩(メインウェポン)をくりぬいて器を作ってほしいと頼まれ、そこに謎の液体を流し込み、あれよあれよという間に道具を作り出してしまう。
すでにイ級の残骸は俺の手にある燃料タンクだけで、全てのパーツが妖精さんの手によって無駄なく加工された。
「ようせいれぇだぁ、かんせい」
「ようせいそなぁ、つくった」
「せかいちず、かいておいた」
「みんなごくろうさまです。残りは使えそうな装備の補修にまわしてください」
「「「らじゃ!」」」
それらをイ級の残骸からどうやって作ったんですかねぇ。さらっと世界地図を書いたとか抜かしてるし。いや、考えるだけ無駄か。
妖精たちは俺の頭に謎の機械を設置したり、乳首と乳首の間にハンモックを設置したりと大忙しだった。何度引きちぎってもしつこく作りやがるので、俺はついに抵抗することをやめた。
「おお、なかなかいいできばえだな!」
「われらのちからなればとうぜんでしょう。さて、バナナよし。きざいのどうさかくにんもしゅうりょうしましたぞ」
「了解です。ではみんな、ご主人さまに乗り込むのです!」
「「「わー」」」
「っ!? ま、まて――おごごあ!!」
入ってくるのはいいが、一人ずつ順番に入れっての! 一斉に駆け込んできやがるから本当に困っている。
最後は乳首に繋いだハンモックに例の三人が乗り込み、お出かけの準備が整ったようだ。
「お前らがそこに乗るんかい」
「当然なのです。我々の肩には、ご主人さまと妖精の未来がかかっているのですから」
「このしりょうにあるサテライトキャノンとはいったい……」
「せんとうのサポートはおれにまかせな。がいむだいじんのなはだてじゃないぜ」
「サポートしてくれるのはとても嬉しい……だが俺の装備が岩のままってどういうことだ? 大砲をよこせってんだよッ!」
「ご主人さまの怪力ですと、岩のほうが単装砲の威力を上回るのです。わがままはいけないのです」
「わがまま、だと……? 敵が遠距離からドカドカ撃ってくるのに、俺はバナナ食って岩で殴りにいかなきゃいけないんだぞ!? これをわがままと言い張るつもりか!」
「まぁごしゅじん。おちついてバナナでもくえって」
「……いただこう」
これめっちゃうめぇんだよなぁ。
まぁ元から戦闘は回避する予定だった。妖精さんがレーダーで誘導してくれるそうだから、あまり文句は言わないでおこう。
本音は俺だって大砲をバンバン撃ってかっこよく戦ってみたいよ? でも俺の尻尾にある主砲は飾りだったんだ。異常に硬いだけの鈍器ですと言われて真顔になったっけな。
つまり、俺は遠距離から砲撃されたらなにもできないわけだ。
タイマンなら世界最強だなんて言われても、艦隊戦がメインなこの世界ではクソの足しにもなりゃしない。
ただ、強い、固い、早いの三拍子がそろっているのもまた事実。敵対したら厄介な存在ではあるだろうな。
「ご主人さま。このまま鎮守府へ誘導しますけど、本当によろしいですか?」
「みんなで相談した結果だからな。でも撃沈されそうになったら迷わず逃げるぞ」
妖精さんの見立てでは、人類はあと一年と持たないそうだ。いずれ世界は深海棲艦に支配されるわけで、そうなれば俺たちも同じように飲み込まれて終わる。
そこで妖精さんから提案されたのは、こっそりと艦娘への支援を行うことだった。
まずは艦娘たちの動向を探り、支援を行えるかどうかの判断を下す。そして不可能と判断した場合は、切り捨てて別の計画を立てる考えもあるようだ。
ここには妖精界のエリートが集まっているから、そう難しいことではないとのこと。それでも不安は拭えないが。
「……おれはごしゅじんが“ていとく″になればいいとおもってんだけどなぁ」
「それは断ると言ったはずだぞ? ヘタすると深海棲艦が生まれてしまうかもしれない」
「確かにリスキーです。でも我々は新たなチンパンジーの誕生にも興味津々なのですよ!」
「……ごしゅじんのあくりょくをおわすれですかな? チンパンジーではすじがとおりますまい」
「チンパンと言ったらチンパンなのです! ゴリラの大半は草食だと言ったではないですか!」
「むむむ! ききずてなりませんなぁ。いちぶのゴリラはざっしょくですぞ! なんならどうぶつのにくをたべることもありますでな」
「仕事だぞ外務大臣。俺が心優しい人間であることを教えてやれ」
「いえないねぇそんなことは。おれはうそをつきたくないんだ」
お前らはゴリラやチンパンジーがご主人様でいいのか?
「さぁケンカは後だチビども。俺はどっちに向かえばいい?」
「このまま西へ。あちらの方向へまっすぐお願いなのです」
「ではけいかくどおり、はぐれしんかいせいかんをみつけしだいほうこくしますぞ」
「頼んだ。じゃあしっかり捕まってろ」
走る、風を切るように。
この体は本当に速い。きっと駆逐艦にも負けないくらいの速度が出ていると思う。
目的地までは単独行動を取るイ級やホ級などを強襲し、可能な限りの資材をかき集めていく。
そして俺が器(メインウェポン)を支え、開発班が解体を行うのだ。だから海上でも問題なく資材に加工できるわけだが……俺の労働環境はかなり悪いのではなかろうか?
しかし我慢だ、我慢するんだ。もうじき艦娘に会えるんだから。
「……フヒヒ」
「ごきげんだなごしゅじん。やっぱたたかいはちがたぎるよなー!」
「外務大臣は見る目がないのです。この顔はバナナが欲しいときの顔なのですよ」
「バナナはよろしいが、あらたなごしゅじんのぶきがひつようでわ? うつわをこわされてはたまりませんでな」
「ふふふー、こんなこともあろうかと……ジャーンなのですぅ!」
「すげえかたそうだ。よかったなぁごしゅじん!」
「え……俺に?」
「もちろんなのです。遠慮なくお使いください」
渡されたのは鉄の棒だった。ぶっといヤツ。
「…………ありがとう」
「連装砲を解体して作った最高傑作です。頑丈さは保障するのですよ!」
「そうですか。できれば解体前がよかったです」
「ひでぇやごしゅじん……おれたちのきもちをくんでくれよ!」
「サプライズまでえんしゅつしたというに、みそこないましたぞ!」
「やかましいわバカチンどもが! 人をチンパン扱いしやがって……文明をよこせッ!」
現実的に考えると、近代化改修ってエグイよな。
そんなどうでもいいことを考えながら、俺は西へと走り続けた。