すっかり空は朱に染まっていた。
重桜の桜が、夕陽に映える。
「……一日が、終わるなぁ」
どこからか、終業を告げるラッパの音が聞こえる。
いつもなら終礼をしてる筈なんだけど。
「そうね」
石垣の上に愛宕さんが腰を掛けている。
隼鷹は俺の隣に立っていた。
「イサムくん、今日は楽しかったかしら」
「ええ、お陰様で」
「ほんと、びっくりしたわ。イサムってこの街の事何も知らなかったのね」
……実は、所属基地周辺くらいしか把握しておらず……遊ぶ所、飲食店、何一つ知らなかった。
この街に二年住んでいたというのに。
「そんな余裕、無かったからかもなぁ……」
「イサムは真面目過ぎるのよ。ちょっと肩の力抜いても、バチは当たらないわ」
「人間そんな肩肘張って生きてたら、長生きできないわよ〜」
かも知れない。
俺は、ちょっと焦ってたのかな。
「……赤城様にお礼しないとなぁ」
「あの人はそんなつもり毛頭無いと思うわ。部下想いの頼れるまとめ役。それだけよ」
「そうそう。まぁ、赤城ならイサムくん安心して預けられるかしら」
「……あの人に、着いていくって何となく思ったけど」
自分の選択に、間違いは無かったと信じられそうだ。
「帰ろうか。さ、明日から頑張らなきゃ」
「「イサム(くん)」」
「うぇ?」
がッ、と2人から肩を掴まれた。
「まだ3日残ってるわよ」
「……そうだった」
4日間の休暇。
それの一日目が終わりかけていただけ。
「イサムくん本当に仕事中毒ね……」
「俺は、俺にしかできない事をやってるだけさ」
誰もやらないけど、誰かがやらなきゃならない仕事。
それが、俺が運ぶ理由。
「そっか。なら、お姉さんは止めないわ」
「……イサムがやりたい事を見付けてくれたから、私は嬉しいけど」
「ありがとう、二人共」
重桜の国土復興。
この国が繋がれば、疲弊しきった皆も……きっと笑顔が戻ってくる筈。
「そう言えばイサム」
「うん?」
「一人称、変えたんだね」
「……今更じゃない?」
愛宕さんが呆れた様に笑う。
「そうね。前は僕って言ってたのに」
「そ、それは……」
言われたこっちは笑えない。
「なんか無理してるみたい」
「そんなこと無い」
「そう?お姉さん的には前も可愛かったけどね」
それを言われたくないんだっての!!!
「まぁ、イサムも思う所があるんだよね」
「………………」
隼鷹にいつまで経っても子供扱いされたくなくて変えたなんてバレたくない。
「さ、帰りましょう二人共。お姉さんお腹ペコペコ〜」
「「えっ……」」
愛宕さんの胃袋は限界を知らないらしい……。
休暇一日目、完。