チンパン棲艦ネ級♂   作:イボのない軍手

3 / 10
鈍器に愛されたネ級♂

 

 

「うぇ、まっず!!」

「はくなー」

「たんくにはけー」

 

 

 ダメだ、燃料の直飲みはできない。

 イ級の残骸を砂浜に運んでから、試しに燃料タンクを引きずり出して飲もうとしたが、とても飲めたもんじゃなかった。

 

 こうなると現状の燃料補給はバナナのみ。さきほどバナナの残りを外務大臣に確認したところ、かき集めれば世界一周も夢ではないそうだ。途中で腐るだろ、という指摘はスルーされている。

 

 それにしても、妖精さんの技術は魔法のようだった。

 始めは岩(メインウェポン)をくりぬいて器を作ってほしいと頼まれ、そこに謎の液体を流し込み、あれよあれよという間に道具を作り出してしまう。

 

 すでにイ級の残骸は俺の手にある燃料タンクだけで、全てのパーツが妖精さんの手によって無駄なく加工された。

 

 

「ようせいれぇだぁ、かんせい」

「ようせいそなぁ、つくった」

「せかいちず、かいておいた」

「みんなごくろうさまです。残りは使えそうな装備の補修にまわしてください」

「「「らじゃ!」」」

 

 

 それらをイ級の残骸からどうやって作ったんですかねぇ。さらっと世界地図を書いたとか抜かしてるし。いや、考えるだけ無駄か。

 

 妖精たちは俺の頭に謎の機械を設置したり、乳首と乳首の間にハンモックを設置したりと大忙しだった。何度引きちぎってもしつこく作りやがるので、俺はついに抵抗することをやめた。

 

 

「おお、なかなかいいできばえだな!」

「われらのちからなればとうぜんでしょう。さて、バナナよし。きざいのどうさかくにんもしゅうりょうしましたぞ」

「了解です。ではみんな、ご主人さまに乗り込むのです!」

「「「わー」」」

「っ!? ま、まて――おごごあ!!」

 

 

 入ってくるのはいいが、一人ずつ順番に入れっての! 一斉に駆け込んできやがるから本当に困っている。  

 最後は乳首に繋いだハンモックに例の三人が乗り込み、お出かけの準備が整ったようだ。

 

 

「お前らがそこに乗るんかい」

「当然なのです。我々の肩には、ご主人さまと妖精の未来がかかっているのですから」

「このしりょうにあるサテライトキャノンとはいったい……」

「せんとうのサポートはおれにまかせな。がいむだいじんのなはだてじゃないぜ」

「サポートしてくれるのはとても嬉しい……だが俺の装備が岩のままってどういうことだ? 大砲をよこせってんだよッ!」

「ご主人さまの怪力ですと、岩のほうが単装砲の威力を上回るのです。わがままはいけないのです」

「わがまま、だと……? 敵が遠距離からドカドカ撃ってくるのに、俺はバナナ食って岩で殴りにいかなきゃいけないんだぞ!? これをわがままと言い張るつもりか!」

「まぁごしゅじん。おちついてバナナでもくえって」

「……いただこう」

 

 

 これめっちゃうめぇんだよなぁ。

 まぁ元から戦闘は回避する予定だった。妖精さんがレーダーで誘導してくれるそうだから、あまり文句は言わないでおこう。

 

 本音は俺だって大砲をバンバン撃ってかっこよく戦ってみたいよ? でも俺の尻尾にある主砲は飾りだったんだ。異常に硬いだけの鈍器ですと言われて真顔になったっけな。

 

 つまり、俺は遠距離から砲撃されたらなにもできないわけだ。

 

 タイマンなら世界最強だなんて言われても、艦隊戦がメインなこの世界ではクソの足しにもなりゃしない。

 ただ、強い、固い、早いの三拍子がそろっているのもまた事実。敵対したら厄介な存在ではあるだろうな。

 

 

「ご主人さま。このまま鎮守府へ誘導しますけど、本当によろしいですか?」

「みんなで相談した結果だからな。でも撃沈されそうになったら迷わず逃げるぞ」

 

 

 妖精さんの見立てでは、人類はあと一年と持たないそうだ。いずれ世界は深海棲艦に支配されるわけで、そうなれば俺たちも同じように飲み込まれて終わる。

 

 そこで妖精さんから提案されたのは、こっそりと艦娘への支援を行うことだった。

 

 まずは艦娘たちの動向を探り、支援を行えるかどうかの判断を下す。そして不可能と判断した場合は、切り捨てて別の計画を立てる考えもあるようだ。

 ここには妖精界のエリートが集まっているから、そう難しいことではないとのこと。それでも不安は拭えないが。

 

 

「……おれはごしゅじんが“ていとく″になればいいとおもってんだけどなぁ」

「それは断ると言ったはずだぞ? ヘタすると深海棲艦が生まれてしまうかもしれない」

「確かにリスキーです。でも我々は新たなチンパンジーの誕生にも興味津々なのですよ!」

「……ごしゅじんのあくりょくをおわすれですかな? チンパンジーではすじがとおりますまい」

「チンパンと言ったらチンパンなのです! ゴリラの大半は草食だと言ったではないですか!」

「むむむ! ききずてなりませんなぁ。いちぶのゴリラはざっしょくですぞ! なんならどうぶつのにくをたべることもありますでな」

「仕事だぞ外務大臣。俺が心優しい人間であることを教えてやれ」

「いえないねぇそんなことは。おれはうそをつきたくないんだ」

 

 

 お前らはゴリラやチンパンジーがご主人様でいいのか? 

 

 

「さぁケンカは後だチビども。俺はどっちに向かえばいい?」

「このまま西へ。あちらの方向へまっすぐお願いなのです」

「ではけいかくどおり、はぐれしんかいせいかんをみつけしだいほうこくしますぞ」

「頼んだ。じゃあしっかり捕まってろ」

 

 

 走る、風を切るように。

 この体は本当に速い。きっと駆逐艦にも負けないくらいの速度が出ていると思う。

 

 目的地までは単独行動を取るイ級やホ級などを強襲し、可能な限りの資材をかき集めていく。

 そして俺が器(メインウェポン)を支え、開発班が解体を行うのだ。だから海上でも問題なく資材に加工できるわけだが……俺の労働環境はかなり悪いのではなかろうか? 

 

 しかし我慢だ、我慢するんだ。もうじき艦娘に会えるんだから。 

 

 

「……フヒヒ」

「ごきげんだなごしゅじん。やっぱたたかいはちがたぎるよなー!」

「外務大臣は見る目がないのです。この顔はバナナが欲しいときの顔なのですよ」

「バナナはよろしいが、あらたなごしゅじんのぶきがひつようでわ? うつわをこわされてはたまりませんでな」

「ふふふー、こんなこともあろうかと……ジャーンなのですぅ!」

「すげえかたそうだ。よかったなぁごしゅじん!」

「え……俺に?」

「もちろんなのです。遠慮なくお使いください」

 

 

 渡されたのは鉄の棒だった。ぶっといヤツ。

 

 

「…………ありがとう」

「連装砲を解体して作った最高傑作です。頑丈さは保障するのですよ!」

「そうですか。できれば解体前がよかったです」

「ひでぇやごしゅじん……おれたちのきもちをくんでくれよ!」

「サプライズまでえんしゅつしたというに、みそこないましたぞ!」

「やかましいわバカチンどもが! 人をチンパン扱いしやがって……文明をよこせッ!」

 

 

 現実的に考えると、近代化改修ってエグイよな。

 そんなどうでもいいことを考えながら、俺は西へと走り続けた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。