風が吹いた。
お互いに見つめ合い、無言。
永劫に思える瞬間が続く。
不意に、フォーミダブルさんが微笑んだ。
「……でしょう、ね」
「えっ……」
「貴方は心ここに在らずと言った所……こんな状況で言われても、こうなる事は分かっていましたわ」
「では、なぜ……」
「わたくし、負けず嫌いなの」
そう言って、呆然としていた俺の口の中にタコ焼きを突っ込んだ。
「熱っっ!?!?!?!?」
「隼鷹、でしょう?」
「っ!」
「彼女は行方を眩ませていると聞いています。そしてそれが……イサムさんの心に影を落としているのも」
「……未だに、信じられないんですよ」
「幼少の頃より過ごしているなら、猶更」
「……ありがとうございます」
いつの間にか、膝の上の食べ物はすべてなくなっていた。
フォーミダブルさんが口元を手拭紙で拭い、全て袋に詰めた。
「ふぅ。偶にはこういった食事と言うのも悪くありませんわ。また来るとしましょう」
「………………」
「イサムさん」
「え、は、はい」
「わたくしは負けず嫌いです」
「え、ええ。聞きました」
「貴方が隼鷹と過ごした時よりも濃密な歳月を送りたい、そう願っています。ですが」
立ち上がる。
フォーミダブルさんはとびっきりの笑顔でこう答えた。
「ライバルが居ないと張り合いがありませんの。次は、隼鷹が帰ってきたら改めてリベンジして差し上げますわ」
「……えっ!?」
「どうか、お覚悟を。ロイヤルレディは……手段を選びませんことよ?」
――――――――――
日が落ちる。
無事に会合が終わり、重桜とロイヤルの同盟は結ばれた。
レッドアクシズとアズールレーンが手を取り合ったのだ。
夕陽が水面に落ちる様を眺めていた。
もう、俺に手伝えることはない。
……正直、重桜海軍を辞めることを考えなかったことはない。
今はまだ任務完了から日が経っておらず、俺の処遇がなぁなぁで済まされている。
本来は片腕を失くした人材を養っている暇など無いのに。
「さぼりですか」
背後から声を掛けられる。
何だか、以前にも似たような事を言われたのを思い出す。
「仕事が無いんだ」
「仕事中毒な貴方にはちょうどいいのかもしれませんね」
艶めく黒髪が風になびく。
能代だ。
「……何で木刀を持っているの?」
「知りませんでしたか?この神社、木刀が置いてあるんですよ」
「知ってるけど、何で」
「イサムさんが外国の女に不貞を働くかもしれませんので」
「酷いな!?」
「冗談です。はい」
「え、いやいや待って待って。俺は片腕しか無いって言ってるでしょ」
「そうやって言い訳ばかりしていると、腕が訛りますよ」
「無茶言わないでよ。俺は君たちじゃないんだ」
「……ごめんなさい」
「気にしてない」
「いや気にしてるじゃないですか」
「気にしてないってば」
「………………」
「………………」
お互いに黙ってしまった。
そして、
「「……ぷっ」」
二人同時に吹き出してしまった。
「何なんですか貴方は」
「君こそ何なんだよ」
「何なんでしょうね」
「……何なんだろうな……」
彼女も、俺を励まそうと不器用ながら声を掛けてくれたんだろう。
「ありがとう、能代」
「辞めてくださいよ……何だか気恥ずかしい」
「あはは、君らしい。じゃ、帰ろうか」
「そうですね。春先ですが、夜はまだまだ冷えますよ」