【完結】レッドアクシズ・ストランディング   作:塊ロック

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第四十七話 セイレーン

「舐めるなァッ!!!」

「ヒッパー!?」

 

ヒッパーが前に出る。

彼女が手を前に突き出した瞬間、青い盾の様な物が展開された。

 

紫の閃光がその盾にぶつかり、遅れて凄まじい衝撃があたり一面を襲う。

 

「う、わっ……!」

「ぐ、ぎぎぎ、このぉっ!!!」

 

ヒッパーの艤装から煙が上がる。

応急処置しかしていない為、無理は効かない。

 

「ヒッパー!」

「うるさい!借りっぱなしは性に合わないのよ!!」

「でも!!」

「うるさーい!!アンタを、絶対、送り届けるんだから!!!」

 

爆発。

小柄な身体が、宙を舞う。

 

「ヒッパー!!」

「イサム、前っ!!」

「っ!?」

 

再び閃光。

今度は狙いが甘いのか避けられた。

 

「走って!」

「でも、ヒッパーが……!」

「アレもKAN-SEN……覚悟の上よ」

「でも、」

「行きなさい!!」

「くっ……!」

 

アクセルを全開にする。

一刻も早くこの海域を離脱しなければ。

 

目的地がすぐ目の前だって言うのに、こんな所で!

 

……けど、鏡面海域の情報は全く無いと言っていい。

何故なら、人間の生還者は居ないからだ。

 

「量産型……!」

 

行く手を阻む様に展開されている量産型KAN-SEN。

このタイプ、確か鉄血で運用されていた奴じゃ……?

 

「どう見てもお友達じゃないよね……!」

 

船と比べれば圧倒的に小回りが効く。

なので包囲されたと思っても案外抜けられる。

 

ただし、波と接触には注意しなければならない。

 

接触してしまえば明らかに質量負けするのでこちらがクラッシュしてしまう。

 

「イサムには、指一本触らせない……!!」

 

隼鷹が鬼神の如く量産型を沈めていく。

如何せん、数が多い。

 

「隼鷹!無茶しないで!」

「イサムは前だけ見て!まだ小規模よ、必ず抜けられる……!?」

 

至近弾。

隼鷹がバランスを崩した。

 

「くっ……!」

 

隼鷹を見ていたせいで、足元が疎かになっていた。

……魚雷が、新路上を進んでいた。

 

「しまっ――――――」

 

瞬間、爆発。

俺の身体の感覚が一瞬消える。

 

「イサムっ……!?このっ………………あ、ぐっ!?」

 

……気持ちの悪い浮遊感。

そして、海面に顔面を打ち付けて落ちた。

 

「う、あ…………」

 

生きてる……?

そうだ、荷物が。

 

「お、えっ……」

 

吐き気をこらえて立ち上がる。

海上を渡る力は元来自分のもの。

自分の足で海の上に立つ事もできる。

 

「トライクが……」

 

大破炎上。

長年連れ添った相棒は、火を吹いて沈んでいった。

 

「く、そっ……」

 

隼鷹は、ヒッパーは。

足元が覚束ない。

けど、なんとか立ち上が……あれ?

 

立てない。

何故?

いつも通り立ち上がっているつもりなのに。

 

まるで重りが片方だけにしか無いみたいだ。

 

「……あ」

 

気付いた。

気付いてしまった。

 

俺の、左腕が綺麗になくなっていた事に。

 

「う、あ、」

 

拙い。

気が付いたら気分が悪くなってきた。

 

破片が身体に刺さってないのが奇跡だ。

切断面も焼けてしまっているため出血が抑えられている。

 

「隼鷹……」

「隼鷹って、これの事かしら」

 

どしゃあ。

立とうと藻掻いている傍らに、ボロボロになった隼鷹が投げ捨てられた。

 

「隼鷹……っ!」

「あーあ、かわいそうに」

 

そう溢した人影を睨む。

 

……それは、奇怪なシルエットをしていた。

まるでタコのように吸盤の付いた触手。

その根本に鎮座する華奢な少女。

肌は病的にまで白い。

いや、白と称するには生ぬるい。

 

そして、金色に輝く瞳だけが爛々としていた。

 

