【完結】レッドアクシズ・ストランディング   作:塊ロック

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進まない研究。
成果の無い努力。

人の気持ちは簡単に折れてしまう。

けれど。


第六十四話 折れない意志をこの胸に

……頭が痛い。

立ち眩みがする。

吐き気が止まらない。

 

腕が、痛い。

 

あるはずの無い左腕が痛い。

 

「う……ぐ……」

 

痛み止めは効果が無い。

だから、歯を食いしばって耐えるしかない。

 

「ぎ、ぎ……」

 

思わず呻く。

俺は、未だ幻肢痛に苛まれていた。

暫く、ベッドで蹲っていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

波が引いてきた。

取り合えず立ち上がり、部屋の冷蔵庫を開いてペットボトルを手に取る。

 

「……今、何時だ」

 

部屋に置いてある時計。

その針は深夜3時を指していた。

 

「………………」

 

実はここ最近、しっかり眠れていない。

睡眠は浅いし、変な夢を見るし、腕は痛む。

 

「……くそ」

 

妙に、焦っている気がする。

それもそうだ。

隼鷹を探しに行く、そう決めた筈なのに……まだ俺はこんな所で足踏みをしている。

 

様々な義手を試したが、適合率は30%が良い所。

稼働率は更にそれを下回っている。

重桜と鉄血の最新技術の筈なのに、俺が上手く動かせないせいでずっと滞っている。

単純にデータが足りないのか、それとも人間の腕にKAN-SEN技術を引っ付けるのがそもそも間違いなのか。

 

「……くそ、駄目だ」

 

心が折れる。

気にしない様にしてきたけど限界かも知れない。

 

「……俺は、やっぱ何にも出来ないんだろうか」

 

ぽつり、と溢してしまった弱音。

 

「……駄目だ。駄目だ駄目だ。こんな事言ったら……皆に、失礼だ」

 

本気で取り組んでいる色んな人たちの努力を無駄にしてしまう。

俺は……俺だけは、心折れてはいけない……。

 

……でも。

………………それでも。

 

「……外に、行こう」

 

気が滅入っている。

外の空気を吸った方が良いかもしれない。

 

少し肌寒いので、ジャージの上着を掛けて外に出た。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

寮から少し離れた、海岸線の一角。

一本だけ佇む小さな桜の木にもたれて座っている。

 

空は澄んで、星が瞬いている。

 

「………………」

 

俺は、何の気なしに空を見ていた。

こうして、ぼーっと空を眺めるのはいつ以来だろうか。

 

海に出ているときは、今後の方針を定める為の大事な要因だ。

そして、空の星は道しるべだ。

方角を測る為に活用していた、

 

「………………」

 

そんな、星の読み方は……隼鷹が教えてくれた。

 

「……っ」

 

唇を噛む。

俺は、どれだけ彼女に救われたんだろうか。

どれだけ彼女に支えられてきたんだろうか。

 

「何処に行ったんだよ……」

 

俺はまだ、何も返せてないのに。

 

 

 

……視界が、真っ暗になった。

 

「っ!?」

「だーれだ」

「……愛宕さん?」

「正解」

 

俺の視界を遮っていた手が退かされる。

振り向くと、どこか寂しそうに微笑む愛宕さんが居た。

 

「どうし……」

「こっちのセリフよ。こんな夜更けに部屋を抜け出して」

「……何で」

「イサム君、貴方自分の腕が一本無いって自覚あるの?今貴方は要監視対象よ」

「そう、だったんですね」

「10分前に部屋から居なくなったって連絡があってきてみたら……やっぱり此処に居た」

「え?」

「昔から、何か考え事があるときによくここで一人になったてわね」

「そ、そうだったんですか……」

 

ほとんど無意識にこの場所に来ていたらしい。

 

「……焦ってる?」

「っ」

 

図星をいきなり指される。

 

「……やっぱり、ね」

「どうして……」

「野暮ね。私も、隼鷹と同じくらい貴方の事を見てきたのよ」

「……そう、でしたね」

「ずっと、焦ってたね」

「……愛宕さんには、敵いませんね」

「見れば分かるもの」

「あはは……そうですね。焦ってます。すごく」

「よく言えました。誰にも言ってないでしょ、それ」

「……ええ」

 

ずっと。

誰にもそんな事は言わなかった。

言えなかった。

 

「ほんと、そんな所ばかり似ちゃって」

「似てる……?」

「ええ。ほんと、びっくりするくらい」

「……もしかして、隼鷹?」

「うふふ」

 

愛宕さんは、ただ微笑むだけだった。

 

「ね、イサム君」

 

愛宕さんは続ける。

 

「隼鷹に、会いたい?」

「……はい」

「どうしても?」

「はい」

「……聞くまでも、無かったわね。ねぇイサム君」

「……?」

「今、辛い?」

「………………はい」

 

絞り出した言葉は、自分でもびっくりするくらい弱弱しい声だった。

 

「良く言えました」

「ちょ、辞めてくださいよ」

 

頭を撫でてこようとしたのを止め……腕の数が足りないので簡単に抑え込まれてされるがままになってしまった。

 

「……イサム君、頑張ったんだもの。ちょっとくらい休んでも大丈夫よ」

「でも、隼鷹が」

「あれが貴方に何も言わずにそのまま死ぬなんて絶対ないわ」

 

呆れた様に断言する。

 

「どこかで、待ってるはずよ。未練たらたらでね」

「そんな……」

「そうよ、絶対。だから……貴方は、一度休憩しても大丈夫」

 

愛宕さんは俺を撫でる手を止めて、そのまま俺を抱きしめた。

 

「だって、貴方の意志は折れないもの」

「……っ」

「私は、貴方がまたいつか……歩ける日を、信じてるから」

「……ありがとう、ございます」

 

 

ああ、なんて馬鹿だったんだろう。

隼鷹だけが、俺の事を支えてくれてたわけじゃないのに。

 

 

「……一度落ち着いて……また、歩こうと思います」

「がんばれ」

「は、い……」

「……おやすみ、イサム君」

 

 

 




そんな訳で最終章開始。

イサムは再び立ち上がる。
恩人に、ただ一言を伝える為に。

もう少しだけ続きますので、最期までお付き合い頂けたら幸いです。
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