鉄と鉄とがぶつかり合う音。
さきほどからずっと狼さんと謎の女性が打ち合っている。
狼さんの攻撃をすべて女性は防いでいるが、狼さんもまた女性の攻撃をすべて防ぎ、踏み、躱している。
「くっ……!」
「………………」
完全に互角。
改めてKAN-SENが陸の上でも脅威だと言う事を認識したし、何より狼さんの技量も恐ろしい。
人外に食い付いているのだ。
「なるほど、相当な手合……!」
女性の両腕に付いた手甲には傷はない。
なんとあの女性、狼さんと素手でやり合っている。
相手は刀を持つと言うのに。
KAN-SENが艤装を使っていない、要するに本気では無いのにこの能力。
さっきから呆けっと見てる事しか出来てない。
(ほ、呆けるな!今の内に援軍を呼びに行かないと……!)
今の自分は徒歩。
海軍司令部に走っても結構時間が掛かってしまう。
どうする……!
「狼さん!援軍を呼んできます!」
「……!かたじけない!」
「させませ……くっ!」
狼さんの動きが、相手を縫い止める……時間稼ぎの物に変わる。
臨機応変、まさしく忍たらしめる。
……でも忍が真正面から打ち合いしてるのもそれはどうなんだろうか。
「ベルファスト!」
「えっ」
走り出した瞬間、物陰からまた小柄な人影が現れた。
ブレーキが効かずぶつかる。
「わっ、ご、こめんなさ」
言い切る前に、その小柄な影に持ち上げられて投げ飛ばされた。
なんて力だ……!
「申し訳ありません。存外手こずってしまって」
「助力します。早く離脱しますよ」
「ぬぐ……」
狼さんが低く呻く。
KAN-SENが2体。
状況は悪い。
俺は……。
「助太刀します」
「……これでは、どちらが助けに来たのか分からぬな」
腰に書くし差していた短刀を抜き、逆手で構えて狼さんに並んだ。
……実は、重桜統一が成されたその日……長門様より下賜された代物だ。
抜かずに置いておけたらどれだけ良かったか。
両者、無言でにらみ合う。
……その時、夜空を一機切り裂く艦載機が飛んだ。
「あれは」
「隼鷹!」
間違いない。
隼鷹の艦載機だ。
「……誰だ」
背筋が凍った。
誰が出した声だ。
ゾッとするほど殺意と憎悪に染まった声音。
「イサムを傷つけたのは、誰」
「増援……!引きますよ、シェフィールド」
「逃がすと思ってるの?ネズミめ」
「算段が無ければ元より勝負を始めないものでして」
からん、と何かが落ちる。
これは、筒……いや、煙幕!
「ご機嫌よう皆様方。またいずれ」
それだけ言い残して、声は消えてしまった。
「逃がすか……!」
隼鷹が走り出そうとして、俺は、彼女の手を……思わず掴んでしまった。
「イサム……」
「あ……いや、ごめ、違っ」
手が自分の意思に逆らって離れない。
……手が、ずっと震えている。
「……」
いつの間にか、狼さんも居ない。
ここには、俺と隼鷹の二人だけ。
「じ、隼鷹は、追わなきゃいけないのに」
「……大丈夫よ、イサム」
隼鷹が、震える俺を抱き締めた。
「怖がらないで。隼鷹が傍に居るわ」
「……ごめんなさい。ごめんなさい……弱くて。本当に……」
「泣かないで。イサムは、頑張ったわ。KAN-SENに立ち向かえたんですもの」
俺は、しばらく隼鷹に抱き締められて……泣いていた。
この日を、絶対に忘れてはいけない。
俺は、こんなにも無力だ。
初めてぶつけられた殺意。