例えば……。
「いーーーさーーーーむーーーーくーーーーーん!!!」
「うぇ……?」
「げっ……」
帰り道。
近所のおじいさん達からお土産に柿を貰ったので帰ったら食べようと思っていた時だ。
誰かが、俺の名前を呼びながら全速力で向かってきている。
「イサム、早く行きましょう」
「えっ、でもこの声……」
「良いから」
「えっ、えー……」
隼鷹がトライクを押す。
やめて、揺らさないで。
昔俺が海に落ちたとき荷物とトライクそのまま沈めてこっぴどく叱られた事あるんだから。
そんなやり取りをしている間に、彼女はやってきた。
ピンと立った黒い耳。
光を反射して艶っぽく振りまかれる黒くて長い髪。
重桜でよく見る制服を身に纏い……スカートを改造して丈を短くし、そこから覗くガーターベルトが艶めかしい。
「イサムくぅぅぅぅぅん!!」
「こんにちは愛宕さうおわぁぁぁぁぁぁぁ」
KAN-SEN、愛宕さんが飛び込んで来た。
「させるかぁッ!!」
後方から勇ましい掛け声と共に隼鷹が飛び出し、
「くたばれぇ!!」
「ぎゃんっ……!?」
愛宕さんのお腹を思いっ切り蹴り飛ばした。
「隼鷹!?」
「大丈夫?」
「いやいや愛宕さんの方が心配だよ!何してるの!?」
「これはイサムの為だから」
「頼んでないよ!?」
恐る恐る愛宕さんに近付く。
「あの……大丈夫ですか?」
ぴくり、耳が動き……愛宕さんは立ち上がって俺に抱きついて来て頬ずりをしてきた。
「わ、ちょっと、落ちる!」
「久しぶりぃぃぃイサムくぅぅぅぅん!お姉さんがいなくて寂しかった?お姉さんとっても寂しかったわぁ〜〜〜〜〜〜〜!!」
「お久しぶりです愛宕さん。痛い痛い痛い痛い痛い頬が擦り切れる!」
どんな力で擦ってるんだこの人。
隼鷹が無言で愛宕さんを引っ剥がした。
「あら。いたの」
「……愛宕、貴方は長期の任務だった筈よ」
「うふふ、さっき帰ってきたの。イサム君に会えると思ったんだけど、入れ違いになっちゃったから追い掛けてきたの」
「ふーーーーん……ご苦労さまですね」
……この二人、いつも会うとこんな感じなんだよね。
愛宕さんとは隼鷹と会ってからしばらくして知り合った。
本当の姉の様に俺の面倒を見てくれていたのを思い出す。
そのノリで接させるのもちょっと恥ずかしいけど。
「今日もお仕事?」
「まぁね。離島の先生に常備薬の配送」
「あぁ、あの……あの島にもなんとかインフラを整備しないとって上も言ってたわね」
「そうしてくれたら、俺の仕事も減るんだけど」
「……別に、イサム君が無理して運ぶ必要無いでしょ?」
愛宕さんが、そう呟いた。
……元々、このルートの配送は俺の担当じゃなかった。
地味な仕事を嫌った同僚が残した、いわば尻拭い。
俺のする配送は、ほとんどがそんな地味な配送だ。
若い配達人は、戦争の準備に飛びついて行く。
……戦争は、嫌いだ。
自称お姉さん、愛宕登場。
正直隼鷹と絶対仲悪いよね。