チンパン棲艦ネ級♂   作:イボのない軍手

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積載量に定評のあるネ級♂

 鉄の棒がダメになった……けどそれは別にどうでもいい。

 今こそどうやって銃器を作らせる方向へ仕向けるかを考えるのだ。

 

 横須賀でカッコつけたあの日、俺は深海棲艦の群れを背後から奇襲した。理由は重巡洋艦の二隻が後方を陣取っていたためだ。

 

 重巡リ級。それなりに高い火力を持ち、夜戦においては厄介な存在。俺の装甲を抜いてくる可能性が高く、とても油断できる相手ではなかった。

 

 だが問題は強さだけではなく、人間とそう変わらない容姿が俺を悩ませた。でもやらなければ提督ちゃんと艦娘たちが死ぬ……その恐怖が俺に勇気を与えたんだ。

 

 背後から重巡二隻をまとめて粉砕、そして鉄の棒も粉砕。その後は殴る蹴るの暴行によってなんとか勝利を収められた。

 

 でも残骸を回収するとき、体を砕かれたリ級が足元から俺を見上げていたんだ。そのオーシャンブルーの瞳は憎しみに染まり、死してなお忘れぬと言われたようでゾクリとした。

 

 そこに開発班の妖精がトコトコと近づく。

 

 ――そざいはっけん。

 

 おもむろにスプーンをリ級の目玉にぶち込みやがったから、ひ!? と少女のような声を出した俺を不思議そうに見ていた。そのままブチリと躊躇なく引きちぎり、手にした“素材″を高らかに掲げ、俺に自慢してくる。

 

 ――せんどがごいすー。

 

 記憶に残る龍驤たんのぬくもりだけが、俺の心を強く支えた。

 強くなろう……いや、なってみせる。だからちゃんとした武器をください。

 

 

「大砲をください」

「また武器を壊したのですか? まったくもー」

「ごしゅじんはものもちがわるいですなぁ」

 

 

 我慢、我慢しろ……ここで怒ったらいつも通り鈍器を渡されるだけだ。いいかげんいいよな? 俺が大砲をぶっ放しても。さっさと役に立たない尻尾の主砲を交換して、華麗なる回避からの砲撃を打ち込むんだ。

 

 そして艦娘たちのピンチを助け、朝は訓練、夜はニャンニャン。

 なんつって、ぐへへ。

 

 

「ごめんなさい。大砲がほしいです。あとバナナも」

「めっ! なのです。我々にはそんな余裕はないのです」

「ききわけのないこはこまりますぞ?」

「ス~……んんッ!! うぅぅ……」

「お、おい……ごしゅじんがそこそこキレてるぞ!」

 

 

 当たり前だチビ助どもが!! 

 このよくわからん無人島に住んでから少し経つが、なんでお前らの生活レベルだけがアップしてるんですかねぇ?

 

 ここにバナナの木を植えてくれたのは感謝してる。でも俺のベッドなんてワラを敷き詰めただけで、むしろこのワラをどこで手に入れたのかが気になって夜も眠れないんだぞ。俺にもその楽しそうなハンモックをくれ。

 

 

「冗談抜きで、大砲なしではこの先生きのこれないぞ? 今まではよわっちい深海棲艦しか遭遇してないから、危機感が足りてないんだお前たちは……俺だってしつこく言いたかない、でも鈍器では限界がある」

「そのことですが、じつはおつたえしにくいことが……」

「な、なによ……怖いんだけど」

「まえにさ、おれたちにもごしゅじんのことわからねぇっていったろ? あれほんとうなんだ」

「体の構造が複雑すぎてどうにもならないのです。艦娘は意識するだけで銃器のトリガーを引けますが、ご主人さまにその機能はありません。新たに構築したくてもできないのです。その尻尾のように」

 

 

 なんだと……じゃあこれからも鈍器で戦わなくてはならないのか? その理論だと艦娘のほうが複雑だと思いますけどっ。

 

 ちなみに尻尾の根元が倉庫になっていて、荷物はここにまとめてある。妖精たちから積載量が凄いと評判もいい。

 

 

「ごしゅ、できた」

「お、見せてくれ」

「あい」

「素晴らしいな……名前はあるのか?」

「ようせいもにたぁ」

 

 

 開発班に頼んでいた例のブツ、妖精モニターが完成したようだ。

 偵察機からの映像をリアルタイムに映し出す、謎すぎる妖精テクノロジーの結晶。電波を使わずにどうやって映しているのかは不明であり、有効範囲は俺の存在を感知できるところまで、だそうだ。

 さっぱりわからん。

 

 

「見ろ、艦娘が訓練しているぞぅ!」

「そんなの当たり前です! ご主人さまはいつも艦娘艦娘って、我々にもさらなる愛情を注ぐべきなのですよ!」

「つったサカナにも、エサはひつようだぜ?」

「お前らが俺を釣ったんだろうが」

「ごしゅがわるい」

「…………」

 

 

 く、なんだこの敗北感は。ちっこい子供に責められたような、反論できるけどできないようなこの感覚……。

 

 

「それよりごしゅじん。そろそろしざいがあふれてしまいそうですが、どうされますかな?」

「そうか……ここで野ざらしにはできないよな?」

「ここはうみのどまんなかだぜ? さびないようにソウコをつくってもいいが、いかんせんかぜがつよすぎる」

「俺はその環境で寝てるんだがな。でもどうしようか」

「あのご主人さま? その、どうせなら、寄付するのも手かと」

「んん? どこに寄付するんだぁい? オジサンにちゃあんと教えてほしいな」

「……ごしゅじん」

 

 

 その目はなんだ班長? 俺はただリーダーの献策を聞いてあげてるだけじゃないか。邪魔するならお前のほっぺをプニプニするぞ。

 

 

「さぁ、怒らないから言ってごらん?」

「……ヨ、ヨコスカとやらに、です」

「そうかそうか! リーダーたってのお願いなら聞かざるをえないなぁ! よぉしチビども、三十秒で支度しな」

「「「らじゃ!」」」

「おごごああッ!」

 

 

 口は一人ずつ!! いい加減に順番を守れチビども!

 何回言えばわかるんだこいつらは……。

 

 おっと、急ピッチで作ってもらった艦娘たちの専用装備を忘れないようにしないと。喜んでくれるかなぁ? フヒヒ!

 

 ニヤついている俺を見上げ、妖精三人娘が頬を膨らませていた。

 やんちゃな子供みたいで生意気だが、近頃は無性にかわいく感じてしまうことが多い。いつものハンモックに乗せると笑顔が戻り、俺はこんな生活も悪くないと感じている。

 

 できれば、ハンモックは乳首から外してほしい。

 そう思いながら横須賀鎮守府へと走りだした。

 

 


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