「なんた、お前は……」

「初めましてイレギュラー。ここまで大変だったわね」

「イレギュラー……?」

「人間がここまで動くなんて、他の世界じゃ有り得なかったから試しに見に来たけど……この特異個体も合わせて大したこと無かったわ」

「何を、言って……」

「ちょっと手を加えただけで壊れちゃうんですもの。すこーし強度が足りなかったわね」

 

何を言っているんだこいつは。

 

未だに立ち上がろうと藻掻く俺を見ているようで……ただ、視線がこちらに向いているだけな様な感覚。

こいつは俺を見ていない。

俺を通して何か別のものを見ている。

 

「この世界の覚醒候補もボツ、か」

「何なんだよ……」

「あら、生きてたのね」

「何なんだよ、お前はっ……!」

「貴方達がセイレーンと呼ぶ者よ」

「ああそうかよ!何でこんな事をするんだよ!」

「そうカッカしないの。残り短い命、縮めるわよ?」

「お前――――――」

「それより、これ……要らないの?」

「えっ、あっ、なん、えっ?」

 

セイレーンの持つケース。

おかしい。

背中に巻き付けてあったのに。

どうして?

 

……腕が飛んだときに巻きつけが甘くなった?

 

「か、かえっ、返せ!」

「これがそんなに大事?」

「そう、だ!それは、絶対に、届けるんだ」

「そ。残念ね」

「あ………………」

 

 

セイレーンの手を離れた瞬間、一瞬でグシャっと潰れた。

 

 

中から、ボタボタと血のような物が滴り落ちた。

 

 

「ぁぁあ゛あ゛あアア゛ああ゛アアア゛アああアア゛ああアア゛ア゛アァァ!!!!貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

叫んだ。

もうバランスなんて考えないで、ぶつかりに行くようなレベルで走る。

 

残っている右手で腰の短刀を手にした。

 

「やーね、みっともない」

「が、ふっ」

 

触手に頬をはたかれて吹っ飛ばされた。

手から短刀が滑り落ち、沈んだ。

 

「そんなに返して欲しいならあげるわよ、ほら」

 

最後に残ったケースを目の前に投げ捨てられる。

沈む前になんとか、慌てて掴んだ。

 

だが、

 

「貴方も、世界を変えるイレギュラーには成り得なかったわね」

 

それで、どうなる?

これで、終わり?

俺の旅の終着点は、ここなのか?

 

「く、そ、ちくしょう……」

 

嫌だ。

嫌だ嫌だ嫌だ。

終わりたくない。

死にたくない。

 

死なせたくない。

 

生まれるはずだったこの子を、死なせたくない。

 

「ちくしょう……俺に、戦える力があったらなぁ……」

 

駄目だ、力が抜ける。

瞼も重くなってきた。

今この手を離したら、この子が水の底に沈んでしまう。

 

「お疲れ様。まぁまぁ楽しめたわ。次はもうちょっと頑張ってね」

 

もう、何も、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく頑張ったな」

 

 

 

 

 

あ、れ?

 

 

 

 

次の瞬間、凄まじい衝撃と轟音が鳴り響く。

 

「お、わっ……!?」

 

堪らず転がる……が、誰かに受け止められた。

 

「え……」

 

そのまま、抱き締められた。

 

「イサムくん……ごめんなさい、ごめんなさい……遅くなって……」

「愛宕……さん?」

「もう、大丈夫だから」

「愛宕、さん。服に、血が」

「いいの、いいのよ……」

 

「少年よ。最後までよくぞ持ち堪えた。後は我らに任せてもらおう」

 

誰かが、俺の目の前に立ちはだかった。

いや、一人じゃない。

たくさんのシルエットが俺の前に進んでいく。

 

その中に、

 

「赤城、様……?」

「謝って済む事ではありませんが……ごめんなさい、イサムさん」

「姉さま、行きます」

「イサムさん。少しだけ持ち堪えてくださいまし。すぐに片付けます」

 

何人ものKAN-SENに、重桜のマークの付いた船が何隻か。

 

 

 

「我ら、弾雨硝煙を振り払い、勝利を以って祖国に威光栄誉をもたらす者なり――重桜有志連合艦隊旗艦・前弩級戦艦三笠、推して参る!」

 

 

 

鏡面海域に怒号が響く。

 

 

 

 

 

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