「ここが、指定されていたポイントだね」
トライクを一旦止める。
波が少し荒いだけで、特に何か問題のある海域には思えない。
……問題、問題があるとするなら。
ここが、重桜の領海から少し外れた場所であるという事。
どの国にも統治されていない海。
……未だ、セイレーンの蔓延る場所。
「早く行きましょう」
隼鷹が先行する。
俺もその後に続く。
「……それで、大鳳さんの部隊が落とした物資というのは?」
後ろに続く大鳳さんに聴こえる様に声を張る。
KAN-SEN同士は艤装の通信設備でどうにかなるけど、俺はそうでもないのだ。
「呼び捨て貰っても構いませんイサム様♡」
「チッ……」
隼鷹が舌打ちしたのを聞かなかった事にした。
「大鳳達が運んでいたのはメンタルキューブですわ」
「メンタルキューブ?どうしてそんな物を」
メンタルキューブ。
KAN-SEN達が産まれるために必要不可欠なブラックボックス。
未だ、それがどうして必要なのかすら判明していない。
唯一判っているのは、KAN-SEN達にとってのリュウコツを司る『船の記憶』が秘められている事。
「それは少し特殊な物だったんです」
「特殊?」
「はい。詳しくは言えませんけど……開発艦計画はご存知ですか?」
それで大体察した。
俺の運んでいるこのアタッシュケースと同じ物が、この海の何処かにある。
「大体わかったよ。早く探してあげよう」
しかし、この波間に呑まれていないとも考えられない。
探すまでもなく海の藻屑と化しているなら……諦めるしかない。
最悪のケースは既にセイレーンの手に落ちていること。
対セイレーンの切り札を失う事は痛手だ。
隼鷹と大鳳さんが艦載機を飛ばし始めた。
こういう時、やはり空母は頼りになる。
……おや。
「大鳳さん、大丈夫ですか?」
「……え?」
「顔色が優れませんけど」
「き、気にしないでください。少し、思い出してしまっただけですわ」
最後の、独り言の様に呟いた言葉にはなんの感情もなかった。
――――――――――一時間後。
「無い……やっぱり沈んじゃったのかな」
荷物の性質上、このケースは軽い。
回収しやすい様に浮かせるためだ。
空母2隻の索敵能力を持ってしても見付けられなかった。
「赤城に連絡する?」
「そうし……」
「駄目ですわ!」
大鳳さんが声を荒げる。
驚いて振り向く。
「……大鳳さん?」
「あっ、いえ……何でも、ありません」
「体調が優れませんか?やはり無理はすべきでは無いと思います。戻りましょう」
「違っ……大鳳は……」
「イサム。大鳳を置いて行きましょう」
「何言ってるの隼鷹!?」
隼鷹の発言に思わず目を丸くした。
「イサム、大鳳のそれ。演技よ」
「え……」
「ッ!」
隼鷹に指摘されて、大鳳さんを見る。
顔色は悪いままだが、その表情は無。
「……いつから?」
「最初からよ。貴女いっつも保身に走ってるから分かりやすいわ」
「何ですって……!」
「喧嘩しないでよこんなとこで!今はそんな事はどうだって良い!」
俺は大鳳さんへ向き直った。
「それは本当に貴女のしたいことですか」
「え……」
「大鳳さんは、その任務を継続しなきゃいけない理由があるんですか?」
「大鳳、は……」
「重桜のKAN-SEN……それと、人間が、どうしてここに」
「え……」
第三者の声。
「貴方は……」
「ひっ……」
思わず、呻いた。
そこに居たのは、ロイヤルのメイド隊。
俺を殺しかけた、メイド長だった。